「こっちに居たのか、マドンナちゃん!
今日は俺に君の新年の抱負ってヤツを教えてくれないかな?
それからそれから、写真を撮らせてくれると有難いな〜」
「ぬわっ!?おーしろう!?いつの間に入って来たんだ!?」
「ふぅ、白銀先輩はいつも突然ですね」
放課後。
いつものように何の前触れもなく俺達の居る生徒会室に姿を見せた桜士郎に、翼は声を上げて驚き、
颯斗は苦笑を浮かべていた。
桜士郎の奴のこういうところは腐れ縁の俺はもう慣れっこになっちまっているが、
他の人間がアイツの行動に慣れるには少し余計に時間がかかるようだ。
月子も驚いたように瞳を見開いてアイツを見ている。
だが、さっきも言った様に俺は今更驚いたりはしない。
桜士郎のこともそうだが、先の行動が予測出来ない人間をもう一人、よく知っているからだ。
俺はニヤリと笑って桜士郎に言った。
「新年一発目の新聞に追加しようって記事の内容のことか?」
「そうそう!我が校の可愛いお姫様の新年の抱負と写真を載せるつもりでー・・・って、
・・・・・・・・・・・・、一樹・・・、お前のそのにやにや笑いの理由は・・・・まさか・・・!?」
さすがは俺の親友。
奴は俺の表情を見ただけで、俺が何を言いたいのかを早くも察したようだ。
その証拠に大げさに口をへの字に曲げている。
「書記の新年の抱負ならー、ついさっきが聞いてたぞ」
「そうですね、写真も僕達が仕事をしている最中に撮っていましたし、
月子さんは先輩と二人だけでも写真を撮っていましたよね」
「うん・・・そうだね。あれ?
でも先輩・・・さっきまでここに居たのに、どこに行ったんだろう?」
月子が首を傾げたその時だった。
生徒会室のドアが開き、今まさに俺達が話題にしていた人物・ が姿を見せる。
アイツは生徒会室内に入って来ると、真っ先に俺を見て微笑んだ。
俺はそれに応じて軽く片手を上げる。
次には、俺の正面で未だに口をへの字に曲げたままの桜士郎の奴に視線を向けた。
「桜士郎、遅かったわね。
たった今、新聞部に行って速攻で月子ちゃんに関する記事、渡して来たとこよ」
「くぅ〜っ!やっぱり俺は新年早々先を越されたのか!」
地団太でも踏みそうな勢いで桜士郎が悔しがる。
もう今まで何度目にして来たか知れない光景だが、俺は思わず声を上げて笑った。
「はははっ!してやられたな、桜士郎。の行動力はお前に負けず劣らず、だからな」
「くっそー!今日は弓道部の集まりがあるって話だったから、
俺は最初にあっちに足を運んだのにー!」
「ふふっ、それが急遽予定変更になったのよ。ね、月子ちゃん?」
「あ、はい、確かに放課後の直前までは弓道部のミーティングがある予定だったんですけど、
その後急に明日に変更になったっていうメールが来て」
「は丁度その後すぐ月子ちゃんと顔を合わせたって訳」
勝ち誇った様な表情を浮かべたが桜士郎に向けてニヤリと笑って見せる。
そしてまた桜士郎の奴は妙な声を上げて悔しがっていた。
その桜士郎にが近寄り、何か耳打ちをしている。
多分、アイツの耳元で嫌味でも口にしたんだろう。
桜士郎は益々悔しがり、月子に泣きついていた。
コイツら二人はいつもこんな感じだ。
は新聞部の元・部長で、桜士郎は元・副部長。
本来ならこの時期、3年は部活を引退し、2年生に引き継ぎが行われた後で、
その後も活動をしている連中は少ない。
だが、コイツらは引退後の今も以前と同様、学園内を走り回っては記事になりそうなネタを探している。
同じ部活の部長と副部長と言う位置。
そして、も桜士郎も西洋占星術科だと言うこともあり、この二人は以前から仲がいい。
それは今更確認するまでもなく、
そんなアイツらと友達をやっていた俺自身もよく知っていることだ。
俺にとって、桜士郎は大事な親友だ。
そして。
と俺は、つい一週間位前から付き合い始めたばかりだった。
つまりアイツは、俺にとって誰より大切な恋人。
どちらも、俺にとってはかけがえのない存在だ。
さっきも言った様に、アイツらの仲がいいことは俺も十分承知している。
まだ自分の気持ちを自覚する前。
を友達だと思っていた頃なら、そのことに対してあれこれと考えたりはしていなかった。
いや、例え心の中の微かな黒い影に気付いていたとしても、見て見ぬ振りが出来ていた。
だが今は違う。
への気持ちをハッキリと自覚し、そして更にアイツが俺の気持ちに応え、
付き合うようになったことで、俺は以前よりずっと欲張りになってしまっていた。
俺と。
お互いの気持ちが通じ合う前までは、それでもどうにか抑えられていたもの。
それは、俺の中で燻っていた嫉妬心だ。
月子が入学してくるまで、アイツはこの学園で紅一点の存在だった。
それでも全く気後れした様子も見せず、誰に対しても笑顔で明るく、その上さっぱりした性格で、
しかも自他共に認める変態、桜士郎の奴とも互角に渡り合える女。
それがだ。
アイツは新聞部の活動を通して学園内で色々な人間と関わっていた。
そのおかげで、紅一点という理由だけでなく、周囲からも好意を持たれ、顔も広い。
は常に学園内を駆け回っていたが、どこに居ても他の生徒達に声を掛けられていた。
その中に何人か仲のいい奴が居るのを知っているが、桜士郎はまた別だ。
桜士郎との仲は、単なる慣れ合いなんかじゃない、言わばライバル心に近いものがある。
それは俺と桜士郎でも言えることだし、
それにと桜士郎が互いに恋愛感情を持っていないことだって俺は知っている。
それでも、俺は桜士郎に対して嫉妬せずには居られなかった。
は誰に対しても明るく振舞うが、無防備なだけの女じゃない。
仲のいい人間が相手だったとしても、いつも自然と適度な距離を保っている。
その距離を俺との間では感じさせないことを俺はよく知っているが、
それは桜士郎に対しても同じだと言うこともまた、分かっていた。
例えば、たった今、が俺の目の前で何気なくやった行動。
桜士郎の耳元に唇を寄せたアイツの姿を目にした時の俺の胸の中を、アイツが知ってしまったとしたら、
は、アイツは俺をどう思うだろうか。
ほんの一瞬でも、親友相手にこんな気持ちを抱えた俺を。
「じゃあそろそろ、学園内巡りしてくるから、またね」
「はぁ、じゃあ俺もそろそろお暇しちゃおうかな。に負けないようにスクープ探しだ!」
と桜士郎が二人揃って生徒会室を出て行こうとする。
俺はいつも通り平静を装って片手をひらひらと振った。
「おう、またな、二人とも」
並んで出て行くアイツらに、俺の心に中の嫉妬心がまた燻り始める。
だが俺はそれを無理やり抑え込んだ。
最近の俺はこんなことの繰り返しだ。
への想いが強すぎて、自分の感情を持て余し、それを制御するのに必死になっちまっている。
元々俺は相手を縛るのも縛られるのも好きじゃない。
相手を束縛すること。
それは大事な人の視野を狭める原因になりかねないことだ。
俺と付き合うことでアイツの秘める色々な可能性を潰しちまうような真似だけはしたくなかった。
そうでなくともはバイタリティに溢れ、行動力の塊みたいな女で、
彼女自身も束縛されることなんか望んじゃいないだろう。
桜士郎とのことは俺が生徒会の仲間達に抱く感情と同じ種類のものだと、俺も頭では分かっている。
だが、理解でてきてはいても、割り切れないのが嫉妬心ってヤツだ。
そうこうしている間にもガキっぽい独占欲が俺の中で育っていく。
早いとこ
を傷つけてしまう様な真似をしそうで怖かった。
「会長、手が疎かになっていますよ?早くそちらにある書類を捌いて下さいね?」
「っ!?はい・・・!」
颯斗の柔らかく穏やかな、だが恐ろしく黒い感情のこもったその声が、
物想いに耽っていた俺の思考を中断させた。
俺は反射的に姿勢を正し、仕事に集中することにした。
この手の仕事は面倒で眠いだけの作業だが、今の俺にはやることがあった方が有難い。
俺が手を動かし始めるのを確認して俺の傍から離れて行った颯斗を視界の隅に収めながら、
俺は珍しく真面目に、手元の書類と向き合った。
(続く)