「どうしたんだ?、今日はやけに積極的じゃないか。」
「・・・・・・そう言う気分、だから。」

簡潔に答えながら、はブラッドの例の大きなリボンだか蝶ネクタイだかを両手で解いた。
そして自分から踵を上げて彼の唇に唇を押しつけて、キスをする。
いつもなら絶対あり得ないし、それ以前にブラッドがこんな状況を許すはずもないけど、
今、は、彼をベッドの上に押し倒しているような状態だった。

「たまには君からこうして見下される構図も悪くないかもしれないな。
だが、男としては不名誉な体勢とも言える。」

言葉の内容とは裏腹に、彼はいつも通りけだるそうに、
そして特に気分を悪くしてないような口調で言った。
がブラッドの洋服のボタンをひとひとつ外していくと、
彼も手慣れた様子での服のボタンを綺麗に外す。
長くて骨ばったブラッドの指先に、はぼんやりと視線を止めた。
お互いの胸元が肌蹴させられたところで、の下になっている彼が、
の腰を抱いてくるりと身を反転させる。
の体はベッドの上に沈められ、視界には彼の姿が映っていた。

「やはり私にとってはこちらのほうが良い眺めだ。」
「見下ろされるのは性に合わないって?」
「そうだな、だが相手が君ならば、時と場合にもよるがね。」
「時と場合?何、見下ろされたい時もあんの?」

そう問い返したに、ブラッドは意味深な笑みを浮かべた。

「君が乱れている姿を見下ろすのも気持ちがいいが、
それを下から堪能するのも悪くない。
フフ・・・、なんなら、今日は私の上で動いてみるか?」

言いざま、彼の手でブラのフロントホックをプツと外される。


ナニイッテンノ。
悪趣味。


反論しようとした口を、はすぐに閉じた。
元々こんな状況に持ち込んだのも、誘ったのもの方だ。
それに、今日は本当に『そんな気分』だった。
そんな気分。
人肌恋しい気分。


――人恋しい気分。


それに今さらブラッド相手にぶる必要性も感じない。

「動いてもいいけど。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

きょとん。
の返事が彼にとっては意外だったのか、一瞬、ブラッドが素の表情を晒す。
おかげでまたこっちの方がビックリしてしまった。
自分から言い出しといて、がそれに乗ることは予想してなかったってとこか。
アリスも言ってたけど、こう言う顔の時の彼は本当にいつもより幼く見える。
幼く、と言うよりは、多分、年相応の若さに見えると言った方が正しい。
彼の公式の年齢は知らないけど、
この分だと実際と2つか3つ位しか離れてなさそうな気がする。

「何かあったのか?。」
「?何でそう思う訳?」
「さてね、だが、何故か今日の君は何所か不自然に感じてしまう。」
「不自然・・・。けど今のだって別に無理して言ってないし、
嫌なら最初から自分でこんなことしてない。」

返した台詞が自身、何となく言い訳染みて聞こえた。
咄嗟にはブラッドから視線を逸らす。

心の奥を見透かされた様な気分。
正直に言えば、この人恋しさの根底は、ホームシックに似たようなもの。
精神面云々は置いといて、これでも年齢で言えばも大人だ。。
それに向こうでは特に執着してたこともない。
そう、平凡で平たんで普通すぎる現実。
それに大きな不満は無くて、だけど人並に小さな不満はあった。
本当に、説明すればするほどに『平凡』過ぎたの日常。
その中にあった間は、それがいいとか悪いとか、特に深くは考えていなかった。
なのに、今になって都合よく思い出す、家族や友達のこと。
絶対にこの世界から抜け出せる自信があったのは少し前の話。
今では、現実に戻ることが怖い。
それと同じくらい、ここに居座ることが不安すぎる。

「ブラッド・・・。」
?」

彼の名前を口にして、それと殆ど同時に自分から彼の体に腕を回した。
抱きつく、と言うより、しがみついたと言った方が正しい。
この世界の中で、はなんて不安定な存在なんだろう。
特異過ぎる。
アリス、やっぱりあんたが羨ましい。
『プレイヤー』のまま、気楽に楽しめるゲームは、今のにはない。


怯える。
何に対してなのか、対象はハッキリしない。
とにかく怖い。
だから今は何かにすがりたくて、自分以外の体温を求めた。
まるで母親に置き去りにされた小さな子供のように、は心細さに震える。
これは不定期に来る波。
少し時間が経てば、いつものに戻れる。
今はこのホームシックにも似た感情に押し潰されそうでも、
少し時間が経てばいつも通りに笑っていられる筈だ。
だから――――。


「ブラッド。」

もう一度彼の名を呼んで、更に強く彼の体にしがみつた。
すがる相手が2次元の人間だなんて、皮肉な話ではあるけど。
ブラッドはを宥めるようにキスをした。

「・・・、少しの間眠るといい。私は君が眠るまでずっと側に居てあげよう。
無論、眠った後も離れるつもりはないがね・・・。」
「・・・・・・・・・え?」
「君は今私を欲している。それは私にとっても喜ぶべきことだ。
だがそれは、私と快楽に溺れたいと言う類のものではないだろう。
ここに居てやるから君は安心して眠るといい。」
「・・・・・・・・・・・・ブラッド。」

茫然と、彼をみつめる
ブラッドは優しげな眼差しと一緒にの胸元を整えて、
の体にふわりと柔らかな布団をかけてくれた。
子供をあやす父親のように。
は思わず口元を歪めて苦笑する。

「変なの、まともな人みたいに見える・・・。」
「私がまともだって・・・?ククッ・・・やはり今日の君はおかしいよ。
大人しく眠っていなさい。だが、目覚めた後の君の身の安全は保証しかねるがね。」


言って、彼はの頬に触れるだけのキスをした。
不思議な程に、の胸を覆っていた心細さが消えていく。


そしてはブラッドの体温を感じながら目を閉じた。



(終わり)


後書き
珍しく微エロ領域に踏み込まずに終わった・・・!
って言うか、ボス、双子にアンケートで抜かれてしまった(笑)
これが援護射撃的な役割を果たすかどうかは別として、ブラッド好きの私としては、
ブラッドの話が増えたことが嬉しいです。
ではでは、ここまでのお付き合い、誠に有難うございました。失礼します。


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