混乱しきった双子の話を聞いていては埒が明かないと言う結論に至ったとアリスは、
彼らが喚いている原因がどうやらブラッドとエリオットにあるらしいということを知り、
二人してブラッドの部屋に向かうことにした。
と言うか、ディーとダムの言葉でまともに受け止められたのはブラッド達の名前の部分だけで、
その内容は達には全くちっとも意味が分からなかった。
「どんだけ混乱してんだって、話よね、あの二人。・・・でもさ、帽子屋一家の2トップに何かあってたら、いち大事じゃない?」
「まぁ、普通はそうでしょうけど・・・。でも屋敷内に変わったところはないんでしょう?
大体のあの二人に何かあったんだとしたら、他の部下達だって黙っちゃいない筈だわ。
少なくとも命に関わるようなことじゃないんじゃないかしら。・・・・多分ね。」
ブラッドの部屋へと続く長い廊下の途中。
達はあーでもない、こーでもないとあらゆる仮定を想定しつつ、
ブラッド達に何が起きているのかを想像しあっていた。
だけど達が出した案のどれひとつ、現実に起こっている事実をほんの少しも掠めもしていないことを、
達はこの時知る由もなかった。
―――コンコン
「ブラッド、。あ、アリスも一緒なんだけど。」
「とアリスか、入りなさい。」
「「・・・・・・?・・・・??????????」
ブラッドの私室兼仕事部屋前。
いつものようにノックをして、は彼に声を掛けた。
そう、ここまではいい。
いつも通りだ。
部屋の前まで来ているけど、これまで特に変わったこともないし、
部屋の中にもまだ入ってないけど、だけど双子がムチャクチャ取り乱してた割には極普通のように見える。
でも。
だけど。
今、の呼びかけに応えた、声。
口調はいつものダルダルーっとしたブラッドのもの、だった。
口調は、そう口調はブラッドそのものだった。
と思うのに、思うけど。
―――ああー・・・ううん???あれって何か・・・エリオットの声じゃなかった????????
とアリスはお互いに怪訝な表情で顔を見合わせ、頭の上にかなりの数の?マークを浮かべていた。
「とにかく入ってみましょう。」
「う、うん・・・分かった。」
アリスに促され、は軽く頷くと、ブラッドの部屋のドアノブに手を掛け、それをゆっくりと開く。
そして彼の室に入ってすぐに、妙な違和感を覚えた。
部屋の中に居るのは当然この部屋の主、ブラッドと、
それからさっき変なところで変な返事(と言うかブラッドの物真似?)をしていたエリオットの二人。
このこと自体は特におかしなことじゃない。
(例のエリオットの返事のことはこの際置いといて)
エリオットがブラッドの部屋に居るのは仕事内容の確認や仕事上のことで密談する場合にはよくあることだ。
だからそれ自体は特におかしいことじゃない。
――――――――――――――筈なのだが。
「・・・・ねぇ、・・・・・・どうしてエリオットがブラッドの机に座っているの?」
「・・・・・・・だよね・・・。そして何でブラッドがいつもエリオットの座ってるソファに居んの?」
達は即座、二人揃って感じた疑問を口にした。
そう、違和感の正体。
それは、ブラッドとエリオットの立ち位置にあった。
簡単に言ってしまえば、彼らはいつもと真逆の位置に座っているのだ。
「それはな、お嬢さん達・・・今の私達の状況に関係しているんだ・・・。」
「「―――――――――――――っ!!!!!!!!???????」」
ブラッドの仕事机に座っているエリオットが、不意にそう、口を開いた。
まるでブラッドみたいに。
みたい、と言うか、音声を間違えて吹き替えられたように声だけが違っていて、
殆どブラッドそのものの口調だった。
とアリスは反射的にこれ以上なく瞳を見開き、エリオットの顔を穴が空きそうなくらいに凝視した。
「マジで驚いちまうよなー。俺もブラッドもどうしたらいいか話し合ってたとこなんだ。」
「「!!!!!!!!!!!!!!!!???????????????」」
今度はソファに座っているブラッドが、まるでエリオットみたいな口調でそう口を開いた。
こっちもこっちで声さえ違えば、エリオットそのものだ。
つまり今、ブラッドはエリオットの口調で、エリオットはブラッドの口調で喋っているのだった。
とアリスは殆ど顔面蒼白で二人を交互に見比べる。
そして、アリスは両手の拳を握ると声を張り上げて言った。
「あ、あんた達!!どんな遊びか知らないけれど、気持ち悪いからやめなさいよ!!それ!!」
「・・・遊び?とは・・・?」
ブラッド独特の億劫そうな喋り方で、エリオットがアリスにそう問い返す。
一瞬、アリスはジロリとエリオットを睨んだ後、すぐにソファに居るブラッドに視線を移した。
「ブラッド!!こんな下らなくて恐ろしい遊びを始めたのはどうせあんたでしょう!!
退屈だからとか言う理由でエリオットまで巻き込むなんてやっぱりあんたは最低だわ!!」
「・・・・・・・こ、今回ばっかはもアリスに全面同意する。マジ勘弁なんだけど、二人とも。」
本当に本当にアリスの言う通りだ。
こんな下らなくて恐ろしい遊び、冗談じゃない。
そりゃ双子だってビビりまくって逃げ出すってもんだろう。
エリオットがブラッドを、ブラッドがエリオットをそれぞれ演じ合うなんて。
っていうか、アレ、正直演じてると言う範囲を超えている。
成りきってると言うのも何か違う気がする。
だって、部屋に入ってから今までまだそう経ってはいないけど、二人は喋り方だけじゃなく、
行動と言うか仕草まで完全に取り換えたみたいな状況なのだ。
ブラッドの仕事机に居るエリオットは気だるげな表情でやる気なさげな態度を見せてる一方、
エリオットの定位置であるソファに座ったブラッドは、やる気と生気に満ちた瞳をしている。
正直、怖い。
怖すぎる。
下手なホラーよりスプラッタ物より怖い。
あわあわあわあわ、唇が震えそうになる位には本気で怖い。
あんなエリオットは絶対エリオットじゃないし、
ブラッドに至っては視線を合わすことさえ恐ろしい。
「アリス、、言っとくけど俺、ブラッドじゃねぇからな!」
ソファに座っていたブラッドは、腰を浮かせて立ち上がると、アリスに向かってそう言った。
「・・・・・・・・・・ブラッド!!あんたふざけるのもいい加減にしなさいよ!!」
アリスは勇敢にもその恐ろしい状態のブラッドに立ち向かう。
彼女は額に青筋を立てつつ、顔面蒼白と言う、複雑な顔色(?)をしていた。
不意に、ふぅ、と、ブラッドの定位置に居るエリオットが深い溜息を吐く。
とてつもなく気だるげで、とてつもなくブラッド的な溜息を。
「残念だが、アリス。エリオットの言う通りだ。そこに居るのは私じゃない。
それに・・・君もも本気で私達がお遊びでこんなことをしていると思っているようだが・・・・、
私にはうさぎ耳・・・・・・・・・・、エリオットに成りたいと言う願望などない。
今までの自分で十分に満足していたからな。大体こんな面倒臭くて厄介な遊びは全く私好みじゃない。」
「ひっ、ひでぇ!!ブラッド今俺のことうさぎ耳って言っただろ!?俺はうさぎじゃねぇって知ってるくせに!!」
「「・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」
会話だけを聞いていればまるきりブラッドとエリオットのいつもの会話だ。
それなのに、喋っている人物はそれとは正反対の容姿をして居る。
パニっくどころの騒ぎじゃない。
恐怖体験。
間違いない、この世界に来て今までで一番の恐怖体験だ。
気のせいじゃなく、さっきから悪寒が止まらないし、の体全体に鳥肌が立っている。
多分、それはアリスも同じな訳で。
ガチガチと、殆どかみ合わない位になる歯をどうにか抑え込み、
はと全く同様に真っ青になっている彼女に訊ねた。
「・・・あ、アリス・・・。こ、これどう思う?マジだと思う・・・?」
「私に聞かないでよ。ばっ、馬鹿らしい、く、下らないわ!・・・・だけど、・・・・そうね、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・これだけは言えるわ、もしもアレがエリオットなら、
自分の耳をうさぎ耳なんて絶対に認めやしない筈だってことだけはね。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・同感。」
プレイヤー視点でこのハートの国を見てきた時からもそうだけど、ここに来てリアルに彼らに接するようになって、
はエリオットがどれだけ自分をうさぎだと思っていないかを思い知っていた。
もうあれは『認めていない』と言うレベルじゃない。
彼にとって自分がうさぎだと言う認識はあり得ないのだ。
だから親しい人間以外が自分のことをうさぎだと口にすると本当に不機嫌になるし、
実際撃ち殺そうとしたのを寸での所で止めたことだってあった。
だからついさっきどう見てもエリオットの姿の『彼』が自分の耳をうさぎ耳だと認めたことは、
余りにも不自然すぎる事だと言わざる得ない。
「アリス!!まさかあんた達まで今でも俺をうさぎ扱いしてるんじゃないだろうな?
俺はうさぎじゃねぇ!あれはちょっと耳が長いだけだぞ!」
ブラッドはエリオットの耳の部分を指さして興奮した様子で言った。
その姿に絶望感すら覚える。
「・・・・・・・・・。」
の隣に立っていたアリスが、不意にひそひそとにだけ聞こえる声で呼びかけてくる。
はそれに応えて彼女に視線を向けた。
「な、何?アリス・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・悪いけど、私、当分帽子屋屋敷には近づかないわ。」
「え?・・・・・・・・ええっ!?えええええええええええええええええええええええ!!???」
驚きの余り殆ど絶叫に近い声を上げる。
元々彼女は遊園地に滞在していて最近ボリスといい感じになり始めていたりするのだが、
それでもがここに滞在してることもあって、頻繁に帽子屋屋敷に遊びに来てくれていた。
だが、今、このブラッドとエリオットの衝撃的すぎる謎も謎な異常事態。
アリスが逃げ出したいのはもよく分かる。
よく分かる、分かるけれども。
「ごめんなさい!!次会う時は連絡するわ!!時計塔広場で会いましょう!!」
「ああああああああああああ!!ちょ、アリス!!あんた、ずっ、ズルイいいいいいい!!!」
どちらかと言うと冷静で、そして現実主義者な彼女には、
この世界を夢だと思いこんでいる今でも、今現在のこの状況は目を逸らしたいどころか全力で逃げ出したいことだったらしい。
彼女らしからぬ取り乱しようで、凄い勢いでブラッドの部屋から出て行ってしまった。
を、たった一人、置いて。
「ああっ!?アリス帰っちまったのか?なんだよ、つまんねぇなー・・・。もう少し話がしたかったぜ。」
「ふむ、・・・せっかちなお嬢さんだ。」
「―――――――――――――――――――――――――――――。」
おお、神よ。
おお、神よ。
おお、神よ!!!!!!!!!!!!!!!!!
どうしてをお見捨てになったのですか!?
SOS! SOS! & Jesus! Jesus!
(END)
後書き
ははははははは!凄い混乱気味な文章になってますね。
気だるげなエリオットは私的に有る意味有りなんですけど、
きらきらな瞳のブラッドは爆笑の対象にしかならないと思います。
このメチャクチャな設定の話に付き合って下さっている姫様、
ここまで読んで下さって有難うございます。本当に色々な意味で激しく感謝です。
ではでは、今回はこれにて失礼いたします。