「たった今時間帯が変わったな・・・。君は知っていたかな?。
今この時間帯から・・・、この世界のバレンタインデーだということを。」
「・・・・・・・・・・・・・、うん?・・・・・・・・はい?え?ええええ!?バレンタインデー!?」
「ああ、そうだ。バレンタインデーだ。」
「バレンタインデーって・・・あの(・・)?」
「君の言うあの(・・)とは、どのバレンタインのことを指すのかな?
因みに、私の言っているバレンタインデーは極一般的な物のことだ。
女性が思いを寄せている相手(おとこ)にチョコレートを贈って愛を告白すると言う、ね。」
いつもと同じく気だるげでゆったりとした口調でそう言うと、
ブラッドは手元のカップの紅茶の最後の一口を優雅な仕草で飲み干した。
そのブラッドの隣りに座っているは、ぽかんと馬鹿みたいに口を開けてその様子を見ていた。
「それってまんま、日本式のバレンタインだし・・・。
いや、って言うか、それ以前にこの世界にそんな行事があったんだ?」
「ふむ、その反応から見るに、君は今日がバレンタインデーだと言うことを知らなかったんだな?」
「うん、知らなかった。つか、普通にビックリしてる。」
ブラッドの問いに素直に頷きつつ、そう答える。
この世界にバレンタインデーと言う行事があったこと自体にも驚いてるし、
それが今日(?)だったことにも驚いてる。
ここ数時間帯殆どブラッドの部屋で過ごしているせいで、
仲のいい使用人の友達と会話をする機会がなかったこともその原因だと思うけど。
まずエリオットはそんな行事に全く興味がなさそうだし、
それ以前に多分と違う意味で行事の存在を知らないと思う。
双子は双子で行事自体は知っていても興味は薄そうだ。
(それにチョコより現金を強請ってそうでリアルに嫌だ)
アリスなら確実に教えてくれたかもしれないけど、
彼女は彼女で多分あのどぐされウサギに捕まってるに違いない。
「せめて事前に教えてくれれば良かったのに。」
「おや?と言うことは、事前に知っていれば私にチョコを用意してくれるつもりだったのかな?お嬢さん。」
「・・・・・・・・・、うん、・・・まぁね。」
エメラルドグリーンの切れ長の瞳を少しだけ細めて、ブラッドは形のいい唇で満足そうに弧を描いた。
そんな彼の様子に、は内心、ははははと乾いた笑いを漏らす。
って言うか、バレンタインが来るって知ってて何も用意してなかったりしたら、
何だかんだ言ってブラッドは不機嫌になる確率は限りなく高いと思う。
「そうか・・・、それは残念だ。私は特にチョコが好きな訳ではないが・・・、
それでも君がくれるチョコならば、どんな最高級の品にも劣らない素晴らしい味が楽しめただろうな。」
「・・・・・・・ブラッドって、素でそう言うこと言えるから凄いよね。もう慣れたけど。」
「心からの言葉だから口に出来るのさ。」
言って、彼はの体に極自然に腕を絡めてきた。
それと同時に、彼の体から放たれる薔薇の香りがの鼻孔をくすぐる。
そしてまたブラッドは先を続けた。
「なぁ、・・・、もしも君が私にチョコをくれる事になっていたとしたら、
勿論君の手作りチョコレートを用意してくれていたんだろう?」
「え?まぁ、時間があったらそうしてたかもしれないけど。
でもそれだと確実に最高級チョコからは程遠い代物が出来てると思う。」
自分の料理の腕に全く自信がない訳じゃないけど、
幾らなんでも高級チョコとの手作りじゃレベルが違い過ぎる。
「ふふっ、そんなことはないさ。君の手作りならばどんな物にも勝る。
私にとってどんなチョコよりも甘く蕩けるような物になっていたに違いない。」
言いながら、彼は少しずつの方へと重心を傾け、との距離を狭めてきた。
嫌な予感がする。
かなり、とても、非常に嫌な予感が。
いや、実は嫌な予感ならさっきからひしひしと感じては居たんだけど。
「ブラッド、近い、近すぎるから!」
「、私はとても残念だ。君からそんな素敵なチョコレートを受け取る機会を逸してしまったんだからね。」
「聞いてる!?ねぇ、ブラッド・・・!てか聞こうよ!!」
の制止の言葉を華麗にスルーし、彼はの背中をソファの背もたれに押し付け、
を自分とソファで挟み込むような形で逃げ場を完全に封じた。
有る意味慣れてしまった状況ではあるけど、やっぱりこの男はどぐされ男だと思う。
「私からひとつ提案があるんだが、。
その甘く蕩けるようなチョコの代わりに他の物をくれないだろうか?」
「・・・・チョコの、代わり・・・・・??・・・ここには代わりになるような物なんか・・・、」
ない。
そう口に出そうとしたその瞬間。
ブラッドはの耳朶を食むように唇を動かした。
「っ!!」
ビクリ。
たったそれだけで体が馬鹿みたいに大げさに震える。
「あるさ。私にとってはチョコなどよりも最高の物が、な・・・。」
いつもよりも低く、囁くような声。
気怠く億劫な口調の中に彼だけが持つ独特の色気が滲んでいる。
顔が見えなくてもブラッドが今どんな顔をしてるのかにはよく分かっていた。
ヤバイ。
ヤバイ。
ヤバイ。
大変、非常に、とても、超激烈。
ヤバすぎる。
この状態の彼には未だかつて抵抗できたことが一度もないのだ。
どんな無理難題を言われようと、結局陥落する。
それが分かっているだけに、非常にヤバい。
下手に問い返してブラッドの手で踊らされる羽目になるのは御免だ。
このどぐされ男の手で踊るのは、あれは、プレイヤーであるから楽しめるのであって、
当事者になったらちっとも楽しめないことをはもう嫌と言うほど思い知らされていた。
「なぁ、・・・。私は・・・君からのキスが欲しいんだ・・・。」
「!!!!!!!!!!」
き、
き、
聞き返してないのに話を進めやがったあああああああ!!!!!
殆ど硬直して動けないの表情を見て取ったのか、彼は喉の奥で小さくクックと笑った。
それがムカついて咄嗟に口を開こうとすると、それを遮るようにしてブラッドが続ける。
「言っておくが、唇を触れ合わせるだけのささやかな物など私は求めていない。
舌と舌を絡め合う・・・、熱烈な・・・・、文字通り甘く蕩けるようなキスをして欲しいんだ。
そう、君から・・・・な・・・。」
言い終えてすぐに、ブラッドはの耳朶にねっとりと舌を這わせた。
耳に触れる吐息が妙に熱く感じる。
「な゛っ!!!!!!!!!!!む、無理、無理、無理、無理!!!!!!!!
絶対無理だから!!しかも誰もそんなこと聞いてないし!!!!!!!!」
「だが君は私にチョコを渡してくれるつもりだったんだろう?
しかし肝心のチョコはここにはない。ならばそれ相応の物で君の私への気持ちを表現してくれてもいい筈だぞ?」
「だったら今から作る!!!こっから出して!!今すぐ直ちにキッチンに行ってチョコを作ってくるから!!」
「そんな暇はない。バレンタインは今この時間帯だけだ。作っている間に時間帯が変わってしまうかもしれないだろう。」
未だにブラッドがの耳に唇を寄せているせいで、彼が口を開く度、肌をくすぐるように吐息が吹きかかる。
妙に低く甘い声が鼓膜を直に震わせているような錯覚を覚えた。
「・・・、君からキスをしなさい。ほら、ほんの少し此方に顔を寄せればいい。
後は・・・・・・・・君からその赤い舌を伸ばして私の舌に絡め合わせてくれ。」
「だから無理だって言って!!「するんだ。・・・・余り焦らさないでくれ、。
でなければ私は、我慢が出来ずに今すぐ君の衣服を引き剥がしてしまうかもしれない。」
「っっ!!!???」
「冗談でないことは、君が一番よく知っていると思うが?どうする?。」
こ。
こ。
こんのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお。
どぐされイカレ帽子屋めえええええええええええええええええええええ!!!!!
心の中で力の限りブラッドに向かって罵り言葉を浴びせかけながら、は既に自分が敗北していることを知った。
冗談ではないことは、が一番よく知っている。
そうだ。
まさにその通りで。
このどぐされ帽子屋はやると言ったらやる。
特に、この手(・・・)のことは。
「〜〜っ・・・・・・・・、・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・・、ブラッド。」
「何だ?お嬢さん。」
「目くらい閉じて。」
「ふふっ、いいだろう。」
至近距離。
ブラッドの端正な顔。
そのエメラルドグリーンの瞳がゆっくりと閉じられる。
ブラッドの言う通り、ほんの少し顔を寄せれば、すぐにキスが出来る程度の距離だ。
は覚悟を決めると、瞼を閉じて彼の薄い唇に自分の唇を重ねた。
何だか妙な気分だ。
ブラッドとはそれこそ数えるのも馬鹿らしい位にキスをして来たのに、
自分からキスをしたことは殆どない。
例えあったとしても、決してこんな要求されてしたような微妙な空気の中じゃなかった。
変に緊張しているせいで、唇が震える。
はぎこちない動きで舌を伸ばしてブラッドのやわらかな唇を割り、その先へと侵入させた。
そして彼の舌との舌をぬるりと重なり合わせる。
瞬間。
「っンんっ!!」
ブラッドの舌が素早くの舌に巻きつき、そのまま吸い上げられた。
「・・・・ふ、・・・・・・っ・・・!」
絡めては離れ、離れては絡められ、強弱をつけて吸い上げられて、の口内を蠢くブラッドの舌。
その動きに翻弄されながら、抵抗するどころか思考をかき乱されて、夢中になってしまう始末。
毎度のことながら、この男は本当に本当に色んな意味でどぐされてる。
長く濃厚すぎるキスに半分呼吸困難に陥りつつも、
は結果的に自分からキスをせがむ様な形で何度も何度も唇を重ねていた。
チョコよりも甘く蕩けるようなキス。
確かにその通りだ。
だけど、そうさせてるのはブラッドで、
のキスなんか彼のものに比べれば幼稚だと言ってもいい。
特に今回のキスは、それこそ溶けたチョコレートを口いっぱいに含んでいるような錯覚にすら感じる。
そしてブラッドのキスに溺れたは、数時間帯後に知ることになるのだ。
この時間帯がバレンタインデーだと言うことを、
誰かがに知らせることのないように、ブラッドが手を回していたのだと言う事実を。
つまりは、は最初から、彼の甘い罠にハマっていたのだった。
(END)
後書き
何かかなーり久々にブラッドとヒロAを書いた感じです。
そして彼女はやっぱり振り回されると言う(笑)
彼女のポジションはもう決まっるんだ!きっと!
ではでは、ここまでお付き合い下さった姫様、誠に有難うございます。
失礼致します。
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