「何?そんなに落ち着かない?」
「え?」
「さっきからあんた、何かキョロキョロしてスゲー挙動不審。」
言って、の正面に座っているボリスがニヤニヤと笑った。
今の時間帯は夜。
そしてとボリスは今、遊園地内の観覧車に乗っている。
遊園地内の施設には毎時間色々な場所に足を運んでいたけれど、
こうして実際きちんと乗ったのは初めてだった。
しかもまさか誰かと一緒に観覧車に乗る事が出来るなんて。
そしてその誰かがずっとあの窓辺で見ていたボリスなんて、今でも信じられない。
ボリスが初めてを見つけてくれてからもう結構な時間帯が経っているけど、
あれから彼は数時間ごとにを呼んでは話し相手になってくれていた。
それにこうして一緒に行動することも、今では余り珍しくない。
にとっては彼と一緒の時間はいつも、まるで夢の中の出来事のようだった。
が言葉を発し、それに応えてくれる相手が居る。
を見て、の隣に誰かが居てくれる。
これが夢じゃなくて何だと言うんだろう。
「、あんたもしかしてまだ俺相手に緊張してんの?」
「ううん、それはもう慣れたけど・・・。ただ、その・・・ボリスはいいの?」
「は?何が?」
「だってほら、の姿って他の人には見えないから・・・。」
さっきからボリスは周りに人が居ても居なくても普通に話しかけてくれる。
それはにとってはとても嬉しいことだし、凄く楽しい。
だけど側に居る人から見れば彼は一人で宙に向かって話をしてるように見えてるに違いなくて。
はジッと彼の表情を窺った。
ボリスはきょとんとした瞳でを見ている。
「あんた、もしかして気付いてないの?」
「え?何を?」
「見えてるって事をだよ。」
「見えてる?」
「そう、見えてる。俺以外の人間にも、あんたの姿は見えてるんだぜ。
だからほら、これに乗る前に従業員の奴が言ってただろ?」
「・・・・・・・・・・・・えっと・・・。え?あ・・・!」
言われてふと思い当る。
観覧車に乗る直前のこと。
あのとても元気な従業員達の一人が、ボリスに近づいてきて言ったのだ。
―――もしかして彼女さんですかー?いいなー、遊園地でデートってやっぱ定番ですよね!!
はその時まさか自分が他の人にも見えているなんて思っていなかったから、
実は良く会話の意味が分かっていなかった。
まさかあの台詞はに向けられたものだったなんて。
気付いていたならもっときちんと対応してたのに。
折角声を掛けてくれたのに、返すことさえ出来なかった。
自分の姿が見えている事に気付いていなかったから仕方ないと言えば仕方ないんだけど。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
が他の人たちにも見えている。
改めてそう繰り返すと、とても不思議だ。
が見えてる。
他の人の目にも。
本当に?本当に??
やっぱりすぐには信じられなかった。
ボリスを疑ってるとかそう言う意味じゃない。
だって、の体がこうなってしまって、もう随分経つ。
何をしても、どこに居ても、誰もを見てくれない。
見えてない。
存在してない。
それがにとっては長い間日常になっていたから。
「見えてる・・・。」
「そう、見えてるんだ。何?そんなに驚くこと?」
「・・・うん、凄く・・・不思議・・・。」
「へぇ、あんたホントに長い間人と接してないんだな。
ねぇ、それでさ、さっきの、もしあんたに聞いてるって分かってたら、何て答えてた?」
「え?」
今度はがきょとんとして彼を見る。
さっきの質問に答えるとしたら、と彼は言った。
それは分かっているけれど、咄嗟に答えが出てこない。
さっきは気付いていたらきちんと対応していたのに、と思ったけど、
いざそう問い返されるとすぐには頭が働かなかった。
「・・・友達ですけど、遊園地は楽しいですよね。・・・とか。」
言いながら、思わずの唇が震えた。
友達。
その単語を口にするのが、とても新鮮で。
「うっわ、それ普通過ぎ!また無難な回答選んだよね。っていうか、俺達ってただの友達なんだ?」
「え?え?駄目だった?・・・達・・・、と、友達、よね?それとも友達にも種類があるの?」
彼の返事におろおろと答えると、ボリスはいきなり吹き出した。
そして、凄くおかしそうに声を上げて笑いだす。
「ブッ!!はははっ!!そう来ると思わなかったぜ!ないない!友達に種類なんかない!」
「え?え?え?」
ボリスは少しの間声を上げて笑って、それからまたに視線を移して言った。
「あー、マジで笑った。・・・、あんたって天然なんだな、何か思った以上にツボに入った。」
「・・・ええ?ボリス?」
「くっく・・・うん、俺達は友達だよ、あんたは間違ってない。」
言って、彼が唇の両端を上げて笑う。
その表情はどこか悪戯っぽくて、でも同じ位に優しいものだった。
「そろそろてっぺんかな、ほら、こっからだと遊園地全体が見渡せるんだぜ。
こっから見る景色は、あんたも初めてだろ?」
「・・・・うん、初めて。」
頷きながら見下ろした先。
夜の闇を彩る極彩色のイルミネーションがとても綺麗で、
は殆ど窓に張り付くようにして外を眺めていた。
「・・・・あんたって・・・窓に映らないんだな・・・。」
「え?」
「ほら、周りが暗いとさ、人とか物の姿って窓ガラスに映るもんじゃん?だけどあんたは映ってない。」
「・・・・・・ああ、、鏡にも映らないから・・・。」
反射的には小さく笑った。
上手く笑えているといい、なんて思いながら。
実を言うと、鏡は嫌い。
何も映してくれないから。
ううん。
を、映してくれないから。
みんなみんな映るのに。
だけを映してくれない。
が存在しないことを、つきつけてくるようで、嫌い。
は視線を遊園地から窓ガラスに向けた。
ガラスには観覧車の内側とボリスの姿が映っている。
ボリス、彼だけが。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「。」
「ん?」
「鏡には、確かにあんたは映ってないけどさ、俺はあんたを見てるよ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ボリス。」
「見てる。ほら、俺の瞳、あんたの方をちゃんと向いてるだろ?」
フッ、と、ボリスがいつもとは違う、瞳を細めて柔らかな笑顔を浮かべてくれる。
その瞳は確かに、彼の言葉通り、に向けられていた。
「・・・有難う、ボリス。」
「ははっ、あんたってさ、いつも普通の事にお礼言うんだな。
別に礼言われる程の事じゃないんだぜ。それに俺、友達には寛大なんだ。特に女の子には。」
言い終えてすぐに、ボリスはに片目を瞑って見せた。
はそれに笑顔で応える。
不思議だ。
彼の一言で、ついさっきまでのもやもやとした暗い気持ちが消えうせて、気分が一気に上昇した。
遠い昔、まだに心臓があって、そしてこの世界に迷い込んでくるずっと以前。
もう殆ど覚えていないけれど、それでも記憶のずっと底、忘れられない記憶の欠片。
そのひとつ。
他愛ない会話を楽しげにすると数人の友達。
ともだち。
そう、友達。
余りに長く一人で居過ぎて、思い出すのも辛すぎて、ずっとずっと閉じ込めていた記憶。
ボリスと話をしていると、その頃の温かな記憶が思い出される。
蘇ってくる。
ハートのない筈のの胸の奥に。
優しくて、楽しくて、だからこそ思い出すのも辛かった記憶が、本当の意味で穏やかで温かな記憶として。
蘇る。
満たしてく。
ねぇボリス、あなたはまた笑うかもしれない。
だけどやっぱり言わせて。
有難う。
時間帯が巡る度、新しい感謝の気持ちを。
の友達になってくれて、ありがとう。
(END)
後書き
シリアスなんか、ほのぼのなんか、どっちだこれは(笑)
そしてそしてヒロインの性格が未だかつてなく大人しい&根暗チックかもしれない(苦笑)
今までのヒロインが余りにも強気なガールズ(・・・)だった為か、少し方向性を変えてみました。
でもただ暗いだけのヒロインじゃなくしたい・・・、です。
いや、実は今もそのつもり・・・・・・・・☆(誤魔化せてない)
・・・・・。では!!ここまで、それこそこの下らないアトガキにまで目を通して下さっている姫様!
色々な意味で本当に有難うございます。
姫様に溢れんばかりの感謝を表しつつ、失礼致します。
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