「す、すごー・・・・」
そう言葉を漏らし、思わずぽかーんと大口を開けてその場に立ち尽くす。
赤、青、黄色、紫にオレンジ。
その他諸々、色と言う色をこれでもかとふんだんに散りばめたパレットのように、
その周辺には美しい花々が咲き乱れていた。
しかもよくよく見れば、季節も品種も何もかもまるで無視。
あっちにコスモス、こっちに向日葵、その向こうにはラベンダーにガーベラ、チューリップ。
その他見た事はあるけど名前を知らない花や、
見た事も聞いたこともない様な花がずいぶん遠くまで咲き誇っている。
これだけ統一性のない花が咲いているのに、数が数だけにやっぱり綺麗だと思えてしまう。
それに香りの強い花同士がいっしょくたに咲いていると鼻に突く筈だけど、ここは不思議とそんなこともない。
確かに香りはするし、少しキツイ匂いではあるけど、不快感は全くなかった。
「ったく、女ってのは何が良くてこんなもんに感動できるんだかな。
見てるだけでのもんなんて、食えもしねぇってのに」
やれやれ、と言った口調でジョーカーがそう口を開く。
心底つまらなさそうな表情は、照れ隠しなんかじゃなく、彼の本心だろう。
ここに連れて来てくれた張本人の言葉とは到底思えない言い草だ。
「おい、。いつまでも間抜けな顔さらしてんじゃねぇよ。
・・・・・ま、さっきのしみったれた面されるよりはずーっとマシだがな」
「・・・・・・・・え!?・・・・あ、もしかして、あんた・・・・」
「ああ?何だよ?」
言いかけて口を閉じたを、ブラックは怪訝そうな瞳で見ている。
もしかして・・・・が落ち込んでると思って・・・慰めてくれようとして?
それで・・・・・ここに連れてきてくれた、とか・・・・?
だけどそれを言葉にして訊ねた所で、彼は素直に答えてはくれないような気がした。
でも何だか、そうなんじゃないかと思うと、それ以外に答えがない様な気になって来る。
いつも監獄に居る口の悪い俺様なブラックジョーカー。
それが落ち込んだ女を慰める為に、陽の光を浴びた森の中、
こんなメルヘンチック乙女チックな花畑に、道化師姿で立っている。
そう思うと、おかしいやら嬉しいやら、は思わずプククッと吹き出して笑ってしまった。
「おい、続きは何だよ?・・・・・っつーか、何笑ってやがる?」
「ックク、ううん、ごめ・・・なんでもない・・・・!」
はどうにか笑いを殺そうと口元を押さえてはみたものの、結果的にそれは失敗に終わった。
「チッ!とうとう頭までヤられたか?この
ジョーカーが眉間にしわを寄せて舌打ちをして悪態を吐く。
口の悪いのはいつものことだし、何より今のはそんなところさえ嬉しく思ってしまえる状況だった。
今なら、素直に言えるかもしれない。
違う。
言いたい。
は、未だに繋いだままでいる手にぎゅっと僅かに力を込めた。
それに気付いたジョーカーが、ジッとを見下ろしている。
はジョーカーと視線を合わせ、口を開いた。
「あのさ、ジョーカー」
「あぁ?今度は何だ?」
素っ気ない口調でブラックが返した。
は一度視線を伏せ、それからまた先を続ける。
「、用もないのに何で自分からこの森に来てんのかずっと不思議だったんだけど・・・、
最近・・・・気付いたのよね、その理由に」
「はぁ!?急に何を・・・」
「いいから聞いてよ。・・・つまり、最初の内は知らない間に監獄に迷い込んでた感じだったけど、
途中からは違ってた。、あそこに行きたくて・・・あんたに会いたくて、
監獄に顔を出すようになってたってこと・・・!」
「・・・・・・・・なっ・・・・・・・」
一瞬。
ブラックジョーカーは瞳を見開き、驚いた様な表情でを見つめた。
そして。
「・・・・・・ったく、お前はとんっでもねぇ・・・アホ女だぜ」
「ひどっ!?ふ、普通そう言うこと言う?人が勇気出して口にした台詞を・・・!」
「ああ、言うね。言ってやるぜ。お前は
ピーピーピーピー。
罵詈雑言とはこのことだと、変に感心してしまう位に、ブラックはそりゃもう口の悪さの極みな言葉を吐いてくれる。
こっちは真剣に言った台詞だって言うのに、幾ら何でも酷過ぎる。
そう思ってが反論しかけた、その時だった。
「知ってんだよ・・・」
「・・・・え?」
「んなこた、とっくの昔に知ってるつってんだ」
「知って・・・・・って・・・」
ブラックの予想外の返事に、今度はが瞳を見開いて固まってしまう。
彼はチィッとまた大きく舌打ちをし、繋いだ手とは反対側の手でを強く引き寄せた。
「っ!」
「それでも・・・お前はそれを口にするべきじゃなかった・・・。
俺が知ってるっつーだけで、それだけで良かったんだ・・・。だからお前は能天気女なんだよ」
耳元。
いつもより低めの声で彼に囁かれ、ドクリとの心臓が大きく脈打つ。
「ジョ・・・カー?」
「・・・・・・だがもう遅い・・・。俺は、この耳で聞いちまったんだからな・・・」
言ったジョーカーが、今度は至近距離でを見下ろす。
吐息と吐息が重なり、唇と唇が触れ合う寸前の距離。
ドックン。
ドックン。
ドックン。
の胸の鼓動がさっきより一層大きく心音を刻む。
が踵を上げたのと、ジョーカーが更に顔を近づけて来たのはほぼ同時だった。
唇を、噛みつくように喰らわれる。
ジョーカーは容赦なく舌をの口内に侵入させ、その歯列をなぞり、歯茎をねっとりと舐めた。
それだけで体の芯が何とも言えない感覚に疼いてくる。
もっと、もっとと、自分からもジョーカーのキスを求めてしまう。
「・・・」
キスの合間にジョーカーが囁くようにの名前を呼んだ。
それに反応し、の心と体が大きく震える。
完敗だ。
最初からコイツ相手にが勝ったことなんか、何もなかったけど。
今、ムカつく位にそう思う。
は、ジョーカーがやっぱり好きなんだ。
そう思わずにいられない。
ジョーカーの熱い舌がぬらぬらとの口腔を貪り、
その間に量を増した唾液がくちゅりといやらしい水音をたてる。
ジョーカーの片手はいつの間にかのスカートを、
ゆっくりと太もも辺りまでたくしあげているような状態だった。
その上、気候が安定しているとは言え何かスースーすると思えば、下着にまで指が掛けられている始末。
油断も隙もなさ過ぎる。
いや、もうこの状況で油断とか隙とか全然関係ないのも分かるけど。
それにしても幾ら何でもこれはヤバ過ぎる。
キスだけならまだしも、ここでそれ以上なんて。
「ジョっ・・・ジョーカー・・・!」
は制止の意味で焦った様に彼の名前を口にした。
ブラックは少しずつ唇を下降させて、の首筋に顔を埋めているような状態だ。
しかも、いつの間にやら繋いだ手を放し、
その片手での服のボタンを器用に殆ど外してしまっている。
こっ、コイツ!!手慣れ過ぎだろ!!!
――――じゃなくてぇえええ!!
「ちょ、ちょっと・・・ここ、外・・・!それに、もし誰か来たら・・・!」
「・・・だから?・・・つーかこんな場所まで来るような・・・、
もしそんな奴が来たら、・・・見せつけてやるだけの話だ・・・」
「見せっ・・・!?や、そ、そんなの・・・・ぜ、絶対、・・・!」
無理過ぎるし!!
見せつけてやるって、そんなの、本気で冗談じゃない!!
は首筋から鎖骨へと舌を這わせ始めた道化師を、どうにか自分の体から放そうと抵抗を試みた。
男女の力の差以前に、
悔しいことにブラックの唇や手の動きに翻弄されて殆ど弱々しい動きになりながら、
それでもはヤツの行為を阻止しようとする。
「ジョー・・・「うるせぇお嬢ちゃんだな・・・。分かった、周りから見えなけりゃいいんだろ?」
「えっ!?いや、そ、そう言う意味じゃ・・・な・・・・くっっ!??」
ようやくジョーカーの奴がから体を放したと思ったその瞬間。
不自然にの身がぐらつき、気付いた時にはブラックに抱きかかえられている様な状態だった。
つまりあれだ。
俗に言う、乙女の夢であろう。
お姫様だっこと言うヤツ。
――――――だけど。
「な゛っっ!!??」
「チッ、この俺様に、こんっな場所で、こんっな気色の悪い真似させやがって。、お前、相当覚悟しとくんだな」
「はっ、はぃいいいい!!??意味分かんな・・・、ってか下ろして!!」
何で。
どうして。
何がどうなってこう言う展開になったんだ!?
いや、勿論今までの展開だって相当にアレだったけど、それにしてもこのよく分からない流れは何だろう。
こんなメルヘンチックなお花畑で、ピエロな男にお姫様だっこされる。
どんな妄想。
ある意味微妙な苦行と言うか何と言うか。
さっきまでとは違う意味で動揺しまくるを余所に、
ブラックジョーカーはを腕に抱いたまま、
花が咲き乱れている色の洪水の中へずんずんと足を進めて行く。
そして、達が最初に居た場所から結構離れてしまい、
花に遮られて余り視界がいいとは言えないその位置で、を少し荒っぽく下におろした。
―――ドサっ
「これで文句はねぇ筈だぜ?・・・・文句なんか、もう言わせてやる気はねぇけどな」
「はい!?何言っ―――――――――――――」
が言いかけたその途中。
それを強引に遮る形で、ジョーカーがの唇を奪う。
しかも、地面に転がってるの上に覆い被さって来ながら。
「ん、・・・ン・・・っ」
唇が重なった瞬間から抉るみたいにジョーカーの舌がの口内に入り込んでくる。
熱くて独特の弾力のある彼の舌が、まるで意思を持った生き物の様に口腔を暴れ、
ねっとりと隅々までをくまなく探索された。
彼はにそんな激しいキスをしながら、
同時にさっき乱したままのシャツの襟元から躊躇いなく手を差し入れると、
背中でのブラのホックをプチンと小さく音を立てて外した。
「っ!」
「・・・、先刻言った通りだ。・・・・・・ここまで焦らしやがった分・・・、覚悟して貰うぜ?」
超と言っていい至近距離。
ニヤリと上がった道化師の口角。
は完全にブラックに押し倒された体勢で。
「
もう逃げられないし、逃げるつもりもない。
は一言そう毒づいて、結局、自分から両腕を伸ばしてブラックジョーカーを受け入れた。
彼の肩越しには美しく揺れる色取り取りの花が見える。
その合間には澄み切った真っ青な空。
快晴の空の下。
それは綺麗なお花畑。
はその一角で、道化師野郎に身を委ねている。
なんてメルヘンチックにそぐわない、卑猥な状況だろう。
コイツが
ジョーカーの濡れた熱い舌が、胸の間をねっとりと這いまわる感触に、ぞくりと背筋に微かな電流が走る。
無意識にビクリと体を震わせるに、ジョーカーがまた、不敵な笑みを浮かべた。
「さぁ、お楽しみはこれからだ」
(END)