「ボリスあなたはっ・・・!!」
「わあっ!?・・・っと、か。何?急に出てきて大声で」
「何、じゃないわ・・・!!またそんな怪我をして・・・、早く手当てを・・・!」
言いざま、は傷を負っているボリスの左腕を避け、右腕を掴んだ。
今の時間帯は夕方。
空はいつものように赤く染まっている。
だけどボリスの左腕や右足が所々赤く染まってるのは勿論夕焼けのせいなんかじゃなくて、
彼が沢山の怪我をしているから。
あれ程危険な真似はしないでって言ったのに、彼は危ないことをして遊ぶことを止めてくれない。
は唇をきゅっと噛みしめて、ボリスの腕を掴んだまま、スタスタと足早に歩を進めた。
ボリスは大人しくに腕を取られたまま、一緒に付いてきてくれる。
彼の部屋に着いてすぐに、は救急箱を手にボリスの傍に座った。
その間も殆ど無言で、ボリスの腕や足にある傷を見ては泣きそうな気分になり、
それを堪える為に唇をさっきよりも少しだけ強くかみしめる。
のその様子に気付いたらしいボリスは、申し訳なさそうにピンクの猫耳を垂れさせておずおずと口を開いた。
「・・・、怒ってる?」
「・・・・・・・・・怒ってる」
「あー・・・だよね、うん・・・・。ごめん、ちょっと遊びがエスカレートし過ぎちゃってさ」
「こんなのは、ちょっとって言わない・・・」
傷口に消毒液を含ませたガーゼで丁寧に拭きながら、は視線を伏せたまま言った。
もう何度、こうしてボリスの怪我の手当てをしたか分からない。
その度に今は時計が収まっているの胸はギシギシと泣きたい位に痛む。
ハートの国の住人になってしまった今、こんなことを思うのはおかしいことなんだろうか。
だけどやっぱり我慢できない。
ボリスが危険な目に遭って、怪我をするなんて。
いつ命取りになる様な重傷を負うかも分からないし、そんなことになったらは絶対に耐えられない。
ゴーストだったあの頃。
は彼の手当てが出来ないことがもどかしくて仕方なかった。
が実体化出来る時間帯は決まっていたから、ボリスが危険なことをしようとしても、
引きとめてその腕を掴むことさえ出来なかった。
他の人たち、この世界の人たちみたいに「仕方ない」で済ませられる様には、
はきっといつまで経ってもなれないだろう。
ううん、そんな風にはなりたくない。
「・・・・・・・、ごめん!マジでごめん・・・!謝るからさ、そんな顔しないで」
「・・・・・・・・・・・・謝るだけじゃ嫌・・・。ねぇ今度こそ約束して?お願いだから、危険なことはしないって」
「・・・・うーん、これでも努力はしてるんだけどな。もし万が一俺がデカイドジ踏んだとしても、
代わりは現れるんだぜ?それに遊びはスリルがある方が楽しいじゃん」
「ボリス!!!」
は堪らずそこで大声を上げてしまった。
ボリスの腕に包帯を巻いて居た手を止め、彼の金色の瞳を見つめる。
「、ボリスの代わりなんか要らない・・・!ねぇボリス、あなたには責任があるのよ・・・」
「・・・・・・・・?」
「もう一人にしないって言ったじゃない!一緒に居てくれるって・・・!!
あ、・・・あなたが居なく・・・居なくなったら、っ・・・・」
言葉の途中。
声が震えて、掠れてしまうのを止められない。
本当は、こんな悲しい話、したくない。
でも、口にしなければ、きっとボリスは分かってくれないだろう。
これからも危ないことばかりして、次はどんな大怪我をするかもわからない。
「・・・誰の瞳を見て自分が居る事を確認すればいいの・・・?
は独りじゃないんだって、教えてくれるのは・・・っ、あなたの役目でしょう?
、ボリスの・・・か、代わりなんて、要らないっ・・・!!」
「・・・・・・・・」
瞳を大きく見開いて、困惑したみたいな表情で彼がを見つめている。
は更に続けた。
「ねぇボリス、もしも・・・もしも逆だったら?
はもうこの世界の住人だから、この時計は受け継がれる。
それはの代わりだっているってこと・・・、役なしのカードのは、
あなたよりずっと存在が軽い・・・。
が大怪我を負って居なくなっても「あんたは違う!!!!!」
の言葉を遮る様に、そこでボリスは声を上げて言った。
「あんたは・・・、はただの役なしのカードなんかじゃない!
俺より存在が軽いなんて、そんなことあるもんか!!」
「でも今ののこの胸にあるのは時計」
「それでもあんたは元々ここの住人じゃない!
あんたが・・・あんたが怪我をするなんて・・・!ましてや居なくなるなんて、俺は絶対に嫌だ!!」
言いざま、ボリスはを両腕で強引に抱き寄せた。
そして息苦しい位に力を込めてを抱きしめる。
「ボリス・・・!怪我が・・・!」
「俺の怪我何かどうだっていいよ!!それよりあんただ!!
頼むから自分を軽い存在だなんて言うなよ!!あんたは特別だ!!」
「もう特別じゃないわ・・・。ううん、はずっと特別じゃなかった。命を持たないゴーストだったんだから・・・」
「そんなこと関係ない!!あんたが何であろうと、俺にとってはは特別に大事な女の子だ・・・!!」
叫ぶみたいにそう言ったボリスが、の肩口に顔を埋める。
は彼のピンクの髪にそっと手を伸ばした。
「ありがとう、ボリス・・・。ねぇ、・・・にとっても同じなの・・・。
あなたは特別に大事なたった一人の人。あなたと同じ気持ちだから、
危険なことをして傷付いてる姿なんか見たくない・・・。
を孤独から救ってくれたのは、に沢山の幸せをくれたのは、
チェシャ猫のボリス=エレイ・・・、今の傍に居る、あなただけ・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
彼の左腕に巻いた包帯を気遣いながらもはその背中に腕を回した。
「ごめん・・・・・・・・、俺・・・・・全然あんたのこと分かってやれなくて・・・。
軽率過ぎたよ、・・・あんたを絶対に一人にしないって、一緒に居るんだって決めてた筈なのに、
・・・・・・・・・・・・・・・本当にごめん。・・・・・もう危険なことはしないって約束するから・・・」
「・・・・・・・・・ボリス」
「だからあんたも約束して、・・・・・・・・・自分の存在が軽いなんて言わないでよ。
あんたは最高に可愛くて特別大事な、俺にとってのたった一人なんだから・・・」
「・・・うん、約束する・・・・・・・」
ボリスの腕の中でがコクンと小さく頷くと、彼はほんの少し腕の拘束を緩めてくれた。
「あと、さ・・・もういっこ、謝らなきゃなんないこと、あるんだよね・・・、俺」
「・・・・・・・・・何?」
「うん・・・。俺の為に泣きそうなあんたの顔・・・スゴク可愛いって思っちゃって・・・」
「・・・・!!」
「でも今回みたいなのはマジでこの先なしにする!!約束するから!!・・・・・・・・・許して、くれる?」
「・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・うん」
「良かった・・・・。本当に俺、反省してるんだぜ・・・・・・。
だから・・・・・・・・・仲直りのキス・・・させてくんない?」
言いながら、ボリスは片手を上げ、そっとの頬に触れ合わせた。
人よりも温度の高い、猫の体温。
熱い、掌。
はジッとボリスの金色の瞳を見つめ、その奥に自分が映っているのを確認する。
それから微笑んで、また小さく頷いた。
同時に、ゆっくりとボリスの顔が近づいてくる。
押し当てられた唇のやわらかさと温かさに心からの安心を覚える。
大好きの気持ちが溢れて来る。
ボリスはのたった一人の特別な男の子。
代わりなんて要らない。
代わりなんて欲しくない。
代わりなんて、誰にもなれない。
例えボリスがの言葉の意味全部を分かって居なかったとしても、
あなたが同じ言葉と想いをくれたことが、凄く嬉しい。
ボリス。
手を伸ばして触れられるその位置に、これからもずっと居よう。
も、あなたも。
特別に大事な、たった一人の存在だから。
(END)
後書き
またまたまたしても超久々に幽霊少女!と言うか、本当に毎度思うんですけど、
私の執筆するシリーズでここまで純粋な意味できらきらな話は珍しいよ!!(笑)
何と言うか、色んな意味で聖域になってるかもしれない。
キス以上は書けないな、このシリーズは。
ではでは、ここまでお付き合い下さいました姫様!誠に誠に有難うございます!失礼します。
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