ナイトメアは不機嫌だった。
否。
彼はと顔を合わせた場合、常に不機嫌な状態であると言える。
そしてナイトメアは今夜も例外なく不機嫌だった。
「みのちゃんさ、と一緒に居る時毎度毎度仏頂面よね。
さん悲しいな〜。」
「・・・その呼び方はやめてくれないか。」
ごほ、ごほ。
小さな咳と共にナイトメアが答える。
は少々意地の悪い笑みを浮かべながら返事をした。
「蓑虫だからみのちゃん。可愛らしくて結構結構。
少しでも仲良くなろうって言うさんなりの思いやりなんだけど。」
「・・・君の場合は何か妙な悪意を感じる。
大体『ちゃん』付けと言う柄でもないんだ、私は。」
ふてくされたような声音で言い、再度、彼はゴホゴホと咳をする。
だが、今日は常よりも幾分か体調が安定しているようだった。
少なくとも唐突に吐血し始めることはないだろうと、は心の中で安堵した。
「悪意?わお、が、みの○んたに引っかけてそう呼んだのがバレてる?
もしかして実はやっぱりの心覗けたの?」
「誰だ、そのみの○んたと言うのは。そんな男は私の知り合いにはいないぞ。
・・・・・・・・・・・・・・・それに、以前にも言っただろう、私は君の心の中は見えないんだと。」
ナイトメアの口調が益々拗ねた子供のような物へと変わる。
彼女はけたけたと楽しげな笑い声を上げた。
「初めて会った時は凄く驚かれたわよね。」
「ああ、君の心は特殊だ。
私が触れようとすると、その瞬間に白い靄の様なものが全てを隠してしまう。
ここは私の世界、本来ならそんなことが起こる得る筈もないんだが…。」
ナイトメア。
彼はその名の通り夢魔だ。
そして、ここは彼のテリトリーである、夢の世界。
ナイトメアの管理下に置かれているこの世界では、
誰もが心の内を完全に包み隠すことは出来ない。
だが、は違った。
アリスでさえこの世界では心の内全てを曝け出す状況に陥っているにも関わらず、
だけは彼が望む、望まないに関わらず、その心を読むことが微塵も出来ずにいるのだ。
「よく分らないけど、だったらせめてちょっと位アナタに見て貰った方が良かったのかもね。」
「?大体において、人は皆、心の奥に触れられる事を余り喜ばない。
弱い部分や醜い部分は隠しておきたいものだからね。君だってそうだろう?」
「言ったでしょ、ちょっと位って。だって不公平っしょ。
は別に自分の意志でアナタに心が見えないようにしてる訳じゃないわ。
なのに嫌われてる。さすがのさんも凹むってもんよ。」
彼女の口調は常と変らず軽いものだったが、
その瞳は話の内容を反映するように寂しさを滲ませていた。
瞬時、ナイトメアの表情に動揺が浮かぶ。
「わ、私は君を嫌ってなど居ないぞ。」
「わお、だけどと会う時はいつも仏頂面よね?
最初はそれがデフォかと思ってたけど、アリスに聞いたわ、
アナタ、普段はもっと可愛らしい性格らしいわね。さんは悲しいぞ。」
言いざま、は殊更大げさにガクリと項垂れて見せた。
そして彼の動揺がさらに大きなものとなる。
この世界の挟間とも言える場所で幾人もの人間を見てきている彼には、
言葉や表情だけが心の内を表すものではないということを真の意味でよく理解していた。
だからこその言動の奥に潜む感情を読み取れぬことに焦りにも似た感情を覚え、
必要以上に彼女の言葉に振り回される結果となるのだった。
ナイトメアが彼女と顔を合わせた際に不機嫌な大きな原因は、
その事が大きく関係していると言える。
「可愛らしいと言うのは適切じゃないな。
と言うか、どんな話をしているんだ!?君たちはっ・・・!」
「アナタの吐血回数の総合と体調についてとか、色々。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・これ以上深くは聞かないでおくとするよ。
とにかく、私は別に君を嫌っている訳じゃない。知っているだろう、
余所者は好かれる体質なんだ。私が君を嫌う訳がない。」
ナイトメアの答えに、は僅かに複雑な表情をして見せた。
その眉間に、軽くしわが寄っている。
アリスも同様だが、彼女等は『余所者』であると言う理由のみで好意を持たれる事を、
余りよしとしていない様だった。
「ま、でも、嫌われてないんだったらいっか。」
「ああ、私は君を嫌って等居ない。
寧ろ好いているよ、君みたいな人間はこの世界でも珍しいからね。
色々な意味でも感心している。」
平静を取り戻した彼は、青白い顔に薄らと微笑を湛えて言った。
現の者には決して真似できぬ、幻のように儚い笑み。
は初めてナイトメアのそんな表情を目にしたのだった。
「・・・っと、そろそろ目が覚めそうだわ。」
「ああ、そうみたいだ。・・・また、来るといい。君に望まれて出会うのは私も心地いいからね。」
ゆるゆると、は夢から現実へと引き戻されていく気配を感じていた。
彼女は視線をナイトメアに向けたまま、問う。
「・・・心が見えなくても?」
「ああ。」
青白い端正な顔の夢魔は、短く答え、頷いた。
彼らの周囲に、光が満ち始める。
目覚めがやってくる。
刹那―――
はナイトメアの胸元を掴み、自らの方へと引き寄せた。
「っ!?」
驚きに目を見開いている彼の唇に、彼女は自身の唇を押しつける。
存外柔らかな彼の紫がかった唇は、やはり何所か冷たかった。
覚醒する直後。
悪戯っぽい表情と共に、は囁くように彼に告げた。
「ナイトメア、また必ず来るから。」
(終わり)
後書き
お初、ナイトメア夢でしたっ!しかし本当はこれ、
ヒロAでやろうと思っていたネタだったりします(笑)でもBのが書き易かった。
しかしまた微妙な展開の話になってしまいました。甘さの欠片位は見つけたい所。
何だ、攻めのヒロインみたいになってないか、これ(笑)
ではでは、ここまでお付き合い頂いた姫様、誠に有難うございました!失礼します!
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