あんたを困らせるようなこと言ってごめん・・・。
もう俺の気持ちを押しつけちゃうようなことはしないからさ、
だから、前みたいに俺と一緒に遊んでよ。



深く傷ついたのはボリスの方なのに。
彼は素直に気持ちをぶつけてくれただけなのに。
ボリスはそう言って、またを受け入れてくれた。
数十時間帯前、逃げるみたいにボリスの前から消えた



―――っ!??おい!逃げるなんて卑怯だ!!



そうだ。
卑怯だ。
は、とても、卑怯。
ゴーストのは、ボリスの気持ちに応えることはできない。
だったらせめてあなたから離れるべきなのに。
それがきっとボリスの為になるに違いないのに。
それは分かっているのに、は、それを分からないふりをして、
あなたの優しさに甘えてる。
今もボリスの側に居て、当然みたいに笑って、はしゃいで。
めまぐるしく変わっていく時間帯を共有し続けて。



だからきっと、罰があたったんだ。



時間帯が変わる度、体を包み込む重苦しい疲労感が増していく。
実体化した後に感じるものとは比べ物にならない。
重さなんか感じることが出来る体ではないのに、まるで体全部が鉛に変わってしまったようだ。
休息をとっても一向に回復しないし、時間帯が変われば変わるだけ体が重くなる。
今の体になって以来、今まで一度もこんな経験はなかった。
だけど本当は気付いていた。
目を逸らして、考えないようにと蓋をしていたその結論に。



長い孤独の後に見た、短いけれどとても幸福で優しい夢の終わりが、もう、すぐそこまで来てしまってること。






「・・・・・・ボリス、こんばんは。」
?珍しいね、あんたから迎えに来てくれるなんて。しかも、実体化してんだ。」
「うん・・・、今回は特別だから・・・。ねぇボリス、お願いがあるんだけど。」
「?何?俺があんたのお願いを聞かない訳がないだろ。言ってみなよ。」

時間帯は夜。
遊園地は色取り取りのイルミネーションで彩られ、幻想的な雰囲気に包まれている。
昼間とは違う音楽が、の耳に心地よく響いてきていた。

「観覧車、また一緒に乗ってくれる?」
「はぁ!?お願いなんて言うからどんなことかと思ったら、そんなんでいい訳?」

拍子抜けしたみたいな顔でそう言いながら、ボリスは極自然にの手を握って歩き出した。
少し高めの猫の体温。
その掌の温度が気持ちいい。

「他の乗り物も好きだけど、はあれが一番好き。
ほら、ボリスと話も出来るし、夜に乗ると遊園地が見渡せて綺麗だし。」
「その意見には賛成。俺はスピード系大好きだけど、たまにはああ言うのに乗って浸りたい時ってあるしね。」

笑顔でそう答えてくれるボリスに、も笑顔を返す。
達は手を繋いだまま、観覧車に向かって足を進めた。




「なぁ、あんたさっき今回は特別って言ったよね?あれってどう言う意味?」

観覧車に乗って暫くした後、不意に思いだしたようにそう言って、の隣に座ったボリスが顔を覗き込んできた。
正直、ギクリとしてしまった。
無意識に口にしてしまった台詞。
口に、すべきではなかった台詞だったから。

「え?そんな事言った?」

その言葉に重い意味なんてない。
忘れてしまう程度の事。
そう言う風に聞こえるようにとどうにか努力しながら、はとぼけてみる。
ボリスはを探るような瞳で見ていた。

「言ったね。だから実体化したんだって意味に取れた。」
「そう?そんなつもりなかったんだけど。」

言いながら、は彼から視線を逸らすように窓の外を眺めた。
だけど、窓ガラスに映るボリスの瞳は、を捕えたまま。
その視線との視線がカチ合う。

、・・・・あのさ、あんた・・・」

彼がそう言って先を続けようとしたその時。
窓の向こうの夜空に白い光がチカチカと二度、点滅するのが見えた。

「?何だ?今の。」
「合図よ。ゴーランドさんからの合図。」
「おっさん?合図って・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


―――――ヒュルルルルル・・・・


不思議そうな表情を浮かべたボリスの言葉を遮る様に、花火の打ち上がる直前の独特の音が夜空に鳴り響く。
オレンジ色の光が速度を上げて揺らめきながら天へと上昇し、そしてすぐに、弾けた。



   ドォォオオオオオオオン



轟音と同時に夜空に咲いた大輪の花は、無意識の内に目を奪われる位に綺麗で。
ボリスが一瞬ポカンと口を開けて花火を見つめているのがガラスに映り込み、
は思わずクスクスと小さく声をたてて笑った。

「ビックリした?」
「うん・・・、かなりね。って言うか、今回の時間帯はデカいイベントがあるなんて聞いてないんだけど。
おっさんもそんなこと一言も言ってなかったし、従業員の連中も特に何も・・・。」
が無理を言って頼んだの。ゴーランドさんに。」
「あんたが?」
「うん、・・・・・・・・・・・ほら、だから観覧車も止まってる。この最高で特別な位置で。」

言って、は彼に視線を向けて少しだけ悪戯っぽく笑って見せた。
以前彼が初めてこの観覧車でに花火を見せてくれたその時、口にしていた台詞を思い出しながら。

「・・・・・・・・・・、、やっぱり何かあんの?」
「何が?」
「だからさ、特別ってやつ。」

答えた彼の金色の瞳。
予想以上に真剣な色を滲ませていて、さっきのように誤魔化す事を許してくれそうにはなかった。

「・・・・・・・・・・・・・・・それは・・・・・・・・。ねぇボリス、今は、花火を・・・・・。
一緒に花火を見て、・・・・・・・・・・その後で、話をするから。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。オッケー。確かにここから見る花火はサイコーだからな。
折角あんたと一緒に見られるんだし、今は花火をこの状況を楽しもうか。」
「うん、有難う・・・。」

揃って眺める観覧車の窓の外。
赤、白、黄色、オレンジ、紫。
色取り取りの大輪の花が夜空に大きく浮かび上がり、綺麗に彩っていく。
のすぐ背後。
の肩を抱くようにして花火を見ているボリス。
あの時と同じだ。
あの、ボリスがに初めて花火を見せくれた時と、同じ。



カチコチカチコチ
カチコチカチコチ


ボリスの胸の時計の音。
花火の大音量でかき消されているはずのその音が、の耳に大きく響く。
かさなりあったボリスの胸との背中。
そこで感じる、彼の秒針。
まるで、の胸にも時計があるみたいだ。
冷えたままのの体に、彼の高い体温がぬるく移る。


かちこちかちこち。
ちくたくちくたく。


規則正しく、耳に心地よい、音。




―――ドォォオオオオオオオオオオンっ




やがて今までの中で一番の大きな音と一緒に今までの中で一番の大きな花火が打ち上げられ、
それを最後に花火は終了した。
はその最後の花火の最後のひとつの色が夜空に溶けて無くなってしまうまで、
ジッと花火に目を向け続けていた。

「・・・・・・・・・・・・・終わったね。」
「うん・・・・・・・・・・・・・。」


終わった。
終わってしまった。


ボリスがポツリと呟いた言葉に、心の中。
もうひとつ(・・・・・)の意味を含めて繰り返した。
花火が、終わった。
そして短かったの夢も―――――


「っ!!??、あんた、体が光って・・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うん。」
「けど、・・・・けどまだ時間帯は変わってないぜ。なのにどうして!?」
「ボリス・・・・ボリス、聞いて。」

言って、は振り返って彼の金色の瞳を見つめる。
その瞳の奥には、言い知れない不安が滲み、大きく揺れていた。
ボリスは、感じていたのかもしれない。
猫独特の勘の鋭さで、見抜き始めていたのかもしれない。

・・・ずっと長い間この遊園地に居たけど、いつも一人だった。
それを寂しいと思ってる事も忘れてしまう位、一人で、それも仕方ないって思ってた。
だけど、ボリスがを見つけてくれて、を友達にしてくれて、
凄く嬉しかったわ・・・。一人だった時間に比べれば、あなたと出会った後の時間は凄く短いものだけど、
・・・・あなたには凄く感謝して「やめろ・・・!やめろよ、!何急に別れの挨拶みたいなこと言いだしてんのさ!?」

声を荒げてそう言うと、彼はの両肩を掴んだ。

「・・・ボリス・・・。」
「特別ってこう言う(・・・・)意味だったって言うのか!?
最初からあんたはそのつもりで俺を迎えに来て、観覧車に乗ったのかよ!?」
「・・・・・・・・・・・・ごめんなさい、ボリス。
だけど、・・・最後にどうしても、あなたに触れたかった、ふ、触れてほしかった。」
「最後・・・?何だよ!?最後って・・・!!どうして、何でなんだよ・・・?・・・!」

の肩にあるボリスの手が小刻みに震える。
同時に、彼の声が掠れて、その手と同じ位震えているのが分かった。
の体から放たれる光は、少しずつ、だけどハッキリと大きくなっている。

「ボリス、あなたは最高の友達よ。最初で最後の、特別な・・・。」
、・・・あんたはズルイよ、俺の気持ちを知ってて、どうしてこんな・・・。」
はゴースト。あなたと一緒に、歩いて行くことは出来ない。」
「それでも俺は構わない!
触れられなくても、年を取らなくても、あんたが側に居てくれるなら!!」

は彼の言葉にただ小さく微笑んで見せた。
その言葉はきっと心から言ってくれたもの。
けれど、それでいい筈はない。
それに、そんなの、きっと自身が許せない。


「・・・ごめんね、ボリス。」


どっちにしろ、の体はもう消えてしまうのだ。
あれだけ重苦しかった体が、今回の夜の時間帯に実体になった途端妙に軽くなった。
その意味を、はとっくに知っていた。
はこの実体化を最後に、消えるんだって、分かってた。


「謝るなよ・・・、そんな・・・そんな言葉が聞きたい訳じゃない!・・・!!頼むから、俺を置いて行かないで!!」


この世界から消えてくこと、怖くはないけれど。
あなたの前から消えてくことは、こんなにも寂しい。
こんなにも苦しくて、悲しくて。
だけど、ボリス、あなたもと同じ位悲しんでくれてる事が、嬉しくもある。
の体から発せられる光が、さっきよりも一層大きくなる。
頬を伝う熱い雫。
涙なんか、一体どの位流していなかっただろう。
寂しさを感じることさえ諦めたに、その感情を思い出させてくれたのは、ボリスだ。
空っぽのの胸に心臓(ハート)を与えてくれたのもボリス。
名前を呼ばれて、答える事の出来る喜び。
手を伸ばして、触れて貰えることのできる喜び。
瞳を向けて、見つめて貰えることの出来る喜び。
全部全部、あなたがくれた。


あなたはの―――――――――――――――――――――


「ボリス、・・・・・・・・、本当は、本当はね・・・、あなたのことが        」



カッ



ひと際大きな輝きが眩く観覧車内を照らし、の体が光の粒になって散っていく。
が口にした言葉は、声になって彼に伝わることなく、白い光の一粒一粒と一緒に霧散した。



「う、嘘だ・・・!嘘だ・・・!!こんな・・・、っ!!!!ーーっ!!!」



どこか遠くで、ボリスが悲しげにの名前を叫ぶ声がする。


泣いて、叫んで、を呼び戻そうとする、声。



ごめんなさい、ボリス。
あなたを残して、自分だけが満たされて、本当に卑怯な
最後の最後まで、はあなたに、何も返してあげられなかった。


あなたにはもう聞こえないけれど。
本当は伝えたくて仕方のなかった言葉がある。



ボリス、・・・・・・・・・、本当は、本当はね、あなたのことが大好きだった。



穏やかな光に包まれて、はそっと目を閉じる。
意識は、そこでフッと途切れた。


(END)



後書き
どうにかここまで書けたか。どう見ても連載じゃねぇのおおお!と言うツッコミはなしでお願いします。
つーか急展開過ぎたなぁ・・・。でもここまではどうしても書いておこうと思いまして。
何だか本当にピュアピュアしい、そしてありがちな展開の王道を踏んでしまった(苦笑)
ではでは、このお話にお付き合い下さっている貴重な姫様!本当に有難うございます。失礼します


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