「おい、お前、さっきから私の質問に全く答えていないようだが、返事くらいは出来るだろう?
それとも、まさか言葉が通じていない訳じゃないだろうな。」
突き放すような口調と、冷たい態度。
そのくせジロジロと無遠慮にを眺め回すくせに、絶対に目を合わせようとしない。
ああ、ああ、ああ、あああああああ!
想像通りの人物像に、は頭を掻きむしりたい衝動に駆られる。
実はコスプレの人だとか、間違って何かの撮影に紛れ込んだだとか、
思いつく限りの言い訳を頭に思い浮かべては、
それが全部当てはまらないことにまた落胆してしまいそうになった。
顔も、声も、姿も、態度も、服装も、嫌になるほどゲーム画面の時計屋そのもの。
時計屋、正しくは。
「ユリウス=モンレー・・・・・・・・・・・・・・・。」
ぼそり。
無意識に呟いた。
それに反応して、彼の表情が更に険しさを増す。
「お前は、私を知っているのか?
「え?」
ヤバッ!!下手に幻覚に答えたら、
本気でジャンキーみたくなってしまうじゃないか。
混乱しまくりの思考の中、どうにかある冷静と言えなくもない片隅でそう、考えた。
の目の前の長身、長髪の時計屋もどき(認めた訳じゃない)が、一歩、に近づく。
そして、またしてもジロジロとを眺め回した。
その表情にさっきまでとは何か違う、複雑な困惑めいた物を感じる。
まぁ、以上に困惑している訳なんかないけど。
「やはりお前は余所者のようだな・・・、だが・・・アリスとは種類が違う・・・。
くそっ・・・どうしてこう次々と面倒なことがここに転がり込むんだ。
こんなに立て続けに余所者が現れるなんて、有り得ないことだぞ・・・!」
彼は独り言のようにそう忌々しげにぶつくさと呟いた。
「・・・とにかく、お前は誰かに無理やりここへ連れてこられたと言う訳でもないだろう。
薬を飲んだ様子も無い。・・・さっさとここから、この世界から出て行け。今すぐにだ。」
出た。
出た、出た、出た、出たわ、この台詞。
幻覚に対して過剰に反応は示すまい、と、そう思ってた。
これ以上腐った自分を見たくないと。
だけど。
このベタ過ぎる展開。
乗るべきか、乗らざるべきか。
大体において、こう言う展開の場合、結局はすぐには元の世界に戻れないと相場が決まってる。
でも、もしかしたら、もしかしたら抜け出せるかもしれないし。
「帰れるもんならも今すぐ直ちにさっさと速やかにここから消えたいんだけど。」
「・・・フン、一応口が利けたのか。」
嫌味は常に忘れない、それが時計屋ユリウス=モンレー。
親しくなれば可愛い一面を持っていることも知ってるし、
実は好きなキャラ(と言うか、このゲームで嫌いなキャラは居ない)だったりするけど、
生憎これ以上腐った妄想に溺れるつもりはちっとも全く無い。
自分と言う人間の脳内異常を疑いたくなって、絶望するだけになってしまう。
もう充分なってるけどね。
ははははははははは。
は乾ききった笑いを心の中で響かせる。
「ん?何だ?これは・・・・。」
「え?」
ひら。
と、何かがと彼の間に舞い落ちる。
それは一枚の、チケット。
真っ赤な、招待券。
「っ!?」
それはまるで狙ったようにして、彼の手にひらひらと収まった。
「・・・チケット?どうしてこんな物が・・・。」
「それ・・・・!」
何でこんな所にまで!?
って言うか、あそこから幻覚始まってたってこと!?
そう、今、時計屋の彼が手にしているソレ。
紛れも無く、あの、商店街で当てた特別賞。
『ハートの国へのご招待チケット』
そうだ、確かにハッキリそう書いてあった。
最悪、最悪だわ。
どこからどこまでが幻覚なのか、自分の腐敗指数に眩暈がする。
「これはお前の物なのか?」
「そう・・・それいじってたらいきなり穴が現れて、ここに落ちたの。」
言葉にするとホント幼稚くさい。
でも彼はそんなことは全く気にした様子も無く、と言うか、
人に質問しておいてこっちを見ようともせずに、
手にあるチケットをぴらぴらと色んな角度から確認している。
と、そこで不意にピタリと彼の手が止まり、更に、舌打ちをする音が聞こえた。
「くそっ・・・!!何てことだ・・・。お前はここから帰れない・・・。
いますぐにこの世界から出ることは出来ないぞ。・・・くそ!!何だってこんな厄介ごとが!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
あああああ。
ああああああああ!!
やっぱり!やっぱりそう言うベタネタな訳!?
乗るんじゃなかった、乗るんじゃなかったわ!!
絶望的。
脳みそが全部鉛になりそうな気分だ。
だけど目の前の彼も、と負けず劣らず気分がどん底みたいな表情だった。
状況的には、120パーの方が深刻だ。
「どうしてが帰れないって分かる訳?ここってさ、あれでしょ、
心の奥でこの世界に来たいとか、帰りたくないとかって人間しか来られない筈でしょ?」
「・・・どうして帰れないかだって?そんなこと、私の方が知りたい。
不本意だが、私には分かるんだ。お前はこの世界から出ることは出来ない、
少なくともいますぐには無理だな・・・。しかし、お前はさっきから何なんだ?余所者の癖に妙にここに詳しい様だが・・・。」
「・・・・・・・・・・それは・・・・。」
「ああ、やっぱりいい。これ以上面倒ごとは御免だ。私には仕事がある。
とにかくここから出て行ってくれ。」
ここがゲームの世界だから。
なんて馬鹿馬鹿しくて頭イッてる系なこと言えない。
なんて思いつつ、言葉を濁していたら、彼はの台詞を遮るようにして言った。
例の真っ赤なチケットをの手に押し付けてきながら。
ある意味説明しなくて済んだわけだけど、結局こうやって幻覚の中のキャラと会話してるんだから同じだ。
幻覚。
幻覚?ホントに?
ほんの一瞬掠った考えを、げしげしっと追い払う。
幻覚なんて今まで見たこともないけど、
夢を見た時などの独特の浮遊感やだるさは全く無い。
思考回路は崩壊寸前だったから、冷静とは言えないかも知れないけど、
それでも日常生活を送ってた時とテンションは余り変わってない気がした。
だからと言ってこれを現実と認められる訳も無い。
がこうやってぼんやりと考えている間も、時計屋の彼は『出て行け』を繰り返していた。
「・・・昼にしてくれたら出てくわ。明るくないと動きにくいし。」
「アリスと言いお前と言い、女と言うのはこれだから嫌なんだ。」
ぶつくさ。
文句を垂れつつも、彼はもう、が何で時間を変化させることが出来るかを知ってるのか、
とか、そう言うことを聞くことも無く頼んだとおりにやってくれようとしていた。
彼が片手に握った時計。
瞬時、銃に変わる。
それは本当に上級の手品のように。
銃を手にした片手を上へ挙げ、一発、打つ。
―パァァン・・・・っ・・・!
響く銃声。
同時に茜色の空が、真っ青に晴れ渡る。
夕方から昼へ。
さすがにこうやって目にすると驚きすぎて言葉も出ない。
魔法なんてそれこそ幼稚くさい表現だけど、そうとしか思えなかった。
「さぁ、これでいいだろう。さっさと出て行け。
・・・・・その前に名前くらい言って出るんだな。どうしてだかは知らんが、
お前は私の名を知って居たんだ、自分の名を名乗るくらいは礼儀だろう。」
そう言われて、未だに自分が名乗ってなかったことに気付く。
そりゃそうだ、そんな余裕なんか全く無かったんだから。
だけど、は自分の名前を口にするのをかなり躊躇ってしまった。
アリスはまだいい。彼女の名前はある意味でこの世界向きだ。
と言うか、とにかくヨーロッパ系的な名前、
もっと言えばカタカナで耳にしても全く違和感の無い名前なら、この世界でも普通に通じるだろう。
だけどは純日本人。ここで格好の付く名前なんて持ち合わせてる訳も無く。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・は 。」
「はぁ?何だって?」
やっぱり。
明らかに怪訝そうな表情の時計屋。
聞きなれない発音の名前に、聞き違えたのだとでも思っているのかもしれない。
は軽く溜息を吐いて、もう一度繰り返した。
「 。因みに言っとくけど、苗字が先、名前が後。だからって呼んで。」
「・・・・・アリスもおかしな女だったが、お前はそれに輪を掛けておかしいな。
来ている服もそうだが、そんな名前のヤツはこの世界には居ない。それに―――」
一通りのことをけなした後、更に何か続けようとした彼が、そこでピタリと言葉を切った。
そして、何故か一瞬妙に複雑な表情を見せる。
でも結局その先は言わず、もういいから出て行ってくれ。とだけ続けた。
そしてこの後、アリスがゲームで言っていた通りの恐ろしい数の階段を延々降り続けることになった。
幻覚にしては細かいところまで作り込まれていて、色々な意味で自分自身に感心した。
絶望通り越して、開き直ってたのかもしれない。
だけど、この時はまだ良かった。
どこかでこれが夢とか幻系の類だと本気で思い込んでいたから。
でもそう言うベタなオチの有り難さを、後々は強く噛み締めることになる。
そう、これが現実だった場合の方がよっぽど絶望的で笑えない。
つまり、そういうこと。
―だけどこれだけは今もハッキリ言える、は絶対に自分の世界に帰れるはずだ。
だって、招待状はあくまでも招待状。こんな状況、長く続く訳が無い。
そう、は結局、余所者でしかない。
しかも、ある意味ではアリスよりずっと特異な。
(終わり)
後書き
思った以上の長さになってしまい、自分でも驚いてしまいました・・・(苦笑)
おかしいな、もっとコンパクトになる筈がっ(涙)
ヒロインがユリウスの名前を極力呼んでいないのは、
状況を認めたくないと言うことの現われみたいな感じです。念の為補足。
ではでは、長々とプロローグにお付き合いいただいた貴重すぎる姫様、有り難うございます。
宜しければこれからもお付き合い下さいませ。失礼します
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