「おいおい、教師がこんなとこでサボって何やってんだよ。」
程なく3限目の授業が開始されるだろうその時間。
屋上でぼんやりと空を眺めているに、背後から聞き慣れた声がした。
振り向いたの視線の先には、想像通りの姿がある。
は片手をひらひらとさせながら、フェンスに背中を押しつけ、口を開いた。
「ん?洋平かー。ああ、はサボりじゃないわ、休憩休憩。
あんたこそ教師の目の前で堂々とサボってんじゃないわよ。」
「休憩ねぇ・・・。一応言っとくが、俺の所は自習時間だ。
花道の奴なんかは今頃いびきかいて寝てるんじゃねぇかな。」
「ああ、最近めっきりバスケットマンだっけ?あのクソガキがねぇ。」
確かにタッパはあるし、無駄に頑丈なやつだったが、
まさかあんなまっとうで健全なスポーツに目覚めるとは思わなかった。
高校になっても変わり映えのしない、
グレてモテない大馬鹿野郎のクソガキだと思っていたが、
今じゃこの湘北高のバスケ部でスタメンにまでなってしまっている。
始めたきっかけが惚れた女の子の気を引きたいと言うのが余りにらしくて笑えるが、
それにしてもこの短期間で見事な成長だ。
「ははっ、確かに俺らも最初は花道がバスケやるなんて全く思わなかったもんなぁ。
しかもムチャクチャやってる割に、どんどん様になってきてやがるし。
・・・・・・・・・アイツは、バスケに出会えてマジで良かったと思うよ。」
「まともに青い春を謳歌してるみたいだからね、あのバカが。
問題児軍団が入学する話を聞いた時は、
どうやって教育的指導をかましてやろうかと思ってたけど。」
「つか、俺らとしちゃ、一部じゃ伝説とまで言われてる天下無敵のレディースのヘッド・
が教師やってるって方が驚きだったけどな。」
にやにやとした笑いと一緒に、洋平はからかうようにして言った。
は腕を組んでわざとフンと鼻を鳴らす。
「あーら、君は信じてなかったのかな?教職取ったって話はしといた筈よ。」
「ああ、けどやっぱ、入学してが教卓立つまではジョークかと思ったぜ。」
「これでも結構人気あるのよ、女教師の先生は。」
「そうだな。ま、そりゃ否定しねーよ。」
苦笑染みた笑みを浮かべて奴が答える。
は思わずふっと口元をほころばせた。
つい最近まで中学生だった筈のガキのくせに、年齢よりずっと大人びて落ち着いて見える。
だからこそ、はコイツとこんなややこしい関係になっているのだが。
こんな―――。
そう、いわゆる恋人同志と言うやつだ。
「妬けない?実は既に両手に足りないくらいの屍を築いてるのよ。」
「・・・・告白されたってか?度胸のある奴も居たもんだ。」
「ふふ、言ってろ。」
言いざま、は洋平の首筋付近に手を伸ばす。
奴は片手を制服のポケットに突っこんだまま、空いた右手でを抱き寄せた。
「教師がサボって生徒と屋上でイチャついてるなんて知れてみろ、えらい騒ぎになるぞ。」
「いいわねぇ、高校問題児と美人教師のイケナイ昼下がり。」
「クック、昼下がりにゃまだ早いだろ。それに美人教師ってのもどーだかな。」
喉の奥で笑いながら言い、洋平はそのままの唇に自分の唇を押しつけた。
やわらかく重ね合わせた唇から、奴がの口内へ舌を挿しいれてくる。
からもねだる様にして首の角度を変え、キスを更に深いものへと導いた。
そこで不意についさっき出来心で吸った1本のタバコの事を思い出す。
長い間禁煙していてずっと吸って居なかったのだが、
バッグを漁っていたら何故か1本だけ底の方に転がっていた。
しけて吸えたものじゃない代物だろうと思いつつ、
久しぶりだと思うとついつい手が伸びてしまったのだ。
「、お前禁煙したんじゃなかったのか?もろに煙草の味がするぜ。」
案の定、洋平がやれやれと言った視線を至近距離からに向けながら言った。
「つい出来心でね。でも1本だけよ、それ以上は吸ってない。誓って。」
「はは、やっぱとんだ教師だな、お前は。」
「7つも年下の高校生に手を出している時点でそれは知ってるわ。」
くす。
小さく笑って返すと、奴が再びの唇に自分の唇を重ねてきた。
ちゅ。
リップノイズと同時に、上唇を軽く吸われる。
そしてまたすぐに身を離すと、洋平は僅かに瞳を細めてを見下ろし、
口元に不敵とも取れる笑みを浮かべた。
「いや、手ぇ出したのは俺だろ。
お前は中坊の俺に押し倒されてそのまま今に至るんだからな。」
「ふふ、それはが狙ってたことかもよ?」
「ま、それならそれでいいさ、どっちにしろ俺は、を手に入れることができたんだからな。」
ポケットに突っ込んで居た片手をの腰に絡め、
奴は両腕でを強く抱きしめた。
は同時に踵をあげ、洋平の唇へ食らいつく。
授業はもうとうに始まっているに違いない。
そんな中、年下の恋人、しかも生徒とイチャついているはやっぱりとんだ教師だ。
キスが荒々しくなるにつれ、乱れる呼吸。
湿った吐息と生温かくとろみのある唾液がの口内を満たす。
薄らと瞳を開けて見えた洋平の肩ごしの快晴の青空が、
逆に達のしている行為を更にいやらしく見せているようだった。
「洋平・・・。」
フッ、と、達は極自然にお互いに体を離す。
これ以上は限界。
きっと、キスだけでは終われなくなってしまう。
口に出さなくても、分っていた。
「今日はバイトねーし、花道の奴からかった後にでもお前の部屋に寄るよ。」
「了解。待ってるわ。それじゃあ、そろそろ職員室に戻らないと。
ほら、センセーは忙しいからね?」
「はははっ、よく言うぜ。」
は軽く口元に笑みを浮かべてそれに答え、
ひらひらと片手を振って洋平に背を向ける。
「センセ、課外授業は濃厚に頼みますよ。」
「期待してなさい。」
一言、残して、は屋上のドアを静かに閉めた。
END
君の熱で溶かして
今日も明日も明後日も、この先もずっと、お前の体温が俺とあると感じさせて欲しい