どうして、こんな状況になっているのか、お願いだから誰か説明してほしい。
いや、今までこう言う状況にならなかった方が不思議ではあったんだけど、
それにしたって、今になってこんな事に巻き込まれるなんて。


「さっさと歩け!」
「っ!」

のすぐ後に立っている長身の黒尽くめの男がの背中に硬く冷たい銃口を突きつけ、
苛立ったような口調でそう言った。
左右と前方にも数人、背後の男と同じような黒尽くめの男達がを囲むような形で歩いている。
は恐怖で震えて絡まる足をどうにか懸命に動かしながら、男達に従って森の道を進んでいた。
今の時間帯は夕方。
森の中はどこもかしこも赤く染まっている。

「帽子屋一家NO,2の女を偶然見つけるなんて俺達はついてる。」
「ああ、あの(・・)帽子屋の連中が殺しもせずに手元に置いている、しかも三月兎の女だからな、色々と使い道があるだろう。」

に銃口を突き付けている男と、の右隣を歩いている男はそう言って、
如何にも嬉しげにくくっと声を殺して笑い合った。


コイツら・・・をエリオットの恋人だって勘違いしてるんだ・・・。


そして多分、この様子だとが余所者だってことには全く気付いてない。
まぁ、だからこそこんな風にを捕まえたりしてるんだろうけど。
今のところすぐに殺される心配はなさそうだけど、は単なる一般人だ。
しかもこのハートの国に来る前は勿論、来てからもこんな危険な状況に遭遇したことは一度もない。
当然ながらこの状況から逃げだす上手い案なんて咄嗟に思い浮かぶ訳もなく。
結局こうしてただ情け無く彼らに従うことしか出来なかった。
因みに、の口には猿轡がわりにきつく布を巻かれていて、
その上両腕もがっちりと縄で縛られていたりする。
今まで日々安穏と暮らしていたにはまるで現実味のない出来事。
だけどこれは現実なのだ。
は、帽子屋ファミリーと敵対しているだろう組織の連中に捕らえられてしまった。
状況的には本当に現実味がないのに、それでもやっぱりの体はしっかりと恐怖を感じている。
背中に当たる硬い銃口の感触が、それを更に大きく膨らませていた。



「おい、お前ら!止まりやがれ!!」



「っ!?」
「何っ!!??」

後方から唐突に上げられた怒鳴り声。
それは普段、がよく聞き慣れたもので、は咄嗟に体ごと後ろへ振り向いた。
黒尽くめの男達も一斉に声のした方向へと視線を向ける。
その視線の先―――――――――
長身に、黒のロングコート。
ゆるやかに波打つ鮮やかなオレンジ色の髪。
そして、二本の兎耳。


エリオット・・・!!


「さ、三月兎・・・!いつの間に・・・!?」
「・・・・・・てめぇ・・・俺をウサギと呼ぶんじゃねぇ!」



―――がぅんっ


エリオットの銃が即座、火を吹き、弾丸が最初に口を開いた男に命中した。
男は唸り声に近い悲鳴を漏らし、そのままどさりと地面に倒れこむ。
瞬間。
の傍に立っていた黒尽くめの一人が、を羽交い締めにし、
その上のこめかみに冷たくて硬い筒状のものを押し当ててきた。
当然、それは、銃口だ。

「っっ!!!」
「撃つな!!それ以上動くと、この女の頭が吹っ飛ぶぞ!」
!!・・・・・・・・・・・・てめぇ・・・・!!!」

エリオットの瞳が憎々しげにに銃口を突き付けている男を睨みつける。
それだけで、周囲の男達が怯んだのが分かった。
燃えるような、それでいて冷たくて鋭い、威圧感。
ブラッドとどこかよく似た独特の空気。
彼は今、間違いなくマフィアのNO,2らしい表情を見せている。

「・・・・・・・帽子屋一家を舐めてんじゃねぇーぞ・・・、クソったれ共。」

ドスの利いた低い声。
エリオットの視線が僅かに動くと、それを合図に周辺から彼の部下達が次々と姿を見せた。
は全く気付かなかったけど、どうやらずっとチャンスを窺っていたようで、
黒尽くめの男達は既にすっかり取り囲まれていた。

「なっ、何だと・・・っ!!??」

を羽交い締めにしている男の体が震え、銃口がさっきよりも強く肌に押し付けられる。
エリオットは真っ直ぐにに視線を向けた。

・・・、俺がいいと言うまで目を瞑ってろ・・・。絶対に開けるな、いいな?」

いつも以上に優しい口調でエリオットがそう言い、
を安心させるように笑顔を見せる。
頷く代わりに瞬きを一つし、そしてすぐには瞳をきつく閉じた。
その瞬間。


ガァンっ


の動きを封じて銃を向けていた男の体が弾かれたみたいに離れる気配がした。
間違いない、エリオットが発砲したのだ。
それを合図に黒尽くめの男達と、エリオットの部下達との銃撃戦が始まった。
はどうしていいのかも分からず、ただ瞳を固く閉じたまま、棒立ち状態で突っ立っている。


ガゥンっ
  キュォオンっ
バンッ


前後左右関係なく周囲に銃声が絶え間なく響き渡り、男達が右往左往しながら応戦している気配がした。
不意に、その腕を力強く掴まれ、は咄嗟に目を開けてしまいそうになる。

「俺だ、!目は瞑ってろ!俺が絶対ぇあんたを守ってやる!
だから安心して俺について来い!いいな?」
「ん・・・!」

猿轡をされたままなので、取りあえずはコックリと大きく頷いた。
それに気付いたエリオットが、片手で器用にの口元の布を解いてくれる。

「・・・怪我はねぇな・・・。手の方はちっと待ってくれ。まずはアイツらを片付けてからだ。」

それからは本当に予想以上に呆気なく、そして短時間で方は付いた。
勿論、エリオット達が圧倒的な力を見せつけ、相手を叩きのめすという形で。
とは言っても、はそれを見ていた訳じゃないんだけど。
それでも手を縛られたままだったので、耳を塞ぐことが出来ず、
嫌でも聞こえてくる悲鳴や銃声で周囲の状況は何となく分かってしまった。
は彼らが銃撃戦を繰り広げている間中、
ただ目を瞑ってエリオットの影に隠れている事しか出来なかった。




「・・・ここまでくりゃあ血臭もしねぇだろ・・・。、目を開けてもいいぜ。」
「うん・・・。」

エリオットの言葉に、はゆっくりと瞼を上げた。
強く目を閉じ過ぎていて最初はぼやけていた視界が、ゆっくりと焦点を結び、
目の前にをジッと見つめるエリオットの姿が映る。
それだけで、体の力が全部抜けてしまいそうになった。
と言うか、実際、ふらりとよろけてしまった。
だけどすぐにエリオットがの腕を掴んでそれを受け止めてくれる。
彼は心底心配そうな表情での瞳を覗き込んだ。

「っと、大丈夫か!?」
「う、うん・・・平気・・・。」

掠れた声で返事をし、は無理やりに口元だけで笑ってみせる。
本当は、背中に銃口の硬く冷たい感触が未だに残っていて、恐怖で足がガタガタ震えていた。

「・・・、ごめん・・・、ごめんな・・・。俺のせいであんたに怖い思いさせちまって・・・。
俺が迂闊だったぜ、まさかアイツらがあんたを捕まえて人質に取ろうとするなんざ考えちゃ居なかった・・・。」
「・・・・・な、何かあの人たち、を、エリオットの恋人だと思ってたらしくて・・・。」

勘違い過ぎだしね。
続けてまた笑おうとしたけど、やっぱり上手くいかなくて、寧ろ変に声が震えてしまった。
エリオットはそんなの肩を抱き、そのまま自分の胸に強く押し付けた。

「無理すんな!悪かった・・・、マジで悪かったよ・・・・・・・。
あんたをこんな危険な目に遭わせちまうなんて・・・俺って最低だぜ・・・。
屋敷に戻ったら・・・暫く俺はあんたの側には近寄らねぇ・・・。
本当はそんなのスッゲェ、スッゲェ嫌だけど・・・、
オレの女だって勘違いされてあんたが危険な目に遭うよりゃずっとマシだもんな・・・。」
「え・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・、あんただってそうだろ?
・・・・・・・・・俺の女だなんて勘違いされたくないよな・・・。」

半分独り言に近い声で、エリオットは呟くようにそう言った。
は咄嗟にがばりと彼の胸から顔を上げてその顔を見つめる。
案の定、エリオットの長い耳はへにゃりと力無く垂れさがっていた。

「エリオット・・・、、た、確かにメチャクチャ怖かったけど・・・、
エリオットの恋人だって勘違いされたことに関しては、嫌だなんて思ってないからね?
それにあんたはちゃんとを助けてくれたし、だから・・・・今まで通り・・・。」
「・・・・・・・・・・けど、そのせいでこんなことになっちまったんだぜ・・・。
俺のせいで・・・だったら俺は・・・・「そっちの方が嫌だから!」

自分でも驚くほど大きな声で、はそう口に出して居た。
エリオットも驚いたように瞳を見開いての視線を受け止めている。

・・・あんた・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・えっと、け・・・けど・・・エリオットの方が迷惑、か・・・。
またが捕まったりしたらその分手を煩わせることになるしね・・・・。」
「なっ!?んな訳ねぇだろ!?俺はあんたを助ける事を迷惑だなんて思わねぇよ!思う訳がねぇっ!」
「・・・・・・・・エリオット、有難う。」
「・・・・・・・・・・・・・・・礼なんか言うなよ・・・、当然のことだろ。」

答えたエリオットが、再度、の体を抱き寄せる。
は自分からも彼の背中に腕を回した。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・、あのさ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「何?」
「あんたが・・・嫌でなければ・・・・・・・・・、って言い方はちょっと違うんだけどよ・・・、その・・・。」
「うん??」

エリオットは言葉に詰まったように言葉尻を小さくし、
少しの間先を続けずに何か迷っている様だった。
だけどどうやら意を決したらしく、の耳元で彼がすぅっと息を吸い込む音がした。
そして、の体に回した腕にさっきよりも力を込める。


「マジで・・・俺の女にならないか?」


「・・・・・・・・・・・・・へ?」

耳元。
確かにハッキリと聞こえた筈のエリオットからの台詞。
だけど、余りにも予想外の内容に、は思わず間抜けな声で聞き返していた。
エリオットが再度、繰り返す。

「俺の女にならないかって・・・言ったんだ。」
「・・・・・・・・・・・・エリオット?そ、それは・・・その・・・」

彼の言葉で一瞬にしてパニックに陥ったは、
咄嗟に返事をする事が出来ずに彼の腕の中で固まってしまった。


「悪ぃ・・・あんなことが起こった後に聞くようなことじゃなかったな・・・。」


言って、エリオットは優しくの頭を撫でてくれる。
長くて骨ばった指がの髪を滑る感触。
さっきまで銃の引き金を引いて容赦なくあの男達を撃ち抜いていた同じ人間(ウサギ)の手とは思えない。
の中の恐怖心は、いつの間にか綺麗に消え去ってしまっていた。


「ホント悪い・・・。今は・・・無理に返事を聞いたりしねぇから、安心してくれ。
つーか、それよりさっさとこんな辛気臭ぇ森から出ちまった方がいいな。
行こうぜ、。あんたは俺が守る、何があっても。」
「あ、・・・・・・・・・・うん。有難う。」

だから礼なんか言うなって。
笑ってそう答えると、エリオットはの手を取ってそのまま歩きだした。
も素直に彼について行く。
そして、ぼんやりと彼の背中を見上げた。
時間帯はまだ夕方のままだ。
真っ赤に染まった夕陽の光は、
だけど何故かにはエリオットの鮮やかなオレンジ色と同じような色に見えた。


――――――俺の女にならないか?


さっき言われたばかりの彼の台詞を頭の中で反芻する。
今頃になってそれが告白だったんだなんて意識してしまい、はボフンと顔を赤くしていた。
だけど多分、夕陽のおかげで今エリオットがの方に視線を移してもそのことには気付かないだろう。
例え気付いたとしても、気付かないふりをして欲しい。
エリオットには、そんな方向の気遣いはきっと出来ないだろうけど。

「・・・・・・・・。」

ここはにとってバーチャルな世界の筈だ。
アリスよりずっと異質な
だってここはある意味でアリスの為の世界。
彼女を愛してる世界。
は本当の意味で完全な余所者。
それは最初から分かっていて、今だって当然理解してる。
だけど――――――――――


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


無言で二人、歩きながら、ぎゅ、と繋いだ手に力を込めてみる。
すると、エリオットも何も言わずにの手を握り返してくれた。

あんな危険な目に遭っても、エリオットの側に居たいと思ってしまう。
本気で怖くて、怖くて仕方なかったのに、彼が助けに来てくれたことの方がずっと重要で。
この世界に留まって居たいと思ってしまう。
だけど今はまだ、エリオットの告白に対して、答えは出せない。

は一度瞳を伏せてから、またゆっくりと空を見上げた。
長身のエリオットの長い耳と鮮やかなオレンジの髪、そして赤く染まった夕陽が視界に入る。
暫くの間、はただ、それをぼんやりと眺めていた。


(END)



後書き
久々のエリオット更新!だったんですけど・・・・・・・・・・・・・。
うううう、スランプぢゃああああ!(涙)
でも何かハトアリ系を書きたくてどうにかこうにか殆ど無理やりに近い形で集中力絞り出しました。
おかげでかなり微妙な仕上がりかもしれませんが、今の私の精一杯がこれです。
では、ここまでお付き合い下さった姫様に深い深い感謝の気持ちを!
誠に有難うございました。失礼致します。


ブラウザバック推奨