わたしの心の中は貴方だけ
「こんにちは、いらっしゃい、。待ってたよ」
いつもと同じ穏やかな昼のサーカスの森。
楽しげな音楽が流れ続ける中、
奇抜な道化師姿のホワイトさんなジョーカーはやっぱりいつも通りの笑顔でを迎えた。
「どうも・・・」
対するは無理に笑顔を作ろうとして分かり易くそれに失敗する。
即座にそれに気付いたホワイトジョーカーが僅かに首を傾げた。
「おや?どうしたの?何だか余り元気がないみたいだね。
・・・と言うより、機嫌が良くないみたいだ」
「え!?いや、別に、そんなことは・・・」
ない。
と、最後まで否定しようとしてホワイトジョーカーに顔を覗きこまれて結局言葉に詰まる。
我ながらどこまで顔に出やすいんだろう。
このムカムカもやもやした感じをあっという間に見抜かれるなんて。
咄嗟に視線を逸らす。
同時に話題を逸らそうとわざと声を少しだけ大きくした。
「あー、そ、それよりも!何か仮面ジョーカーの方、大人しくない?珍しく」
「ん?ああ、ジョーカーはね、今は居ないんだ」
「・・・・・・居ない?」
「そう、居ない。今日はそろそろ君が来そうな気がしていたから、
俺が
「・・・・・・・・・・、そ、そうなんだ」
あっちがどっちかなんて、ここでそんなベタな事を聞いちゃいけない。
そう、絶対、断じて。
うっかりそんなことを口にしようものならその
あっちの場所。
それは監獄。
それだけは絶対に避けたい。
は口元を引きつらせつつ、無難な返事をした。
「まさか君、それで機嫌が悪いのか?ジョーカーに会えなかったから。
俺に会いに来てくれたんじゃなくて」
「え"っ!?いや、別に、単に珍しいと思っただけで!
大体こっちが話しかけなくてもいつも何かしら突っかかって来るからさ」
「そうか。じゃあやっぱり俺に会いに来てくれたんだ」
にっこり。
一見好青年とも思えなくもない笑顔を浮かべてホワイトジョーカーが笑う。
は再びひくりと口元を引きつらせた。
ここはやっぱり肯定しておくべきなんだろうか。
って言うか、実際は彼に会いに来た訳で、素直に頷いてもいいとは思う。
だけど、それを癪だとも感じてしまう。
彼はアリスのジョーカー。
それ以外の何者にもなれない、それは絶対確実な事。
色々な意味で関わってはいけないカードだと嫌になる位に分かってて、
それでもが惹かれてしまった人だ。
どんなに怖い人だと分かってても、自分の気持ちを止める事が出来なくて、
不毛だって分かってても想いを伝えてしまった人。
そしてこのホワイトなジョーカーは意外にもそれを受け入れてくれたけど、
当然の様にアリスへの執着を失くした訳じゃない。
実を言うとここに向かう途中で季節を変更し終えたらしいアリスが、
森の出口に向かってるのをは偶然目にしてしまったのだ。
少し距離があったからアリスは気付いてなかったけど。
アリスがジョーカーを怖がりつつもここに来る理由は知ってる。
その必要があるからだし、それだけじゃなくもっと深い理由があることだって分かってる。
多分は彼女自身よりずっと知ってる。
だけど、それでもどうしても胸の奥にもやもやとしたどす黒い気持ちが湧きあがって来るのだ。
「・・・・・・・・・・・・」
「?ねぇ、どうしたんだ?何か怒っている?
ここで、・・・いや、俺の前でそんな顔をしないで欲しいなぁ」
言いながら、ホワイトジョーカーが不意にの体に腕を伸ばして来る。
は反射的にその手を払いのけようとした。
「っ!」
「何がそんなに気に入らないのか知らないけど、あんまり俺を困らせないでくれよ、」
抵抗を示した筈のの手は、容易くホワイトジョーカーに封じられる。
そして、そのまま強引に抱き寄せられてしまった。
だけどもう、これ以上じたばたしようとは思わない。
はもうとっくに、ジョーカーに向ける恋心を認めてしまって、
ある意味でそれをどんなに否定しても仕方ないと分かってるから。
「・・・・・・・ムカつく」
「ん?何が?」
そう問い返しながら、ジョーカーは片手での髪を梳く様に撫でた。
コイツがどんなに怖いカードなのか分かってるのに、
その指先の優しさにやっぱり喜んでしまう。
額や髪にそっと口付けてくる彼を拒めない。
拒みたくなんかないと思ってる。
「・・・・・・・さっき、アリスを見たんだけど・・・」
「アリス?ああ、そうだね、君と入れ違い位に帰って行ったからな。会ったのか?」
「ううん、はホントに見掛けただけで・・・向こうは気付いてなかった」
「ふぅん?それで、アリスがどうかしたの?」
に質問する間もホワイトジョーカーの奴はに触れて来る事を止めない。
そして、やっぱりムカツクことにもそれを受け入れて嬉しいと思っている。
本当に始末に負えない。
そしてもっとあり得ないのは、が―――――
「・・・・・・・・・・。あのさ、・・・・・の機嫌が悪い理由。
ならもう分かってるんじゃないかと思うんだけど」
「さぁ?どうだろう。俺はナイトメアと違って君の心の中は読めないからね。
あ、でも君の心の中はアイツにも読めないんだったか。・・・うん、それはその方がいいな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「さて、そろそろ聞かせて欲しいね、君がご機嫌斜めな理由を。じゃないと楽しめないだろう?
君の機嫌が直らないと、楽しめない」
行ったジョーカーが至近距離からを見下ろし、ニっと笑う。
更に、彼はの唇の淵を親指でそっとなぞる。
「ねぇ、俺が君を楽しませて悦ばせてあげる。
気持ち良くしてあげるから、・・・その前に機嫌の悪い理由を聞かせてくれよ」
「っ!せ、セクハラ発言だから!!それ!!」
表情と空気も含め、いやらしさを感じ取っては声を上げた。
ジョーカーは口元に笑みを浮かべたまま答える。
「酷い事を言うねぇ。ここはサーカスで俺は道化師だ。
君を楽しませてあげたいと思うのは普通だろ?
・・・・まぁ、今の俺は君だけを楽しませて上げたいんだけどな」
さっきのあれは明らかにそう言う方向の楽しいと言うニュアンスじゃなかった。
だけどそんなことを口にしたら逆に喜んで聞き返されそうだから敢えて聞き流しておく。
それがきっとお利口な道だ。
それよりも。
「」
名前を呼んだホワイトジョーカーが早く理由を口にしろと急かしているのが分かる。
は至近距離に有る隻眼の赤褐色の瞳から視線を逸らした。
これは多分どんなに誤魔化そうとしても、
どうあってもの口から言わせてやろうとしてるに違いない。
しかもそれでもが意地を張った場合、
がちっとも楽しくない手を使って来そうな予感がびしばしする。
と言うか、間違いなくそう言う手段に出そうだ。
それなら自分から口を割った方が幾分かはマシな気がする。
物凄く、幾分か、程度の違いしかないような気もするけど。
「ねぇ、そんなに言い難いなら、俺が言いたくなるようにお手伝いしてあげようか?」
そんなことを考えていた矢先、ホワイトジョーカーがある意味予想通りなことを言いだした。
同時に、の体を更に自分に密着させ、の脚に自分の脚を絡めて来る。
「っ!!??いい!!いいです!!言います!自分で言います!言わせて下さい!!」
反射的に身の危険を感じ、は大声で訴えた。
「そう?それならいいけど。じゃあどうぞ」
「・・・・・・・・・」
にっこりと笑顔で促される。
だけど密着した体はそのままで、解放してくれる気は全くない様だ。
「・・・・・・・・・アリスに」
「うん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・妬いてマシタ」
極力普通な感じの口調で、と思ったけど、勿論そんなことが上手くいく筈もない。
思った以上にぼそぼそと、呟く様な声では言った。
でもそれでも至近距離に居たジョーカーにはちゃんと聞こえてしまったらしい。
「・・・・・・・え?やきもちを妬いたのか?アリスに」
えらくきょとんとした顔をされて聞き返される。
は何とも言えない表情を浮かべて小さく肯いた。
ああああ!ホントにもう!!!何ですかこれは・・・・!
あり得ない。
こんなの、この人を好きになった事もあり得ないと思ってたのに。
アリスのジョーカーだと承知で好きになったくせに、アリスに嫉妬するなんて。
ほんっとに、自分、あり得なさ過ぎる。
「・・・・・・んぅっ!?」
きょとんとした顔をしていた筈のジョーカーは、突然の唇を自分の唇で塞いだ。
余りに突然過ぎて、は目を閉じるどころか見開いてしまう。
ジョーカーの腰に有る例の仮面が体に押し付けられて来て何だか微妙な感じだが、
今はそんなことを気にしてる場合じゃない。
の口内をぬらぬらと軟体動物の様に蠢くホワイトジョーカーの舌に翻弄され、
一瞬にして体に力が入らなくなった。
は咄嗟に彼の背中に縋るように腕を回す。
酸素を求めて口を開けるとその隙も許されずに一層深く口付けられる。
「・・・、・・・今俺が、どんなに嬉しいか・・・君に分かる・・・?」
「・・・え?」
激しいキスの合間に息を乱してジョーカーが言った。
彼はそこでフッと、吐息を吐きだす様にして笑う。
「俺は・・・君が可愛くて仕方ない」
「・・・・・・ジョーカー」
未だに賑やかな音楽が鳴り、眩しい日の光が周囲を照らしている。
そんな中、は道化師姿のジョーカーと抱き合ってまたしても深いキスを交わす。
目を閉じて、取りあえず今はホワイトジョーカーの怖い部分は見えない振りをする。
甘い空気に浸り、貪ることに夢中になるのだ。
アリスの事は割り切れてないし、この先の事を考えれば前途多難なんて言葉じゃ済まない。
それでもは、この人のことしか考えられなかった。
「本当に、君が・・・俺の、俺だけの囚人で有ってくれれば良かったのに」
(END)
アトガキ
ながっ!!!いやー、長くなりそうだなとは思いましたが、
見本の2倍以上の長さになってしまった・・・。スッキリまとめきれなかったな(苦笑)。
そしてホワイトさんは立場や性格上の事もあって何だか甘いのか甘くないのか・・・??
あくまでいちゃ甘が目的なのでダークモードに持っていかないようにと結構頑張りましたが、
最後の最後で呟いた言葉が逆に怖いと言う(大笑←誤魔化してみる)いやー、でも、
ホワイトさんですからね!!トリヒロAも今まで色々葛藤が有ってこうなったって感じなので。
でもまぁ・・・甘と甘々の境目位はいけてるといいと思います(笑)。
リクのご希望はヒロインの嫉妬だったんですけど、アリスってとこが何とも安易ですみません。
でも、彼の場合もうどう考えてもそこしかないと。少しでも楽しんで頂けたら幸いですv
ではでは、リク下さった木之本様、そしてお付き合い下さった姫様に感謝感謝なのです!
Title by ユグドラシル