おはよう、ボリス。
、かなり眠ってたと思うんだけど、起きてもまだ夜なのね。
もしかしてあれから余り時間は経ってない?
ボリス?ねぇ、ボリス・・・聞いてる?
・・・・・・・・、・・・・・・?
・・・・・・・・・っ!!??
や、やだ・・・い、や・・・!ねぇボリス!ボリス!!
のこと、見えてるんでしょう!?
の声、聞こえてるわよね!?
ボリス!ボリスっ・・・!!
ほら、鏡を見てよ、の姿が映って・・・・・・・・、
映って・・・・・・・・・・・・・・・。
映ってない・・・・・・・?そ、そんな・・・・・・・・。
あ、・・・・・・・・・・。・・・・・・・・いや!
嘘よ、・・・・・・・・いやだ・・・・・・・・!!
ボリス!!ボリス!!を見て!!ねぇボリス!!!
いやっ、いやっ・・・!!!
ボリス!!!ボリス!!!
ボリス!!!!!!!見て!!を見て!!!
ボリスっ!!!!
イヤ
イヤ
イヤダヨ
モウ ヒトリハ ―――――――――
「・・・・・・・・。」
「いやああああああああああっ!!!」
「、・・・・・・・落ち着くんだ、。大丈夫だよ、君は一人じゃない。」
「あ、・・・・・・・・・ああ、あ・・・・・・・ナイト、メア・・・・さん?」
唐突の目の前が真っ白になり、眩い光に包まれたかと思ったその瞬間。
気付けば、はいつの間にか周囲の薄暗い、それでいて遠くに七色の光がチラチラと輝く不思議な空間に居た。
ここは、今までも何度か目にしたことのある場所。
「そう、ここは君の夢の中だ。そして、私の領域でもある。」
「・・・・・・・でも、今・・・。」
別の夢を見てた。
先を続けようとしたに、ナイトメアさんは少しだけ微笑んだ。
「そうだね、別の夢・・・悪夢を見ていた。だから私が中断させたんだ。
・・・・・・・・・・すまなかったね、遅くなってしまったせいで、随分怖い思いをしただろう。」
の立っている位置より少し高い場所にふわりと浮いていた彼は、
そう言ってほっそりとした白い指を持つ掌で優しくの髪を撫でてくれる。
そして、綺麗な漆黒の隻眼を細めて彼は続けた。
「・・・もう怖がることはないよ、。私が居る。君の夢は私が守る・・・。」
「ナイトメアさん・・・。でも、はもう・・・ただの顔なしです・・・。なのに、あなたはどうして・・・。」
「どうして、君に構うのかって?それは私が君を気に入っているからさ。」
「だけどは・・・「余所者じゃない。そうだね、その通りだ。
だけどそんなこと、私にとっては大した問題じゃないのさ。」
の台詞を引き継ぐように言ったナイトメアさんが、クスクス小さな声を立てて笑う。
ここは夢の中。
の夢だけれど、どちらかと言えばナイトメアさんの世界と言った方が正しい。
実体のなかったころのの心は彼にも覗けなかったけれど、今のは役なしのカード。
の考えることなんて、彼には全部お見通しなのだ。
「君が君であると言う事、それが重要なんだ。・・・、君がここに、存在すると言う事が。」
「・・・・・・・・・ナイトメアさん・・・。」
「ふふ、だが、私の言葉では君の不安を確実に取り除く事は出来ないだろう。
残念だが、あのチェシャ猫程には君の心を捕える事は出来ない。」
「っ!」
彼の台詞に分かり易く反応を示したに、ナイトメアさんはまたクスクスと声を立てて笑った。
「お行き、・・・。これからも私は君が孤独の影に怯え、夢の中で震える時、出来得る限り守ってあげよう。
そして君は現実で確かめるといい・・・、あのチェシャ猫が・・・君がきちんと存在することを教えてくれるだろう。」
くわん。
くわん。
くわん。
柔らかい耳鳴りのように、彼の言葉が頭に響く。
ぼんやりと視界が歪み、薄らと白い光がを包み込んでいく。
目覚めが、来る。
瞼を開けると、最初に目に飛び込んできたのは見慣れた天井だった。
窓を開けっ放しで眠ったからか、遊園地の賑やかな音楽が部屋の中まで流れ込んできている。
はあれから、
ゴーランドさんの好意でボリスと同じくこの遊園地に居候させて貰っていた。
そして、遊園地内にあるカフェで仕事もさせて貰っている。
はベッドから体を起こすと、開け放たれたままの窓に目を移した。
遠目に空が茜色に染まっているのが見える。
つまり、今の時間帯は夕方。
ベッドから離れ、は部屋の隅にある全身鏡にゆっくりと近づいた。
鏡の向こう。
恐る恐る、こちらに近づいてくる、少女の姿。
瞳の奥が不安に揺れている。
が鏡に手を伸ばすと、左右対称の彼女もと全く同じようにこちらに手を伸ばして来た。
掌がぺたりと鏡につく。
と、鏡の中のの手も、重ね合わされる。
「・・・・・・・・・映ってる・・・・、うん、映ってるわ・・・・・・。」
呟くようにそう言って、自分自身で自分の存在を確かめた。
以前は大嫌いだった鏡。
鏡に限らず、物の姿をそのまま映してしまう物は必ず避けるようにしてた。
窓ガラスや、水溜りもそう。
の姿を映さない、真実を的確に突きつける物。
は存在しないことを証明するみたいな、
そんな物が大嫌いだった。
今は逆だ。
自分自身の存在を確かめる為に、鏡を覗いてしまう。
は本当にここにるんだろうか、と、自問してしまうから。
殆ど鏡を凝視するように見ている。
こちらを睨みつけるように見ている少女。
その瞳は、まだ、何かに怯えてる。
何か。
―――――それは孤独だ。
そこでは左右にかぶりを振った。
「平気よ、映ってるもの・・・。」
もう一度繰り返した、その時。
「そうだよ、あんたは鏡に映ってる。・・・・・・・それに、あんたの側にはいつも俺が居る、そうだろ?」
「っ!!ボリス!!」
ひょっこりと唐突に現れたボリスは、を後ろから抱き締めるような形で鏡に映っている。
は驚いて咄嗟に視線を彼へと向けた。
「窓から・・・入って来たの?」
「そう言うこと。‥‥あんたは寝起きみたいだね?休憩に入ったなんて知らなかったぜ。
言ってくれれば俺もあんたと一緒に眠れたのに。」
「ごめん、言おうと思ったんだけど、急に貰えた休憩だったから。」
「ま、俺もちょっと出掛けてたから仕方ないか。・・・・・・・・・・それより、・・・・。」
「何・・・・・・・?」
の肩口に顔を埋めるようにして話していた彼が顔を上げる。
はまた鏡に瞳を向けた。
ボリスに背後から抱き締められてる自分自身の姿に、妙にホッとする。
背中から感じる彼の秒針音。
の胸からも同じように聞こえる時計の音。
勿論、役持ちの彼と今の役なしのカードのの時計は同じものである筈はないけれど、
それでも、は彼の腕の中に居る。
そのことに、心底安心する。
「・・・・・・・・・あんたさ、まだ・・・・鏡がなきゃ不安なのか?一人で確かめちゃう位、不安?」
「・・・・・・・・・・・・・、そう、だね。‥‥やっぱり、怖い・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
人よりも少し高めの体温が心地よくを包み込み、さっきよりも強くを抱きしめてくれる。
彼はの頬に唇を押し当てた。
「ボリス、・・・本当に、バカみたいで笑っちゃうんだけど・・・・、・・・。」
「ん?」
「幸せすぎて怖いと思ってる・・・。
これも実は短くて幸せすぎる夢の一部で、目が覚めたら・・・、
はまたゴーストに戻ってしまうのかもしれないって・・・・・・・・・。」
言いながら、は自分の体に巻きついている彼の腕をぎゅっと握った。
本当に馬鹿みたいだ。
幸せすぎて怖いなんて台詞、本気で口にするなんて。
本当に本当に馬鹿みたい。
だけど。
「これは夢なんかじゃないぜ、。あんたは今、俺の側に居る。これが現実だ。」
「ボリス・・・・。」
耳元。
鼓膜を直に震わせるようにそう囁いて、鏡に映るボリスの金色の瞳が片目を瞑る。
はそれが嬉しくて、咄嗟に小さく笑い返した。
「・・・ナイトメアさんの言ったとおりになった・・・。」
「・・・・・、・・・っ!ちょっと待って、今、あんた何て言った?」
「え?」
「今、夢魔さんの名前出したよね?どうしてそこにあの人が出てくんの?」
ついさっきまでやわらかく甘い表情を見せていたボリスが、急に鋭い口調でにそう聞き返した。
「あ、夢で・・・ナイトメアさんが言ったの。
がちゃんとここに存在するってボリスが教えてくれるだろうって・・・。」
「夢で・・・ね。夢の中で会ってるんだ?」
一気に機嫌を悪くしてしまったらしく、ボリスは眉を少し吊り上げて言った。
鏡の中の金色の瞳が冷たく細められている。
「・・・・・あ、そうじゃなくて。・・・ナイトメアさんは、が怖い夢を見たから助けてくれたのよ。」
「怖い夢・・・?」
「・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・ボリスに、・・・・・・・・・・。」
「?俺が、何?」
「ボリスに、・・・が見えてなくて・・・声も届かないの・・・。
どんなに呼んでも、叫んでも、全然届かなくて・・・。それで、鏡にも・・・の姿が映らなくて・・・。
説明をしながら、段々と言葉が震えてくるのが分かる。
あの悲しくて空虚な夢を思い出す。
「・・・それで、夢魔さんがあんたをその夢から助けてくれた、って訳?」
「・・・・・・・・・・・・うん。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ボリス、怒ってる?」
「・・・・・・・いや、まぁ・・・正直最初はかなりムカついちゃったけど、・・・そうだね、
あんたをそんな夢から救ってくれた事には感謝しなきゃいけないかな・・・・。
それでもやっぱスゲームカつくんだけど。」
言って、ボリスはフッと、小さく苦笑した。
もう彼から冷たい空気は消えてしまっている。
「けど、どっちかって言うと、例え夢でもあんたにそんな思いをさせちゃった俺の方がムカつくね。」
「ボリス・・・。」
「だってさ、現実であんたに不安な思いさせちゃってるから夢にそれが反映してるってことだろ?
・・・・・・・・・・・・・・・、ごめんね、。」
「そ・・・そんな!違う、・・・違うから!ボリスは悪くないわ!」
は左右に小さくかぶりを振ってそれを否定する。
心底すまなさそうな表情を見せる彼の猫耳は、心なしか垂れ下がっているように見えた。
「なぁ、今度からこうしようぜ。」
言いざま、彼はを自分と向かい合わせに立たせ、の顔を覗き込んだ。
「ボリス?」
「俺の目を見て、。」
「?目を?」
「そうだ、ほら、よーく見てみなよ。・・・俺の瞳の中、あんたの姿が映ってるだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・う、うん。」
言われた通り、彼の金色の瞳を見つめる。
そして、ボリスの言葉通り、その瞳には彼をジッと見つめるの姿が映っている。
そうだ、の姿が、映っている。
そこでは、彼が何を言おうとしているのかが分かった。
「うん、ボリス・・・。」
は確認するようにそう言い、コックリと頷く。
ボリスは瞳を少しだけ細めて微笑んだ。
「あんたが不安になった時は、こうしていつでも俺の瞳を覗き込めばいい。鏡じゃなくて、俺で確かめてよ。
・・・・・・・・・・・・・少しでも早く、あんたが怖い夢を見なくなる様にね。」
「ボリス・・・。」
「、あんたはここに居る。俺の側に・・・・・・・だからこうやって触れる事も出来るんだぜ?」
ボリスはそう言い終えると、ゆっくりに屈みこんできた。
咄嗟にはそっと瞳を伏せる。
それと同時にの唇にボリスの唇がやわらかく押し当てられた。
彼とキスをするのは初めてじゃないのに、は未だにぎこちなく唇が震えるのを抑える事が出来なかった。
かちこちかちこち。
かちこちかちこち。
時計の針が命を刻む。
かちこちかちこち。
チクタクチクタク。
とボリスの時計の音。
あなたももここに居る。
重なった唇から、響く秒針音から。
心の底から、安心できる。
ねぇボリス、あなたとなら、終わらない夢を見られそうよ。
ありがとう。
これからも、どうか、側に居させて。
そう口に出来る喜び。
その全てに、感謝を込めて。
ありがとう。
(END)
後書き
幽霊少女番外編〜!有難い事に予想以上に幽霊少女完結にお言葉を頂きましたので、
その後どんな感じかってのを・・・って普通にシリアスになってしまった(苦笑
もっとほのぼの的な感じにしたかったんですけど、出だしからしてシリアスになりました。
そして何だかナイトメア出張ってる。
クローバーの時の駄目夢魔っぷりも大好きなんですけど、ハートの時の似非ミステリアスも好きなんです。
ではでは、この作品にお付き合い下さった姫様、そして、有難くもコメントを下さいました姫様、
とにかく深い深い感謝の気持ちを!!!本当に有難うございます。失礼致します
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