あの時間帯、俺がその部屋に足を運んだのは全くの気まぐれだった。
本当に特に理由があった訳じゃない。
でも今考えるとあの気まぐれも妙なもんだったと思う。
大体、今更自分の部屋以外の客室なんか見て回ったところで退屈なだけだし、
そんな時間があるならもっと他に楽しいことは沢山あった筈だ。
にも関わらず、俺はその日、何故かふらふらとその客室に足を運んだ。
もしかしたら、無意識に聞いていたのかもしれない。
あのコの声を。
彼女の、俺を呼ぶ、声を。





その客室に入ってすぐに俺の視界に入ったのは窓辺でぼんやりと突っ立って外を見ている女の子だった。
女の子と言っても、多分歳は俺と同い年くらいだろう。
顔はこっからじゃよく分からない。
ま、どうせ役なしなんだ、顔なんて分からなくても当たり前だし、正直どうだっていい。
とにかく、俺が部屋に入ってすぐに、彼女が目に飛び込んできた訳だ。
こっち側の客室はここ数百時間帯以上、余り使われてないって話を聞いたことがあって、
俺はすぐにその役なしが無断でこの客室に入り込んだと判断した。
さっさと撃ち殺しても良かったんだけど、それだと後々おっさんにバレた時が面倒だ。
それにやっぱり遊園地内で女の子を殺すってのも余り格好イイ話でもない。
俺は仕方なく一応声を掛けて追い出すことにした。

「なぁ、あんた―――」

言い掛けたところで、俺は一旦言葉を切った。
実はこの部屋に入った時から感じてたりするんだけど、
この女の子の周りは何となく様子が普通と違う。
女の子の周りってより、正しくは女の子自体が他と違って感じた。
まず、一番に彼女からは人の気配がしない。
(言っとくけど、見た目は耳も尻尾もない普通の女の子だ)
だからって気配を殺すほど緊張してるとか、他人から隠れてるって訳でもなさそうだ。
大体ドアを開いてすぐ目に入る窓辺に突っ立っている時点で従業員の事を気にしてる感じじゃない。
それから次に、彼女の体は全体的に青白く光っていた。
勿論夜の遊園地内の派手な電飾とは全然違う、控え目な光かただ。
そして最後、これが俺的に一番驚いたんだけど、女の子の体は微妙に透けていた。
まぁ透けてるって言っても、向こう側の景色が見える程じゃない。
何となく体がぼやけてるって言うか、ハッキリしてないって言うか、とにかくそんな感じだ。
俺はそれをもっとよく確かめようと女の子の側に近づいた。
彼女は少しの間外を眺めていた時と同じようにぼんやりと俺を見つめ、
それから何故か驚いたように瞳を見開いて固まっていた。
様子から見て役持ちの俺が近づいてきた事にビビってるってのとちょっと違う感じだ。


「・・・うわ、マジで体が透けてるんだ。何者?客って訳でもなさそうだし、
・・・・・・・・・・・しかも役なし・・・だよな?何でそんな顔がハッキリしてんの?」
「・・・・・・・・・・・・え?・・・・・・・・何?まさか、に言ってる?」
「はぁ?他に誰か居んのかよ?俺とあんただけだろ、この室内。」

俺の返事に女の子は益々驚いたように動揺して見せた。
落ち着きなく自分の体や手足を見て、何かを確かめようとしてるようだった。
挙動不審もいいとこだ。
けど、顔は悪くない。

「・・・・・・・・、が見えてる?」
「だからさっきからそう言ってるじゃん。
で?いい加減俺の質問に答えてよ、何者なの、あんた。」

彼女は暫くの間無言で俺を見つめ、それから溜息を吐いた後、ようやく口を開いた。

は役なしじゃないし、客でもないわ。でもずっとここに住んでるの。」
「・・・・・・・・・・ねぇそれってさ、無断宿泊ってヤツなんじゃない?
しかも役なしじゃないって、まさか役付きだとか言うつもり?」
「違う、どれも不正解。」
「じゃあ何?」

俺は少し苛々した言い方で聞き返した。
俺自身がなぞなぞを出すのは好きだけど、答えを焦らされるのは嫌いだ。
だけど不思議と銃を出そうとは思わなかった。
いつもならとっくに相手に銃口を向けて、もっと言えば撃ってたかもしれないとこだ。
でも彼女にはそうしようと言う気が起きなかった。

。元余所者。」
「・・・・・・余所者!?あんた余所者なの?」
「元ね。今は・・・・・・・・・・の手に触れてみれば分かる。」

そう言って、彼女は俺の方に手を差し出して見せた。
丁度握手を求めるみたいに。
俺は素直にその手に自分の手を重ねようとした。

「!?触れない、・・・・うっわ、やっぱ透けてるってこういう(・・・・)ことだったのか!」

確かに彼女の手を握ろうとしていたのに、俺の手は女の子の手をすり抜けてスカスカと空中を切る。
それが面白くてなんども手を動かしていると、は苦笑して言った。

「そうよ、こういう(・・・・)こと。」
「あー、あんたもしかして地縛霊ってヤツ?」
「・・・・・・・・、幽霊かもしれないけど、別にここに縛られてる訳じゃないし、
この敷地内だったらどこにだって行ける。」

俺の言葉にムッとしたのか、彼女は眉間にピクリとしわを寄せた。
そんな顔も中々可愛いと思った。

って言ったっけ?いつからここに居んの?」
「・・・・・・・・・。・・・・・・・・・・・。‥‥え?あ・・・」
「っと、その前に、俺は――」
「ボリス=エレイ。自己紹介は要らない、ここの人間の事は皆知ってるから。」
「へぇ・・・じゃあ当然おっさんのことも知ってるんだ。
まさかとは思うけど、従業員達のこともいちいち覚えてんの?」
「・・・何かさっきから質問が多いのね。
・・・・・・・・・・・・・・ここにいつから居るかなんて覚えてないし、
さっきも言ったけど、ここの人間の事は役付きだろうと役なしだろうと皆知ってるわ。」

俺やおっさんのことだけならまだしも、
顔なしの従業員の連中まで皆把握してるなんてよっぽど暇を持て余してるとしか思えない。

「あんた随分長い間ここに居るみたいだけど、俺は全然あんたの事知らなかったぜ。
おっさんからも聞いたことないし、従業員の奴らも知らないよな。」
「誰も知らないはずよ。誰もを見ることが出来ないから。」
「?けど俺には見えてる。」
「・・・・うん、・・・・・・・・・・・初めてよ・・・。」
「へぇ、やっぱそうなんだ。けどさ、そんなに長い間一人って、つまんなくなかった?」
「――――別に、慣れてるし・・・。」

彼女はそう言って俺から視線を逸らした。
やけに素っ気ない口調だけど、慣れてるってよりは諦めたって感じだと俺は思った。
きっと、今回俺が彼女を見ることが出来たのも、本当に予想外の出来事だったに違いない。
これは俺にとってはラッキーだったのかもしれない。
幽霊なんてアリスの話でしか聞いた事がないし、特に信じちゃ居なかったけど、
実体のない女の子の友達ってのもおもしろそうだ。
何より俺は彼女を気に入ったし、もうちょっと仲良くなってみたくなった。
さっきから表情の変化が微妙な感じだけど、俺の予想だと笑うと今よりずっと可愛いんじゃないかと思う。
俺はに向って右手を差し出した。

「今日からあんた、俺と友達になろうぜ、。」
「え・・・・・・・・・・・、友達・・・と・・・あなたが?」
「そう、俺とあんたが。こうして俺があんたの姿を初めて見ることが出来たのも何かの縁だ、そう思わない?」
「・・・・・・・それは、・・・・・そうね。」
「だろ?じゃあほら、俺の手、握ってよ。触れられなくてもそれらしい形には出来るだろ。」

俺の言葉に少しの間躊躇った後、彼女は俺と同じようにゆっくり手を差し出してきた。
そして、俺とは触れ合うことのない握手を交わす。
何だかやっぱり変な感じだ。

「ヨロシク、。これで俺とあんたは友達だ。
じゃあ、今日は俺、もう行くけど、また遊びに来るからさ。
っていうか、同じ敷地内に居るんだし、会おうと思えばいつでも会えるよな?
それとも部屋が決まってんの?」
「この部屋にに居ることが多いのは確かだけど、どこでも平気。」
「オーケー、それじゃあまたな。」

片手を振りながら、俺はドアに向かって歩いて行き、部屋を出ようとした。
その時だ。
が俺を呼びとめた。

「ボリス。」
「何?」
「・・・・・・・・・・・・・・有難う。」
「何が?」
「色々。を怖がらなかったし、の名前を呼んでくれたし・・・、
を・・・・・・・友達にしてくれるって言ってくれたこと。」
「はぁ?お礼を言われるようなことなんかしてないけどなぁ。全部俺がそうしたいからそうしただけ。
それに普通の事ばっかだし・・・、まぁいいや、あんたが嬉しいならお礼言われとくよ。」
「うん。じゃあ・・・・・・、また。」

俺にはが『また』と言う言葉に特別感情を込めて言ったような気がした。
正直、この時の俺には、彼女の気持ちなんかこれっぽっちも分かっていなかった。
どれくらい長い間彼女が孤独で居たのかを考えるより、
元余所者の幽霊の女の子の友達が出来たと言う珍しさの方が俺にとって大きな意味のある事だったからだ。

勿論今は、そんな風には思っちゃ居ない。
ただ、この時も今も変わらず思うのは、
初めての姿を見つけたのが俺で本当に良かったってことだ。
長い間一人きりで過ごしてたあんたを救いだしたヒーロー、それが俺だって事。


この出会いが偶然だったとしても、あんたはきっとずっと俺を忘れない。
これは今でも、俺の誇りなんだぜ、


(END)


後書き
連載じゃないんだ!!シリーズなんだ!・・・すみません、言いはり続けます。
何だか連載じゃないか、なんて、気のせいだと思いましょう(暗示)
それはさておき、キャラ視点って滅多に書かない(寧ろ書けない)んですけど、
頑張った結果、ボリス偽物率高くなってすみませんでした。
努力したつもりなのですが・・・(遠い目
とにもかくにも、ここまでのお付き合い、誠に有難うございます。
姫様方に感謝しつつ、失礼致します。


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