「待てよ、。」

帽子屋屋敷内。
出入り口の扉へと続く長い廊下。
真昼の時刻が巡り、数時間ほど経ったその頃、
は足早に歩を進めている最中に、背後から聞き慣れた声に呼び止められた。

「ああ、ウサギちゃんか、どうしたの?」
「俺はウサギじゃねぇ・・・!・・・それより、
その荷物、アンタ、まさかもう次の場所に向ってんのか?」

既に挨拶とすら言える言葉を交わし、エリオットは不機嫌に彼女に問いかけた。

「まぁね、ちょっと約束があるのよ。」
「・・・・・約束?相手は誰だ?」
「次の夕方からはお城に滞在する約束なの。」
「・・・つまり女王とかよ?ブラッドの敵じゃねぇか!」

彼は益々機嫌を損ねた様子で眉間にしわを寄せた。
は肩をすくめて苦笑して見せる。

「ブラッドの了解は取ってあるからご安心を。さすがに快くとはいかなかったけど。」
「当たり前だぜ。つか、大体今昼だろ!?
なのに何でさっさと荷物まとめて出て行こうとしてやがんだよ、アンタは。」

言いざま、エリオットはの手にある荷物に手を触れ、軽くの彼の方へと引き寄せた。

「わおわーお!がここに滞在するの、反対じゃなかったの?」
「誰もンなこと言ってねぇ・・・。」

ふてくされた様な表情で言葉を返し、彼はから視線を逸らす。
彼女はニヤニヤとした笑みを浮かべて言った。

「そうか、そうか、何だかんだ言って寂いしいのね、ウサギちゃん。
ウサギは寂しいと死ぬってアレかぁ。可愛イイねぇ。」
「誰がウサギだ!!何度も言わせんじゃねぇよ!可愛いの意味も分らねぇ!
つか気色悪ぃから止めろ、その喋り方。」

軽い口調で言葉を紡ぐ彼女に、エリオットは少々苛立ちを含んだ声でそう答える。

くすくす。
は小さく声を立てて笑うと、背伸びをして彼の頭部から突き出ている長い耳に触れた。
エリオットは一瞬驚いたような表情を見せたが、彼女を振り払うことはなかった。

「今は昼だけど、次はきっと夕方が来るわ。
知ってるでしょ、さんの予想が高確率で当たること。」
「だけど今回は外れるかもしれねぇだろ。アンタは預言者じゃねぇんだぜ。」

むす、と、明らかに不満げな声音でエリオットが返す。
その姿はまるで駄々をこねる子供のようでもあった。

「ほぼ9割の超神がかり的な確率で当たってるのに?
・・・大丈夫よ、エリオット、ブラッドにもせめて15回後の夜には戻って来いって言われてるし、
あっという間にまたここにご厄介になるから。」

彼を宥める如く穏やかな声でそう口にし、はエリオットの耳から手を離した。
それじゃね。
一言残し、クルリと彼女が踵を返す。
刹那―――

!」

彼女の荷物を掴んだままだったエリオット手が、先ほどとは違い力強く彼女を引き寄せた。

「わお!エリオット!?」

不意を突かれたは、珍しく彼の名を呼び、振り返る。
だが、背後から抱きすくめられた状態の上、
エリオットが彼女の肩口に顔を埋めて長い耳がの視界を遮ったため、
完全に振り返るには至らなかった。

「俺がやっと長く休暇取れたって時に限って逃げるんじゃねぇよ。」

ボソリ。
呟くように告げられたエリオットの言葉。
は無意識の内に微笑を浮かべていた。
再度、彼の長い耳にそっと手を伸ばし、撫ぜる。

「ごめんね、エリオット、だけど―――」

カツ
ころころころころころ・・・・

「「?」」

が言葉を続けかけたその刹那、彼女の荷物から機会を見計らった様にして、
何かが廊下の絨毯へと転がり落ちて来た。
瞬時、二人は同時にそちらへ視線と意識を移す。
そして。

「・・・・砂時計・・・、これ、アンタのだよな?」
「あ、ホントだ。わお、まだ残ってたのね。」

エリオットが彼女から離れ、身を屈めて拾い上げたそれは、小さな砂時計だった。
この砂時計の使用法は、この世界の物ならば誰しも知っている。
砂時計に願いを込める事で、時刻を自由に変化させる事が出来るのだ。
しかし、時刻を自由に変化させる事が可能な人間は、
この世界の住人では時間の番人であるユリウス=モンレーにのみ許される行為であり、
役持ちであろうとも、砂時計を使用することは許可されていない。
それがこの世界の規則だ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「こらこら、何を考えているのかな?ウサギちゃん。」

彼女の問いに、エリオットは喜々とした表情を見せる。

「ルールってのは、破るためにあるんだ。ま、毎回破ってちゃ意味はねぇが、
たまに破るってのは有りの筈だ。当然、俺はブラッドの決めたルールを破る気はさらさらねぇ。
けど、このルールはブラッドの決めたもんじゃねぇし、今俺にはどうしてもこれが必要なんだ。」

長々とそう述べた後、彼はそれを自らのジャケットの内ポケットへと仕舞い込み、更にこう続けた。

「万が一次が夕方だったら俺が夜に変えてやるぜ、
だからアンタは滞在延期決定ってことになる。良かったな!」

(終わり)


後書き
少しだけ強引なエリオットを目指してみました。拍手ボリスのエリオットver的な話。
しかし彼の場合はもしも砂時計が出てこなかったとしても、
どうにかヒロインを引き留めそうな気がしないでもないんですが(笑)
いつかマフィアのNO,2的なシリアス系のエリオットも書いてみたいです。
ではでは、ここまでお付き合い下さった姫様、感謝感謝にございます。失礼します


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