「こんな所で無防備に寝顔を晒していると、悪い男に捕まってしまうぞ、お嬢さん。」
赤く染まる夕日が窓から顔を出している、夕暮れ時。
はブラッドの自室のソファに寝転がり、とろとろと微睡んでいた。
不意に掛けられたこの室の主の言葉に、瞬時、意識をハッキリと取り戻す。
彼女が目を開けると、ニヤリとした笑みを浮かべたブラッドが彼女を見下ろす様にして立っていた。
「ほっほ!ここはマフィアのお屋敷でしょ。
元々悪い男だらけだわ。しかもここはその悪い男達のボスの部屋だし。」
「そうだな、つまり君を捕まえる男は私になる訳だ。」
彼はそう意味深な台詞を口にし、ソファの隅に腰を下した。
緩慢で気だるげなその仕草は、見事に彼の色気を引き出している。
そして、それは全て彼の内で計算されたものでもあった。
「残念、違うわ。捕まえるとしたら、それはの方でしょ。」
言いざま、はゆっくりと身を起こし、自らブラッドの体へと腕を絡めた。
「・・・っ!」
虚を突かれた表情を見せているブラッドに構わず、
彼女は赤い舌を見せつけるようにして彼の唇をねっとりとした動きで舐める。
「・・・、君は・・・。」
相手を翻弄し、攻め立てることにかけては手慣れている彼だが、
反して攻めに転じられた状況に陥ってしまうと、存外脆さを垣間見せることがあった。
そして今現在も、ブラッドはの予想外の行動に動揺を示し、
頬さえ僅かに染めている始末だった。
「驚いた?」
くすくす。
がいかにも楽しげに小さな笑い声を漏らす。
彼は半ば苦笑染みた笑みを浮かべ、溜め息と共に返した。
「本当に予測のつかない動きをするお嬢さんだな。」
「わお、未だにはお嬢さんなんだ?知ってた?
こう見えて二十歳は超えてるのよ。」
そう口にしながら、彼女はブラッドの蝶ネクタイを指先で丁寧に解いていく。
それと同時に彼はの衣服のボタンに手を伸ばした。
「私が君をお嬢さんと呼ぶのは別に子供扱いしている訳ではないさ。
女性としての敬意を表しているつもりだぞ?」
の首筋に唇を埋め、囁く如くして彼は言った。
そうすると共に、ブラッドは確実に彼女の衣服を肌蹴させていく。
そして彼自身も、のてによって徐々に着衣を乱されていた。
「は今は雌でいたいわ。」
「クックッ・・・淫乱な物言いをするな、君は。男を、いや、雄を煽ることに慣れている様だ。」
「おっと、そんな褒め言葉を頂けるとは思ってもみなかった。
色気とは無縁の女だってよく言われるんだけど。」
―スルリ
彼女の肩から衣服が滑り落とされる。
ブラッドは熱を含んだ視線での体を見下ろした。
強い欲情の色を滲ませた彼の瞳が彼女を捕える。
「それは君が意識していないからだろう。だが今は違う。
君はつい先刻君が言っていた通り、確かに雌の顔をしている。
扇情的でしなやかな色気を持つ、雌の顔をね。」
言いざま、ゆっくりとブラッドが彼女の唇へと自らの唇を寄せる。
刹那。
唇と唇が触れ合うスレスレの状態で、が口を開いた。
「、ついさっきミルクティー飲んだばっかりなんだけど。
キスをしたらアナタにも味が移るかもしれないわよ。」
「フッ…構わないさ。
言っただろう?君に出している紅茶はミルクと相性の良い茶葉を使用しているんだ。
大体私はミルクティー全般を否定している訳ではない。」
そう口にしながら、ブラッドの手はの下着を器用に脱がし終え、
彼女の胸元を弄り始めていた。
「それはそれは。ミルクティーで殺されかけたから、つい聞きたくなっちゃったわ。
キスした直前に殺されたんじゃ、さん浮かばれないからねぇ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これ以上私を焦らすのは止めてくれないか、。」
再びおどけた口調を取り戻した彼女に、半ば苛立ったような声音で彼は言った。
だが、やはりその声は何所か熱を帯びている。
は僅かに瞳を細めて笑った。
「いいわね、天下の帽子屋ファミリーのボスを焦らすなんて滅多に出来ないお遊び、
癖になるかも。その代償は命ってとこが笑えないけど。」
「ほぉ、そんなお遊びは癖になる前に即刻諦めてもらわなければいけないな。
だが、結局君は今現在そういった方向に持っていこうとしている。代償は頂くぞ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無論、命ではなく、別のものでね。」
言葉尻をの唇へ押し込むように、
ブラッドは言葉を終えるか終えないかの内に彼女へと口づける。
その姿は、まるで彼女の唇に喰らい付いている如くにも見えた。
露になった互いの肌と肌が密着し、
のなだらかな胸がブラッドの中の情欲をさらに高めていく。
その瞳は、既に雄の本能の色を強く滲ませていた。
「、君を喰らい尽くしてあげよう。私の一部になったとまで錯覚する程に。」
彼女の耳朶を甘やかに食みながら、ブラッドはそう囁いた。
時刻が新たに巡り、静かで幻想的な夜が訪れた。
「・・・この世界って、猫やウサギ耳の獣人間は居るけど、
羽のついた人間ってのはまだお目にかかってないわね。」
はブラッドの腕の中でぼんやりと呟いた。
「・・・君はまた唐突におかしなことを言うな。」
苦笑染みた笑顔を浮かべ、彼が答える。
彼女はブラッドと視線を合わせると、常の如く軽い口調で言った。
「ほっほ!がもしもこの世界の人間だったとしたら、
羽のついた鳥人間がピッタリだと思っている訳なのだよ。」
「ほぉ、君の背中に羽か・・・・。」
刹那。
ブラッドの瞳がスゥと細められる。
彼はの裸の背中を掌でゆっくりと撫でた。
「君が余所者であったことに私は感謝するよ、
そんな厄介な物が君の背中に生えていたら、私はそれを引き千切らなければならなくなる。」
平生と変らぬ気だるげなブラッドの口調。
されどその声音には底冷えするような冷たさが含まれている。
戯言ではない。
は彼女が今しがた口にしたばかりの仮定が事実ならば、
彼が間違いなく彼女の両翼を切り落とすだろうと言う事を悟っていた。
「わお、じゃあも余所者であることに心から感謝するわ。」
言いざま、はブラッドの唇に啄むような口付をした。
ちゅ。
と言う小さな口付けの音。
そして、彼女はゆっくりと彼の腕から身を離す。
同時に床に落ちている自らの衣服に手を伸ばし、はソファから立ち上がった。
窓から差し込む美しくやわらかな月光が、彼女の肢体を照らす。
「そろそろ本格的にこの屋敷に滞在したらどうだ?。
私はいつでも歓迎すると言っているだろう。」
「ありがと。」
短く礼を述べ、は確実に着衣を整えていった。
やがて完全に衣服を身につけると、彼女は太腿にある短銃に手を伸ばす。
はそれをクルクルと器用に回し、銃口に軽く口付けをした。
「でもにはのゲームがあるから。
ひとっ所に留まってるより今の状態のがあってる。」
アナタには捕まらない。
ブラッドには彼女の心の声がそう続けたような気がした。
彼の形の良い薄い唇が、僅かに歪んで笑みの形を取る。
「また、いつでもこの屋敷に来なさい。
妖しく乱れる、その雌の姿で私を存分に楽しませてくれ。」
「ほっほ!・・・それじゃ、またお邪魔しますわ、ブラッド=デュプレ」
言い残し、が彼の居るソファに背を向けた。
ブラッドは彼女の姿がドアの向こう側へと消えていく様を、ジッと見送っていた。
「・・・・・・・・、君の背中には、既にもう翼が生えてしまっているようだな。」
彼は一人、そう、小さく呟く。
幾度肌を合わせようとも、彼女は決して、自身の全てをブラッドに捧げようとはしない。
常に自由であり、気侭にこの世界を渡り歩き続けている。
それは、さながら大空をのびのびと羽ばたく野鳥の如く。
さて、どうやってあの翼を切り落とすべきか・・・・。
ブラッドは心の内で思案を巡らせるのだった。
(終わり)
後書き
どんなだあああああああああ(前回に続き2回目)
攻めまくりのブラッドは大好きなんですけど、それだとAで書けそうだし、
書いているので、ここはブラッドが余裕有りつつも、実は必死な感じにしたくて書きました。
って言うか、やっぱりヒロB色々な意味で何か現ヒロとして間違ってる(苦笑)
ではでは、ここまで読んで下さった有り難い姫様に感謝しつつ、失礼いたします。
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