―おめでとうございます!お客様には特別賞として此方を差し上げます。
どうぞ、お受け取り下さいませ!

商店街の福引。
いつもならそんな物に興味もないし、やってみようとも思わない。
だけど、どうしてだろう、この時だけは違った。
後から思えば、そこからして何かおかしかった訳だけど、理由なんか今も分からない。
とにかく何であの時は不思議に思わなかったのか。
例えば、いつもなら人通りの多いあの場所に、以外の通行人が極力居なかったこともそうだし、
たった数百円の買い物しかしてないに積極的に福引をすすめられたこともそうだ。
それに福引の景品を貼り出して居なかったことだって妙過ぎる。
とにかく、そう言うことを考えればキリがない程おかしい所は相当あった。
にも関わらず、あの時のは全くそんなことを気にせず、
すすめられるままにくじ引きをしたのだった。
そして引き当てた賞品。
今、の手にあるコレ。
何の変哲もない封筒に、真っ赤なハート型のシールで封がしてある。
例えるなら、一昔前の少女マンガに出てくるラブレターのようにも見えた。
特別賞なんてご大層な名前の割りにお粗末な代物だな、と思いつつ、中身を透かしてみる。
厚さから言っても、入っているのは商品券か何かが1・2枚程度だろう。
しかも商店街の福引で当てた特別賞、期待するのが間違ってるってもんかもしれない。
は軽く溜息を吐いて、封を開けてみることにした。
この程度のもんならハサミを使うまでもない。
やけに印象的な真っ赤なハート型のシール。
まずはそれを剥がして中を取り出すことにした。
シールを貼っている部分以外は糊付けさえしていない所を見ると、
やっぱり中はあんまり大したもんでもないらしい。

―カリ・・・

「っ!」

鮮やかなハート。
爪先で触れた、瞬間。
何故だろう、何とも言い難い感覚に襲われた。
それに、爪を引っ掛けた筈なのに、掠っただけの指先が熱い。
かと言って摩擦が起こるほど力を入れたつもりも、
何度も素早く指先を動かしたということも全くなかった。

「・・・?」

訝しげに思いながらも、気のせいだと言うことにして、
もう一度、指先でハートのシールに触れる。
今度は特に何も感じなかった。
なーんだ。
やっぱ、気のせいか。
その程度のことに妙に安心してしまいつつ、はシールを綺麗に剥がしてしまう。
ぺりり。
ただ、いつになく丁寧に。
そう、何故だか、このハートは形を崩してはいけない気がした。
意味も無く、そんな気がした。
完全にシールを剥がし終えると、それを封筒の隅に貼り付けておく。
そして。

「・・・わぁお。」

封を開くと出てきたソレ。
思わずの口から出たのは、芝居染みた感嘆の声。
封筒の中身は予想通り、何かのチケットの様だった。
だけどが驚いたのはそんなことじゃない。
色だ。
目を奪われる、鮮やかな赤。
赤紙、なんて、ちょっと色々な意味で敬遠されるものだが、これはそう言うものとは違って見える。
まぁ、それは当然だけど。
真っ赤なチケット。

「・・・ハートの国へのご招待チケット・・・、ハートの国・・・凄い名前・・・。テーマパーク?」

独り言を口にして、ひらひらと裏と表を確認する。
だけどその鮮やかな真っ赤な紙にはそれ以上何も記されては居なかった。
ハートの国。
と、そこでは最近その名前を何度も何度も目にしたことを思い出した。


―ハートの国のアリス

数週間前から手をつけ始めたPCゲーム。
不思議の国をベースに織り成す、全く違うストーリーと世界観、
そして個性の強すぎるキャラ達が売りの恋愛アドベンチャー。

はその独特の世界とキャラの魅力に現在進行形でどっぷりハマっている。
だけど――――

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

手元のチケットに視線を落とす。
そのゲーム関係のイベントへの招待状か何かかもしれない。
と、ほんの一瞬思ったけど、すぐにその考えを打ち消した。
このゲームのHPは結構まめにチェックしてるけど、そんな告知は全くなかったし、
雑誌にもそんな話は載っていなかった。
それより何よりこのチケット、
さっき確認した通り、『ハートの国へのご招待チケット』と言う文字以外、
何も記されてない。
イベントごとの正規の招待券だとしたら、幾ら何でも有り得ない。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

それから更に念入りに封筒やチケットを何度か調べてみたものの、結果は同じだった。
つまり、これはチケットと書かれていてもただの単なる紙切れ同然。
はっはっは!
随分と手の込んだおふざけをしてくれやがったものだ。
特別賞が笑わせる。
これならまだスカのポケットティッシュを貰っておいたほうが害が無かった。
それとも何かの手違いだろうか。
どっちにしろ、商店街まで戻る気にはなれないし、それもまた馬鹿馬鹿しい。
は大きな溜息と一緒に、自分のベッドの端に腰掛け、そのままごろりと寝転がった。
右手にチケット、そして左手にはチケットの入っていた封筒。
は何気なく封筒を目線まで掲げ、ついさっき開けた、あのハートのシールに目を向けた。
真っ赤な、印象的な鮮やかな赤。
ぼんやりと、眺める。


―どくん どくん どくん どくん
  カチ コチ カチ コチ カチ コチ

「・・・・・・・・・・・・・・・・?」

そうしている内に、不意に耳に響いた妙な音。
妙な。
って言うか、心音と時計の針の動く音、その両方が入り混じった様な、そんな音だ。


―どくん どくん どくん どくん
  カチ コチ カチ コチ カチ コチ

        どくん どくん どくん どくん
           カチ コチ カチ コチ カチ コチ



段々と音が大きくなり、の頭の中に直に響いて来ているような感覚に陥る。


―どくん どくん どくん どくん
  カチ コチ カチ コチ カチ コチ

音に合わせて自身の心音さえも大きく胸を打ち破る。


違う。



これ、この音。

音に合わせて、じゃなく、心音の方、これは実際自身のものだ。
理由なんか分からない。
だけど、にはそれが自分の心臓の音なのだと、ハッキリ理解できた。
そして、この時計の指針の音、これは―――――


ひら。
の手から封筒が離れた。


―カチ コチ カチ コチ カチ コチ


耳に、頭に、響く、指針の音。


それは、赤いハート型のシールの中心から、聞こえていた。


(プロローグ2へ続く)



後書き
プロローグだけは連載チックにってことで、とうとう書き始めてしまったハート夢・・・。
CPとしても見られるアリスの名前変換系ってのはありそうですが、
夢小説って本当のとこどうなんだろう(笑)アリス系のCPも大好きなんですけどね。
とにもかくにも、読んで下さった方は貴重な姫様です。有り難うございます!
宜しければ今後もお付き合い下さいませ。ではでは失礼致します。


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