「へぇ、そっか!じゃあは晴れてユリウスと一緒に住む事になったんだな。
おめでとう!やっぱり君達はお似合いだぜ!」
「有難う、エース。が居るからって遠慮しないで、
お仕事以外でもいつでも遊びに来てね。歓迎するから」
「ははははっ!すっかり若い人妻な発言だな!結婚式をするなら早めに教えてくれよ!
その時はきちんと間に合うように準備をするからさ」
「ええ!もちろん!約束する!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ふふふふふっ!」「はははははっ!」
二人はそこで以前もそうしたように、示し合わせた如くして互いに視線を合わせて声を上げて笑った。
エースは心からとユリウスの現状を祝福しているかの様に、
常の清々しい笑顔をより一層輝かせていた。
楽しげに綻んだ唇から白い歯が覗いている。
もその彼に合わせるように笑顔を見せてはいたが、
その奥に僅か複雑な色が見え隠れしている事実を、ユリウスは察していた。
彼女が滞在先兼職場として居た宿屋が破壊された一件から既に数十時間帯が経過しており、
は現在、ユリウスの許可のもと、この時計塔に滞在している。
そしてエースはこの時計塔内で迷子となった後、
ようやくまたこの部屋に辿り着き、がユリウスと共に暮らし始めたと言う話を聞いた直後だった。
常ならば二人の会話の内容を激しく否定し、
彼の仕事を妨害したことへの小言を口にしている場面だが、
ユリウスはそうする代わりに深く大きな溜息を吐いた。
エースのことだ。
このままこの話題を長引かせれば調子に乗ってユリウスをからかうのみならず、
どんなとんでもないことを口にするか分かったものではない。
否。
既に話はユリウスにとって許容範囲を超える突飛な次元に及んではいるのだが、
彼が現在危惧しているのはそう言ったものとはまた別の類のものだった。
つまりそれは彼自身に及ぶ害ではなく、に関する事柄だ。
彼女は先の一件以来、当然の如く深く傷つき、悲しみに沈みこんでいた。
現在はこうして表面上だけとは言え常と変らぬ態度を装い、
軽口を叩けるようにはなっているが、それはほぼ演技に近い物なのだ。
ふとした瞬間にその笑顔が陰り、彼女が物思いに耽る様に遠い眼差しをしていることもユリウスは承知している。
この世界に月日の概念は存在しないが、余所者である彼女が友人達の死を静かに受け止めるには、
更なる時間帯が経過しなければ不可能だろうと言う事をユリウスは察していた。
「でも良かったぜ!ユリウスが血相変えて部屋から出て行った時はどうなるかと思ったけど、
結果的にはの居た宿屋が潰れたことで「エース!!」
頭で考えるよりも早く、ユリウスはエースの発言を遮る形で厳しい声を上げていた。
案の定、エースはユリウスが最も恐れていた台詞を発しようとして居たのである。
彼女が家族同然の好意を抱いていた顔なし達が共に働いていた彼女の自宅とも言えた宿屋。
その宿屋が潰れた事ではユリウスと共にこの時計塔で暮らす事になった。
エースはそれを幸運な、明るい話題として持ち出そうとしている。
恐らくは意図的に。
役なし如きの死に心を痛め、悲しんでいる彼女の心情が彼には全く理解できないのだろう。
これはエースを友人としても部下としても良く知るユリウスだからこそ分かるのだ。
だが更に付け加えるならば、エースはの心情を不可解だと感じると同時に、
役なし達に嫉妬にも近い感情を抱き、そんな感情を持った自身にもまた、
不可解さと苛立ちを覚えても居たのだった。
「何だよ、ユリウス、突然大きな声を出して」
「・・・・・・・・・そんなことよりも、お前には頼んだ仕事があった筈だ・・・。
今はそれを優先させろ。下らん話ならいつでも出来るだろう」
「ええー?でも折角おめでたい話でと盛り上がっていたんだぜ?なぁ、」
「え?ええ!とユリウスの素敵な結婚式の話よね!」
「・・・!お前は少し黙っていろ。・・・・・・エース、今は仕事を最優先させろと言っている。
そうでなくともお前が塔内を長い間うろついたおかげで仕事が遅れているんだからな」
ユリウスが更にそう続けると、エースは軽く溜息を吐いた後、肩を竦めて苦笑した。
「はいはい、分かってるよ、ユリウス。そうだよな、
今から急いで出掛けて少しでも時間を取り戻さなくちゃな!」
「ああ、そうだ。分かったのならばさっさと行動を起こせ」
「ちぇっ、今日のユリウスは何だか冷たいぜ」
唇を尖らせるようなポーズを見せながら、彼は再び溜息を吐いて部屋の出入り口であるドアへと向かった。
「じゃあな、、今度はもっとゆっくり話をしよう!」
「いいわよ、で・も、ユリウスが妬かない程度にね!」
如何にも芝居染みた口調でそう言うと、は意味ありげにチラリとユリウスに視線を向ける。
彼は咄嗟に僅か頬を赤らめ、それを誤魔化すように先程より一層厳しい声でエースを追いたてた。
「エース、さっさと行け!」
「分かってるって!じゃあな!」
ようやく赤い影がドアの奥へと消えて行くのを確認し、ユリウスは不機嫌に長く息を吐き出す。
エースと会話をしていた為、少し離れた場所に立っていたが彼の仕事机にゆっくりと近づいてきた。
「・・・・・・ユリウス」
「・・・・何だ?」
「・・・・・・・・ありがとう」
「・・・・?」
不意に彼女から告げられた感謝の言葉。
その真意が分からず、ユリウスは怪訝な表情を浮かべる。
「何だ突然、気持ちの悪い。私は礼を述べられるような事はしていないぞ」
「もー、またそんなこと言って!ユリウスってば照れ屋さんなんだから!」
「ばっ・・・!?な、何なんだ!?お前は一体!?意味の分からん上に、気色の悪い!」
「だってユリウス、守ってくれようとしたじゃない」
つい先程までは常と同様の暴走気味な口調だった彼女が、そこで声のトーンを僅か落とした。
同時にフッと浮かべられた微笑は、あどけなさを残した笑みに儚い艶やかさを滲ませている。
知らず、ユリウスは、彼女のその変化に目を奪われていた。
「守った・・・・・?何をだ?」
「・・・・・・・、・・・うん、あのね・・・・・・。、ずっと役なしの皆の所に居たから、
分かってるのよ。この世界の人たちの考え方とか、物の見方が余所者のとは大分違う事」
「・・・・・・・・・?お前は何の話をしている?」
彼女の話の意図が見えず、ユリウスは益々眉間にしわを寄せた。
は微笑を浮かべたまま、小さく頷く。
彼が怪訝に思っている意味を理解しつつも、その先を話す為に口を開いた。
「の居た宿屋の事。ああ言う事が、ここでは珍しくないってことも分かってる。
勿論、個人的に全然納得は出来ないけど、この世界では珍しくないって知ってる。
だから・・・だからエースが・・・・・・・・・・・・を理解できない事も、の感情・・・余りよく思わなかった事も分かってるの」
がここまで話した所で、ユリウスは彼女が何を言いたいのか薄々ながら悟ることが出来た。
エースの心ない一言を遮ったユリウスの行為。
彼女は今、そのことを話題にしている。
「でもやっぱり面と向かって皆が死んでしまった事を口にされたら辛かったと思う。
だからユリウスがを心配して止めてくれて・・・のこと、守ってくれて嬉しかった」
「っ・・・!わ、私は別にお前の為に言った訳じゃない・・・!私自身の仕事の為だ!
言っただろう!アイツのせいで仕事が遅れていたんだ・・・!」
激しく動揺し、狼狽を露わにするユリウス。
はその様子をジッと見つめた後、小さく吹きだしてクスクスと声をたてて笑った。
「なっ!!笑うな!いいか!?私は本当にお前の為にあんなことをした訳では・・・!」
「ユリウス・・・」
ユリウスが更に言葉を重ねたその最中。
は彼の名を呼び、椅子に座っているユリウスの胸に飛びつくように腕を伸ばして抱きついた。
「な゛っ・・・・!!!!!!!!??????」
刹那。
唐突の出来ごとに対処出来ず、ユリウスが硬直する。
彼女が飛びついた衝撃で彼の眼鏡が僅かズルと斜めにずれた。
「・・・・・・・・・・ありがとう、ユリウス!」
―――――だからお前の為ではないと言っているっ!
本来の彼ならば彼女を振り払い、そう口にして居た筈の状況。
だが。
それも今は昔。
彼の心は既に、この少女の手の内にある。
ユリウスはの小柄な体を拒絶する代わりにその背に自ら腕を回していた。
そして―――――――――――――――
「・・・・・・・・・フン・・・・・・・・礼などいらん・・・・・・・・・・」
肯定もしなければ否定もしない。
ただ、噛みしめた唇を開き、そう一言、彼女に、告げる。
これはこのひと癖もふた癖もある少女に偏屈で人嫌いの時計屋が完全に心奪われてしまった後の話。
そして、彼らが互いの気持ちを強く確認し合うのはもう目前の話だ。
(END)
後書き
久々にハトアリ更新!しかもこの暴走乙女(笑)
エース出すと何か話が進めやすい様な気がするのはきのせいだろーか。
それはそれとして、未だに、ホンットに未だに!このヒロインの性格が掴めてな(・・・)
いや、何か掴めてないと言うより、一人で走ってしまってる感じなんですよね。
ユリウスはそろそろ彼女のテンションに色んな意味で慣れて来てますが、
私は全く慣れていない・・・!!!
ではでは!ここまでのお付き合い、誠に有難うございます!深く感謝しつつ、失礼します
[やさしくなる方法]TITLE BY capriccio