「お姉さん!お姉さん!」
「ん?」

聞き慣れ過ぎたその声に呼ばれて振り向いた、視線の先。
珍しく、片割れだけの双子の姿。
どっちだろうと思いつつ、
少年悪魔の一人がに近づいてくるのをぼんやりと眺めていた。

「こんにちは、お姉さん。」
「おっと・・・!」

ガシリ。
側によって来た途端にその勢いのまま抱きつかれる。
はその衝動で少しだけ後ろによろけた。
いつもは二人同時だから、力も両側に同じ位働いててよろけることなんかない。
そうしながら、は未だに双子がディーとダム、どちらかなのか確認出来ずに居た。
の体に腕を回して首筋辺りに顔を埋めている少年悪魔。
体勢が体勢だけに瞳の色を確かめる事も出来ない状態だった。

「兄弟と一緒にお姉さんに会いたいねって、話していたところなんだ!
だからこうしてお姉さんと会えて凄く嬉しいよ。」
「えーっと・・・、うん、有難う。
だけどさ、まずは離れようよ、廊下のど真ん中でこれって・・・。」
「僕はもう少しだけこうしたいな。・・・だって、お姉さん凄くいい匂いがするからさ。」

言いざま、首筋に鼻先を擦り寄せて、を抱きしめる力を更に強める少年悪魔。
片方だけだろうと何だろうとやるこた一緒か、コイツら。いや、コイツ。


それにしても、本当にどっちだ、これは。


喋り方はハキハキしててそれだけで考えればディーの様な感じだけど、
ダムのディーの物真似(?)も完ぺきだから油断ならない。
だからこそ周囲の人間も彼らが入れ替わっていたとしてもいつも気付かないのだ。
それでもは二人が入れ替わって遊んでいる場合、
毎回どうにか曖昧ながらも判別は出来ていた。
何となく、と言う程度でも外れた事は殆どないと言う自負もある。
それが些細な喜びでもあった訳だけど――――


本気、どっちなの。一人だと全然分からないし。


そう、情けないことに片方だけだと比較対象が無い為、判別が出来ない。
がそんなことに考えを巡らせている間、
双子の片割れの行動は段々とエスカレートし始めていた。
唐突に耳朶を甘噛みされ、服の上から柔らかく胸を揉まれる。

「っ!ちょっと!ここ廊下!いい加減放せ!放しなさいっ・・・!!
ってか本気やめて!!!」


このドぐされ少年悪魔が!!!!


は両腕を思いっきり突っ張って、相手の体を力の限り引き剥がした。

「ええー!」

即座に不満の声を上げやがる少年悪魔。
油断も隙もあったもんじゃない。
こんな廊下のど真ん中で何を考えてるんだ、コイツは。
なんて、常識的考えが今更通用しない事は十分分ってるけど、そう思わずには居られない。

「・・・・・・・・・・・あれ・・・?」
「何?あ、やっぱり続きをしてもいいの?」
「違うわ!!!!!・・・そうじゃなくて・・・!」


じゃあ何?
きょとんとした如何にも幼さを残した少年らしい表情でを見つめる双子の片割れ。
それにしてもさっきから、どっちだどっちだ、と思ってたけど、まず、コイツ。

「服装がいつもと違う・・・。」
「うん、着替えをしている途中だったんだ!入れ替わって遊ぶ途中だったのさ。」
「じゃあ、その瞳の色も・・・。」
「そうなんだよ、兄弟の瞳のカラコン入れてる途中だったから片方だけなんだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「お姉さん?」


何でそんな状態で廊下に出て来てるんだ!!
コイツは!!コイツは!!コイツは!!!!


そう、抱きつかれた瞬間から違和感は感じていた。
気付くのが余りにも遅れたもどうかと思うけど、
それはこの際置いといて、の目の前に居る少年悪魔の片割れは、
いつもの軍服めいたデザインの服も帽子も身に着けてない。
つまりまず、パッと見赤でも青でもない。
(なのに斧だけは持ってるってどこまで標準装備だよ)
更に、更に、もっと紛らわしい事には、
奴は左目が青、右目が赤、と言う恐ろしく中途半端な状態だった。


『兄弟』って、だからどっちになろうとしてたんだ、お前は!!


本当なら自力で解明したいところだけど、今回ばかりはも全くのお手上げだ。
は深く溜め息を吐いて、仕方なく本人に聞いてい見る事にした。

「ごめん、悪いんだけど、あんたがどっちか分からないのよね。」
「え!?ええ!?そうなの?
でも前は僕と兄弟が入れ替わっていたのを見破ったよね。」
「そうなんだけど・・・、片方だけだと分んないみたい。どっちなの?」

へぇ、分からないのかぁ・・・。
そう呟いてをジッと見つめた彼の口調は、
どちらかと言うとスローテンポで喋るダムの様だった。
だけど、ついさっきまではディーな話し方だったのだ。
やっぱりどう考えても、どう見ても、分からない。

「その話の前に、お姉さん、ちょっとこっちに来て。」
「え?」
「あの客室だよ、兄弟も居るからさ、ほら、早く、早く。」
「え!?何で急に、ちょっと!?」

双子の片割れはの腕を強引にグイグイと引っ張っていき、
達が居た場所から少し離れた客室にを押し込めた。

「あ、兄弟!遅かったじゃないか。僕ずっと待っていたんだよ。」

客室に入った途端、双子のもう一人が抗議の言葉を向けてくる。

「ごめんよ、兄弟。お姉さんを連れてくるのに手間取っちゃって。」


いやいやいや、あんたがセクハラ行為を働いてたせいだろう!!!

と居た方の片割れの台詞に、そうツッコミを入れてやろうと思ったその瞬間。
客室に居た方の少年悪魔の顔を見て、は絶句してしまった。

「お姉さん!僕凄くお姉さんに会いたかったんだ!嬉しいよ!」

左目が赤、右目が青。
ついさっきまで見ていた同じ顔の少年が、左右逆の瞳の色をしている。
なのに服装は同じ。
二人揃ったのに分からないなんて、どう言うことだろう。
自信喪失だ。
と言うか、コイツらが無駄に中途半端な紛らわしい格好をしていることが原因なんだけど。

「結局!!どっちが、どっち!?」

双子が左右からガシリとに抱きついて来ている。
左右同時だったから、今度はさっきみたいによろけたりしなかった。

「あれ?僕達二人揃ったのに分からないの?お姉さん。」

左目が青、右目が赤。
こっちは廊下で会った方だ。
は頷いた。

「悪いけど、今回は本気、分からないわ。」

素直にそう答えたを、双子が二人揃ってジッと見つめている。

「へぇ、分らないんだ・・・。」
「ふぅん・・・。」

呟くように言って、少年悪魔は同時にお互いの片割れを見た。
そして、クスリ、小さく笑う。


げげっ!ヤバイ・・・!!


少年悪魔どものこの笑い方は激烈要注意だ。
この二人ともそれなりに付き合いが長くなってきた。
色々な種類の行動パターンも読める位には。
これは、今回のこれは、逃走経路を確保した方がいいかもしれない。
なんて思って居ると、双子の片方がスルリとの背後に回った。

「っえ!?」

前後から抱きつかれている状態になって、身動きが取れない
しまった、がヤツらの行動を読んでいるのと同じで、
向こうもの行動を読んでやがる。

「お姉さん、僕はどっちだと思う?」

ハキハキとテンポのいいディーの声で左目が赤、右目が青の少年悪魔が言った。

「勘でいいから答えてよ。」

ゆっくりとスローテンポのダムの声で左目が青、右目が赤の少年悪魔が言った。

「ええ!?でも分からないから聞いたんだけど…。ホントに凄く考えたし。」

双子にサンドイッチよろしく挟まれた形のまま、は答える。

「いいから、いいから!間違っても僕達は平気だよ!」

ゆっくりとスローテンポのダムの声で左目が赤、右目が青の少年悪魔が言った。

「そうだよ!その為に入れ替わって遊んでいるんだから。」

ハキハキとテンポのいいディーの声で左目が青、右目が赤の少年悪魔が言った。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


コイツら、マジで嫌がらせ過ぎるんだけど!!!


もうさっきまでよりも更に更に頭は大混乱している。
どっちがどっちだか分らない程度のレベルじゃない。
奴らが悩みまくるを見て、楽しんでやってるのは分かり過ぎる程分かっていた。
だからこそ勘で答えを口にすることさえ出来ない自分がもどかしい。


どっち!?どっち!?どっち!?


グルグルの思考が回る。
そこで目の前に居る方の少年悪魔がまたしても口を開いた。


「お姉さん、僕はどっちだと思う?正解したら二人でご褒美をあげる。」
「・・・・・・・・え?」

間抜けな声で聞き返すと、今度は背中から声がした。

「お姉さん、僕はどっちだと思う?間違えたら二人でお仕置きだよ。」


ああ、ああ、ああそうかい。
そうかい、そうかい、そうですか。


ファイナルアンサー。
貴様らは、どちらも同じく、少年悪魔デス。



END



恋をしてから

   負けっぱなし


勝利者はいつも決まってる。