繋いだ手のぬくもりに、未だにだ戸惑いを覚えながら、
はいつものようにボリスと遊園地内を歩きまわっていた。
いつものように、と言うのはやっぱり違う。
何故なら、今のは実体化しているから。
3時間帯前の夕方。
ボリスと初めて出会った客室で会話をしていた時のこと。


―――は?何、あんた、実体になれんの?マジで!?

 え?うん、言ってなかった?

―――聞いてないって、初耳だし。それっていつでも出来る訳?

 うーん・・・、ある程度間隔を空けないと無理、かな。
 夜、一時間帯だけ実体化するだけでも凄く疲れるから。

―――そっか、じゃあ俺と会う間いつもって訳にもいかない訳だ・・・。
でも、一時間帯だけなら平気なんだろ?

 ?うん、どうにか・・・。どうして?

―――だったらさ、次の夜が来たら、その時は実体化して見せてよ。
その後はまた遊園地を回ろうぜ。・・・って言っても、それだけが目的じゃないんだけどね。

 ??どう言う意味??

―――それは内緒。でも期待してていいよ。


そう言って彼は、何処か悪戯っぽい笑みを浮かべて片目をつぶって見せた。
そして時間帯が巡り夜。
は約束通り、ボリスの前で実体化して見せた。
最初、彼は実体になったを凄く珍しがって、の体が光っても透き通っても居ない事にとても驚いていた。
彼があんまり色々な角度で見つめてくるものだから、もさすがに恥ずかしくなってしまった程だ。
その後、彼はようやく満足(?)したのか、に右手を差し出して笑って言った。


―――、あんたに触れることが出来るのかどうかずっと確かめとかなきゃ心配だから、
今日はずっと手を繋いでいようぜ。


すぐにはその手を取る事が出来ずに躊躇していただったけど、
結局小さく頷いて彼の手に自分の手を重ねた。
ボリスの掌は予想以上に温かく、どちらかというと熱を持っていると言っても良かった。
それは多分彼が猫だからなのだろう。
猫は体温が高い。
そしての掌はきっと、彼にとっては氷のように冷たく感じたに違いないと思った。



「お!ボリスとじゃねーか!相変わらず二人一緒か。」
「ゴーランドさん。」「げっ、オッサンかよ。」


とボリスの後ろから、聞き覚えのある声が達を呼びとめる。
相手が誰なのかをすぐに察した達は、同時にそう声を上げた。

「おい、ボリス、げっとは何だ!げっとは!」
「ああー?・・・いや?別に?」
「フン、まったく失礼な奴だな。・・・あれ?・・・お前、何かいつもと違うよなぁ?
・・・・・白く光ってねぇし・・・それに・・・透き通ってもいねぇような・・・」

言いながら、の変化に気付いたゴーランドさんがまじまじとを見つめた。

「あ、はい・・・。長時間は無理なんですけど、一時間帯の間なら実体化できるので。」
「ってことは今の時間帯だけならあんたに触ることが出来るってことか?」
「うっわ、おっさんいやらしい言い方すんなよ。完全にセクハラだって、それ。」
「なっ!?セクハラとか言うのはよせ!言っとくけどな!俺はそんなつもりは全くないぞ!」
「あっ、あの、大丈夫です・・・!、そんな風には思ってません。
えっと、後・・・今の時間帯だけなら実体化してるので、普通に触れます。」

そう言って慌てて返事をしたの隣で、
ボリスが「けど、オッサンには触らせないけどね。」と付け足した。

「・・・ボリス、お前なぁ・・・・・。ん?」

そこで不意にゴーランドさんの視線がとボリスの手元に移る。
そしてニヤニヤといつもとは少し違う、笑みを浮かべた。

「最近ボリスの奴が前に比べて出歩く回数が妙に減ったと思ってたが・・・、
そうか、やっぱりあんたが原因だったんだな・・・。」
「え?」
「‥・・・・・・、オッサン、マジで言う事がオヤジ過ぎ。ああーもういいや、行こうぜ、。」
「えっ!?でも・・・。」

ボリスはの手を引っ張り、先へ進もうとする。
は咄嗟にゴーランドさんに視線を向けた。

「あ、あのっ!」
「んー?どうした?」
「声を・・・掛けて下さって有難うございました・・・!」
「ははっ!何だ、そりゃ。そんなの別に礼を言うようなことじゃねーだろう。
ま、楽しんで来いよ。」

言って、ゴーランドさんはの頭をぽんぽんと軽く叩くように撫でてくれた。
それはどうやら本人も無意識の動作だったらしく、
彼はの頭に触れられた事にとても驚いていた。

「お!マジで触れるんだな。」
「はい。」

笑顔で返したに、ゴーランドさんも眼鏡の奥の瞳を少しだけ細めて優しく笑ってくれた。
それから何度もポンポンと大きな掌での頭を軽く叩く。
誰かからこんなことをして貰ったのは一体いつのことだっただろう。
の胸にまだハートが存在した、あの頃。
そう、もうずっとずっと遠い昔の話だ。
の体がゴーストとしてこの遊園地に住み着いて以来、
ゴーランドさんのことは随分長く見てきたけれど、まさかこんな風に彼に接して貰う機会があるなんて。

「オッサン!いつまでやってんだよ。ほら、行くよ、。」


―――グイっ


唐突にボリスに手を強引に引っ張られ、よろめきながらもは彼に続く。
ゴーランドさんは苦笑を洩らしつつ、達に手を振っていた。

「・・・・・・・あんたさ、触ってくれるんだったら誰でもいい訳?」
「・・・・・え?」

ほんの一瞬、ボリスの金色の瞳が冷たく光り、に鋭い視線を向けた。
けれど彼はその瞳をすぐに伏せ、更に言葉を続けた。

「・・・・・・・・・・・・・。ごめん、今のは言い過ぎだよな・・・。
けど、あんたがあんまり嬉しそうにオッサンに頭撫でられて、オレの事放っとくからさ・・・。」
「ボリス・・・?」
「・・・何でもない。行こうぜ!今日一番のお楽しみまではまだ少し時間がある。
それまでは時間を有効に使わなくちゃな。」

言ったボリスがいつものように笑顔を向けてくれたので、はホッとして頷いた。
ぎゅ、と、ボリスと繋いだ手に少しだけ力が込められる。

「まずはジェットコースターだ!こないだちょっと細工しといたからさ、
スピードもスリルもかなり極限まで上がってると思うぜ。」

いかにも楽しげな口調でそう言ったボリスに、
少なからず不吉な予感を感じながら、それでもは素直に彼に従った。


(後編へ)




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