時間帯が昼に変化したのを確認し、は支度を整えてバスルームへと向かった。
ブラッドは次の昼の時間帯(つまり今現在の事だけど)には少し仮眠を取ると言っていたし、
エリオットは仕事で2回後の夜まで帰らない。
そして珍しく今回の仕事には双子達も同行するようで、彼らもエリオットと一緒に出ている。
と言うことで、今の時間帯なら一人でゆっくりバスタイムを満喫できるって訳だ。
実は皆で一緒にお風呂に入るってのも楽しいと思わないでもないんだけど、
さすがにそれが重なり過ぎるとゆったり一人でお風呂で過ごす時間が恋しくなってくる。
大体状況的に考えても女一人と帽子屋一家の面々が一緒にお風呂に入ってるってのもどう考えても非常識すぎだ。
は手早く衣服を脱ぎ終えると、いそいそとバスルームに足を運んだ。
久しぶりに一人で入るとここの広さを改めて実感する。
うちの実家のお風呂場、軽く5、6個入っちゃうんじゃないだろうか。
画面越しだとイマイチ分からなかったけど、こうして見ると本当に広い。
浴槽をたっぷり満たしているピンクのお湯に身を浸しながら、ふぅっと溜息を吐く。
熱過ぎず、温すぎない心地いい温度。
鼻孔を優しくくすぐる清々しくて甘い香り。
手足をゆっくり伸ばしてぼんやり出来るリラックスタイム。
贅沢だ。
贅沢すぎる。
やっぱこう言う時間は必要だよねー・・・。
この上なくくつろいだ気分でそんなことを考えていた、その矢先。
「おや?お嬢さん。姿が見えないと思っていたらここに居たのか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・・・え゛・・・!?」
音もなく静かに開かれたバスルームのドア。
そこから、ブラッドが姿を見せた。
瞬間。
目を見開いてブラッドを凝視しつつ、硬直する。
「なっ・・・!?なんっ!!??」
「どうしたのかな?お嬢さん。何を慌てている」
「いや、だ、だって、あ、あんたっ!昼は仮眠取るって・・・!」
「ああ、そうだな・・・。私もそのつもりだったんだが・・・、
昼の時間帯があの後すぐに夜に変化してしまったんだ。寝る気が失せた」
な。
な。
なん。
なんですとぉおおおおおおっ!!??
なんてことだ。
本当に本当に何て事だろう。
久々にこのバスルームを独り占めして贅沢気分なリラックスタイムに酔ってたのに、
まさかでまさかのこの罠。
あり得ない。
いや、そりゃ勿論この世界の時間のめぐりがきまぐれの滅茶苦茶なのは百も承知だったけど、
それにしたって昼の時間帯が20分もしない内に変わってしまうなんて酷過ぎる。
しかもこのタイミング。
「ブラッドって・・・一人でお風呂入る事あったんだ・・・」
「当然だろう。私だってたまには一人でのんびりと風呂に浸かりたい時も有る」
発言がそこはかとなくじじくさい。
が、今はそんなことを突っ込んでいる場合じゃない。
「・・・じゃ、じゃあ・・・は出ようかな」
「ほぅ?何故だ?」
「いや、ほらだって、今ブラッドのんびり一人でって言ってたし!お邪魔でしょうから!」
と言うか、今すぐ直ちに退散させて頂きたい。
本当に是非に!
「そんなことはないさ。いや、寧ろ・・・君とならば二人っきりの方が色々と楽しめそうだしな・・・」
「いやいやいやいや!!全然、となんか全然楽しめないから!」
ブラッドの発言に非常に身の危険を感じる。
気のせいかもしれないけど、何か凄く妖しいニュアンスが含まれている気がしてならない。
これで周りにエリオットや双子達が居るんだったらまだ軽く受け流せたかもしれないけど、
今このバスルームには文字通りとブラッドの二人だけ。
全くもって油断ならない状況だ。
とにかくどうにかして少しでも早くここから立ち去らなきゃいけない。
立ち去ると言うか、逃げると言うか。
そんなことを考えつつ、
すすすーっと浴槽の中を進んでお風呂の隅っこ辺りから上がってしまおうと試みた、その時。
「遠慮しなくていいんだぞ?。君もまだお湯に浸かったばかりだろう。
ほら、その証拠に体が温まっていない」
あくまでゆっくりとした動きで、彼はのすぐ傍からお湯に入って来た。
更に、言葉と同時にの肩に手を触れる。
「ひぃいっ!!??」
その掌が予想以上にひんやりと冷たくて、は反射的に後ずさりながら声を上げた。
バスルームだけに、その間抜けな悲鳴がよく響く。
「ふふっ・・・どうしたのかな?そんなに過剰な反応を示して・・・」
「い、いきなり触るから・・・。
って言うか、の体が冷たいんじゃなくてブラッドの手が冷たいだけだし!」
「だが君がここに来たばかりだと言うのは本当の事だろう。
君は、つい先程の時間帯が昼だと知っていたな?
つまり昼の時間帯に入ってからここに向かったと言う事だ」
「えー・・・うー・・・あー・・・まぁ・・・そうだけど・・・」
「ならば遠慮などせずにこのまま浸かっていなさい。私も、その方が楽しめると言うものだ」
だから!それが嫌なんだって!!
今のブラッドは明らかに危険すぎる。
この人がなんかに手を出すほど女に困ってるとは全然思ってないけど、
からかい半分でそう言う事をする可能性は十分ある訳で。
って言うか、既にその状態に持って行かれつつある感じの空気をびしばし感じてるし。
大体二人っきりの状態でこの至近距離。
あり得ない。
皆と一緒の時はそれなりの距離を保ってるし、
タオル一枚の状態でこんなに近くに来られると対応に困る。
自身のことも勿論だし、ブラッドの上半身が思いっきり視界に入ってる事もそうだ。
そんなにじろじろ見るつもりなんか無いのに、
この人男のくせに肌がやけに綺麗な上に本当に均整の取れた筋肉の付き方をしてるなぁなんて、
ついつい目がいってしまいそうになる。
それを阻止しようとした結果、妙に挙動不審になるし、とにかく今の状況は断じてあり得ない。
「どうした?。先程から随分と落ち着きがないじゃないか」
「いやいやいやいや!あんたこそ何でそんな落ち着いてるの!
お風呂場でこんな格好で落ち付ける訳ないし!」
「・・・くっく、私の体に興味があるのか?お嬢さん」
「な゛っっっ!!!」
なにを。
ナニヲ。
何をのたまっているんだあああああ、こいつううううう!!!
「せっ、セクハラ発言!も、もういい!とにかく放して!出てく!」
――――バシャッ バシャッ。
浴槽のお湯を思いっきり跳ねさせて、抵抗する。
ブラッドが面食らったその一瞬の隙を突いて彼の魔の手から逃れたと思った、瞬間。
「っ、!!??」
ガックン。
お湯の中の足元。
何かに躓いて、バランスを崩す。
そして。
「わっ!?」
「おっと・・・、大丈夫かな?」
そこをブラッドの腕に支えられると言う、お約束な、そして今のにとっては最悪のパターン。
体勢を整えて彼から離れようとするも、既に腰に回された腕はがっちりと固定されている。
両手でそれを引き剥がそうにも力で当然敵う筈もない。
「・・・・・・・・・・もしもし、ブラッドさん?」
「何かな?」
「いやいやいや、何かなじゃありませんよ。受け止めてくれたのは有難いけど、もう放してよ」
「・・・・くっく、・・・・・・・なぁお嬢さん、君は最初から随分私の事を警戒していたな?」
「え!?何、突然。つか普通この状況なら誰だって警戒す・・・・・・・・・っ!!!???」
ぐぐっと、そこでの腰に回した腕に力を込めてブラッドはを抱き寄せた。
裸のブラッドの肌がの体に密着し、押し付けられる。
それと同時にタオル一枚隔てて彼の筋肉の硬さがダイレクトに伝わって来た。
更に、自分の胸がブラッドの胸板に押し潰されていることまでが分かってしまう。
「っ、ぶ、ぶ、ブラッド!!」
「男としては警戒されると言う事は名誉なことだ・・・。それ程に意識されていると言う事だからな・・・。
そして・・・・・それはある意味で期待されている、と言う事だ・・・」
「・・・・・はっ!?はぁ!?なに、言ってんの!?」
「・・・、君は・・・私が君に何かよからぬ事をしようとしているんだ、と、そう思っていたんだろう?」
「お、思って、・・・・・ないないない!!全然!!」
勿論本当はブラッドの言う通りだけど、ここは全力で否定しておく。
力の限り。
必死で。
肯定なんてしようものならこの男、何を言いだしたもんだか分かったものじゃない。
「そうかな?だが君は酷く怯えていたようだが?・・・・今も・・・こんなに震えている・・・」
言いざま、ブラッドの唇が首筋に寄せられる。
そして彼は、そのままそのラインを辿る様に唇を肩口へと移動させた。
ブラッドの言う通り、の肩は無意識の内に小刻みに震えていた。
だけどそれは怯えている訳じゃない。
でもだからこそ厄介だ。
「・・・・・・・・・・っ、ちょっと・・・!」
「それとも、お湯に浸かっていると言うに寒さを感じているのかな・・・?
ふふっ、・・・・・・どちらにせよ・・・・・・、私はその震えを止める術を知っている」
そう言葉を続けながら、ブラッドの唇がの鎖骨や喉元をくすぐるように触れていく。
そしてその唇は顎へ、最終的に唇に触れるか触れないかの位置にまで移動して来た。
「っ、ブラッ「ほら、ここもこんなに震えている・・・」
ブラッドはが彼の名前を口にして抗議するのを遮ると、
言葉を言い終えたと同時に自分の唇をの唇に押し付けた。
瞬間的に硬直したの唇をゆっくりと解きほぐす様にブラッドは食むようにやわらかく唇を動かす。
そして彼はぬらりとの口内に舌を侵入させ、
味わう様にねっとりとその周辺をかき回した。
その間にじわりじわりとお互いの唾液が重なった唇の奥に溜まって行く。
「・・・ふ・・・ぅ・・・っ!」
プレイヤーとして画面越しに見ている時から、
絶対この人はこの手のことに手慣れているだろうと思っていた。
手慣れているだけじゃなく、そう言った方面に長けてたりするんだろうと。
と言うより実際そう言う位置のキャラだったし、普通にしてても色気のある仕草が妙に板についてるし、
寧ろそういうこと全部を本人が自覚してるのも知ってた。
だけど。
だけどまさか、キスひとつでこんなに思考も何もかもぶっ飛びそうになるなんて。
「・・・」
「・・・ン」
名前を呼ばれて、抵抗するより先に目を閉じていた。
ぬるい唾液が口の端から顎へ、そして最終的にピンクの海に落ちていく。
ブラッドはその滴を追うように舌を這わせると、
の体に巻かれているタオルをゆっくりとはぎ取った。
「っ!!??」
そこでようやく我に返る。
そして自分自身の迂闊さと馬鹿さ加減に茫然とした。
キッチリ巻かれていたタオルがいつの間にか緩められてた事。
それ以前に、タオルだけは外されまいと無意識ながら徹底ガードしてた筈のの手が、
これまたいつの間にか外れてた事。
肌と肌で直接ブラッドの体をダイレクトに感じ、これから起きる事を予期して真っ青になる。
「・・・、君もその気になってくれていた様で嬉しいよ・・・」
耳朶に唇を押し当て、ブラッドが低く艶のある声で囁く。
「え?・・・いや、ち、ちがっ・・・!」
震える声で必死に否定の言葉を発するも、まともな声にならない。
ブラッドはの体を益々抱き寄せて体の隙間を完全に埋めると、ねっとりと耳元に舌を這わせた。
「私の思っていた通りだな・・・。君と二人っきりでなら・・・色々と楽しめそうだ・・・」
「〜っ〜〜っっ!!!!!!!!」
声にならない悲鳴を発したの視界の片隅。
純白のタオルがゆらゆらとピンクの海を泳いで離れていく姿が映っていた。
(END)
後書き
リクによりブラッドとトリヒロAでした!アリスシリーズ自体久しぶりですけど、
ブラッドと彼女もまた久しぶりに執筆した様な・・・。
そして毎度毎度のことながら、ギャグ調から微エロに(笑)。
因みにヒロインがお約束宜しく浴槽の中で躓いたのはボスの足ですが、
これはボスが意図した訳でなく、パニクった彼女自身がやらかしたことです(笑)。
まぁ、ブラッドにとっては好都合だったと言うね。どこまでも可哀そうな彼女。
ヒロAの振り回されっぷりは毎度書き終わった後に不憫に思わなくもないんですけど、
彼女のこの位置は既に固定されているので、これからも多分こんな感じかと。
ではでは、リクを機に久しぶりに妄想しまくってみたのですが、いかがでしたでしょうか?
お気に召して頂ければ幸いです〜。
ここまでお付き合い下さった姫様にも熱烈感謝です!有難うございます。
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