銭湯並に広々としたバスルーム。
当然浴槽の大きさも並みじゃない。
何もかもがバカ高そうで、そしてバカデカイ。
当然、余裕で泳げるサイズな訳で。
お風呂と言うよりはプールと称した方が分り易いんじゃないだろうか。
まぁもうそんなお年頃でもないから泳いだりはしないけど。
それにしても何度足を踏み入れてもこのバスルームの大きさには驚いてしまう。
プレイヤーとして画面で見てるのと実際見てリアルに利用するのとじゃ全然違う。
何と言うか、自分のものじゃないのは分かってるんだけど、
そりゃもう凄く分ってるんだけど、この大きなバスルームでお湯に浸かって居ると、
まるで自身がお金持ちになった様な気分になる。
まあ、一時の夢、幻。
庶民的な悲しい思考だ。
「って言うか、お湯がピンクってのは絶対条件な訳・・・?」
ゆっくりとお湯に身を沈めながら、は独り言を呟いた。
床と同じ位淡く綺麗な桃色のお湯。
入浴剤の色なのは言われなくても分かってるし、
それ以前にアリスが利用した時の事をプレイヤー視点で見てるから知ってる。
だけど、このお風呂の所有者がブラッドだと言う事が頭にあるせいか、
この桃色湯船がやけに厭らしさを煽っているように見える。
見た目綺麗だし、香だって凄く好みではあるんだけど。
「いやらしい感じ・・・。」
思わずはまた声に出してそう呟いていた。
「ほぅ?何がいやらしいんだ?お嬢さん。」
「・・・だってさ、ピンク色のお湯よ?ピンク、よりによってピンクってどうよ・・・。」
「、あんた何をさっきからピンク、ピンク連呼してるんだ?」
「うん、それが・・・・・・・・・・って、ええええええええ!!??」
そこではようやく二人がバスルームに侵入して来たことに気付く。
二人が入ってきた事に全く気付かなかった事にも勿論驚きだけど、
その上ナチュラルに会話まで交わしてしまった自分に激しくツッコミを入れてやりたい。
彼らはゲーム画面でアリスの時にそうして居たように、
腰にタオルを巻いただけの状態で、
手にはそれぞれ酒飲みアイテムを手にして堂々との前に姿を見せた。
「鈍っ!、あんた気付くの遅すぎだろ!」
「そうだな、しかも余りに色気のない驚き様だったぞ。」
ブラッドはそう言って心なし不満げな顔をして見せる。
ぽかーんと間抜けな顔をしているを余所に、
二人は何の遠慮もすることなく(いや、まぁ所有者はブラッドだから仕方ないけど)
の入っている浴槽に自分達もざぶざぶと身を沈めた。
「風呂で酒飲むと回りが早ぇんだけど、その分気持ち良くなれんだよなぁ。」
「そうだな、ここで飲む酒は他で飲むよりも気分がいい。」
いやいやいや、普通だよ、普通すぎるよ、コイツら。
メッチャクチャ、普通に会話してやがるわ。
ついさっきの会話での存在は確認(?)し終えたのか、
ブラッドとエリオットは極自然にお酒を飲む準備を始める。
この状況で存在をスルーされるのはとしては微妙すぎた。
とは言え、変に意識されるよりはずっとマシかもしれない。
まさか自身がお風呂でドッキリ☆体験をしてしまうとは思わなかったけど、
これはこれで美味しい状況と言えなくもないんじゃないか、なんて、
有る意味で冷静な考えまで浮かんでしまう始末。
これなら慌ててこの場から逃げようとする、真っ赤になって視線を逸らす、
と言う少女マンガの様なリアクションはしなくても良さそうだ。
は取りあえず二人から適度な距離を保って、そのままここに居座ることにした。
「ところで、お嬢さん・・・。」
「え?あ、何?」
「男二人が入浴中に突然姿を見せたと言うのに、えらく落ち着いているな?」
「そうだよな、最初のはビビってたっつーより、
一瞬驚いちまったって程度の感じだったしよ。」
言いながら、エリオットはキュポンと小さな音を立てて酒瓶の蓋を開けた。
同時に洋酒独特のアルコールの匂いがの方まで漂ってくる。
「・・・落ち着いてるって言うか、取るべきリアクションに困ってたって言うか。」
「いや、そう言う事を考えられるってことが既に冷静なんじゃねぇのか?」
「ああ、エリオットの言う通りだ。
裸の男を前にしても動揺しないとは、さすがだな、。」
ふふ。
含みある笑い方をして、ブラッドがお湯に浮かべたトレイの上のグラスを手に取る。
エリオットは手慣れた様子でそれにお酒を注いだ。
トクトクトクトク。
金色に近い液体が、ブラッドのグラスを満たしていく。
はそれをぼんやりと眺めながら、ブラッドの言う通りかもしれないと思っていた。
今更文字通り現実離れしたこの世界の人間であるブラッドやエリオットに常識を求めても仕方ない。
ここはやはり一番常識的なが常識的に、乙女の見本のように、
驚くだけじゃなく恥じらうべきなんだろう。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
は少しの間『それらしい』反応を色々と想像してみた。
ついさっきも思ったようなベタな少女マンガのように慌てふためく自分の姿を。
だけど、結論は早い。
ははははは、無理!!!
そんな自分を思い浮かべると軽く失笑してしまう。
以前のならどうにか出来たかもしれないけど、
ここに来て少し感覚が麻痺っているのは確かだ。
「動揺してないって言うか、現実離れし過ぎてついて行けてないだけかもね。」
ブラッド達にと言うより独り言に近い口調では言った。
「はぁ!?現実離れ!?いや、そこまで言う程のことなのか?この状況は。」
「言う程のことよ、が居た所じゃこんなの絶対あり得ない。」
エリオットには分らないのも無理はない。
だけどにとってここは確実に現実じゃない。
アリスの言う夢とも全く違う。
だからこそ割り切れたり、冷静に見れたりする部分もある訳だ。
「つまり、夢のように素晴らしい状況と言うことか。中々嬉しい事を言ってくれる。」
「そんなこと、ひとっことも、言ってないから!!!」
ブラッドの都合の良すぎさMAXの台詞を全否定した。
確かにブラッドもエリオットも美系の部類だし、目の保養になることも認める。
でもだからって『夢のように素晴しい状況』って表現は全くなしだ。
そんな逆ハーレム的な物はさいっしょから求めてない。
「うわっ!そこまで力強く否定するこたねぇだろ、。」
「そうだぞ、。我々にも男としてのプライドと言う物がある。」
「いやいや、だからってこの状況でがデレデレしても・・・。」
どんな会話だろう、これ。
二人と話をしつつ、ああ、やっぱこれが達だな、なんて思ってしまう。
殆どタオル一枚しか身に着けてない男女がお風呂場で遭遇したってのに、
この笑いを誘おうとしているのか居ないのか謎すぎるダルダルな会話。
とは言え、この方が変に色気のある会話よりずっと気楽でリラックスできる。
この分ならこの和やか(???)ムードでバスタイムを満喫できそうだ。
―――なんて、そうは問屋が卸さなかった。
何故なら、エリオットが予想外に早く酔っぱらい始めてしまったから。
忘れてた訳じゃ勿論ないけどここはお風呂場。
お湯に浸かってお酒を飲めば、本人たちも言ってた通りアルコールの回りも当然早い。
その上元々エリオットの飲むペースの速さも手伝って、
彼はあっという間にノーマルモードから外れてしまった。
とは言え、その口火を切ったのは、やっぱりドグサレ男、ブラッドだった訳だけど。
「、君は最初に私達がここに現れた時、
何かが『いやらしい』と言っていたな?あれはどう言う意味だ?」
「え?ああ・・・だから、あれはこのピンクのお湯のこと。」
「ほぅ?お湯がピンクだと、何か不都合なことでも?」
「別に不都合って訳じゃなくて、
ピンク色って解釈の仕方によっちゃ妖しいって言うか…。」
う・・・ん?
ブラッドの質問に答えながら、はそこはかとなく嫌な予感がし始めていた。
とても、ヤバい方向に話が転がりそうな、そんな、予感。
「妖しい・・・、か。それは、例えばどんな風にだ?」
「ええ、いやいや、どんなって・・・・・・・。
って、言うか、何でブラッドはどんどん近付いて来てる訳?」
やけに意味深な笑みを浮かべて、ブラッドはゆっくりとの方に近づいてくる。
そう、ゆっくり、ゆっくり、お湯が微かに波立つ程度の速さ。
だけどそれが逆に素早く動かれるよりもの不安を少しずつ煽った。
「気にするな、ただこの距離では君の声がよく聞こえないだけだ。」
「うそばっか!!お風呂でこの距離で聞こえない訳ないで・・・・!?」
トンッ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
不意に、背中に当たったその感触。
壁。
な、訳がない。
ここはそんなに狭くない。
壁に当たるにはまだまだ距離があると言っていい。
それより、何より、この感触。
まさか。
でも。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
ギギギ。
と、機械仕掛けの人形みたいな動きでは背後を振り返る。
「え・・・えり、オット?」
「悪ぃな、。俺もあんたの声がよく聞こえなくて側まで寄って来ちまった。」
「エリオットの耳でも聞こえない程だ、私の耳に届かなくても無理はないだろう?」
言って、浮かべられる、凶悪な微笑み。
ブラッドだけなら分かる。
コイツはそういう男だから。
だけど、まさか。
「さて、お嬢さん、君が言っていた『いやらしい感じ』とは、
どんなものなのか、我々にじっくり教えてくれないか?
なぁ、エリオット、お前も詳しく知りたいだろう?」
「ああ、当然知りたいぜ。が教えてくれるってんなら、
やっぱ実技ありだってことだよな・・・?」
「はいっ!?ちょっと、エリオット!!??」
の前後。
ブラッドとエリオット。
接近率はかなり切羽詰まった物がある。
特にエリオットに至っては、軽く後ろから抱きすくめられていると言っていい位の位置。
いつもなら癒し系で元気な兎な筈の彼。
なのに。
なのに。
なのに。
「実技、か・・・。ふふ、それは興味深いな。私は元々相手は独占しておきたい方なのだが、
今回だけは特別だ・・・。エリオットと一緒に君からの手ほどきを受けてやろうじゃないか。」
なぁ、?
言いざま、ブラッドがの頬を指先でつ、と撫でる。
それだけでの体がビクリと跳ねあがる。
ヤバイ!!!酔ってるのはエリオットだけじゃない!!!
ひいい。
絶叫を上げそうになりながら、それでも逃げることさえ出来ないこの状況。
不意に、背中からエリオットがの耳元に唇を寄せた。
「で?まずは何から教えてくれるんだ?」
「え!?いやいやいや、ちょっと、二人とも、落ち着こう!って言うか、落ち着け!!」
「フフ、どうしたんだ?私達は十分、落ち着いているぞ、。」
つ。
ブラッドの指先がの唇の淵をなぞる。
同時に、ちゅ、と、音を立ててエリオットがの耳朶にキスをした。
「っ!!!!!!!!!!!!!」
「あんた、すげぇ美味そうな匂いがする。」
「それはお風呂の入浴剤の匂いだよ!!エリオット!!じゃないないない!!」
「いいや?エリオットの言う通り、君はいい匂いがする。
耐えきれず、口付たくなる程に・・・・、な。」
言って瞳を細めたブラッドは、やけに色気のある視線をに送る。
「ちょっと・・・ふ、二人共、これ・・・。」
この状況は無理いいいい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
耐えきれずに唇を震わせたその時。
ブラッドに唇を塞がれ、同時にエリオットがの胸元に掌を移動させた。
「×○△■☆◎▽●×☆!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
この世界に来て間違いなく一番の悲痛なの絶叫は、
彼らの耳に届くことなく、消えた。
END
魅惑色した
バスタイム
「さぁお嬢さん、これからが楽しいひと時だぞ?」
「酒よりあんたの方がずっと美味そうだな。」