今現在。
時間帯は深夜と言っていい頃。
濃紺色の夜空には幾つかの星が瞬き、
目を見張るほど美しい黄金色の見事な満月が浮かんでいる。
そしてその月明かりを浴びた満開の桜はこの上なく幻想的だ。
左右にずらりと立ち並んだ桜の木から、
銀色にほの白く輝いて見える無数の花弁がひらりひらりと舞い落ちる。
はその光景にただ一人、瞳を奪われていた。
―――――――――んだったら、どんなに良かったか。
「うーん・・・、やっぱりここの桜は特別綺麗だね」
「アー?そうかぁ?花なんざどれも似た様なもんだろ。食えもしねぇし」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
の左右。
合わせ鏡のように全く同じ容姿、同じ身長の同じ格好をした赤毛の青年が一人ずつ立っている。
だけどその表情は全く対照的。
の左隣に立っているジョーカーはにこやかで如何にも好青年と言った柔和な笑みを浮かべてる。
でもの右隣に立っているジョーカーは眉間にしわを寄せてさもつまらなさそうな顔で空を仰ぎ見ていた。
左が白で、右が黒。
分かり易いと言えば分かり易い。
いやいやいや、そんなことよりも!!
「何でこんなことになってる訳?」
「?何でって、君が言ったんじゃないか、。夜桜が見てみたいって」
「ケッ、自分で言ったことも忘れちまったのか?
気付いちゃいたが、相当イカれちまってるな、お前の脳みそは」
右側に立っているブラックジョーカーの奴がいつもの小馬鹿にした表情でを見下ろす。
それをまぁまぁと言った感じでホワイトが宥めた。
「駄目だよ、ジョーカー。レディに対してそんな口のきき方をしちゃ。
自分の言ったことをちょっと忘れてしまっていただけだ。ねぇ?、そうだろ?」
「違います!!」
超の付くキッパリ感ではハッキリとホワイトジョーカーの言うことも否定した。
勿論ブラックのイカレ発言にムカつきはしてるけど、それはまぁいつものことと言えばいつものことだ。
ホワイトの方はのことをフォローしようとしているようで、全然違うし。
って言うか、結局どっちにしろ、コイツら二人の言う事は色々との言いたいこととズレがある。
それもこの世界の住人との会話じゃよくあることとは言え、やっぱり意味が分からない。
「さっきまで、らサーカスに居たよね?
てか、ブラック、あんたついさっきまでホワイトの腰仮面だったし!」
「アア!?おい、腰仮面とか言うな!それじゃあ俺がジョーカーの腰巾着みたいじゃねぇか!」
「ええー?ジョーカーが俺の腰巾着?それは俺も御免だな。
ジョーカーなんて全然俺の言うことを聞いてくれないし」
「いやいやいや、腰ぎんちゃくとか言ってないし!今それ関係ないから!」
腰ぎんちゃくとか言いだしたのは自分のくせに、さっきより不機嫌になって声を荒げる黒。
それに反応してぶーたれ顔で文句を口にする白。
こっちは会話のズレた部分を元に戻して話を進めようとしてるのに、更に変な所に話を飛ばされてしまった。
「ふざけんな、誰がテメェの腰ぎんちゃくなんかなるかってんだ!」
「良かった。ジョーカーの性格からして腰ぎんちゃくは無理だよね」
「当たり前だ」
「いや、だからあんたら、人の話し聞けよ!」
の左右で下らない言い争いをしないで欲しい。
って言うか、そのネタまだ続けるのかって感じなんだけど。
「が言ってるのは、
さっきまでサーカスの森で雑談してたのに、何でいきなりこんな所に居るのかって話!
それから、夜桜は今度滞在先の皆で行こうかって話になってるって言っただけ!
かなり楽しみだから気分的には、今すぐにでもという感じだとは言ったけども!お分かり!?」
「ええ?そうなのか?俺はてっきりこれから3人で一緒に夜桜を見に行こうって言うお誘いかと思ったのに」
「ケッ、勝手に妙な解釈して先走るんじゃねぇよ、ジョーカー」
「酷いな、ジョーカー。君だって乗り気だったじゃないか」
「うるせぇ」
だから、を挟んで言い争いしないで欲しいんですが。
なんて思いつつも、実は最近この二人に挟まれる図がそう珍しくもなくなって来てると言う事実。
今回だけでなく、いつの間にかコイツらと顔を合わせてはこんな状態になってる気がする。
エイプリルシーズン内だけとはいえ、
これが定位置になるなんて考えただけでも恐ろしい。
「まぁ、でもいいじゃないか。ここは素敵な場所だし、
夜桜を見ながら酒を飲むのも風情が有っていいものだろう?」
「酒か。いいな、ジョーカー。お前もたまにはいいこと言うじゃねぇか」
「はい?はぃい!?ちょ、酒って・・・・、そんなもん用意してな・・・・」
い。
と言う最後の言葉をが言う前に、左隣のジョーカーが片目をつぶってにっこりと笑って見せた。
「準備ならもう出来ているさ。後ろをご覧」
言われた通りに振り返ると、そこにはいつの間にやら鮮やかな虹色のシートが地面に広げられ、
更に相当な数の色々な種類のお酒が用意されていた。
「え?・・・・・・・・・えええええええええ!!??」
「さぁ、!俺達と一緒にお花見をしようよ」
ホワイトジョーカーがそう言っての肩に腕を回し、虹色のシートへとを導く。
ブラックはそんなの右隣でニヤリと少しだけ唇の端を上げて笑った。
「ま、こんな奴でも女が居ないよりゃマシか・・・」
満開の桜が立ち並ぶその場所。
月光に照らされた桜からはひらひらと薄紅色の花弁が舞い落ち、
地面に座っている達の位置からだとまるで銀色の雪が空から降って来ているようにも見える。
闇夜を踊るように風に吹かれてひらりひらりと落ちて来た花弁のひとひらが、
ホワイトジョーカーが手にしていた杯の中に収まった。
そして、その中に満たされていたお酒がほんの僅か、波立つ。
「ほら、。見てご覧よ。凄く風情があるだろう?」
ホワイトは微笑を浮かべてそれをに差し出して見せた。
「・・・・・・えーっと、あー、この部分だけね!」
答えたは彼の持っている杯の部分だけを指し示す。
「ええっ?どうしてその部分だけに限定しちゃうんだい?」
「いや、だって・・・・・・」
どう見てもアンバランスですから!!
どうしてだと聞かれても、何故分からんのだとしか思えない。
まず敷物がカラフル過ぎる虹色のシートってのも勿論だけど、
ピエロ姿の男の盃に桜の花びらが舞い落ちて風情があるって、普通の感覚じゃそれなしだと思う。
なさ過ぎると思う。
まぁ、看守服の時に言われるよりはいいかもしれないけど、
とにかくピエロな格好で風情とかのたまわれても。
確かに、夜桜は本当に見事だし、その下でお酒を飲んでいる途中に盃に花弁が、
ってのだけを見れば趣きがあると言えると思う。
だけど、それを手にしている男はピエロ姿だわ、その下に敷いてるシートは無駄にカラフルだわ、
更に達の目の前にはバーカウンター宜しく色々な種類のお酒が並べまくってあるわ、
風情なんかとは程遠いことこの上ない。
本当に、なにもかもがてんでちぐはぐ過ぎる。
「ケッ!風情だなんだと気取りやがって。酒なんざ、飲めればいいんだよ。飲めれば」
「ジョーカーはまたそんなことを言って。君だって実はこの状況を楽しんでいるくせに」
「勝手に言ってろ。・・・・おい、、お前、一応この場に居る唯一の女なんだ、酌ぐらいしろ」
言いざま、ブラックがの目の前に自分の盃を突き出して来た。
因みに、今更言うまでもないことかもしれないけど、
はやっぱりジョーカーズに左右挟まれている様な形で座っている。
「一応って、あんたねぇ!・・・・ったく、何でが・・・!」
ぶつくさ文句を垂れ流しつつ、それでもは傍に有った徳利を持ち上げた。
プレイヤー的な視点で見れば、Wジョーカーに挟まれて夜桜!
なんてそりゃもう両手に花と言う感じなんだろうけど、
リアルに色々知ってしまった今では素直に喜んでも居られない。
とは言え、そう言いながらもコイツらのことが嫌いじゃないからまた厄介なんだけど。
がお酌をすると、ブラックはそれをグイッと一気に飲み干し、空になった盃を再度、
に差し出して来た。
「・・・・・・・」
「ああー!、ジョーカーにばかりじゃなく、俺にも酌をしてくれよ」
「はいはい」
仕方ないのでホワイトさんなジョーカーの奴の杯にも酒を注いでやる。
ホワイトはいつもの笑顔でにお礼を言うと、の杯にもお酒を注いでくれた。
「ったく、隣に居る女がせめてもっと胸も尻もでっぱりのハッキリしてるヤツならもっと楽しめたんだけどな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・、な"!!あんたね!それセクハラですから!失礼すぎますから!」
「そうだよ、ジョーカー。それは立派なセクハラ発言だ。それには十分魅力的なレディじゃないか」
「レディ?ハッハッハ!どこにそんな御大層な女が居るってんだ?
ここに居るのは、いいとこ能天気で貧相な胸のお嬢ちゃんだろ」
言ったブラックジョーカーがの顔を覗き込んで小馬鹿にしたような表情を浮かべた。
能天気ってのは常日頃コイツがに口にしてる言葉だから今更衝撃なんか受けないけど、
貧相な胸ってのはさすがに頂けない。
頂けなさ過ぎる。
はの胸のサイズは標準だから!!
―――――――じゃなくて!
「ブラック野郎!あんたね!いい加減失礼通り越してるからね!?それ!」
「ああ?俺は本当のことしか言ってないぜ」
「ジョーカー、幾ら何でもそれは言い過ぎだよ。
いいじゃないか、女性の良さは胸やお尻の大きさじゃ分からないよ」
「・・・・・・・・・・・・、ホワイトジョーカー、あんた、それフォローになってないし!」
ブラックの奴のせいでおかしな会話の流れになって来てしまった。
さっさと話題を変更しなけりゃこれ以上このネタを続けられるのはが辛い。
色々な意味で。
本当に、女としても色々な意味で。
「イイ女かどうかってのを見分けるには、胸や尻のでっぱりが一番分かり易いだろ」
「ハァー、ジョーカーはやけにそこに拘るなあ。まぁ、俺も嫌いではないけど。
でも大きければいいってもんでもないだろう?」
が心の中であれこれ話題探しに躍起になっている間にも、
奴らはまるで男子中学生か高校生のようにその話で盛り上がっている。
盛り上がってるって表現は少し違うとしても、少なくとも話題を変えようと言う気はなさそうだ。
とにかく、さっさと、速やかに、素早く会話内容を違う方向へ持って行かなければ。
「あー!あのさ・・・!」
でも結局特にこれと言った話題を見つけられず、
は無理やり奴らの話の腰を折って方向転換させようと試みた。
丁度、その時。
「俺はせめて触った時に手に余るぐらいじゃないと満足できねぇな」
ブラックの奴はそう口にしたと同時。
こともあろうに、それを実行に移しやがった。
つまり。
「――――― ひ・・・・・・・・っっ!!!!???」
の右胸。
唐突に伸ばされたブラックの手が、包み込むように躊躇いなく触れて来る。
しかも、ヤツの指の感触までハッキリ分かる位の触り方で。
は瞬間的に石化した。
「ん?思ったよりはあるか。ま、物足りねぇのには変わりねぇな」
「ええ?どれ・・・・、・・・俺はこの位が丁度いいと思うけどなー」
言いざま。
左隣。
右と全く同じ形、同じ大きさの節くれだった手がの左胸を覆う。
――――――――ピシリ。
固まって石と化した自身の頭から、ひびが入ったような錯覚に陥った。
だけどWセクハラーズはそんなの様子なんぞ全く気にせず、それどこから、
それぞれ触れている胸元の手を、執拗に動かし始める始末。
「〜っ〜っ×○△■◎っ!!!!」
声にならない悲鳴を発し、が顔色を青や赤に染めてガタガタ体を震わせていると、
そこでようやくどぐされジョーカー達はの異変に気付いた。
そしての両耳に唇を寄せる様にして奴らが口にした台詞は。
「ん?何だよ、お前、もしかして感じてきちまったんじゃねぇのか?」
「そうなの?。ふふ・・・、可愛いな、君は・・・・・・」
こ。
こ。
こ。
このぉおおおおお。
こんのぉぉおおおおお!!!
ど ぐ さ れ 野郎どもがぁああああああああああ!!!!!
「痴漢!!変態!!セクハラジョーカーズ!!もう付き合ってられるかぁああ!!」
「「っ!?」」
は両側に居るどぐされ道化師二人を渾身の力で振り払い、そのまま勢い良くその場から立ち上がった。
そして、そのままずんずんとシートの外へ出る。
「帰る!!」
言い放ち、奴らが口を開くより先に、は桜並木の奥へと向かって走り出した。
(後篇へ続く)