―あらら、夜が来た。ねぇ、ユリウス、今日はここに泊めてくれない?
   
・・・・・・・・・・・・お前、それは冗談のつもりか?
それとも新手の嫌がらせのつもりで言っているのか?

―残念、両方外れ。大体ユリウスは冗談が嫌いじゃんよ。
実はさっきっから眠くて、だからこれからあの階段を降りる気には到底なれない。
って言うか、ハッキリ言って無理ね。階段降りる途中で確実に寝てるわ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



なんて会話を交わしたのがほんの少し前のこと。
あの後結局、ユリウスは何だかんだと文句を垂れつつも、を時計塔に泊めると言ってくれた。

「ユリウス、ホントに床でいいから。
どうせ仮眠なんだし、それにより絶対あんたのがベッドが必要だと思う。」
「いいから、さっさと寝ろ。私は今眠るつもりはない。
それにお前に床で寝転がられるのは逆に迷惑だ。
寝相が余り良さそうには見えないからな。ここにある物を壊されでもしたら堪らない。」

にそう返事をしながらも、仕事をする手はしっかりと動いているユリウス。
最近に始まったことじゃないけど、彼は実によく仕事をする。
葬儀屋。
と呼ばれている彼の別名通り、この世界にとってはユリウスの仕事は無くてはならないもの。
彼に会いに来て、お客が時計を持ち込んだ場面に居合わすことも少なくない。
このハートの国では時計=命。
つまり彼は命を再生させる仕事。
アリスが彼の仕事を見てて『神聖なもの』に見える表現していたけど、それは本当に的を射てると思う。

「切羽詰った仕事でもあるの?ユリウスの性格から言ってそれは有り得なさそうだけど。」
「当たり前だ。そんな物はない。」
「だったら寝ればいいじゃない、いい加減体壊すわよ。
それに、は寝相は悪くないから安心して床に寝せてくれていいから。」

言って、は彼の2段ベッドから降りようと梯子に向かう。
だけどすぐにそれをユリウスに止められた。

「私のことは気にしなくていいから、さっさと寝てしまえ。
大体、階段を降りる途中で眠りそうだとまで言っていたくせに、
べらべらと下らないことを喋っているんじゃない。」

とにかく床になんか寝なくてもいい。
つまりそう言うことだろう。
ユリウスの突き放した物の言い方も、最近は以前よりずっとやわらかくなったし、
何よりその奥にある言葉の意味もは判るようになってきていた。
この後、すったもんだの言い合いをして、最後に折れたのはユリウスだった。
結果、と彼は一緒のベッドに居る。
あのゲームでのアリス曰く『おかしなパジャマ』は着ていなかった。
本当は少し見てみたかったんだけど。
それにしてもまさかこのシチュを自身が体験することになるとは、思いも寄らなかった。
は眠る時仰向けの体勢を取る訳ではないので、ユリウスの方を向いて横になっている。
ただ、彼はに背中を向けていた。
別に恋人同士じゃないんだから、仕方ないんだけど、やっぱり気分的に寂しい物がある。
ぼんやりと彼の後姿を目にしながら、はユリウスの長髪に手を伸ばしてふれてみた。
その手触りで、彼の髪が見た目だけじゃなく、本当に綺麗なんだと分かった。

「おい、眠るんじゃなかったのか?。何をしている。」
「や、何か、目の前に綺麗な髪があるから触りたくなって。」
「・・・まったく、お前は本当に眠る気があるのか?」

言いながら彼はの方へと体を向けて、呆れた様な溜息を吐く。
でも、何だかんだ言いつつ、彼の表情はそんなに嫌そうじゃない。
それに、さっきからユリウスは結局の言うことを聞き入れてくれている。
それが嬉しくて、ついついの口元が緩んだ。
『プレイヤー』的な立場のあの頃、は彼の態度が軟化していくにつれ、
思った以上に可愛い一面を見せてくれることにかなり喜んでいた。
実際それを生で体験できるなんて、幸せすぎるじゃないか。
なんてことを考えていると、ユリウスが怪訝そうな目でを見て言った。

、何を笑っているんだ。気色の悪いヤツだな。」
「え?ああ、ごめん。嬉しくて、ユリウスって可愛いなぁってさ。」
「・・・・・・はあ!?」

コイツ、何を言ってやがんだ!?的な声を上げ、を見つめるユリウス。
はくっくと喉を鳴らして笑った。

「分かってるわよ、ユリウス君。キミが本当は可愛い人だって。照れるな照れるな。」
「馬鹿じゃないのか!?お前は!エースみたいなことを言うな!」
「あははっ!」

エースと一緒にされるのは全く持って喜ばしくないけど、
彼の反応がやっぱり可愛くて、笑ってしまう。
ユリウスはかなり不機嫌そうな表情でを見下ろしていた。

。」
「ん?」
「お前はさっきからそうやって下らない話ばかりしているが、ひとつ忘れていやしないか?」
「・・・・??」

ユリウスからの質問に、答えることが出来ず、は視線だけで先を促した。
と、いきなり彼がのすぐ側まで顔を寄せてくる。
吐息が吹きかかりそうな距離まで詰められて、さすがに少し驚いた。

「私が男だと言うことを忘れていないかと聞いているんだ。」
「それは・・・・」

思っていた以上に真剣な声。
勿論、彼が男だと言うこと位わかってる。
いや、分かってるつもりだった。
と言うより、例えば相手がボリスやブラッド、双子辺りなら、
は最初からもっと警戒して、自分からこんな状況に持ち込んだりしてない。
だけど、何処かでユリウスのことは女の以上に『乙女』的なポジションだと思い込んでいた。

「私だって男だ、その気になれば・・・お前に触れようとするかもしれない。」
「え・・・?」
「・・・・・・・・・・・フン、安心しろ。今はそのつもりはない。
ただ、もう少し警戒心を持てと言いたかっただけだ。」

何処か拗ねた様な声でユリウスが言って、から体を離した。
瞬間。
ふっ、と、妙な寂しさに襲われる
期待していたのかもしれない、彼が、今、に触れること。
そう考えると、無性にムカムカしてきた。


ああこれ、ちょっと一種の逆ギレに近い物があるわ。


「ユリウス。」
「何だ?・・・っ・・・!?」


―グッ


彼が返事をしたのと殆ど同時に、はユリウスの襟首を掴んで思い切り自分の方へと引き寄せた。
そして、有無を言わさず彼の唇にの唇を押し付けた。
ユリウスが呆然としている内に唇を離し、彼に背中を向けて不貞寝する。

「なっ、なっ、何なんだ、お前は!」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」

ムカつくから、今は言ってやらない。
さっさと手を出してくれても構わないなんて。


(終わり)



後書き
ユリウスは一歩踏み出したら雪崩のように先へ進むようですが、
今回は一歩踏み出す手前な感じで(笑)ユリウスは他のキャラに比べれば書き易いかもしれない。
あくまでも他のキャラに比べれば、ですが。
ではでは、ここまでのお付き合い、誠に誠に有り難うございました。
貴重な姫様に感謝でございます。失礼致します。


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