、私の前で無理をして笑わなくてもいいんだよ。」
「・・・・・・・・・・・え?」

深夜。
夢の中での束の間の逢瀬。
の前に姿を見せたナイトメアは、青白い顔に微笑を浮かべて彼女にそう告げた。
予想外の夢魔の言葉に、彼女はほんの一瞬動揺の表情を浮かべた後、問い返す。
ナイトメアは薄らと唇で弧を描いたままで再び言葉を紡いだ。

「フフ・・・図星かい?珍しく動揺しているね。
言っておくけど、君の心が見えている訳じゃない。
以前から何度も言っているが、この私にも君の心には触れることが出来ないんだ。」
「・・・・わお、、今、聞き返しはしたけど肯定はしてないわよ?」
「だが間違いなく君は動揺している。」

ナイトメアは確信に満ちた口調でハッキリと断言した。
の瞳の奥。
ゆらり、何かが、確実に揺らいでいた。

「どうして、そう思うの?」
「君の心が読めなくとも、ここは私の領域だ。
そして私はこの世界で数え切れぬ程の人間を目にしてきた。
それと同じ程大勢の人間の心に触れて来たんだ。」

そこで彼は言葉を切り、宙に浮かせた体をふわとの側へと近付けた。
その後、更に、先を続ける。

「だから分るのさ。
全てを感じ取ることは出来なくとも、君とはもう幾度もこうして顔を合わせている。
そこから君と言う人間の本質を見極める程度の事は、ね。」
「なるほど、なるほど。・・・厄介な相手だ。」

くすり。
は苦笑と共に答えた。
その様子に、平生の軽さと明るさは、全く見られない。
ナイトメアは彼女の背に回り、後ろからそっとを抱きしめた。

「ここは夢の世界だ、。そしてここには君と私しか存在しない。もっと肩の力を抜くといい。」
「撤回する。」
「何をだい?」
「以前にアナタにちょっと位なら心を覗いて貰ったら良かったって言った言葉。
・・・このさんとしたことが、鍍金が剥がれたって感じで、情けない。」

そう口にした彼女の横顔。
現の世界では滅多に見せぬ複雑な表情を浮かべていた。
ナイトメアは両腕に僅かに力を込め、更に彼女を抱き寄せる。

「君の明るさは鍍金ではないよ。その明るさにここの連中は皆救われている。
だからこそ、彼らは君を欲し、求めているんだ。」

半ば囁きかける如くして、彼はの耳元にそう告げた。
彼女は暫しの間宙に視線を彷徨わせ、逡巡している様子を見せた後、
静かにナイトメアへと問い返す。

「・・・・・・・・・・アナタは?」
「ん?」
「アナタはどう?アナタもを必要としてくれてる?」
「勿論。前にも言っただろう、私は君を好いている。君を理解出来るようになってからは特にそうだよ。
だからこそ君の心に触れられないのがもどかしい。」
「・・・・・・・・・ナイトメア。」

は彼の名を口にすると同時に、ゆっくりと首を捻り、彼の唇に自らの唇を重ねた。
刹那、虚を突かれた表情を見せた夢魔だったが、やがての体に回している腕で、
彼女を自身と向き合わせる形に引き寄せる。
は素直にそれに従い、ナイトメアの体に腕を絡ませた。
そして、互いに触れ合わせただけの口付は徐々に濃厚さと深さを増していく。
常ならば青白い筈のナイトメアの顔は、
僅かに朱に染まり、生気が宿っている如くに見えた。
やがての覚醒の気配を感じ取り、ようやく二人は互いの身を離す。
同時に、名残り惜しげに二人の唇を結ぶ銀色の糸。
彼女はその銀糸を舌で絡め取り、同時にナイトメアの濡れた薄い唇をねっとりと舐めた。

「っ!き、君は・・・。い、いや、何でもない。
――そろそろ、目覚めの時が迫っているようだな…。」

周囲が白みはじめ、徐々に光が拡大していく。
はぼんやりとそちらに視線を向け、そして静かに口を開いた。

「ナイトメア、・・・、無理して笑ってるのとは少し、違う。」
「うん?」
「ただ、酷く滑稽な道化みたいに思える時があるってのはホント。
笑おうとしなくても、無意識に笑ってる時がある。
たまに表情を的確に選べてないんだな、さんは。」
「・・・・・・・・・。」

ナイトメアが何事か先を続けかけたその刹那――――
光は彼らを完全に包み込み、彼女は現の世へと意識を移した。


――私は今、夢魔であることを心から感謝するよ。
君の本音をここまで引き出せた者は、未だかつて居なかっただろうからね――


(終わり)


後書き
何だか、シリアス仕立てになってしまいました。
ヒロBはナイトメア相手だと他キャラより素直になる様です(私の手を離れてるヒロイン(笑
ヒロAでは吐血ナイトメアも書きたいと思っています。
ではでは、ここまでお付き合い下さった姫様、大変有難うございました。


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