そんなことはあり得ないと思ってた。
考えもしなかった。
アリスがより先に自分の世界へ帰ってしまうなんて。
彼女は選んでしまった。
全ての真実を知って、それでも自分の世界へ帰ること。

真相END。
それが彼女の選択。


そして、残された白兎。
ペーター=ホワイト。
彼の狂気は、アリスがこのハートの国から居なくなって、益々膨れ上がっていく。
それは全て、に向けられて居た。

最悪だ。
もうこの上なく堕ちて行ったと思っていたのに。
彼はどこまでを縛り、苦しめれば済むのだろう。


のことなんて、愛してる訳でもないくせに。


だってはアリスじゃない。
特異で異質な余所者と言う意味でだけ、特別な人間だから。





をこの城から出さないって!?」
「ええ、あなたはこれから僕と同じ部屋で生活して貰います。」

当然のことみたいに彼はそう冷やかな声でに告げた。
茫然とペーターに視線を送る
眼鏡の奥の赤い瞳はしっかりとを捕えている。

を監禁するつもり!?」
「僕の仕事の時にはあなたも連れて行きます、
だからある程度動き回る事は出来るでしょう。」
「なっ!?冗談じゃない!!
そんなの殆ど監禁と一緒だし、大体何でそこまで束縛されなきゃなんない訳!?」

言いたいことは山ほどあるのに口をついて出る抗議の言葉はいやに陳腐なものばかりだ。
だけどこんなこと、絶対に受け入れられる訳がなかった。
それでなくとも意味不明に理由をつけては虐げられているような毎日なのに、
これ以上ペーターに縛られなんかしたらは間違いなく頭も体もぶっ壊れてしまう。
狂うんじゃない、ぶっ壊れるのだ。
確実に。

不意に、スッ、と、ペーターが眼鏡の奥の瞳を微かに細めた。
そして、同時にの腕を強引に掴んで自分の方へと引き寄せる。
抵抗の隙なんか全く無かった。

「痛いっ・・・!」

の腕を掴んだ白兎の布手袋をはめた手が、肌に食い込む。
彼は冷ややかな表情のまま、を手荒く自分のベッドへと押し倒した。

「ペーターっ!」
「ねえ、、アリスがいなくなって僕は寂しいんです。慰めてくれませんか?」
「・・・・っ!」

喉元に彼の熱く湿った吐息が吹きかけられる。
彼は片手での服のボタンをプチプチと器用に外し始めた。

「ペーターっ!やめっ・・・!」

は身体を捩り、両手でペーターの胸元を押し返す。
だけど当然のように、彼はびくともしない。
行為は着々と進められていた。

「アリスの身代わりなんか真っ平!!だわ!」
「ええ、勿論、アリスの身代わりになんか誰もなれやしませんよ、
彼女程の女性なんて、存在しませんから。」
「だったらっ・・・!!」
「僕は今、あなたが欲しいんです。アリスはもう居ない。もうこの世界のどこにも・・・。」

言った彼の表情は、今まで見たどんな瞬間よりも沈んで居た。
真っ白なウサギ耳が、力なく垂れ下っている。
だけどは同情するつもりなんか更々なかった。
このドグサレ兎の行動は常軌を逸してる。

「アリスが駄目ならって?最低な考え方。」
「いいえ、僕のあなたに対する気持はそんなものじゃありませんよ。」
「え?」

完全にシャツのボタンを外し終えた彼は、を冷たい瞳で見下ろした。
どこまでも冷たい、なのに、同時にどこか燃えるような炎を湛えているようなそんな瞳。

「アリスの隣が誰であろうとも、彼女が幸せならばそれでいいと僕は思っていました。
彼女を全ての辛い記憶や災いから救いたかったんです、僕は。」

そこまで言って、彼は右手の布手袋を口で外した。

「だけどあなたに対してはそんな感情は持ち合わせていません。
あなたに僕以外の誰かの隣を許すつもりはないんですよ、。」
「何・・・言って・・・。」

赤い瞳、真っ赤な瞳。
をじっと見据えたまま、彼の冷たい指先が、
ブラのフロントホックをプツと小さく音を立てて外した。

「あなたの幸せを願ってはいないんです。、あなたには僕の隣しか許さない。
あなたがどんなに僕を拒絶しようと、
僕以外の者の側に存在する事など絶対にさせません。」


―――ドクンっ。


の心臓がひとつ、大きく、鳴り響く。
目が離せない。
あの、赤くて冷たい兎の瞳から。
不意にペーターがの唇に自分の唇を押しつけてきた。
そして、唇をこじ開ける様にして舌を挿し入れられる。

ピチャ

口内から厭らしい水音が聞こえ始める。
念入りに、執拗にの口内を荒らして、彼はキスの合間に囁くように言った。

「これ以上あなたを雑菌だらけにしたくない・・・。
他の男の側には・・・近寄らないで下さいね・・・。害虫駆除も楽じゃないんですから・・・。」

いつになく優しげな口調の彼の言葉。
それが逆にの恐怖心を煽った。

「いやっ・・・は、放してっ・・・!」
「・・・逃がしませんよ、
・・・あなたまでいなくなるなんて耐えられない。僕を殺す気ですか?」

唇を合わせたまま、至近距離からジッと見つめられて、甘く囁かれる。
は底冷えするような、氷りつくような冷たさを覚えていた。
執着。
間違いない。
彼は、アリスを失ってその全部をに傾けようとしてる。
きっとこれからは、今までなんかと比べ物にならないくらいの束縛を受けることになってしまう。
無意識の内に小刻みに震えるの体。

彼の冷たい掌は今もの裸の胸元を撫でまわし、弄んでいる。

「あなたに触れようとする、あなたを視界に入れる全ての輩を僕が排除します。
これからは・・・どんな時もあなたを放しませんよ。
あなたの苦しむ姿、実は結構僕のお気に入りなんです。
だから、どんなにあなたが嫌がっても、そして泣いてしまったとしても、
僕は絶対にあなたを放さない。」

赤い赤い狂気の瞳。
スッ、と細めて、薄い唇を曲げて哂うペーター。
の唇から、顎へ、そして喉へと彼が唇を滑らせるようにして移動させる。
そして喉元へ辿りついた彼の唇が、のそこに烙印を押した。
ツキンと針で刺すみたいな小さな痛み。
赤い鬱血。
キスマーク。

だけど、この意味はきっとそんな甘く可愛らしいものじゃない。
その証拠に、の喉元に押し当てられた彼の唇は、
驚く位に冷たかった。


END



喉元に当てられた

  冷たい唇


何度時間帯が変わろうとも、あなたは絶対に逃がさない。どんな手段を用いようとも。