―ゴォォ
耳元で唸る風の音。
果てしなく続く暗い穴。
落ちる。
オチル。
墜ちる
おちる。
落ちて行く。
。
あれからどの位経っただろう。
あれから――――
―どくん どくん どくん どくん
カチ コチ カチ コチ カチ コチ
あの音を聞いてから。
そうだ、ハート型のシールから時計の指針の音がしていることに気づいて、
は封筒ごとシールを耳に押し当てた。
予想通り時計の音が大きく耳に響き、そして同時に何故かの心臓の音まで大きく聞こえて。
だからはハート型のシールに何か仕掛けでもあるのかと思った。
いや、多分そう思いたかったんだと思う。
本当は、心のどこかで分かって居ながら、それでも調べようとした。
薄型の小型時計(さすがに時限爆弾なんぞとは思ったりはしなかった)でも貼り付いてるのかと。
そして、再度があの鮮やかな赤のハートに指先で触れた、瞬間。
ぽっかり。
突然に、本当に全く唐突に、何の前触れも無くベッドの底が抜けたようにの体のすぐ下に、穴が現れた。
真っ黒な穴が。
それからパニくりまくって叫び声を上げまくっていたのは数時間位前。
本当のとこ、時間なんて分からないけど、とにかくは混乱しまくっていた。
当たり前だ。
でもが叫ぼうが動揺しようが混乱しようが、その間も体は恐ろしい勢いで落下し続けていた。
その内叫ぶことにも思考を無闇に働かせることにも疲れ切って、現在に至る。
そして当然のように、今もは現在進行形で落ちている。
速度は最初より速いのかもしれないし、変わってないのかもしれない。
だけどそんなことはどうでもいい。
このまま落ちて落ちて落ち続けて、もしも底があったとしても、はそのまま即死だ。
これだけの速度で落下すれば、叩きつけられた時の衝撃も並大抵のもんじゃない。
そこまで考えて、ぼんやりとゲームの『ハートの国のアリス』を思い出す。
そう言えば、彼女も白兎、ペーター=ホワイトによって強制的に穴へ引きずりこまれた時、
落下中に今のと同じようなことを考えていた。
って言うか、この状況でよくそんなこと思い出せるよな、も。
ふ・・・はは・・・。
皮肉な乾いた笑いが自身の口から漏れそうになる。
状況把握なんて、とうの昔に諦めていた。
時間感覚が全く掴めない。
丸1日落下し続けているような気もするし、逆に本当はそれ程時間が経っていないような気もする。
投身自殺する人が、ビルから地上に叩きつけられるまでの間に色々と思考を働かせて、
結局後悔する時間まであるらしいから、もしかしたらやっぱりそれ程時間は経ってないのかもしれない。
妙に冷静なのか、それともパニくり過ぎているからこそ変に落ち着いているのか、それさえも自分で分からない。
このまま落ちて落ちて落ち続けて、その先に何があろうと、結果は決まってる。
の体が叩きつけられて、スプラッタ宜しく凄まじい有様になり、そのままジ・エンド。
再度、ついさっき考えたことをもう一度思い浮かべる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
益々頭の芯が痺れて、更に冷えていくような気分だ。
自分の考えていることすら理解出来そうにない。
――フッ
「っ!!??」
とそこで、突然。
そう、またしてもそれは唐突に、不意打ちのようにして起こった。
の体の下。
唐突に、床が現れたのだ。
まるでずっとがその床の上に座り込んでたみたいに。
真っ暗な闇の中、お尻の部分、しっかりと硬い床の感触がある。
ついさっきまでとは全く違う。
呆然と、はただ呆然と空中を見つめた。
ぽかん。
今のは多分かなりのアホ面をしていると思う。
だけどそんなことを気にする余裕も考える余裕もない。
ただただ、意味が分からなかった。
「何コレ・・・。」
ようやく口に出来た一言。
ここは何処だ、とか、何で、とか、そう言う類の言葉は出てこない。
まさに、何コレ、としか言いようが無かった。
ゆっくりと、恐る恐る、立ち上がる。
さっきみたいにまた急に床が無くなってしまったりしたら今度こそは発狂してしまう。
一歩、また一歩、確認するように足を進めた。
硬い床の感触が、しっかりとの足の裏に伝わってくる。
周囲は真っ暗で、ここがどんな所なのかはイマイチよく分からなかった。
それ以前に、が状況をきちんと把握できるかは激しく怪しいところではあるけど。
―ビュオォッ
例によって唐突に、風の音が耳に大きく響き、の鼓膜を震わせた。
同時に、真正面からかなりの強風。
塔。
ここは、塔の上だ。
いきなり視界に飛び込んできた光景に、瞬時、は思った。
しかもかなり高い場所にある。
の記憶の中にあるどの高層ビルよりもずっと高い。
目の前。
空は真っ赤な夕焼けに染まり、見慣れない風景が眼下に広がっている。
って言うか、見慣れない・・・どころか・・・・ここ・・・。
明らかに、国内ではない。
どこからどう見ても国内では有り得ない。
海外旅行なんか今まで未経験だからどこだと断定できる訳ではないけど、
これだけは言える、ここは絶対に、日本じゃない。
町並みや建物の作り、どれを取っても絶対に違う。
なのにどうしてだろう、はここ最近、これに良く似た映像を見たことがある気がする。
しかも何度も。
でも勿論、さっき言った通り、は海外旅行なんてまだ未経験だ、有り得ない。
「・・・・・・・・・・・?」
映像。
そうだ、映像だ。
風景じゃなく、映像で目にしたんだ。
テレビ?ううん・・・違う、そうじゃなくて・・・。
ごくり。
無意識の内に、は喉を鳴らして唾を飲み込んだ。
ゆっくり、ゆっくり、だけど確実に、またしてもの頭がごちゃごちゃと混乱を起こしだす。
落下し続けていた時点で、思考回路を働かせることなんか放棄していた筈なのに。
「誰だ!?」
「っ!!!」
背後。
またしても、またしても、またしても唐突に、次の展開が転がり込んできた。
は大きく体をビクリと震わせ、恐る恐る、声を掛けてきた人物へと振り返る。
「――――・・・・・・・・っ!!!???」
の視線の先。
不機嫌極まりない表情の長身、長髪の男。
視界に入れた、その瞬間。
の脳みそが、全機能が、クラッシュを起こしそうになる。
「・・・?何だ、お前は・・・、何処から入ってきた?」
殆ど呆然状態のを無視し、彼が冷たい口調で質問する。
だけど、答えられるはずも無い。
有り得ない、有り得ない、有り得ない、有り得ない・・・!!!
ぐるんぐるんと思考が乱れまくる。
「ん?お前、まさか・・・余所者なのか?」
眉間に寄せたしわを益々深くしながら、彼がまたに言った。
ああ、ああ、ああ、あああああああ!!
最悪だ、、最悪だ。
そんな、こんなになるまでハマっていたなんて。
いや、確かにハマってたけど、けど、けど、こんな・・・。
こんな・・・・・・・・・・・・・・・・
幻覚に見舞われるほど――――
そこでチラリと、目の前に立つ、仏頂面の長髪男を視界に納め、絶望的な気分になる。
ゲーム中毒になるなんて。
そう、の側に立っているその人は、どこからどう見ても、
がハマっているゲーム、『ハートの国のアリス』の登場人物にしか見えなかった。
(プロローグ3へ続く)
後書き
しまった・・・プ、プロローグが思いのほか長くなってしまった・・・。
申し訳ありません・・・。しかもキャラ登場したの最後の数行って(涙)
ここまでお付き合い下さった方、本当に本当に有り難うございます。
ではでは失礼致します。
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