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まどろみに響く音

ドアの前でノックをして声を掛けると、いつものようにユリウスからの返事が聞こえてくる。
けれど、私がドアを開けるとユリウスは珍しく定位置にはおらず、
私は少し驚いて数秒視線を彷徨わせた。

、私はこっちだ」

言われた声に瞳を向ければ、
ユリウスはあの紫色の何とも言えない悪趣味なパジャマを来て2段ベッドの上から私を見下ろしていた。
私は思わず瞳を見開く。
どうやら私は今、かなり貴重な場面に出くわしたようだ。

「・・・・!ベッドで眠ろうとしていたとこだったのか?
珍しいね、あんたが夜の時間帯に、しかもベッドできちんと休もうとするなんて」
「仕事がひと段落着いたからな・・・。それより、お前は私に何か用事が・・・・、
と言うか、お前はどうしてそんな格好のままここまで来ているんだ?」

怪訝そうな表情で眉間にしわを寄せたユリウスにそう訊ねられ、私は苦笑して肩を竦める。

「私も眠ろうとしてたところなんだけどさ、どうしても眠れなくて・・・。
ここなら落ち着けそうだったからね」
「だからと言って寝巻のまま来るやつがあるか」
「じゃあ訂正しようか。ここならよく眠れるかと思ったんだ。あんたも居るし・・・」

そう答えながら、私はユリウスの二段ベッドに近付くとその梯子を上った。

「なっ!?、お前は何をするつもりだ!?」
「何をって、今言った通りだ。ここで寝かせて貰おうとしてるんだよ。
私もあんたと一緒に寝かせて、ユリウス」
「はぁ!?お、お前は馬鹿だろう!突然そんな格好で姿を見せたかと思えば何を言い出すんだ・・・!」
「そんなって程色気のあるもんでもないだろうに」

明らかに動揺しているユリウスを余所に、
私は梯子をのぼり切ると構わずアイツのベッドに滑り込んだ。
念のために言っておくけど、私の着ている寝巻はごく一般的に近い物だと思う。
上下に別れたダークグリーンのシャツとズボンで、少し薄手の素材ではあるけれど、
女らしいひらひらしたキャミソールの様な色っぽい代物に比べれば、
男でも着られると思われる味気ないものだ。

「か、勝手に横になるな!と言うか、そう言う問題じゃないだろう!
お前には慎みと言うものがないのか!?」

ユリウスは面白い位に顔を真っ赤にして慌てている。
私は体を横たえたまま、ジッとユリウスを見上げた。


「今回だけだから・・・、今回だけなら、許してくれるだろ?」
「なっ・・・!・・・・・・・・・・・・、・・・・ハァ、お前も疲れているんだろう。
どうしてわざわざここまで上って来る必要がある?
わざわざこんな辛気臭い部屋のベッドで眠るよりも、
自分の部屋の物の方が余程快適に眠れる筈だ」
「・・・・それが出来ないから来たんだよ。
・・・お願いだから、今回はここで一緒に寝かせて欲しい」

一人で眠れないから一緒に寝て欲しいなんて、本当に小さな子供みたいだ。
そう分かってはいても、
このままあの部屋に戻ってまた一人で眠るなんてことは出来ないと思った。
それに、戻ったとしてもきっとまた眠れないだろう。

「・・・・、何かあったのか・・・?」
「・・・何も。ただ、が居ないだけだよ」
「それで眠れないのか?だが、今までだって常に一緒に居た訳ではないだろう」
「・・・ああ、言いたいことは分かってるよ。
私だって、子供じゃあるまいしって思ってるさ。
でも、何だろうね・・・。と一緒に居る相手がエースってのもあるんだろうけど」

ふ、と、私はそこで瞳を伏せて小さく溜息を吐いた。

「確かにエースの奴の災いを呼び寄せる才能は並外れているからな。
だが、それを分かっていて一緒について行ったのはだ。
それに、お前もそれを了承したんだろう」
「ああ・・・、そうだよ。・・・分かってる」

視線を上げないままで私は小さく頷く。
ユリウスがジッと私を見下ろしているのが何となく分かった。

「どうせ戻って来る時間帯は決まっているんだ。
それに、エースの奴はともかく、アイツは約束を破れるような性質の人間じゃない。
それはお前が一番よく分かっているだろう」
「・・・・・・・・・・ああ、そうだね」

また頷き返しながら、それでも私は視線を上げられなかった。
ユリウスは不器用ながらも私をどうにか慰めようとしているらしい。
狼狽えまくっていたさっきまでとは空気が違う。
不意に、ユリウスの手が私の頭にそっと触れる感触がした。


「・・・・・・・・それでも、不安なのか?」


伏せていた瞳をユリウスに向けると、何処か気遣う様なやわらかな視線とカチ合う。
私は思わず苦笑した。


「自分でもよく分からないけど、・・・そうだね、そうかもしれない」


相手がエースだと言うのは確かに大きいけれど、
だったら他の誰かであればいいのかと聞かれれば、それでもきっと私は安心できない。
の選択は信じてるし、エースの奴もあれで結構を大切にしてはくれるだろう。
私の思う方向性とは違っても、少なくともを傷つける様な真似はしないと思う。
そう思ってはいるものの、
何だかよく分からない不安が私の胸の中でもやもやとしてしまっている。


「うん?」
「・・・・・・・・・・・・今回だけだ」
「・・・・え?」
「今回だけ、お前がこのベッドで一緒に眠る事を許してやる。だからさっさと眠ってしまえ。
私とて疲れているからこそベッドで横になろうと思っていたんだ」

台詞は素っ気ないものの、私の髪に触れている指先も、
そして口調もいつもよりずっと柔らかく優しかった。
私は思わずフッと口元を緩める。

「・・・・ユリウス・・・」
「フン、にやにやと気色の悪い笑いを浮かべるんじゃない」
「ふふっ、ああ・・・悪かったよ。でもさ、あんたの傍なら、・・・安心して眠れそうだよ」
「・・・・・・・っ、それは・・・、私を男として意識していないと言うことか・・・?」

私の言葉にユリウスがぶつぶつと呟くように何事か口にする。
すぐ傍と言っていい距離なのにそれがよく聞き取れなくて、私は更にユリウスに身を寄せた。

「ユリウス?」
「っ!な、何でもない!・・・それよりも、あ、余り近寄り過ぎるな・・・!」
「ベッドが狭いんだからしょうがないだろう」
「・・・悪かったな、狭くて。このベッドは元々二人で眠るようにはなっていない」

拗ねた様な口調でそう言って、ユリウスは居心地悪そうに僅かに身じろぎする。
それと一緒に私の頭に触れていたアイツの手も離れて行った。
私は少しだけ躊躇った後、ユリウスの胸に自分の顔を僅かにすりよせる。

、お前、なっ、な、何を・・・!」
「あんたの一部に触れてると安心する。それに、時計の音は好きだしさ、
・・・・・・私が眠る間、この(・・)時計を、私に貸して欲しいんだ」

言って、私は自分の額をコツンとユリウスの胸元に軽く押し当てた。
それと同時に、ビクリ、と、ユリウスの体が僅かに震える。
まるで純真な女の子みたいな反応だと思ってしまったけれど、
勿論、それは口にはしなかった。

「・・・ハァ、まったく、お前はまるで女ったらしで気障な男の様な台詞を吐くんだな・・・」

私と全く逆の表現を口にしたユリウスは心底呆れを込めた溜息を吐きながら、
それでも私を受け入れてくれることに決めた様だ。
私の背中に何処かぎこちなく遠慮がちに腕を回してくる。


「今回、だけだぞ・・・」
「・・・・・ああ、有難う、ユリウス・・・」
「・・・・もう寝ろ」
「・・・・・・・・・・・・・おやすみ」
「ああ」


ユリウスの胸元。
チクタクと、私達にはない時計の指針音がする。
無機質な筈の時計を心臓代わりに胸に持つこの世界の住人達。
こうして改めてその音を聞くととても不思議な感覚だ。
けれど、とても安らげる、温かな音。
多分、これがユリウスのものだからだろう。
も、そうなんだろうか。
エースの胸の時計の指針音を聞いて、こんな気持ちになっているんだろうか。
ちくたく、ちくたくと響くこの規則正しい指針音に、
愛しい人間だからこそ感じる安心感を覚えてるんだろうか。


私はゆっくりと瞼を下ろした。
自分の部屋のベッドでは、疲労感と眠気を感じていても全然眠れなかったのに、
今はこんなに簡単に眠りに落ちて行こうとしている。

チクタク。
ちくたく。

ユリウスの温かな腕と胸の感触、そして優しい時計の音。
その全部が、私の中のよく分からない不安をかき消してくれる。


完全に夢の中へと落ちてしまう一瞬。
私はユリウスから額に柔らかな感触を押し当てられた様な気がした。


(END)



アトガキ
よ、よおおおし!どうにか妹ヒロさんを登場させてみました!
でも前半ユリウス全然出てませんけど(笑)。
これでエースを絡めてたらもっと長くなってたなー。
でも今回の目的は妹ヒロさんとの会話とユリウスと一緒に寝ることだったので、
両方果たせたことだし、よしとするかー!
ではでは、ここまでお付き合い下さった姫様!誠に感謝ですv有難うございます

 

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