「そろそろかな。、観覧車にろうぜ。」
「う、うん・・・。それならゆっくり出来るし・・・。」
「あれっ?もしかして気分悪くなった?ジェットコースター?
ゴーカート?ティーカップ?どれが悪かった?」
「・・・・・・・・・・ぜ、全部、かな・・・。」

ええー?マジで!?全部スッゲェおもしろかったじゃん。
言いながらも、ボリスは歩く速度を落としてくれた。
こんな感覚は本当に久しぶりだ。
それこそ本当にいつ感じたのか覚えていない位に久しぶり。
単に気分が悪いと言うよりは、
余りの速度と回転数に目が回ったのと酔ってしまったのとが混ざり合っている。
ここの遊園地の物がが昔この世界に来る前に乗った物とはズレがあることは分かっていた。
もう数えきれない位何度も遊園地内を一人、ぶらぶらと見て回ったから。
だけど、実際に体験してみると、余りにも予想以上で。

「・・・そっか、あんた、実体で行動するのに慣れてないんだよな。
・・・観覧車まで歩ける?」
「あ、大丈夫。・・・有難う。平気だから。」

立ち止まって気遣わしげな表情で覗き込んでくるボリスに笑顔で応え、は返事をした。

「ホントごめん、あんたとこんな風に過ごせるのが嬉しくてさ。
何か・・・ちょっとはしゃぎ過ぎた。」
「ううん、も楽しんでるから。あ、観覧車が見えてきた。行こう?ボリス。」

言って、はわざと彼の手を引っ張って小走りに観覧車に向かった。






「ねぇボリス・・・。」
「ん?」
「・・・・・・・あ、ううん。やっぱり何でもない。」

ボリスに問いかけようとが視線を上げたところで、
予想外に至近距離から彼の瞳を捕えてしまい、は慌ててまた窓の外を見つめた。
そうすると、今度は窓に映った金色の瞳と視線が合う。
今のは実体。
いつもと違ってしっかりと窓に姿が映っている。
そのをきょろりと光る金色の瞳が捕えていた。

「途中で止められると逆に気になるんだけど。
あ、もしかしてこれから何が起こるか聞こうとしてた?」
「え?あ、そ、そう!そうなの!」
「そっか。だけど教えちゃったら楽しみ半減だからな、内緒。すぐに分かるよ。」

そう答えたボリスがどこか悪戯っぽく笑って見せたのが、窓に映った姿で分かる。
は素直に頷きながら、
本当に質問する筈だった内容を誤魔化せたことに内心ホッとしていた。
聞こうとして結局聞けなかったこと。
それは、今、彼が隣に座っている事。
つまり、いつも観覧車に乗る場合は向かい側に座っていた筈のボリスが、
今回に限って何故の隣に座っているのかと言うこと。
だけどそんなことを口にするのも恥ずかしくて、結局止めてしまった。
彼がすぐ隣に座っているせいだろうか。
何だかとても落ち着かない。
それに、とても緊張していた。
そして気づけば無意識のうちに、
の手はもうとっくになくなってしまった筈の心臓の上をぎゅっと服を握りしめるように掴んでいた。
(実体になってもの胸に心臓はない。)

、窓の外を見てみなよ。」
「え?」
「下じゃない、空だ。」

彼がそう言ったのとほぼ同時に、ソレは始まった。



――――ヒュルルルルル・・・

ドォォオオオオン



ほんのりオレンジ色を帯びた白い光が天へ昇る様に長い線を描き、一瞬にして弾ける。
地響きにも似た大きな音が周辺の空気を震わせ、鳴り響く。
そして同時に闇夜に広がる、大輪の鮮やかな華。
一発目が打ち上げられてすぐに、次々と様々な大きさの色取り取りの花火が夜空を彩った。
赤。
蒼。
黄色。
紫。
白。
緑。
大きく花開いては消え、消えてはまた大輪の花が生まれる。
は息を呑んで、殆ど窓に張り付くようにしてその光景を眺めていた。
絶え間なく花火が上がり、そのおかげで観覧車の中はさっきよりずっと明るい。
声もなく半ば呆然と言っていいほどの表情で見入っているの背後。
いつのまにか、ボリスはの肩に腕を回し、ジッとの横顔を窺っていた様だった。
咄嗟に体が緊張で固まる。
けれど、勿論嫌なんかでは決してなくて。
ただ、何故か胸の辺りが妙に苦しくなってしまった。


「綺麗だろ?おっさんが次の夜にはイベントの一環で花火を打ち上げるって言ってたからさ、
あんたにどうしても見せたかったんだ。この、最高の位置で。特等席だぜ、ここは。」
「・・・・・・・・あ、観覧車・・・止まってる?」
「ははっ、今気付いた?そう、オレがおっさんに予め頼んどいたんだよね。」

達は窓の外の花火に目を向けたまま、会話を続けていた。
その間も彼はの肩を抱いたまま。
そしてその間中。
ボリスと触れ合った部分。
背中や肩に、体温の高い猫の熱がに伝わって来ていた。
達は暫くの間、お互い無言でただジッと闇夜に咲き誇る花だけを見つめていた。



「・・・・・・・・・なぁ・・・オレさ・・・あんたに言いたい事があるんだけど。」
「?・・・何?」


―――ドォオン・・・
      パァアンっ
ドドンドンッ


続けざまに鳴り響く花火の音に、ボリスの声はかき消されてしまいそうだった。
彼はの耳元に唇を寄せ、同時に窓ガラス越しにジッと金色の瞳をに向ける。
も花火から窓に映る彼の瞳に視線を移した。



・・・・・・・・・オレはあんたのことが―――――  ドォォォオオオオオオン



ボリスが何かを口にしかけたその瞬間。
間違いなく今までで一番大きな音がして、
同時にその音と比例するように大きな花火が夜空を包み込むように咲き誇った。
鮮やかで眩しいほどに綺麗な花弁がキラキラと輝きを放ちながら闇夜に溶けて行く。
まるで観覧車に降り注ぐようにして。
そして、それからすぐに、自身の体が白い光を発し始めた。

「・・・あっ・・・!」
・・・?」

ボリスが不思議そうな表情でを覗き込む。
から発せられる光は益々強くなり、やがて眼を開けて居られない位の光が観覧車内を包んだ。

「時間帯が・・・・・・・・・・・・変わる・・・。ボリス、の体・・・戻るわ。」

言い終えた瞬間。
光は一気に収縮し、はいつものように透き通ってほの白く光るゴーストに戻っていた。
観覧車の窓の外は夕暮れ時。
遊園地は茜色に染まっている。
観覧車はゆっくりと再び回転を始めた。

「ボリス、話の途中でごめん。何だったの?」
「え?ああ・・・、ううん。今日はもういいよ。それよりあんただ、
何かスゲェ疲れた顔してる。いつもより光も弱弱しい感じだし、大丈夫?」
「うん・・・実体になった後は長く休まないと動けなくて・・・。」

言って、は微笑もうとしたけれど、余りうまくいかなかった。
普段疲労なんて感じない体をしているくせに、とにかく眠くてダルくて仕方ない。

「・・・じゃあ早くいつもの部屋に戻んないとね。
オレのことは気にしなくていいから、先に戻ってなよ。」
「でも・・・。」
「いいから。これであんたが疲れたままだったら、ずっと遊べないままだろ?
オレはそんなのイヤだからね。早く戻ってゆっくり休みなよ。」

そう言うとボリスはを安心させるようにニッっと笑って見せてくれた。

「・・・うん。分かった、じゃあ・・・先に戻って休ませて貰うわ。
ボリス、今日は有難う。凄く、凄く楽しかった・・・!」
「ああ、オレもだよ。あんたと一緒に居るとスゴク楽しい。
それに、今日はあんたに触れる事も出来たし、サイコーに楽しかった。
元気なったらまた遊ぼうな!勿論、いつも通りのあんたでいいからさ。」

は大きく頷いて、もう一度彼に別れを告げ、観覧車を後にした。

体は恐ろしい疲労感で酷くダルくて仕方ないのに、
心はそれに相反するように満たされていた。
短時間に限り、自分の体を実体化出来ると知ったのはもう随分前の事。
だけどはもう随分長い間、自分の体を実体化させることをしていなかった。
自分以外の誰かの瞳にの姿が映る事の出来る喜びを、
その時は素直に感じられなかったからだ。
最後に残るのが虚しく重たい疲労感だけだとしか、考えられなくて。

なのに今は、この信じられない位の疲労さえもには心地いい。
目を閉じると、透き通った瞼の裏。
闇夜に咲く大輪の花々が浮かんでくる。
それと同時に、あの時背中に感じたボリスの高めの体温まで自然と思い出してしまって、
はまた失ったハートを握りしめるように胸元の服を掌で掴んだ。

どこかふわふわと温かく、甘いきもち。
だけどそれだけでなく、胸が締め付けられるみたいな痛みを感じる。
この気持ちはなんだったろう。
昔は知っていた。
ずっとずっと昔は。


これは、このきもちは。


結局、その答えを思い出す前に、は深い眠りの淵に落ちたのだった。


(END)



後書き
幽霊少女は間違いなく、今まで私が書いたシリーズで一番ピュアピュアしい話だと思います(笑
これだけプラトニックなのも珍しい!自分でも驚いてます。
設定上仕方ないってのが一番ですけど、どう間違っても現トリヒロBとかには無理だろおおお(笑
何だかんだでAにもここまでは無理だし。
・・・どこまでも脱線したアトガキで申し訳ありません(慌)
しかしこのシリーズのボリスも他のどのシリーズより爽やかな気がしてならない。
(とは言っても、あくまで私の書いたボリスだから、たかが知れてますが(涙)
ではでは、ここまでお付き合い下さった有難い姫様に感謝の気持ちを込めて!
誠に有難うございます!失礼致します


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