やっぱりだ。
やっぱり、やっぱり、全然全くちっっっとも、実感が湧かない。
昼が後一時間帯、巡ってしまったら、
がこの世界から現実世界に還るその時が来るなんて。



「美味い!!!やっぱりうちのシェフのにんじん料理は最高だぜ!!
このにんじんのコンポート・・・くぅうっ・・・・!!!なぁなぁブラッド!お前も食べてみろよ!」
「いや、私は遠慮しておこう。・・・・何度も言うが、そのオレンジ色の物たちはお前だけが食べるといい。
お前だけの為の物だ、全てお前が食べろ、エリオット」

いつもと同じ綺麗な星空の下。
いつもと同じ場所、同じメンバー、(たまにアリスも同席すること有り)
そしてほぼ同じ会話を繰り広げるエリオットとブラッド。
(ある意味攻防戦とも言う)
テーブルの上にはブラッド自慢の最高の紅茶、高級なお茶菓子、
それにエリオット専用(本人自覚なし)オレンジ色のにんじんお菓子達がずらりと並んでいる。
これもいつもと殆ど同じ。
は手元のカップの紅茶を一口、啜った。
紅茶は相変わらずそう言う物の味に特に煩くもないでも分かり易い位に美味しい。

「・・・・・・・・・・」
「・・・?、どうしたんだ?何か今日いやに大人しくねぇか?」
「え?そう?別に何か有った訳じゃないんだけど」

なんてのは大ウソだ。
何かあった訳じゃありまくり。
と言うか、これから何か有るとでも言うべきか。
だけどどう考えてみてもあのカウントダウンの事が信じられなくて。
実感なんか全然なくて。
でも、それでも何故かあれが絶対だって妙な確信だけはある。

「いや、エリオットの言う通りだぞ、。君はやはりいつもと少し様子が違うようだ」
「ええっ!?ブラッドまで!いや、まじで特に何かあるって訳じゃないんだって」
「・・・・だったらいいんだけどよ・・・、あんたが元気ねぇと、俺もブラッドも心配になっちまうぜ」
「うん、ごめん。ってのも変か・・・・、えーっと・・・ありがと」

自覚はあったけど、って隠しごとの下手な奴だ。
ブラッドにはさっき部屋に居る時に見抜かれたし、
エリオットだってお茶会始まって早々こんなこと言われてるし。


何か話題・・・。とにかく、別の話題を振って誤魔化そう・・・。


「あー、あのさ、二人とも!」
「何だ?」「んー?」


「もしもが突然居なくなったら、どうする?」


「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」



の。
の、大馬鹿やろおおおおっっ!!!!


よりによってこの質問。
よりによってこの空気でこのタイミングでこの話題選択。
あり得ない。


自分で口に出しておいて、
余りの自分の馬鹿さ加減に呆れ果てつつ、
それ以上に二人の反応を見るのが恐ろしくては一瞬にして硬直してしまう。
何気に自分が思ってた以上に気が動転してたようだ。
でなけりゃこの話題選択はあり得ない。
信じられない。
馬鹿すぎる。
自分で言って、石化したの向かい側。
ブラッドの居る辺り。
スゥーーーッと。
一気に気温が氷点下にまで下がった。


「・・・ほぅ・・・?、君は・・・・突然居なくなってしまう様な予定でもあるのか?」
「っ!!!???」


ひぃっ!!!
ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!


ブラッドの形のいい綺麗な翠色の瞳が、
間違いなく今まで見たどの瞬間よりも恐ろしく鋭い視線をにぶつけていた。
限りなく冷たくて、それなのに何処かぎらぎらしてるような、メチャクチャな威圧感。
視線で人が殺せるなら、は既に死んでる。
しかもきっと即死だ。
そしてそのブラッドの隣。
茫然とした表情をしていたエリオットが、ハッと我に返ったみたいにしてを見た。

、マジなのか!?嘘だよな!?そんな、あんた急に居なくなっちまったりしねぇだろ!!??
そんなことしねぇよな!!??しねぇって言えよ!!!!!!!!!!!!!!!!」

ガタンと大きな音を立てて立ち上がり、相当取り乱している様子のエリオット。
はあわあわあわあわしつつも、どうにか唇を動かした。

「もももも、もしもっ!!もしものはななしっだきゃら!!!」

二人の反応が予想以上の物過ぎて、はどもりまくった上に、噛んでしまう。
ブラッドは片手で持ち上げかけていたカップをカタリと置くと、瞳の鋭さと冷たさもそのままに、
静かに口を開いた。

「君が・・・突然居なくなってしまう様なことなど許さない。
どんな事があろうと阻止して見せるさ。つまり、そんなことはあり得ない」
「・・・・・・・・・・・・・・・そ、それ、質問の根源からして絶った答え過ぎるから、ブラッド!」

がした質問内容は、居なくなった後、どうするかって意味だったのに、
この人はそんなことはあり得ないとぶった切ってしまった。
何か、まぁ、有る意味では凄くブラッドらしいんだけど。

「俺もブラッドの意見に賛成だ!あんたは何処にも行かせねぇ!そうなっちまう前に、
何があっても止めてやるぜ!!!」
「あは・・・・・・・ははは、た、たのもしー・・・」

もう何と答えていいやら分からなくて、は引きつった笑顔を浮かべて言った。
自業自得。
そりゃ分かってる。
さっきも言ったけど、あのタイミングであの流れで、こんな馬鹿な質問をしたが悪い。
だけど、だけれども。


この二人、マジ怖すぎるっ!!!!!!


いや、この場合、後の事を考えるとブラッドの方がより怖い。
冷気が未だに収まってないし、今ので思いっきり機嫌損ねたし。



最悪。
色んな意味で、マジ最悪。






その後、夜の時間帯から夕方へと変化し、続いて夕方、夜、夜、夜と間に一度の昼も挟まず時間は巡って行った。
そして現在。
時間帯は夕方に変わっていた。

「・・・・・・・・・・・・」

ブラッドの私室。
彼のベッドの上。
は、殆ど拘束される形で、がっちりと、ブラッドに両腕を回されて横になっていた。
こっちは身動きが取れずに辛い体勢で居るってのに、
当の本人は満足そうな表情で気持ちよさげに寝息を立てている。
例の発言(・・・・)が余りにも不用意だったのは認めるし、自業自得だってのも分かっちゃ居る。
分かっちゃいるけど、いい加減勘弁して欲しい。
あのお茶会からこっちブラッドは殆どを軟禁状態。
何をするにも彼の監視下に置かれてて、当然の様に外出なんか以ての外。

「・・・・・・・・うぅう〜」

眉間にしわを寄せて唸り声に近い声を漏らす
ブラッドはチケットの存在を知らない。
だから当たり前だけど次の昼に何が起きるのかも知らない。
まぁ、何が起こるのかなんか当事者のだって分からないんだけど。
それにあれから昼の時間帯が巡って来てないせいで、
何だかやっぱの気のせいなんじゃないかって気がしなくもない感じになって来た。
つまり、あのチケットのカウントダウンもの気のせいで、
もしも次に昼が来ても何も起きないんじゃないかってことだ。
それならそれでいい、とも思ってしまう。
こうやって無理に拘束してでもを留めようとしているブラッド。
をどこにも行かせないと言ってくれたエリオット。
そして実は双子達にも泣きつかれた。
ここが現実じゃなくても、彼らはにそこまで執着してくれてる。

だけどそれはやっぱり、ここが現実じゃないから。
創られた世界だから、ってことでもあって。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

ハァ。
知らず、溜息を吐きながら、は不意に絨毯に視線を向けた。
そこには脱ぎ捨てられたジャケットが落ちている。
あのジャケットのポケットの中に、問題のチケットが入ってるのだ。
ここから手を伸ばして届く位置じゃない。
ブラッドの腕から抜け出さなきゃ無理な距離。
はただ、ぼんやりとそれを眺めていた。

「・・・・・・・ん・・・」
「・・・・・!?」

の頭上辺り。
ブラッドが小さく声を漏らして、体の位置を少しだけずらす。
同時に、さっきよりずっとは動き易くなった。
はほんの少し考えた後、ブラッドが起きないように静かに、
極力ゆっくりと彼の腕から抜け出すことにする。
そしてどうにかブラッドを起こすことなく彼の腕の拘束から逃れると、
ベッドから少し離れた場所にある床に落ちていたジャケットを拾い上げた。


瞬間。


ひらり


ポケットにしまってあった筈の真赤なチケットがそこから舞い落ちる。
そして――――――――――――――


「・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」


がチケットを掴んだのと、窓の外が真っ青な昼の空に変化したのはほぼ同時だった。


どっ   くんっ!


突然過ぎる展開に、の胸が大きくひとつ、鼓動を打つ。
反射的に目に飛び込んできた掴んだチケットの数字。


『昼・0』


それを認識したその時。
真赤なチケットが目を射す様な光を放った。
驚き過ぎて声も出ないと、一瞬にして大きくなるチケットのまばゆい光。
その光は、あっという間にを飲み込み、部屋全体を包んだ。


・・・・・・・!!!!!!!」


を呼ぶブラッドの声。
光を放ち続ける真赤なチケット。
それを最後に、の意識はふつりと途切れた。


(後篇へ)