「やっぱりユリウスにはみたいな可愛くてしっかりしたお嫁さんが必要だよな!
俺は嬉しいぜ、君みたいな子がユリウスのこと好きになってくれて!」
「当然よ!だって、ユリウスの運命の相手だもの!」
「はははっ!!ホンット、君っておもしろいよなぁ。会話してて全く飽きないぜ。
ユリウス、良かったな。このことお前は本当にお似合いだ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「ふふふふふ!」「はははははっ!」

二人はそこで示し合わせた如く、視線を合わせて声を上げて笑った。
どこまでも清々しい爽やかしさを思わせるエースの笑顔。
笑うことで幼さが常よりも際立って見えるの表情は、彼と同じほど晴れやかなものだ。
だが、それと相反するようにユリウスの表情は険しかった。
蒼髪から除く眉は明らかに不機嫌な様子で顰められている。
とエースの笑い声が耳につき、ユリウスの不愉快さを助長する。
彼はとうとう耐えきれず、長い沈黙の後、視線を上げて口を開いた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・・・・、
さっきから一体何なんだ!?お前達は!?
やかましく人の仕事机の前で下らぬ会話ばかり続けて、私の仕事の邪魔をするな!」

未だ互いに笑い続けていた彼らは同時にピタリと笑うことを止め、
そしてまたほぼ同時にユリウスへと瞳を向けた。

「ああ、ユリウス、ごめんごめん!悪かったよ!彼女を独り占めにしちゃってさ。」
「ごめんなさい、ユリウスっ!でもべつにユリウスに構ってあげなかった訳じゃないわよ?」
「はぁっ!!??」

二人の見当違いな返事に、ユリウスは咄嗟に少々間の抜けた声を上げて聞き返した。
とエースは一瞬互いに瞳を合わせると、くすくすと小さく笑い合う。

「はははっ!惚けるなって!ユリウスってば可愛いな、俺に嫉妬しちゃうなんてさ。」
「もう、ユリウスってば・・・。はユリウスしか好きじゃないから安心してよ。」
「なっ!?違う!!何を言っているんだ、お前達は!私はそんなことは一言も言っていないぞ!」

既に仕事を進める手を止め、ユリウスはガタリと音を立てて椅子から勢いよく立ちあがった。
その表情にありありと焦りと動揺が滲み出ている。
エースは一層声を上げて笑った。

「はははっ!言わなくても分かってるぜ、ユリウス。彼女に近づきすぎるなって言っているんだろう?
大丈夫、俺はを取ったりしないって!」
「だっ、誰が!!こんな女、のし付けてお前にくれてやる!」
「やだー、ユリウス、そんなに照れなくても。相変わらず素直じゃないんだから。」
「私は思ったままを口にしているんだ!!お前みたいなやかましい女など・・・、おい、聞いているのか?」

ユリウスの言葉を耳にしながらも、彼らはあはは、うふふと芝居染みた様子で揃って笑い声を上げていた。
まるで彼の動揺を微笑ましい物でも見物しているような表情だ。
こう言った彼らの行動が度重なり、ユリウスの苛立ちと頭痛はとっくに頂点を越し、それでも更に上昇をし続けていた。

「エース!お前は仕事の話でここに来ているんじゃなかったのか!?」
「まぁまぁ、そう焦るなって。久しぶりに顔を出したんだ、少しくらいゆっくり休ませてくれよ。」
「あ、、お茶を淹れてくるわね。」
「要らん!そんな物を出せばコイツが長居して・・・・・・・「有難う、!嬉しいぜ!」

エースはユリウスの言葉を遮る形で返事をし、は満面の笑みでそれに応えると、
いそいそと奥に向かって姿を消した。

「本当に彼女って飽きないよなぁ。優しいし、よく気が付くし、うん!ユリウスには勿体ない位だぜ!」
「・・・・・・・・・・・・・・、ならば先刻言った通りお前に熨斗つけてやる。どこへなりとも連れていけ。」
「ははっ!またまたぁ、ユリウスは本当に素直じゃないな。本当はを離したくなくて仕方ないんだろ?」
「誰がだ!!いつもいつも人の仕事を邪魔してはやかましく喚き続けるような女だぞ、私は迷惑しているんだ。」
「ええー?でもさ、だったらさっさと追い出しちゃえばいいじゃないか。
ここに来られないようにして、二度と顔を見ないようにしちゃえばいいんだ。
ユリウスだったらその位平気で出来るだろ?」

痛い所を突かれた。
ユリウスは内心の動揺を悟られぬよう、無表情を装った。
そして再び着席すると、手元の仕事を再開する。

「何度追い出してもわき出てくるんだ、アイツは。私が迷惑していると言っても聞く耳を持たない。
頭だけじゃなく、耳も悪い、そして人の表情を読むこともできない、つまり目も悪いと言うことだ。
女の中でも一番厄介な女だ・・・・・・・・・・・・。」
「だけどその彼女があの凄い階段を上ってこの時計塔に入ってくるのをユリウスは許しているんだろう?
・・・・・・・・・・やっぱり彼女を気に入っているってことだぜ、それは。」


ニヤリ。


エースは常の清々しい笑みとは違った様子で口角を吊り上げるようにして笑って見せた。

「フン、お前がどう勘違いしようと勝手だが、私にそれを押し付けるな。」
「はははっ!・・・いいさ、きっとお前もその内認める気になるって。
・・・・・・・・・・・・・・・俺はそんな気がするんだ。色々な意味で興味深いぜ、は。」

そこでタイミングを見計らった如くして、が珈琲カップを乗せたトレイを持って奥から姿を見せた。
そしてユリウスの机に彼専用のカップを置いた後、エースへと珈琲を差し出す。
香ばしい珈琲の香りが周囲に漂い、カップを受け取るエースが微笑を浮かべた。

「有難うな、。君の淹れてくれる珈琲って本当に美味しいよな。」
「そうでしょう、そうでしょう。の珈琲は絶品よね!ね?ユリウス。」
「毎度毎度同じ台詞で自画自賛するんじゃない。」

むっつりとした口調でそう返事をしたユリウスだったが、内心はそれを否定できないで居た。
彼女の珈琲は初めて口にした時から今に至るまで幾度も飲んでいるが、一度としてその味が変わったことはなかった。
時間帯で気温や湿度が変わろうとも、彼女は驚くほど的確に同様の味の珈琲を淹れる。
それがどれ程難しいことかは、ユリウス自身が最もよく理解していた。

「だけど俺には少し苦すぎる、かなぁ・・・。いや、美味しいんだぜ?だけどちょっとだけ苦いかな。」

ほぼ独り言のように口にしたエースに、は当然だと言わんばかりの様子で大きく肯いた。
ユリウスは敢えてこの時口には出さなかったものの、瞬時、この意味を悟っていた。
だが、意味を悟っているからこそ、素知らぬ顔で時計の修理に没頭している様子を決め込んだのだ。
エースは暫し思案の表情を浮かべた後、大げさにポンっと手を叩いて声を上げた。

「ああ!分かった、これってユリウスの好みに合わせているんだろう?そうだよな?。」
「そうよ、だってはユリウスの為に淹れてるんだから。」
「へぇ〜、凄いよな、は。ユリウスの好みをちゃんと把握しているんだ。」
「当たり前よ、だってユリウスはの運命の人だから。」

何処かうっとりとした様子ではそう答え、頬を染めて笑顔を浮かべる。
ユリウスは忘れかけていた頭痛が再発したように感じた。

「ふぅん、だったら君は色んな面でユリウスの好みを分かってるってことだよな?」
「今はまだ全部って訳じゃないけど、把握する為の努力は怠らないわ。」
「そっか、じゃあさ、いいこと教えてあげるよ。」

言いながら、エースは手に有るカップをユリウスの仕事机の隅に置き、彼女の傍まで足を運ぶ。
そしてに屈み込む形で彼女の耳元に唇を寄せた。

「・・・ユリウスは見ての通り引きこもりのムッツリだろ?
ああ見えて一度始めたら絶対ブレーキの効かないタイプなんだぜ。
だからもしユリウスを誘いたいんだったら・・・・・・・・・。」

ひそひそと耳打ちをしている様子だが、内容はほぼ全てユリウスの耳に届いていた。
更に、酷く密着した状態でとエースが立っているのがユリウスの視界の隅に入る。
そしてはそれを全く気にした風もなく、幾度も頷きながら彼の唇から紡がれる言葉に楽しげに耳を傾けていた。
瞬間、ユリウス自身にも理解出来ない苛立ちが襲う。

「エース!妙な話をそいつに吹きこむな!被害を受けることになるのは私なんだぞ!」
「ええー?だってがユリウスのこと知りたいみたいだったからさぁ。」
「好きな人のことを知りたいと思うのは乙女心よ!ユリウス!」

エースと共に抗議の声を上げるをひと睨みし、
ユリウスは先程飲み干したばかりの珈琲カップを彼女の前に突き出した。

「お前はさっさとこれを片付けて自分の仕事場に戻れ。ついさっき時間帯が変わったぞ。」
「え!?もう!?・・・急がないと!」

慌てた様子でそう口にし、彼女は常と同様テキパキとした動作で珈琲カップを片付け、再び奥へと姿を消した。
そして程なくカップを洗い終え、足早にユリウスの傍まで歩を進めた。

「・・・・何だ?片付けが済んだのならさっさと帰れ。」
「ユリウス、が好きなのは本当にユリウスだけだから、心配しないでね?」
「なっ!!!!!!!」
「そうそう、俺とは『おともだち』なんだよな?」
「そうよ、それに、ユリウスの友達だろうと、エースにユリウスは渡さないわ!」


ビシリ。


彼女はそう言い放つと、効果音すら付きそうな勢いで人差し指を真っ直ぐとエースへと向けた。
どうやら彼女流の宣戦布告と言ったものらしい。
瞬時、エースが声を上げて笑いだす。
ユリウスは状況を理解することを放棄し、こめかみを押さえて項垂れた。


「じゃあね、ユリウス!また来るから!エース、色々ありがと。」


ひらりとスカートの裾を翻し、満面の笑みと共にが室を去っていく。
エースはその背中を見送りながら笑い続けることを止められず、ユリウスは深く大きな溜息を吐いていた。
だが、ユリウスは気付いてはいない。
が先程キッチンから戻ってすぐに彼に告げた一言。
その下らぬ一言に、彼の気持ちが少なからず安堵を覚えていることに。



このひと癖もふた癖もある少女に偏屈で人嫌いの時計屋が完全に心奪われるのは、
もう少々先の話だ。



(END)



後書き
このシリーズ、久しぶりに書きました。と言ってもまだ2本目ですが。
しかもヒロインの性格がいまいち掴めていないと言う事実。
でもエースとヒロインのやり取りは書いてて凄く楽しかったです。
彼らはアリスとエースが組む以上にユリウスにとっては厄介なコンビじゃなかろうかと思います。
ではでは、ここまでお付き合い下さった姫様!もう何か癖ありヒロインばかり増えてますが、(笑)
読んで下さったことに本当に感謝しております、失礼致します!
****[誤解なのに嫉妬されちゃう]TITLE BY age *****


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