チクタクチクタク
チクタクチクタク
かちこちかちこち
かちこちかちこち
響く、時計の秒針音。
チクタクチクタク。
どこから。
かちこちかちこち。
一体。
どこから。
―――――――――――君の・・・・・・・・・・・胸の奥からさ、。
囁くようにそう言って、誰かが小さく笑った。
遊園地では今日も賑やかな音楽が流れ、
沢山の子供たちが楽しげに笑い声を上げてアトラクションやイベントを楽しんでいました。
軽快なリズムの乗って軽やかなステップを踏み、
ピエロに扮した従業員の一人が色取り取りの風船を手にし、近寄って来た子供たちに次々と手渡しています。
たった今園内に足を踏み入れたばかりの少女にも、
彼女がピエロの前を通り過ぎようとしたところに風船が差し出されてきました。
少女はそれを笑顔で受け取り、そしてまた遊園地の奥へと足を踏み出しました。
「今回の一番のイベントは次の夜のパレードと花火だ!!楽しみに待っていてくれ!」
懐かしくも聞き慣れた声。
少女はふと足を止め、視線を声のした方向へと移します。
「なぁなぁ、今回はやっぱ、俺の演奏会も開いた方が良くないか?インパクトあった方がいいだろ?」
「駄目です!!オーナー!!インパクトどころじゃないですってそれ!!」
「そうですよー!オーナー!オーナーの演奏は破壊・・・・・・とにかく、イベント内容はもう決定してるんですから!
これから演奏会を押し込むのは無理ですって!」
必死にゴーランドの提案を阻止しようと焦る従業員達を目にしながら、少女は僅かに瞳を細めて笑いました。
そして、ゆっくりと彼らの側へと近づきます。
「あの、すみません。」
「ん?何だ?」
「ボリス・・・ボリスさんが何処に居るのか教えて貰えませんか?」
「あんたボリスの知り合いか・・・?アイツなら確か・・・。」
「観覧車ですよ!オーナー!ほら、いつもの・・・。」
「あ・・・ああ、いつもの・・・な。だったら邪魔しねぇ方がいいってもんだが・・・。
わざわざ会いに来てくれたみたいだしなぁ。」
ゴーランドは少し困ったような表情を浮かべ、頭をぼりぼりと掻くと彼女を見つめました。
「・・・最近アイツはあんまり元気がねぇ。・・・・・・・・・・・・・いや、機嫌が良くねぇんだ。
だからその、余り長くは話を出来ねぇかもしれないぜ?」
「平気です。・・・・・・・じゃあ、ボリスさんは観覧車に居るんですね?」
「あ、ああ。・・・・・・あんた、本当に行くのか?」
「はい、有難うございます。」
そう答えた少女は、笑顔を浮かべてゴーランドに頭を下げます。
その時。
ゴーランドは何故か、ほんの一瞬驚いたような表情を見せ、凝視するようにして一層彼女を見つめました。
「なぁあんた、以前・・・どっかで会ったことねぇか?・・・知り合いにすっげぇよく似てるんだが。」
「え?」
「うわああ!!オーナーのナンパ古すぎですって!!」
「知り合いに似てるって今時そんなナンパ文句言いませんよー!」
「うるせぇ!!ナンパとか言うな!・・・・・す、すまねぇな、あんた。俺の人違いだ。第一、そんなはずはねぇしな・・・。」
苦笑しながら謝る彼の眼鏡の奥の瞳は、酷く寂しそうに少女には見え、
彼女はただ笑顔を向けてそれに応えました。
「じゃあ、はこれで。有難うございました。」
「ああ。」
「あーあ!オーナー振られちゃいましたねー!」
「ガンバッ!ですよ、オーナー!」
「うるせぇ!!お前達はさっさと持ち場に戻れ!」
少女の背後で楽しげに笑う従業員達の声と、それを怒鳴りつけるゴーランドの声が聞こえてきます。
少女は無意識のうちに、口元を綻ばせて微笑んでいました。
真っ青な空には雲一つなく、大きな太陽が昼の時間帯であるハートの国を見下ろしています。
少女は瞳を細めて空を仰ぎました。
そして、彼女は真っ直ぐに目的地に向かいます。
観覧車。
ボリス=エレイ。
チェシャ猫の少年が居る筈のその場所に。
彼女が観覧車の前に着いたその時。
ボリスは丁度観覧車から降りたばかりでした。
手にした銃をクルクルと弄び、深い溜息を吐きだすと、彼はゆっくりとその場から足を踏み出しました。
軽快なリズムの音楽や、子供達の笑い声がまるで自分の居る今の場所からは遠くに聞こえるように彼は感じていました。
見上げた空はこの上なく青く、しかし、彼にはまるで色があるようには見えません。
もう随分長い間、彼は何かを楽しみにしたり、何かを面白いと感じることがなくなってしまっていました。
「あの、すみません。ボリスさんですよね?」
「・・・・・・・?何?」
不意に掛けられた声に、猫の少年は視線をそちらへと移しました。
彼が目を向けた先には、見慣れない顔なしの女の子が立っています。
彼は一瞬怪訝な表情で眉をしかめた後、それでも彼女にほんの少し覚えた違和感に、
何となく少女に興味を持ちました。
「あんた、俺になんか用?」
「はい、・・・あの、―――――――
彼女が先を続けようとしたその時。
晴れやかに澄み渡っていた空が急激にその色を変化させ、周囲が薄らと濃紺色のヴェールに包まれました。
時間帯が変化したのです。
やがて空は完全に夜の様相へと変化し、遊園地内もいつの間にかイルミネーションを輝かせていました。
「・・・・・・・・・・・・・邪魔が入っちゃったね、それで?あんた・・・・、・・・・・・?・・・・・・・ねぇ・・・あんた・・・。」
「はい?」
にっこりと微笑を浮かべて小首を傾げる少女。
顔なしの、役なしのカードの筈のその見知らぬ少女。
けれど、その声を耳にした途端、感じた違和感。
ボリスは、ゴクリと自分の喉が大きく鳴る音を耳にしました。
彼はチェシャ猫です。
他のどの猫よりも賢く、勇敢で、そして他の誰より勘の鋭い猫です。
洞察力に優れ、何に対しても大抵の事に大きな自信を持っています。
しかし、今、この時、自分の脳裏を掠めたその考えに、ボリスはただあり得ないと言う答えしか出すことが出来ませんでした。
余りにも彼女の事を想い焦がれ、とうとう役なしにまでその姿を重ねてしまっているのかと。
彼の目の前からあの幽霊少女消えてしまってもう随分と時間が経っていました。
彼女が消えてしまったと分かっていても、それを信じる事が出来ず、
彼は暫くの間遊園地内を隅々まで探し、彼女の名を呼び続けたことすらあるのです。
それでも、彼女は当然のように姿を見せず、ボリスはただ深く深く落ち込んでいきました。
彼女はもう居ない。
自分を置いて消えてしまったのだと、ようやくそう理解した今でも、
ボリスは初めて彼女に出会った昼間にあの部屋を訪れたり、
そしてまた一人で観覧車に乗って思い出に浸ったりすることを止めることが出来ないでいたのです。
「・・・・・・・・っ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
からからに干上がった喉の奥。
掠れた声で呼んだその名前は、彼が愛しく思っていた今は居ない少女のもの。
心の中で何度も何度も口にし、声に出して叫ぼうとも、決して返事のなかった相手。
目の前の顔なしの少女は、ゆっくり、ゆっくりと彼のすぐ傍まで近づいてきます。
そして、顔を上げると、満面の笑みを浮かべてこう、答えました。
「何?ボリス・・・・。やっと、気付いてくれたの?」
「っ!!!!っ・・・・・・・・!!!!」
色取り取りのイルミネーションに彩られた周囲。
その光で映し出された少女の笑顔は、以前と全く変わらず、ボリスの心を大きく震わせるものでした。
ボリスは夢中での肩を抱き寄せ、両腕を強く彼女の体に回します。
「!!!信じらんないよ・・・・・・・・!!本当に、本当にあんたなのか!?」
「よ、ボリス・・・。ボリス・・・!」
彼の肩口に顔を押し当て、涙声で答えるの声を聞き、
ボリスは自分の体が小刻みに震えている事に気付きました。
そして、その時。
――――――――ヒュルルルルルル
夜空に向かって揺らめきながら上昇していくオレンジ色の光が二人の視界に入り、
それは天高く上った後、大きく弾けて闇夜に美しい花を咲かせました。
「ボリス・・・・・・。」
「分かってるよ、。一緒に観覧車に乗ろう!あんたには、聞きたい事もいいた事も山ほどあるんだぜ!」
「うん!」
互いに笑顔を向け会った後、二人はしっかりと手を繋ぎ、すぐ傍にある観覧車へと駆け出します。
以前は冷たかったの掌は、今ではとても温かく、
重ねた手はすぐに二人分の体温で熱を帯びました。
観覧車に乗ってすぐ、彼女はボリスに向けて口にする言葉をもう決めてあります。
あの時、ゴーストとしての彼女が消えてしまったあの時間帯。
伝えられなかった気持ちを、今度こそ伝えるのです。
ボリス、、あなたが大好き。
美しい大輪の花が夜空を彩るその夜の時間帯。
その時から、彼らは共に歩む事を決めました。
少女がボリスの側から離れることは、もうないのです。
少女は、温かく優しい居場所をみつけました。
少女はもう、孤独ではありません。
(END)
後書き
お、お、おわったよおおおお!!ちょちょちょ(大笑)びっくりしました。
まぁあれです、色々とツッコミどころがあり過ぎるのはこの際スルーで。
私としてはシリーズと言いはり続けたこの幽霊少女が完結出来た事に満足です。
そして予想通り最後の最後までピュアピュアしい感じになりました。
このシリーズ(まだ言うか)に最後までお付き合い下さった貴重な姫様!
本当に心から感謝いたします。有難うございます!ではでは、失礼致します!
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