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油断ならない共犯者

仕事が終わり、疲れた体で上り慣れたと言うには余りにも長すぎる階段を進んだ後、
私は作業場兼ユリウスの私室となっている部屋に向かった。
けれど部屋のドアをノックをしても返事はなく、覗いた先には珍しくいつもの定位置に二人の姿はなかった。
私はほんの少し躊躇った後、結局最上階まで上り、二人がそこに居るのかどうかを確かめることにした。
この時間帯ならまだはユリウスと一緒に居る筈だ。
少なくとも、ユリウスが傍に居ればがエースの奴と鉢合わせしたとしても心配する必要はない。
それでも何となく二人の顔が見たくて、私は最上階に続く階段を進んだ。
そして予想通りそこに居たとユリウスの姿を見つけ、知らず、口元に笑みを浮かべてしまいつつ、
二人に声を掛けようとした、瞬間。
ふわりと、いつものユリウスからは絶対に想像の出来ない様なやわらかな視線を投げかけるその表情に、
私は開きかけていた口を閉じた。
私の居る場所からは遠すぎて二人の会話は聞き取れない。
ユリウスの視線の先に居るのは当然で、
もまた、アイツに負けず劣らず穏やかでやわらかな表情を浮かべていた。
私とは一卵性の双子だ。
お互い自分の好みに合わせて髪形も洋服も違ってはいるけど、
顔の造りや体系なんかはそれこそ合わせ鏡の様に瓜二つな私達。
けれど、今、がユリウスに向けて浮かべているあの表情は、私には絶対に出来ないものだと思った。
の視線の先に居るのがユリウスで、
あの偏屈で根暗な人嫌いが自分をどれだけ想ってくれているのか知っているから出来る表情。
そしてそれと同じ位自身がユリウスを深く思っているから自然と出来る表情だ。
恋をしている人間だけが自然と浮かべられる、甘くてやわらかな、はにかむような笑顔。
私は暫くの間ただぼんやりとその場に突っ立って二人を眺めていた。
私の胸の奥に、もやもやと複雑な形をした複雑な感情が生まれている。
大好きな
私の半身であり、私の大事な家族。
が居るからこそ、私は私自身も大切な人間だと思う事が出来る。
が私を大好きだと言ってくれるから、私を理解してくれるから、
が哀しまない様に私も自分を大切にしようと思える。
そしてだからこそ自分の事以上にのことを大切だと思える自分を誇りに思えるのだ。
そのが、この狂った世界で私以外の人間に心を開くだけでなく、恋に落ちてしまった。
勿論はユリウスを好きになった今もその前も、私に対する態度を変えたりはしていない。
今まで通りだ。
何も変らず、は今まで通り、私を理解し、私を大切にしてくれている。
けれどそれでも、との間に以前にはない距離が出来てしまったと感じてしまう自分がいることに、私は気付いていた。
そしてユリウス。
の好きになった相手がユリウスで良かったと本当に心から思う一方で、
私はこのおかしな異世界で出来た一番心を許せる友人に裏切られたような気分になっている。
ユリウスは自覚している通りに根暗で卑屈、無愛想な男だ。
けれど、私達の世界の常識も持ち合わせているこの世界では珍しい人種であり、
ユリウス自身が思っているよりもずっと心の優しい人間でもある。
それが恐ろしく分かり難い不器用な憎めない友人。
この世界では貴重な友人であるそのユリウスが、私の大切な妹と恋に落ちてしまった。
当然のようにユリウスも私に対しては今まで通りだ。
今まで通り何の遠慮もなく嫌味を口にしては、分かり難い気遣いや優しさを垣間見せる。
私達の友人関係は何も変わっては居ない。
互いの友情と言う名の好意を、心地よく受け入れている。
それなのに、私はやっぱりユリウスに裏切られたと感じてしまっていた。
ある意味で、と距離が出来てしまったと感じているのと似た様な感情だ。
そして私は最近になってこの複雑な感情の名前に気付いた。



――――私はきっと、嫉妬してしまってるんだろう。



とユリウス。
どちらかにではなくて、どちらにも。
好意の種類は違っても、どちらも大切で特別だから。
だから二人がどんなに今まで通りで有っても、疎外感の様な物を感じてしまう。
私の大切な妹を奪ったユリウス。
私の大切な友人を奪った
馬鹿げていると分かっていても、そんな風ににもユリウスにも嫉妬してしまう。
勿論、こんなことは本人達に言える筈もないことだけど。



「・・・・・・っ!?」


何の前触れもなく唐突に背後から聞き慣れた声が私の名前を呼んだ。
柄にもなくビクリと大きく体を震わせて慌てて振り向くと、
いつの間に現れたのかそこにはエースが立っていた。

「こんな所でぼーっと突っ立って、どうしたんだ?」
「エース・・・!」

エースは全く気配を感じさせなかった。
それとも考え事に浸り過ぎて私が気付かなかっただけなのか、どちらもあり得る事だ。

「あ、とユリウスじゃないか!おおい!ユリウ・・・モガッ」

私は咄嗟に二人に声を掛けようとしたエースの口を片手で抑えつけると、
空いた片手でアイツの腕を思いっきり引っ張った。
そして、達に気付かれる前に慌ただしくその場所から離れる。
エースは驚いた様に瞳を見開いてもがもがと何か口走ったけれど、
結局大人しく私にされるがままついて来た。

「ップハッ・・・!ビックリしたなぁ、どうしたんだよ、、急に。
君も二人に用が有ってあそこに居たんじゃないのか?
あ!それとももしかして・・・二人が何かいかがわしいことをしようとしていたとか?」

最上階から階段を降りて私達の声が達には聞こえないだろうと思われる場所まで来た所で、
私はエースの口元を抑えていた手を離した。
それと同時に飛び出したエースのその発言を私は即座、否定した。

「違う!・・・・ハァ、まったく・・・あんたはどうしてすぐそう言う方向に考えるんだ」
「ええ〜?だって、あの二人って恋人同士なんだぜ?そうなっても不思議じゃないんじゃないか?」

全く悪びれた様子もなく、さも当然と言った風にエースは返事をする。
私はまたしても呆れを含んだ深いため息を吐いた。

「とにかく違うから。妙な勘違いをしてあの二人に余計なことを言わないように」
「ふぅん?じゃあ、はどうしてあんな所で突っ立っていたんだ?ユリウス達に声も掛けずに」
「え?・・・それは・・・」

エースの言葉に咄嗟に答える事が出来ず、私はもごもごと口ごもった。
幾ら何でも本当の理由なんか言える筈がない。

「二人の邪魔をしないようにしていたにしても、結構長い事立っていたよな」
「・・・・・・・・、え?・・・・・・・・エース?」
「ん?」
「あんた、いつから私を見てたんだ?」

エースが姿を見せた時、いかにもたった今現れたと言う口調だったから、
いつからそこに居たのかなんて深く考えもしなかった。
だけど今のエースの台詞は、そう言う表現ではなかった。

「いつから?うーん、俺が階段を上っている間も君の姿は見えていたし、
その後も君が考え事をしているみたいだったから少しの間声を掛けなかったんだよな。
でも余り長い間考え込んでいたから、何を見ているんだろうって気になっちゃってさ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「まさかユリウスとを見ているとは思わなかったから驚いちゃったぜ。
だって、あの二人が居るんだったら君は迷わず声を掛けている筈だろう?
それなのに珍しく難しい顔をして考えているだもんな」

エースはいつも通りの嫌になる位に無駄に爽やかな笑顔のままでそう続けた。
エースが私に口を挟む隙を与えなかったと言うのもあるけど、
私はあれこれとそれらしい言い訳を考えてみたものの、結局何も思い浮かばず、
ただ無言でアイツの話を聞いているような状態だった。
そこで不意にエースは口を閉じ、赤褐色の瞳でジッと私の視線を捕らえる。
少しの間私の瞳の奥を探るように見つめていたエースが、また口を開いた。

「なぁ、・・・、もしかして君・・・」
「うん?」
「妬いていたんじゃないのか?」

続けられたエースからの問いに思わず私はぽかんと間の抜けた表情を浮かべた。
ほんの一瞬激しく動揺しそうになった気持ちを落ち着け、
エースの視線をしっかりと受け止め返す。
嫉妬と言う気持ちを見抜かれた事には十分驚いているけれど、
この場合エースが続ける言葉は予想が出来ている。
きっと、コイツはこう続ける筈だ。
私もユリウスの事が好きだったんじゃないか、と。
そう聞かれればキッパリと冷静にNOと口に出来る自信も余裕も私には有った。
けれど、続けられたエースからの台詞は私の予想を上回った物だった。



「ユリウスとに、妬いていたんじゃないのか?」


「っ・・・・!?」

ピタリと。
驚くほどにピタリと的を射たエースの問い。
ついさっき咄嗟に抑える事の出来た筈の動揺を、今度は誤魔化せなかった。
自分でも分かり易い位に狼狽えた表情を浮かべ、エースと合わせた視線を不自然に逸らす。

「やっぱりそうなんだな」

私が返事をするまでもなく、
エースは私の態度で自分の言葉が図星だった事を理解してしまったらしい。
いつもの爽やかな笑顔のまま、聞き返すと言うより確認するみたいな口調でそう言った。

「だったらどうなんだよ。あんたには、関係ないだろ・・・。
それに・・・私は二人の事は本当に祝福してるし、このまま上手く行き続けて欲しいと願ってる」

拗ねた様な言い方になってしまっているのを自覚しながら、
私は視線をエースに戻して返事をした。
勿論、口にした言葉にウソはない。
とユリウスが『恋人』と言う関係になったことを私も心から喜んでいるし、
この先もずっと穏やかに寄り添っていってくれればと思っている。

「関係ない、なんて寂しい事を言わないでくれよ。これでも俺は、君の気持ちは分かっているつもりだぜ」
「私の気持ちを分かってるって?・・・あんたが?」
「そう、俺が。だって俺も、ユリウスの事もの事も好きだからな」

あっけらかんとした口調で言ったエースが、フッと、
そこでいつもの笑顔とは違う微笑みを浮かべた。

「二人とも大好きだから、二人が恋人同士になって良かったと思っている。
だけど、だから(・・・)妬いちゃうんだよな。
どっちも好きだから、どっちにも嫉妬する。どっちも好きで比べられないから、
両方に妬いちゃうんだ」
「・・・・・・・・・・っ」
「なぁ、俺の言っていること、君なら分かるだろう?

にっこりと。
今度はいつもの満面の笑みを浮かべてエースはそう続けた。
私は一瞬言葉を失くし、けれど、結局ゆっくりと首を縦に振ってしまう。
嫌になる。
本当に、嫌になるほど、私の気持ちそのままを口にされた気分だった。
しかもその相手がエースだとは。
苦い気持ちが広がり、再度、私はエースから視線を逸らした。

「まさかあんたに気付かれるなんてね・・・、迂闊だったよ・・・」

言って、私は額に手を当て、深く溜息を漏らす。
不意に、エースがその私の手を掴んだ。

「・・・エース?」
「違うよ、。俺だから気付いたんだ。俺が君と同じ気持ちだから気付けたんだよ」

そう口にしたエースが今度は唐突にグッと私との距離を狭めて来た。
いつもなら誰が相手だろうとも許す事のない近過ぎる位置。
反射的に離れようと動いた体は、けれど掴んだ腕を強引に引っ張られて結局は上手くいかなかった。

「エース・・・!」

非難を込めてアイツの名前を呼び、私はジロリとエースを睨みつけた。
けれどエースは全く堪えた様子も見せず、まるで何もなかったみたいにして笑顔のまま先を続ける。

「俺なら、君の気持ちを分かってあげられる。同じ気持ちを共有できる。
なぁ、俺と君が付き合い始めたって言ったら、あの二人はどう思うだろうな?」
「っ!?何を言ってるんだよ!?誰があんたなんかと・・・!」

間近に寄せあわされたエースの顔。
アイツが喋る度に温い吐息がわたしの肌をくすぐるように撫でる感覚から必死で目を逸らし、
私は声を上げてエースに抗議を示した。
いつの間にかさっきよりも更に密着してしまった体を離そうと、今度こそと力一杯両腕を動かす。
けれど動かした筈の腕はがっちりと抑え込まれて微動だにしなかった。
それどころか痛いほど掴まれた腕に更に力が込められ、
そちらに気を取られた瞬間に強引に唇を奪われる。


「ぅンゥっ・・・!!??」

無駄だと言うことは分かっていたけど、反射的に体を引かずには居られなかった。
勿論、予想通り、全く効果はない。
無理やりに唇にエースの舌をねじ込まれた上に、そのまま口内を蹂躙される。
エースの熱くてぬめった舌の感触に翻弄されながら、それでも私は抵抗を止めなかった。
けれど、私はとても疲れていた。
この塔に戻って来る前まで仕事をしていたし、その後、
あの気の遠くなるほどの階段を上って来たばかりだったこともあり、本当にとても疲れていた。
だから、長く抵抗を続ける事は難しかった。
その上、認めたくはないけれど、本当のところ、
エースとのキスは荒っぽさを除けば嫌悪を抱くものではなかった。

「ふ、・・・ん・・・」
「・・・・・・・ン」

不意に、私は自分でも驚くほど突然、フッと、力を抜いた。
さっきまでの激しい抵抗をピタリと止めて、エースの腕に大人しく収まる。
疲労はピークに達していたし、精神的にも疲れていたからかもしれない。
理由はどうあれ、私は結果的にエースを受け入れたのだ。
エースの熱い舌が私の舌を捕らえて強く結ばれる。
私が力を抜いたことに気付いたエースは、私の体を無理に拘束する事を止めてくれた。
と言っても、体を解放した訳ではなくて、
私の背中に腕を移動させて抱きしめるような形になっただけだけれど。
それでも、さっきまでの強引さはない。
もっと言えば、回された腕はさっきに比べればずっと優しさを感じ取れるものになっていた。



―――俺なら、君の気持ちを分かってあげられる。同じ気持ちを共有できる。



長いキスの最中に、私はさっきエースに言われたばかりの言葉を思い出していた。
おかしなことに、今はさっきよりもずっとそのことが理解できてしまう。
エースは私と同じ気持ちを共有しているんだ、と。
エースはユリウスを友人だと認めていて、
あの人嫌いのユリウスさえもそれを受け入れていることを私は知っている。
歪んでいるながらも二人は友情を築いている。
エースは未だにに苦手意識を持たれて怯えられては居るけれど、
それでも前と変わらずほぼ一方的に近い形でエースが夕に好意を持っている事も知っていた。
私は自分の複雑な嫉妬心をエースに気付かれるなんて迂闊だと口にしたけど、
アイツの言う通り、エースだからこそ私の気持ちを見抜けたんだと思う。
こんな形でそれを理解するなんて、本当におかしな話だけれど。

・・・」

口内に溜まった二人分の唾液をゆっくり飲み込んだ後、
唇を重ね合わせたままでエースが私の名前を呼んだ。
薄く瞳を開けると、視点の合わない位の至近距離でエースと視線が合う。

「なぁ・・・、俺と君が付き合い始めたって言ったら、あの二人はどう思うだろうな?」

強引に唇を奪われる直前に言ったのと全く同じ台詞をエースが口にする。
さっきは激しく抵抗したけど、今の私にそんな体力は残ってない。
疲れていることで素直になるなんて変な話だ。
でもこうなってしまっては、もう今更な事。


「少しでも、私とあんたと、同じ気持ちに・・・なってくれるといいんだけどね」


返した言葉は、エースの申し出を受け入れたも同然の返事だった。
私とエースが共有している気持ちは決して明るい感情じゃない。
好意を持っている人間にだからこそ抱く感情ではあるけど、『醜い』とも表現できる部類のもの。


それでも私は、本当は嬉しかったんだ。
エースが、私の気持ちを分かると言ってくれた事が。
エースが、本当に私と同じ気持ちだった事が。


私はとても疲れていた。
疲れてしまって、あれこれと常識的に考える事を放棄してしまっていた。
そしてそれでもいいと思った。

「そうだな。ユリウスとも、俺達と同じ気持ちになってくれればいいと俺も思うぜ」

囁くようにそう言ったエースが、何度目かのキスをする為にまた私の唇に自分のものを押し当ててくる。
私はそれを大人しく受け入れて、ゆっくり目を閉じた。



大好きな
大事な
私の半身。
あんたの特別に苦手なエースと私がこんな関係になってしまった事を知ったら、
あんたはどう思うだろうか。
とユリウスのことを知った時の私と同じ気持ちになるのならいいけれど、悲しませるのは全然本意じゃない。
だけどユリウスの影響も有って、
あんたが最近エースに対して以前より前向きな気持ちを抱いてるのを知ってるから。
だから、哀しまないでくれる事を願う。

ユリウス。
あんたはどうだろうか。
人嫌いで偏屈なあんたが、珍しく私を友人だとキッパリ言ってくれたあんたは、
私がこの方向音痴であんたの部下でもあるエースとこんな関係になったと知ったら、どう思うだろうか。
真っ先に見せる感情はきっと驚きと呆れだろうね。
でもその先が有るなら、私と、私達と同じ感情を抱いてくれたらいいのに。
に向ける感情とは全然違っても、私の気持ちの欠片を汲み取ってくれればいい。


何度も何度もエースとキスを交わしながら、
私はエースと言ういつもは何を考えているのか全く予想もつかない共犯者が今、
私と同じようなことを考えている事を何となく感じ取っていた。


(END)



アトガキ
なんがぁあ!?読み難かったら申し訳ありません・・・。一応前後篇にしようか迷ったんですが、
結局切りのいい所が見つからなくてこのまま突っ走ってしまいました・・・。あはは!
取りあえず、姉ヒロはどこまでも妹ヒロさんが、そしてユリウスが好きなんだと言う話・・・。
エースとはそう言う部分での繋がりが一番分かり易く重なりそうだと思ったのがネタ元でした。
と言うか、妹ヒロさんとユリウス、登場してると言えない状況で申し訳ないです!次こそは!
ではでは、ここまでお付き合い下さった姫様、有難うございますv 失礼します

 

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