少女は今日もいつもの部屋から窓辺で外を見下ろしていました。
今日もと言うのは少しおかしいかもしれません。
何故ならこの世界は、一日の区切りと言う物が余りハッキリしていないからです。
朝の次に夜、夜の次に夕方、夕方の次にまた朝を迎えることも、この世界では全く珍しくないのです。
そして今は輝く太陽がさんさんと陽の光を注ぐ昼間。
開け放たれた窓からは、遊園地の軽快な音楽と子供たちの楽しげな笑い声が聞こえてきています。
休園日にはこの世のものとは思えないほど恐ろし音が響き渡り、
暫くの間耳が正常に機能しない事も有りますが、
それでも少女はこの遊園地を大層気に入っておりました。
少女の名前は
彼女は随分と長い間この部屋に滞在していますが、この遊園地の誰も彼女の存在を知りません。
少女は自由にこの部屋から出入りをし、客室から客室へと足を運び、
時には遊園地内を歩き回ることもあります。
けれど誰も彼女を見ることはできません。
この世界の有力者で有り、役付きで有るこの遊園地のオーナー、メリー=ゴーランドさえ、
少女の存在は知らないのです。
けれど彼女はメリー=ゴーランドのこともよく知っており、
彼がファーストネームを呼ばれることを酷く嫌がっている事や、
休園日に聞こえる壊滅的なセンスの音楽が彼の手から生み出されている事、
そして彼の性格についてもよく把握していました。
またオーナーである彼のことだけでなく、従業員たち、
そしてこの遊園地に居る居候で有りもう一人の役付き、チェシャ猫のボリス=エレイの事も少女はよく知っていました。
カラフルな彩りの園内。
その中でも鮮やかな全身ピンクのチェシャ猫は、少女の目を一番惹きつける対象でした。
どんなに離れた場所に立っていても、
猫少年のパープルにも近いピンク色は、すぐに彼女の目に飛び込んでくるのです。


彼女は知っています。
チェシャ猫がどんなに気まぐれな少年かを。
彼女は知っています。
チェシャ猫がどんなになぞなぞ好きな少年かを。
彼女は知っています。
チェシャ猫がどんな笑顔を見せる少年かを。


けれど猫の少年は少女の事を知りません。
長い長い間この部屋に滞在している、この少女の事を。
少女は窓辺で外を見下ろしながら、小さく溜息を吐きました。
彼女はこの広大な遊園地内のどこに何があり、
どんな人間がどのようにして働いているのかを知り尽くしていますが、
それが全く無意味なのだと言う事も知っていました。
何故なら少女はもう随分と前に命を失ってしまっているからです。
そうです、命がない少女は、この場に居ないも同然なのです。
その昔、この世界の住人と違い、時計ではなく心臓を持っていた少女は、
『余所者』と呼ばれる特別な存在でした。
余所者はこの世界では皆から愛されるものです。
けれど彼女にはもうその特別な証のハートがありません。
それに、彼女は皆を見ることが出来ますが、皆は彼女を見ることが出来ないのです。
少女が望めば皆の前に姿を現すことも出来るのですが、彼女はそれを強くは望みませんでした。
長く親しんできたこの場所を追い出されてしまうかもしれないことが心配でもありましたし、
何より自分の姿を見て遊園地の人々が怯えたり嫌悪感を露わにしたりする様子を見たくなかったのです。
それでも、遊園地で楽しげに過ごす人々の様子は、長い間彼女の憧れの対象でした。



少女は今日もいつもの部屋から窓辺で外を見下ろしています。
少女は今日も孤独でした。


(END)


後書き
ゴーストシリーズ開始。シリーズ!!と言いはります。
何故ならば、私は今までまともに連載を完結させた事がな・・・・(号泣)
取りあえず一話完結でボリスお相手でちまちま。
つか幽霊ヒロインって今までで一番の特殊設定じゃないだろうか。
少しでも興味を持って読んで下さった姫様に感謝です。
では、失礼致します


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