時間帯は夜。
路地裏の一角。
人間達が滅多に足を踏み入れないその場所で、猫達は集会をしている最中だった。
お互いに情報交換らしき事をしている猫もいれば、世間話をしている猫も、
ただぼんやりと周囲の猫達を眺めてすわっている猫もいる。
因みには、何をするでもなくぼんやり辺りを眺めている猫の部類に入る。
それぞれ縄張りを持っている彼らと違い、は行動範囲が特に定まっておらず、
気まぐれに色々な場所に足を運んでいた。
その為に猫の集会に顔を出す場合も、いつも決まった場所という訳じゃない。
それでも警戒心の強いはずの猫達は、予想外にすんなりとを受け入れてくれることが多かった。
俗に言うその地域のボス猫に好かれやすいことが、その大きな理由のひとつかもしれない。
いや、それ以前に人間だろうと猫だろうと、『余所者』と言うのが大きく影響していると言った方がいいのかもしれない。

「・・・く・・・ぁ・・・。」

特に他の猫達と交流することもなく彼らを眺めていたは、小さく欠伸をした後、
夜空に浮かぶ金色の月に視線を移した。
その時。
猫達の背後にある煉瓦の塀の上。
満月を背にした形で、そこに不意に誰かが姿を現した。
シルエットだけはハッキリしているが、逆光のせいで顔までは確認できない。
背格好からして少年だということは分かった。
そして、はその少年の頭に、二つの猫耳が生えていることもハッキリと目にすることが出来た。
この位置からは見えないが、彼には長い猫の尻尾も生えているだろう。
半動物なその姿は、この世界では全く特殊なことじゃない。

「よっと。」

がその少年に目を奪われていると、彼は高い煉瓦の塀の上から奇麗な弧を描いて飛び上り、難なく地面へと着地した。
瞬間。
その場に居た猫達は、唐突に降ってきた形の少年を目にしてほんの一瞬ビクリと大きく体を震わせ、
それからすぐにまるで蜘蛛の子を散らすように走り去っていった。

「・・・ったく、臆病な奴ら・・・。」

少年は散り散りに居なくなった猫達をチラリと見やると、そう独り言を呟いた。
はその様子をほんの少し離れた場所から観察する。
全身目に痛いピンクを纏ったパンク風のファッションの猫の少年。
どちらかと言うと蛍光ピンクにパープルを混ぜたような色合いと言った方がいい。
夜目にもかなり派手な姿だと分かる。
さっきまでは分からなかったが、彼の猫耳も尻尾もほぼ同じ色合いをしていた。

「・・・ん?・・・・・・・何、お前、・・・・・俺を見ても逃げなかったんだ?それとも、単に逃げ遅れたってヤツ?」

の存在に気づいた彼が、そう声を掛けてゆっくり近づいてくる。
はその場に留まったまま、彼を見上げた。

「にゃーぅ。」(何故逃げる必要があるの?)

相手は猫の少年だ。
恐らく他の人間と違って此方の言葉も通じるだろう。
そう踏んだは、特に迷いなく彼にそう訊ねた。
すると、彼は少し驚いたような表情で金色の瞳の奥をくりりと動かした。

「何故って・・・、お前まさか・・・俺が何者か分かってない訳?」
「に・・・?ニャー・・・ニャア・・・。」(え?・・・ああ、・・・役持ちなのね。」
「って、おいおい、マジかよ、その反応。お前度胸が据わってんの?それとも単なる馬鹿?」

言いながら、彼は興味深げにを見つめ、身を屈めてを抱き上げた。

「にゃーあぉ。」(さぁ、どっちかしらね?)
「・・・・・・・・・・・・変なヤツ、結構美人さんな黒猫なのにな。しかも金と銀のオッドアイか・・・。
いいね、お前、奇麗な目をしてる。」
「ニャ。」(それはどうも。)

少々おざなりな返事をし、は内心溜息を吐く。
よりによって役持ちと顔を合わせることになるなんて。
彼らとの接触を特に避けてきた訳ではないが、余り喜ばしいことじゃないのは確かだ。
役持ちはこの世界の人間の中で顔なしと呼ばれる他の者達に比べて力を持ってる分、色々な意味で厄介な存在だ。
そう、この歪んだ世界の狂った住人達の中でも特に。
はいつもこの猫の姿で第三者的な目線で彼らを観察していた。
そう言えば、猫達の噂で遊園地に居候していると言う役持ちのチェシャ猫の話を聞いたことがあった。
を抱き上げているこのパンクな少年は、まさにそのチェシャ猫に違いない。

「・・・・・うっわ、お前・・・俺が役持ちだって分かってもそんな反応が出来んの?
・・・・・・・・・・・・・・?って言うか・・・・・ん?・・・・・・・?」

不意に、の胸辺りに掌を押し当てていた少年が、怪訝な表情を浮かべた。
(当然だが、猫の姿なのでその周辺を触れられることに特に抵抗は感じない)
そして、何かを確認するようにの胸元に更に掌を強く押し付けてくる。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・なぁ、お前さ、・・・・・・・・まさか・・・心臓があんの?」
「ニャー。」(あるわよ。)
「・・・・・・マジかよ!?ってことは・・・余所者・・・?いや、けど・・・どう見ても猫だし・・・。」

殆どぶつぶつと呟くように言いながら、
彼はトクトクと刻まれるの胸の奥の小さな鼓動をまたしても確認しているようだった。

「・・・・・・・・・やっぱこれは心臓の音・・・だよな?・・・へぇ・・・さすがに驚いたぜ。
・・・俺はボリス=エレイ。お前、名前は?メス猫みたいだからあんま縄張りは関係ないだろうけど・・・、
この辺に住んでんの?」
「にゃぉ。なー、ニャーぅ。」(。・・・・・・・・住処は決まってないわ。)
「ははっ、何だ、人間並みに立派な名前してるな。住処が決まってないって、つまりノラなんだろ?」
「なー・・・にゃーーご。」(人に飼われるつもりはないの、特に困ってないし。)
「ああ、そうだな。お前、そんな顔してるよ。猫の中でも特に懐きにくいタイプだね。
・・・・・・・・・けどさ、良かったら俺と一緒に来ないか?別に俺が飼うとかじゃなくて、
疲れた時に安心して眠れる場所があるってのは俺達にとって重要な問題だ。俺の部屋なら絶対に安全だって保証できるぜ。」

そう言って、ボリスは金色の瞳をの瞳と合わせて少しだけ笑って見せた。
は彼を探るようにジッと見つめ、その真意を見出そうと試みた。
ついさっき顔を合わせたばかりの正真正銘初対面の猫の少年。
恐らく彼がに興味を抱いたのは、が異世界から来た()らしいと言うことが大きな理由だろう。
それからのこの左右の瞳。
金と銀のオッドアイが酷くお気に召したようでもある。
自分が人間の姿だったなら絶対にこんな誘いに気軽に乗るような浅はかな真似はしない。
だが、今のは猫なのだ。
そして、彼の言う通り、毎度疲労を感じるたび、安心して何の気兼ねもなく眠れる場所が欲しいと常々考えていた。
探せば町中にも休める場所が全くないわけでもない。
しかしいつも一つ以上は絶対的に欠ける短所がある場所ばかりで、
決して『安心して気兼ねなく』という言葉が当てはまる寝床は確保できていなかった。
は暫くの間彼に抱き上げられたまま考え込んだ後、
(その間もボリスは飽くことなく掌での心音を確認していた)
結局その提案を受け入れることにした。

「なう。にゃーーぅ。」(OK.お言葉に甘えるわ。)
「決まりだね。・・・改めてヨロシク、。お前って他のヤツより利口そうだから、俺のいい遊び相手になりそうだよ。」
「ニャ。」(それはどうも。)

はボリスの腕から飛び降りると、トンっと前足から地面へと着地した。

「本当は他の場所に用事があったんだけど、今日はもういいや。先にお前を俺のお城にご招待してやるよ。
近道を使うけど、レイ、お前ならついて来られるだろ?何たって猫だもんな。」
「にゃー。」(大抵の所なら)
「おいで、こっちだ。」

闇夜に紛れることのないピンクの猫の少年が、軽やかな動きでを先導する。
大きな金色の満月に見守られながら、は彼の後に続いて走り出したのだった。



出会ってしまった二匹の猫



(END)




アトガキ
ボリスとの出会い編。猫同士だから先々も一番すんなり行きそうな気がするな(笑)
そんなこんなで遊園地在住となりましたという感じなので、
もしもゴーランド相手の場合もこれは共通です。
つーかヒロイン・・・喋りはお姉さん系なのににゃーにゃー言ってるせいでお笑いにしか見えない(苦笑)
あ、ボリスがヒロインを『お前』と呼んでるのは、あくまで猫だと思ってるからです。
ではでは、ここまでお付き合い下さった姫様!本当に有難うございます。
いつも同じ言葉のお礼しか申し上げられませんが、誠に感謝です。失礼します


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