どぐされコンビ!!
どぐされピエロ!!
セクハラ野郎ども!!
例え酔っぱらっての所業としても許せない。
許せなさ過ぎる。
確かにが酌をさせられるより前から奴ら勝手に色んな種類のお酒をバカバカ飲んでたみたいだけど、
それにしても全然酔ってる風じゃなかったし、
ついさっきも言った様に酔った勢いだとしても許せない。
しかも人の胸を貧相だなんだと馬鹿にしておいて。
いやいやいや、馬鹿にして無くてもあり得ないし!!
そうだ、それ以前にあれは明らかにセクハラだ。
被害者のに嫌悪感が殆どなかったとしても。
いやいやいや、嫌悪感ないっておかしいから!それじゃ被害者じゃなくなる・・・・。
いやいやいやいや!!被害者だし!!
嫌じゃなかったとかあり得ないないないない!!!
「・・・・・・・・てか、この桜並木・・・どこまで続いてるんだろ・・・?」
奴らみたいに大量のお酒を飲んだ訳じゃないとはいえ、
アルコールの入った体で長距離を走り続けるなんて色々な意味で自殺行為だ。
は奴らの姿が見えなくなったところで一旦足を止め、ゆっくりと歩を進めていた。
だけどさっきから行けども行けども風景が全く変わってない気がする。
でも奴らの居た場所から離れられたんだから、進んでない訳じゃない筈だ。
とは言え、右を見ても左を見ても桜の木で。
ひらひらと無限に降り注いでいる様に見える桜の花びらもさっきまでと変わりない。
夜空にぽっかりと浮かぶ大きな月の位置もそのままな感じだ。
は急激に膨れ上がる不安をどうにか抑え込もうとしながら、ゆっくりと後ろを振り返ってみた。
だけど当然、背後にも前方と同じような光景が広がってるだけ。
「・・・・・・・・・・しまった・・・」
迷子になってしまった。
これで時間帯が昼ならまだしも、今は夜だ。
しかも、もう随分長い間時間帯が変化してない。
その上、ハートの城の領土は大体把握してるつもりだったけど、
奴らがを連れて来たこの場所はが全く知らない所だった。
幸い月明かりのおかげで周囲はそれなりに明るい。
だけど、やっぱり夜は夜だ。
危険な事には変わりない。
どうしよう・・・。
いや、どうしようっていうか、・・・ジョーカーズのとこに戻るしか方法はないんだけど・・・。
普通に考えれば、元来た道を引き返せば奴らの居たあの場所に戻れる筈だ。
だってここに来るまでの道は桜並木に挟まれた一本道。
迷いようもない。
だけど。
引き返したとして、同じ場所に戻れるのかどうか、かーなーり怪しいところだ。
は立ち止まったまま、暫くの間足元をジッと見つめて動けなかった。
「・・・」
そこで不意に、どこからか誰かがの名前を呼ぶ声が聞こえた。
誰か。
今、この状況でそんなのは誰だか決まっている。
だけど、
片方だけの声にも聞こえるし、両方の声にも聞こえる。
「・・・」
彼らの声は、遠く、近く、を探しているように名前を呼び続けていた。
はそれに応え、声を張り上げて二人の名前を呼ぶ。
「ジョーカー!」
「・・・!」
「ジョーカー!!ジョーカー!!」
――――サァッ
そこで突風が吹き、ひらひらと優雅に舞っていた花弁がの視界を遮るように勢い良く舞い上がる。
は片手を軽く目の前にかざして花弁の舞い上がっているその向こうの景色に目を凝らした。
「・・・やっと捕まえた、」
「っ!?」
の背後。
まるで降って湧いたように、全く予期しなかった場所からジョーカーの声が聞こえてくる。
はびくりと大きく体をわななかせると、大げさな位の勢いで後ろを振り返った。
「ジョーカー!」
「突然走って行っちゃうから驚いてしまったじゃないか」
「あんたらが揃ってセクハラするからでしょうが!・・・でもまぁ・・・、追いかけて来てくれて助かったけど」
この際何でいきなり後ろに居るんだとか常識的なツッコミはなしにする。
だって、このそもそもこの桜並木のある場所自体も何かおかしいし。
それはまぁ、連れて来た本人達がおかしいから仕方ないとも思うけど。
「はははっ!ごめんごめん、そうだったな。
でもアレはジョーカーがいけないんだよ?先に君に手を出しちゃったから。
だから俺も負けずに触っちゃったんだ」
「・・・・・・ま、負けずにの意味が分からない・・・!」
どんな理由!
どんな言い訳!?
ホワイトジョーカーの台詞に思わずがっくり脱力していると、の正面。
またしても降って湧いたように、唐突にブラックジョーカーが姿を見せる。
「人のせいにしてんじゃねぇよ、ジョーカー。
つーか、、お前もその程度の胸でケチケチしてんじゃねーよ」
「するよ!!てかその程度とか言うな!」
「そうだよ、ジョーカー。そんなことを言うのなら、君はもう触らなくていいからね」
「いやいやいや、あんたもだよ!どっちも触るな!」
コイツら揃った途端にこの話題。
あり得ない。
いや、の方から振ったと言えなくもないけど、違うから。
コイツら何か色々間違ってるから。
「・・・ねぇ、疲れた。帰りたいからサーカスの森に戻して」
げっそりとした声では二人に訴える。
アルコールの入った状態でほぼ全速力に近い勢いで走ってしまったと言う肉体的な疲労も勿論だけど、
どっちかと言うと精神的ストレスの方が相当大きい。
とにかく、もうこのセクハラ話題にはこれ以上乗りたくもない。
あれもこれもそれもどれも、全部全部セクハラーズのせいだ。
「うーん・・・そうだな。今日はこの位で帰ろうか」
「能天気女のせいで俺様の貴重な時間を無駄に使っちまったぜ」
「あ、あんたねぇ!!」
「はいはい、二人とも喧嘩しない。ほら、、もう君が迷わないように手を繋いで帰ろうよ」
にっこりと笑顔で言ったホワイトさんなジョーカーがに右手を差し出す。
は一瞬その手に視線を移した後、首を左右に振ってそれをキパっとお断りした。
「いえ、結構です」
「そんなこと言わずに。ほら!
君は捕まえておかないと、本当にいつでもどこかに言っちゃいそうだからな」
言いざま、ホワイトジョーカーはに差し出していた手で強引にと手を繋いだ。
「ちょ、ちょっと!?」
「ジョーカー、そっちは君に任せたよ」
「はぁ!?何で俺までそんな下らねぇ真似しなきゃなんねぇんだよ」
「いいじゃないか、今回だけでも。きっともうこんなチャンスは滅多にないよ?」
の手を握ったまま、定位置のの左隣に立っている白が黒に言った。
ブラックならこんな誘いに乗る心配はないだろう。
そう思いつつ、ホワイトに握られた方の手をどうやって放そうかと考えていた、その時。
「・・・そうだな、お前に嫌がらせするって意味じゃ・・・面白いかもしれねぇな」
「え゛!?」
むんず。
底意地の悪そうな笑みと同時。
空いていた筈のの右手が掴まれる。
「っ!?」
「こうしていると、俺達二人に挟まれて、今まさに監獄に連れて行かれる囚人みたいだね」
「ケッ!アイツらは向こうからぶち込んで欲しがってんだろ。捕まえるのは俺達の仕事じゃねぇ」
「分かっているさ。だけど君だって彼女の事は気に入っているだろう?
こうして捕まえてみたいと思わない?」
「・・・・・・・・・・・・・・思わねぇよ」
何だかよくわからないけど、ジョーカーズはを両側から固めて手を繋いだまま、
またしてもを無視して会話を進め出した。
って言うか、は元プレイヤーだから会話内容の意味は分かる。
その意味が色んな意味で恐ろし過ぎることも。
分かるけれども、今はそこが問題ではなく!
ひらひらと美しく儚げに舞い散る桜の花びら。
闇夜に生える幻想的な光景。
その中を、二人の道化師男に挟まれて、3人仲良く手を繋いで歩いているたち。
何とも言えない光景だ。
不思議だとしか言いようのない構図。
「いつか君を、本当の意味で捕まえてみたいな」
「えっ・・・!?」
左耳に白から囁かれた言葉に、の心臓がどくりと大きく鳴った。
そして右耳。
「捕まるんじゃねぇぞ」
黒が囁く。
はそこで瞳を見開いて、足を止めた。
瞬間。
桜並木が凄い勢いで遠のいて行く。
まるで新幹線の窓から見た外の景色の様に。
そしてそれは、本当にほんの一瞬の出来事だった。
「またおいで、。俺はいつでも待っているから」
「じゃあな、能天気女」
「っ!!??」
ふわりと。
両脇の二人がと繋いでいた手を放し、その気配が森に溶ける様に消えた。
は陽光の眩しさに無意識に瞳を細める。
そう。
気付いた時にはそこはもういつものサーカスの森だった。
少し離れた場所で賑やかな音楽が鳴っているのが聞こえる。
目が慣れて来ると、視界に入ったのは見慣れた緑の木々と色取り取りの鮮やかな看板に矢印。
それから木の幹に張り付いたドア。
はその場に馬鹿みたいにぽかんと口を開けて突っ立っていた。
本当に、夢でも見てたみたいな気分だ。
ここにはあの目を奪われる様な美しい桜並木も、舞い散る花弁も跡形もない。
時間帯も昼間だから、当然あの見事な満月だってある訳もなく。
そう言えば、あの場所に連れて行かれた時も
あそこに辿りついたのかも、は全く覚えてなかった。
暫くそのまま茫然とその場に立ち尽くしていると、の肩からひらりと何かが舞い落ちた。
はそこでハッとして視線を移し、ひらひら舞っているそれを慌てて片手で掴み取る。
「・・・・・桜の花びら」
の手に残った薄紅色をしたひとひらの桜の花びら。
今までのことが夢ではなかった唯一の証拠。
夜桜は文句なし、極上に綺麗だと言ってもいい位だったけど、
あの場の思い出としてはセクハラーズと化したWジョーカーのご乱行が悪い意味で印象的だ。
だけど。
「・・・・・・・・」
は掌の花びらをそっと自分のポケットに仕舞い込み、
サーカスの森の出口を目指して歩きだした。
はジョーカー達には捕まらない。
捕まえられない、完璧な余所者だ。
アリスとは違うから、逃げる必要だってない。
だけど彼らは近付き過ぎちゃいけない相手だってのも分かってる。
それでも。
「
もう聞こえてないのを承知で、はぼそりと二人にそう告げた。
本当は、嫌じゃないのだ。
奴ら二人に挟まれる、あの状態が。
(END)