ブラッドとエリオットの体が入れ換わると言う恐ろしく衝撃的すぎる事件から数時間帯。
最初の内こそ妙に落ち着いていた二人。
だけど、ここに来て、彼らはようやく事の重大さに気付いた様だ。
と言うか、その気付き方ってのが、正直彼らにしか分からないことが理由だったりするんだけど。
寧ろ、こっちとしてはそんな理由の前に気付こうよ、ってのが本音だったりする。
「・・・・・・・・・・どうして、・・・こっ、・・・こんなことが・・・。
何故こんな事が有り得る・・・?おかしい・・・・、何かの間違いだ・・・!」
青ざめた顔色に、この世の終わりと言わんばかりの表情のエリオット
(つまり中身はブラッドな訳だけど)は、
手にあるティーッカップを今にも落としそうな勢いでガタガタと震わせている。
ティーカップの中には勿論紅茶。
そうだ、ブラッドの大好きな、紅茶が注がれてる。
たった一口しか飲まれてない状態で。
「・・・・・・・・ブラッド、いい加減諦めようよ・・・。」
彼の隣り。
ソファに座ってその様子を見ていたは、深い溜息を一つ零して言った。
その声すらも、絶望の淵に立たされたブラッドの(今現在は長い)お耳には届かないらしい。
彼はティーカップの中で小刻みに揺れる紅茶をただただ凝視していた。
「茶葉に質は勿論、保存方法も今までと何ら変わりはない筈だ・・・。
淹れる際の温度にも、そして当然蒸らし時間にも、最後の一滴に至るまで細心の注意を払い、
紅茶を最高の状態で楽しめる様に全ては完璧に整えられている・・・。
そう・・・!今までと変わらず、完璧にだ・・・!にも拘らず・・・何故・・・・。」
そこでブラッドは一呼吸置き、またしても一口、紅茶を啜る。
そしてそれからさっきまでより更に更に暗く打ちひしがれたみたいな声で続けた。
「・・・・・・・・・・、紅茶が不味い・・・・・・・・・・・・!!いや、それ以前にこれは・・・無味に等しい・・・。」
エリオットの姿のブラッドは、そう言ってがっくりと肩を落とした。
ウサギ耳がそりゃもうこのまま地面に向かって落っこちてくんじゃないかって位に垂れ下がっている。
一見してみれば、ブラッドに怒られたかにんじんのことで不運があったエリオットが超絶落ち込んでいる図。
にも見えない事はないけど(と言うか見た眼、まんまそう)実際の中身はもう何度も言ってる様にブラッドなのだ。
それは分かってるんだけど、嫌って位に分からされてるんだけど、
やっぱり未だにこのアンバランスと言うには余りに余りな状況には慣れない。
「ブラッド・・・。」
「ハァ・・・、ああ、何てことだ・・・。紅茶を楽しめないなど・・・。」
「そりゃ、その体、エリオットのものですから。」
そうだ、もう何度も何度もなーんども言ってる様に、ブラッドは今エリオットなのだ。
中身がブラッドでも体はエリオット。
当然味覚も嗅覚も聴覚も全部、全て、まるっまる、エリオットなのだ。
エリオット自身が以前から言ってた様に、彼の味覚で紅茶の味の善し悪しなんぞ分かる訳もない。
これがにんじん入りのキャロットティーなんかだったら話はまた違ってくるかもしれないけど。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
そこでははたと思い返す。
にんじん。
言わずもがな、(この際本人が否定してる事は置いといて、)ウサギであるエリオットの大好物。
そして主食。
今のエリオットの中身はブラッド。
だけど体はエリオット。
つまり。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・、うわ・・・。」
うわあああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!
あああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!
うわあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!
お そ ろ し い。
事実に気付いてしまった。
チラリ。
は横目で隣に居るブラッドを見る。
未だに自分の置かれた状況(この場合、紅茶を飲んでも美味しくないと言う意味)を信じたくないのか、
不幸のどん底もどん底、そのまたどん底に潜り込んだような顔でティーカップの中に揺らめく紅茶を見つめているエリオット。
こんな姿はエリオット自身が正しく収まってる時は勿論、
ブラッドがブラッドだった時(表現が恐ろしく微妙な事は置いておく)でさえ見た事がない。
マフィアのボス、帽子屋・ブラッド=デュプレが紅茶マニアを超えた紅茶狂いだってことは自他共に認める事実。
その彼にとって、今の状況は余りにも受け入れがたい物らしい。
その姿すら、エリオットの体な彼だと可愛らしく見えるのは有る意味皮肉なことだと思う。
だけどそんなことよりも。
こ、こんな状態のブラッドに・・・・・・・・・『にんじん食べてみたら?』なんて言った日には・・・。
殺される!!!!!!!!!!!
間違いなく、瞬殺される!!!!!!!!
0コンマな世界で抹殺される事間違いなし。
何と言ってもブラッドは本来の体の持ち主、エリオットのおかげで極度のにんじん嫌いに陥っている。
それはもう、『にんじん』と言う単語を口に出来ない位に。
そうだ。
『オレンジ色のアレ』なんて言い方をしてその存在自体を必死に暈そうとする程。
そのブラッドににんじんと言う単語を告げるだけでも恐ろしいこと山の如しなのに、
食す事を進めるなんてどんだけ自殺願望が強いんだと言うことになる。
だけど、実際問題、今の状況でブラッドが紅茶を飲み続ける事は凄く難しいと思う。
と言うか、紅茶狂いのブラッドだからこそ、こんな紅茶の楽しめない状態で紅茶を口にするのは、
紅茶への冒涜と考えるんじゃないだろうか。
それに、単純に考えて今のブラッドはエリオットなんだから、紅茶よりもにんじん料理の方が数100倍美味しいと感じる筈。
と言うより、これはもう絶対にそうだと断言できる。
この先どのくらいこの色んな意味で恐ろしい逆転劇が続くのか分からないけど、
ブラッドだって食事をしないことには生きていけない訳で。
結果的に、やっぱりブラッドにはこの試練を乗り越えて貰わないといけないんだと思う。
と言うより、これはにとっても十分試練も試練、超絶試練なんだけど。
「・・・・・・・・・・・・・・・、ブラッド、、少し席外す。すぐ戻ってくるから!」
言いざま、はブラッドの返事も聞かずに彼の部屋を飛び出した。
行く先は決まってる。
帽子屋屋敷内のキッチンだ。
それから十数分後。
は再び、ブラッドの部屋に戻って来た。
にんじん料理を乗せたワゴンと一緒に。
「・・・・・・・・・それで?・・・・・・・・・、君は・・・・・・・・・・・、
この私にその中にあるおぞましいオレンジ色のアレ・・・・・・を口にしろ、と言うのか?」
案の定。
ブラッドは一瞬にして殺気立ったと言ってもいい位の空気を放ってを睨みつけた。
こ ろ さ れ る。
本気でがそう思ってビビる位に鋭いエリオットの目で。
元々エリオットもブラッドもある意味同じ部分で繋がった悪党の顔を持っている。
いつもは可愛らしいとすら思える事の多いエリオットも、
組織のNO,2としての顔は本当にぞっとする位に凶悪だってこともはもう既によく知っていた。
ブラッドも普段はダルダルーっとした口調と態度だけど、その普段でだって明らかに油断ならない鋭い目をしてることがある。
マフィアのボスなんだから当たり前だけど。
とにかく、そんな二人な訳だから、体と心が違うものであっても、威圧感は全く変わらない。
と言うか、ある意味でそのアンバランスさからいつもよりもっとの恐怖心を駆り立てる何かを含んでる様に思えた。
でもだからってこんな理由で殺されるなんて真っ平御免だ。
こんな。
エリオットの体のブラッドににんじん料理を進めたから殺されるなんて、そんな間抜けな死因、絶対にあり得ない。
今はまだ料理に蓋をしてるからブラッドもこっちをギンギラギンに睨んでるけど、
この蓋を開ければ彼は反射的にこっちから目を逸らすだろう。
それだけでもの寿命が縮むのを少しくらいは避けられる。
「君の事は大好きだし、非常にいい友人だと思っていた・・・。残念だよ、。」
何だかものすごーーーーく大変、非常に恐ろしく不穏すぎる言葉を口にしだしたブラッドに危険を感じ、
は覚悟を決めて料理の蓋に手を掛け、それをゆっくりと持ち上げた。
瞬間―――――――――――――
「ーーーーーっっっっ!!!!?????」
声にならない声を発し、ブラッドはワゴンに乗っている料理から目を―――――――
――――――――――――――――逸らさなかった。
と言うより、寧ろ凝視してる。
めっちゃくちゃ見てる。
ガン見してる。
あの、オレンジ色の、アレらを。
予想外の出来事。
いや、ある意味で予想できたことかもしれない。
もう口にするのも馬鹿馬鹿しいけど、今のブラッドはエリオットなんだから。
さっき紅茶の味の事で絶望を感じてべったり頭に張り付いていたウサギ耳は、
今はわくわく、ぴこぴこ、忙しなく動いている。
何だか妙な感じだ。
中身は未だ間違いなくブラッドの筈なのに、その様子はまさにエリオット。
だがしかし。
だがしかし、だ。
ブラッドの瞳。
固定されたみたいににんじんから動かないにもかかわらず、
口では説明できない超難解な複雑色が揺れに揺れている。
まぁそれも仕方ない。
今ここに居るブラッドが、ブラッドだったらば、
このにんじん料理を例え視界の片隅、数ミリだろうと入れたくはないだろうから。
なのにガン見せずには居られないエリオットの本体。
ブラッドにとってはアンバランスの最悪な法則。
拷問に近い。
しかも。
「・・・・・・・私は・・・、私はオレンジ色の物体など口にしないっ!!!」
勇ましくそうのたまったのも束の間。
彼の断固たる意思に反して、
エリオットの体は嬉々としてにんじん料理を食べるべくワゴンの隅にあるナイフとフォークを手にした。
うわ。
うわああああ。
うわああああああああああああああああああああああああああああ。
この状況を、この流れを生んだのは間違いなく自身なんだけど。
ごめん、ブラッド。
さようなら、ブラッド。
にはもうどうにも出来ません。
つーか、これもエリオットの体になった運命だと受け入れて!!!!!
「私はこんな物が食べ物だとは認めないぞ・・・、っ!?」
悪態を吐きつつブラッドがにんじん料理を口に押し込む。
そりゃもう次から次へと。
まるで、本物のエリオットがにんじん料理をがっついて食べてるみたいに。
嫌々食べているのか嬉しげに食べているのかもうよく分からない様な状態だ。
何かこうなってくると、さすがにブラッドが可哀そうになって来た。
はブラッドの精神力を、エリオットの肉体の食欲が超えた瞬間を目撃した。
この後、これをきっかけにブラッドがにんじん嫌いを克服したかと言うと、
そんな訳が有る筈もなく、寧ろ、以前よりも更に更に彼のにんじん嫌いには磨きがかかってしまった。
結論。
周囲の為だけでなく、お互いの為にも早々にこの逆転劇を終らせる必要性が有ると思う。
三月兎の最悪にして最高の運命
(END)
後書き
久々のハトアリ更新がこの特殊設定(笑)今回はブラッド側の話でした。
キャラの崩壊指数が限りなく高い上に、文章だけでは乗り切れない何かがあると思うんですが、
それでもやっぱり執筆する方は楽しかったりします。
このお話もとうとう5本目・・・。ここまでお付き合い下さっている姫様には感謝しまくりです。
テンションがおかしいよ、変わり種だよ、
と言うこの設定に興味を持って下さって有難うございます!