あれからかなりの時間が経った。
思い当たる場所は全部探した。探しまくった。
同じ場所も2,3度ぐるぐるぐるぐる馬鹿みたいに探し回った。
だけど全然見つからない。
は深い溜め息と一緒に、その場に座り込んだ。
10時間滞以上も動き回った上に、一睡もしてない。
当たり前だけど、こんなことは初めてで、もうこれ以上動けそうもない位疲れていた。
「・・・ああああもう!これだけ探しても見つからないってどうよ・・・!?」
言いながら、バレッタをしていた筈の場所に手を移動させる。
眠る時以外いつもつけていたせいだろうか、そこに何もない事にとても違和感を覚えた。
それより何より、あれはあのツンツンデレなユリウスがに買ってきてくれた貴重な物だ。
何が何でも探し出さないと。
でもこんなに探しても見つからないってことは・・・やっぱり誰かに・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
嫌な方向にばかり思考が働いてしまう。
は咄嗟に考えるのを止め、自分の膝に顔を埋めた。
ユリウスは・・・心配してる・・・だろうか?
フッと浮かんだ考え。
部屋を出る間際の彼との会話を思い出し、は再度、大きな溜め息を吐く。
売り言葉に買い言葉とは言え、出て行くなんて口にするべきじゃなかった。
あのユリウスが素直に引き止めてくれる筈もないし。
例えバレッタが見つかったとしても、その後、はどうすればいいんだろう。
時計塔にのこのこ戻って行っていいものか。
時計塔。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん!?
んんんんんん!!!??あああああああああああ!!!
「時計塔探してないじゃない!!」
ガバっと顔を上げ、同時に大声でそう叫んでしまった。
灯台もと暗し。
すっかり忘れてた。
一番怪しい筈の場所。
階段を滅茶苦茶に駆け降りたのだから、落ちている可能性としては一番高い所だ。
それにあそこなら客以外の行き来はないから、もしも誰かに拾われていたとしても、
手元に戻ってくる確率も高い。
って言うか、何で今まで気付かなかった訳!?
あり得ない!時間相当無駄にしたわ!!
ユリウスと遭遇する確率もまた相当なものだが、バレッタを無くしたままには出来ない。
はふらつく足元をどうにか奮い立たせ、立ち上がった。
「とにかく探さないと・・・!」
「何をだ?」
「そりゃバレッタに決まってんでしょうよ!!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん?」
ベッタベタなコント並のやり取りをして、そこで気付く。
の背後。
聞き慣れ過ぎた、声。
ギギギ。
と、は機械じかけの人形のような不自然さで、首だけ後ろに捻って振り返った。
の視線の先。
案の定、ユリウス=モンレーその人の姿がある。
「ゆっ・・・ゆゆ、ユリウス・・・っ!」
「・・・お前の探し物はこれだろう、。」
動揺しまくりのに対し、妙に落ち着いた様子のユリウス。
彼はいつも通りの口調で言って、の目の前に何かを差し出してきた。
何か。
それは――――
「ああっ!?これは・・・・じゃあ、やっぱり・・・。」
「ああ、時計塔の階段の途中に落ちていたのを私が拾った。」
「・・・・・・・・・・・そうだったんだ・・・。」
バレッタが見つかった。
そう思ってホッとした瞬間、は一気に脱力して、地面にへなへなと座り込んでしまった。
「っ・・・!?」
「あ、大丈夫・・・。ずっと探し続けてたから、少し疲れてるだけ。
でも、本気、見つかって良かった・・・・。」
「・・・まさかお前、それでずっと時計塔に戻ってこなかったのか?」
「え?うん・・・・・・・・どうしても見つけたくて・・・・・・。」
ごめんね?
そう続けたに、ユリウスは深い溜め息を吐いた。
だけど、どうやらいつもの呆れた時の溜め息とは違うみたいだ。
彼はの手を取り、ゆっくりと立ち上がらせてくれた。
「まったく、お前はどうしてそう・・・・。」
「ごめん、そんなに心配してくれてるとは思わなかったわ。
・・・・・・・時計塔を出てまでを探してくれるとは思わなかった。」
そう、あのハトアリでヒッキー代表と言われるユリウスが、
仕事以外で時計塔を出てまでを探してくれたのだ。
これはもう珍しいどころの騒ぎじゃない。
とにかくそこまで心配してくれたことに感謝しなくちゃいけない。
あんな飛び出し方をしたんだから少しは心配してくれてるだろうとは思ってたけど、
正直まさか探しに出て来てくれるなんて思いもしなかった。
「・・・・・・・・・・・・‥…いや、私こそ・・・すまない・・・。
こんな事を言いにお前を探していた訳ではないんだ・・・私は・・・・。」
「え!?」
彼の台詞に驚き、咄嗟に顔を上げてユリウスを見る。
いつの間にか彼からは落ち込みモードオーラが発せられていた。
「ユリウス!?何!?何かあんたを落ち込ませるような地雷踏んだ!?」
「何だ、その地雷と言うのは・・・そんなものは踏んで居ない。
・・・・・・・・そうじゃない・・・・・・私が言いたいのは・・・・・・・・・・・・・・。」
「?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
沈黙。
もどう声を掛けていいものか分からず、無言でユリウスを見つめ続ける。
それから少しして、彼がやっと口を開いた。
「私がこれをお前の髪につけてやる。少しジッとしていろ。」
「え?ああ、・・・うん。」
取りあえず大人しくユリウスに従う。
彼はの背後に立つと、の髪にそっと手を滑らせた。
梳く様に撫でるように手を動かすユリウス。
そして、の定位置にバレッタがつけられる。
彼の手で。
瞬間、心からはホッとしていた。
同時に何だかとても心地よかった。
「・・・・私はお前にあの部屋を出て欲しいなどとは思っていない。」
「ユリウス!?」
「振り向くなっ・・・!・・・・・・・・・・今、私の顔を見るな・・・頼む、。」
「・・・・・・ん、分ったわ・・・・・・。」
どこか焦ったみたいな彼の声に、は素直に頷いた。
顔を見ない方が口にしやすい言葉もある。
ユリウスみたいなタイプは特にそうだろう。
「私は・・・お前を独占できるものならそうしてしまいたいと思っている・・・。
だが、同時にそれが不可能だと言う事も知っている。
それでも、少しでも長くお前を私の側に留めておきたいんだ。
あの部屋は私にとって最も居心地のいい場所だが、
今は・・・お前の居ないあの場所に一人で居る事が堪えられない。
・・・・・・・・・・・・お前の居ないあの部屋は、息苦しいんだ、・・・・・・・・。」
「・・・・・・・ユリウスっ!」
「っ!」
は思わず我慢できずに彼に抱きついてしまっていた。
だって、あり得ない。
予想外だ、こんな展開。
あのユリウスが。あのユリウスが。あのユリウスがっ!
に向かってこんな台詞を言ってるなんて。
「お、お前はっ!だからこっちを向くなと言っているだろうっ!」
焦ってもがくユリウスが可愛過ぎる。
十数時間前の喧嘩なんかもう嘘みたいだ。
寧ろあの喧嘩のおかげで彼の口からこんな台詞を聞けたんだとしたら、
喧嘩万歳と叫んでしまってもいい位。
とにかく、は嬉しかった。
普段ならこんな台詞こっぱずかしくて絶対言ってくれない。
それだけ心配して、動揺して、を探してくれていたという事実。
もうそれだけで、には十分だった。
「滞在場所を変えるつもりなんか最初っからなかったわ。
も・・・・もユリウスの側じゃなきゃ嫌だから。」
「・・・・・・・・。」
ぎゅ、と、の背中にユリウスの腕が回される。
は殆ど縋りつくみたいに彼の体にしがみ付いていた。
暫くの間たちはお互い無言で抱きしめ合い、
そしてその後最初に口を開いたのはユリウスの方だった。
「本当のところ、私はお前がアリスのことをあんなに気にしているとは思わなかった・・・。」
「え・・・・・?ああ、うん。そうね、ユリウスは気付いてないって思ってた。」
「・・・私ばかりが振り回されていると思っていたが、お前からの嫉妬も心地いいものだな。」
「・・・・・・・・・・・・・複雑だわね、それ。」
は咄嗟に彼を見上げて苦笑する。
ユリウスの長くて神経質剥き出しの指先が、するするとの髪を滑った。
そして、彼がゆっくりとに屈みこんでくる。
は待ち切れずに踵を上げ、自分から唇を彼のものと重ねた。
触れあったやわらかさ、そして温かさ。
いつもと同じ、ううん、それ以上の安心感。
「私にとって、女はお前だけしか存在しない。他の者を知りたいとも思わない。
、お前もだ。私以外の男には近づくな。」
「ふっ、さっきと言ってる事が少し違うんじゃない?」
「煩い。・・・・・・まさかお前・・・帽子屋と・・・。」
おい!!!!!!!!!!!
この感動的(?)な場面で未だに疑いの眼差しを向けるユリウス。
思いっきりツッコミを入れてやりたいのを寸での処で我慢して、
代わりには彼の頬にキスをした。
「もユリウスしか見えてないから、ご安心を。」
「なっ、お前は、そうやって私をからかうから心配になるんだろうっ!」
顔を赤くしたユリウスが言った。
いつもと全く変わらない口調。
それだけで安心する。
「ユリウス、そろそろ帰ろう!一睡もしてなくてムチャクチャ疲れてるのよね。」
言いざま、彼の腕にがしっと腕を回す。
ユリウスは少し驚いたように目を見開いたけど、腕を振りほどこうとはしなかった。
「・・・私も少し仮眠を取る。
・・・・どこぞのやかましい女のせいで、仕事も捗らなかったからな。」
「・・・・・・それって!?・・・・・・・あ、とか言って、と寝たいだけなんじゃないの?」
「ばっ・・・!誰が疲労困憊している人間に相手をしろと言った!?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ん?
そこではユリウスを下から見上げる。
とユリウス。
会話にズレが生じているような気がする。
っていうか、生じてる。
明らかに、と彼では言っている内容の意味合いが違う。
「でたっ!!このムッツリ!!言っておくけど、本気、普通に寝るわよ?」
「だっ、誰がムッツリだ!お前が誤解を招くような事を口にするからだろうっ・・・!」
おいおい、本気で動揺してるわよ、このツンデレむっつりが。
思わず苦笑しつつ、は再度、彼と視線を合わせる。
ユリウスは拗ねたような表情で頬を赤く染めていた。
「ま、それはそれとして、帰って少し休んだら、珈琲を淹れるからさ。」
「珈琲・・・か。」
「そ。」
短く答えたに、ユリウスがフッと、瞳を細めて微笑む。
今まで見たどの表情より、穏やかで、優しい、笑顔。
「ああ、そうしてくれ。私はお前の珈琲の味が気に入っている。」
END
伝えたい
お前を手放しはしないと、強く心に決めている。