ブラッドとエリオットの体が入れ換わると言う恐ろしく衝撃的すぎる事件から数時間帯。
最初の内こそ妙に落ち着いていた二人。
だけど、ここに来て、彼らはようやく事の重大さに気付いた様だ。
と言うか、その気付き方ってのが、正直彼らにしか分からないことが理由だったりするんだけど。
寧ろ、こっちとしてはそんな理由の前に気付こうよ、ってのが本音だったりする。
「何でだっ!?あり得ねぇっ!!ぜってぇあり得ねぇだろ!?こんなこと、俺は認めねぇからな・・・・っ。
こんな・・・・・・・・・こんなことあってたまるかっ!!」
顔面蒼白に近い状態で声を震わせて怒鳴るブラッド(つまり中身はエリオットな訳だけど)は、
目の前のテーブルに広がるオレンジ色の料理を極力目に入らないようにしつつも、
気にせずには居られないと言う様にちらちらと落ち着きなく視線を動かしている。
テーブルの上に置かれている数々の料理はどれも例に漏れずオレンジ色。
そうだ、勿論全部エリオットの大好物であるにんじん料理。
何だかつい最近似た様な光景をエリオットの本体(つまりブラッド)で見た気がするけど、
今回、ブラッドの体であるエリオットはにんじん料理に一口も手を付けられないで居る。
「エリオット・・・あのさ、無理だと思うよ・・・」
彼の隣。
同じテーブルの席についていたは、思い切り口元を引きつらせつつ意味もなく笑って言った。
は未だにエリオット IN ブラッドにはどうにも慣れてない。
ブラッド IN エリオットは何だかんだでどうにか受け入れられなくもないんだけど、
あのダルダルなブラッドがこんな元気な口調で怒鳴り声を上げるなんて、色々な意味であり得ない。
舞踏会の時のフラワリーオレンジペコを語るブラッドよりも怖い。
・・・いや、でもまぁ・・・鏡見て感動しなくなった分マシだよね・・・。
うん、ほんっっっと、アレがなくなっただけ物凄くマシ!!!!!!
エリオットは体交換後にブラッドと仕事の話を済ませた後、鏡の前に立った自分の姿に向かって大絶賛して居た。
――――ブラッドっ!お前ってやっぱスゲーぜ!!中身は当然ムチャクチャすげーけど、外見もすげー!
さすがブラッドって感じだ!俺はお前の体で居る間、絶対にこの体を守り切るからな!!
いや、あの場合絶賛と言うよりははしゃいでる子供と言った方がいいかもしれない。
だけどそんなことより何より、妙な浮かれ方で元気に声を張り上げ、
鏡の中の自分を褒め称えるブラッドの姿は、余りにも痛すぎると言うかとにかく見て居られなかった。
目に悲しいやら厳しいやら色々な意味で泣きたくなる光景。
第三者から見たら変にテンションの高いナルシストにしか見えないし。
どんだけ自分大好きなんだってツッコミが入りそうな位。
それはどうやらブラッド本人も感じたようで、いや、本来の持ち主だからこそ居たたまれなかったらしく、
視線を明後日の方向に向けつつもエリオットを止めていた。
―――――エリオット、頼むから私の体で妙な事を口走るな・・・。
どこか切羽詰まった様な響きがあったのは、絶対の気のせいじゃないと思う。
「っ!!」
回想に耽っていたの両肩。
突然ガシッとブラッドに掴まれた。
「わっ!?あ、ああっ、ごめん、・・・何?」
「あんたに頼みがあるんだ!」
「え?」
「一口でいい!俺にこの料理を食べさせてくれ!!」
「え゛っ!?えええええええええええっ!!!!!????」
「なぁ、頼む!!この通りだ!!だっておかしいだろ!?食事しようとしてるだけなのにっ!
体が言う事きかねぇんだぜっ!?それどころかまともに料理を見ることも出来ねぇ!!」
「い、いや・・・・・・だからそれは・・・・・・・・・」
あんたが今ブラッドだからですよ〜。
ブラッドさんはオレンジ料理撲滅家なんですよ〜。
真実を告げるべきか否か。
なんて一瞬思ってたんだけど、ズズイ、っと迫って来たブラッドの瞳の奥に懇願の色が見える。
うるうると、目を潤ませてににんじんを食べさせてくれと頼むブラッド。
ひぃいいいいいいいっっっ!!!!!!!!!!
これがエリオット本来の姿での状況ならまだ分かる。
身長のデカイ強面なエリオットは、それでもこんな時はちっさいうさぎさんになるから。
だから何だかんだで可愛らしいと思ってしまうんだけど。
だけど。
だけどだけどだけど。
今目の前で瞳を潤ませているのはブラッドな訳で。
ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっ!!!!!!!!!
こわ過ぎるぅううううううううううう!!!!
「分かった!!!分かった!!!食べさせます!!食べさせて差し上げますっ!!」
「っ!ホントかっ!?」
パァア〜
効果音と一緒に一瞬にしてぱっと表情が変わる。
ブラッドの。
ブラッドの顔が。
ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっ!!!!
何かもうどっちにしろ怖いんですがっ!!!!
は落ち着きない動作でフォークを手に取ると、一番近い所にあるにんじん料理をぐさっと突き刺し、
極力エリオットから視線を逸らしてそれを彼の口元に差し出した。
―――――――――――――――――――んだけど。
ガタタタッ
「っ!?」
がエリオットにフォークに突き刺した料理を差し出した瞬間。
彼は、凄い勢いで後ずさり、その拍子に椅子が大きな音をたてた。
「・・・・・・・・・・えっ!?ええっ!?な、何でだっ!?」
エリオット自身、自分がどうしてそんなことをしたのか分からないらしく、凄く慌てている。
だけどには分かっていた。
何度も何度も言っている様に、今、エリオットはブラッドな訳で。
そしてエリオットの大好きなオレンジ色のにんじんさんは彼のせいでブラッドが大嫌いになってしまったもので。
つまり今、彼は、ブラッド=デュプレの本体はそのにんじん料理を目の前に突きつけられ――――――――――
拒絶反応を示している。
しかもかなり激しく。
エリオットは全然そのことに気付いてなくて、果敢ににんじん料理に挑もうとしてるんだけど、
視線はさっきよりも更にオレンジ色から外れようとしてる。
それをエリオットの力で無理やりに向けさせようとしてる感じ。
ブラッドの本体とエリオットの精神力との戦いと言う方向性が全然違う戦いになっている。
何て言うか、第三者から見たら今のブラッド、超の付く挙動不審者なんですけどっ!!
本気で全力で自分自身と格闘してるなんてどんな見せ物だ、一体。
暫くの間は茫然とエリオットの様子を見つめる。
このまま彼を放置したところで決着は付きそうにない。
既にブラッドはゼーハーと息を切らし始めていた。
エリオットほど肉体派でないにしろ、ブラッドだっていつもダルダルーっとしててもそれなりに体力はあるはず。
にも関わらず、あそこまで消耗しきってるってことは、ブラッド本体がかなりオレンジ色のアレを拒否しまくってるってことだろう。
こうなったらエリオットにはにんじん料理を諦めてもらうしかない。
エリオットだってお腹が空いてる状態でこのまま無駄に体力を消耗して、
自分自身と格闘し続けるなんて悲しくも痛々しい真似はしたくない筈だし、
だってこんな状況のままここに居るのなんか御免だ。
「んでだよっ!?このっ!!前に進みやがれっ!!じゃねえ・・・、進んでくれ!!ブラッドぉ!頼む!!
俺にアレを食べさせてくれよー!!」
自分自身と格闘しつつ自分に低姿勢にお願いしてるエリオット。
悲しい。
ただひたすらに悲し過ぎる光景がある。
そして同時に怖すぎる光景。
自分の中の何かと交信するブラッド。
相当キてる。
色々な意味で。
はぐっと奥歯を噛みしめ、両手の拳に力を込めた。
エリオットににんじん料理を諦めさせ、尚且つオレンジ色じゃない料理を食べさせなくちゃいけない。
当然あんな状態のエリオットを説得するのは相当苦労すると思うし、
ブラッドの外見のせいで違う意味で恐怖体験MAXだけど、にはそうするより道はないのだ。
一歩、一歩、挙動不審者と化したブラッドに近づく。
ああ神様、ああ神様!!に力を!!!!
エリオットのにんじんに対する執着と、ブラッドのにんじん拒絶反応はほぼ互角。
説得は困難を極めるだろう。
長い戦いになりそうだ。
でも結局はきっとエリオットは紅茶を飲んで、オレンジ色じゃない料理を食べることになると思う。
これは確信だった。
勿論、エリオットはかなーーーり嫌がるだろうけど。
結論。
周囲の為だけでなく、お互いの為にも早々にこの逆転劇を終らせる必要性が有ると思う。
帽子屋の最悪にして最高の運命
後書き
執筆自体が久しぶりだというのにまたしてもこの特殊設定(笑)
今回はエリオット側のお話。
久々の執筆だったからエリオットの性格が微妙に掴めてないかもしれません・・・。
でも予想以上にスラスラっと書けたから良かったです。
実はエリオット自身も気づいてませんが、実は彼は一度も『にんじん』というワードを言えてません(笑)
ではでは!!今回もこのネタ的(笑)お話にお付き合い下さった姫様!!
激しく感謝しております。有難うございます!