「お・・・お茶会!?・・・これからっ!?ホントに!!??」
「ええ〜、もうお茶会の準備は整っているので〜、
今すぐいつもの場所にあなたに来て欲しいそうです〜。
ボス達〜お待ちかねですよ〜」
「・・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・・・・わ、ワカッタ・・・」
「じゃあ〜、確かに伝えましたから〜、失礼します〜」
メイドさんはそう言い終えるとにっこりと可愛らしい表情で微笑んだ後、
の部屋を静かに出て行った。
それから数十程は茫然とその場に突っ立って、
たった今メイドさんが告げた内容を脳内で20回程リピートしてみる。
そして更にその内容を理解する為に+10回程リピートした。
否。
頭は既に理解する事を力一杯全力で拒絶している。
つまりは、これからお茶会が開かれると言われたその事実を。
いやいやいやいやいやいやいやいや。
ないないないないないないないない。ないだろおおおお!!!
ブラッドとエリオットの体が入れ換わると言うこれ以上に無く衝撃的な事件が起きて既に十数時間帯。
当初彼らは混乱する周囲を余所に何故か妙な余裕を見せていた。
だが、時間帯が経過するにつれ、
それぞれがようやくことの重大さに気付いたらしく
(主に『にんじん』と『紅茶』が深く関わっていることは言うまでもない)、
ここ数時間帯は元に戻る方法をあれこれと模索しているところだった。
取りあえず思い当る事はある程度全部やってのけてたみたいだけど、
結果的にその全部が外れで、結局疲労だけが残った感じだった。
そのおかげで面倒事の嫌いなブラッド、つまり外見はエリオットな彼は、
超の付く御機嫌斜めになり、それをエリオット、つまり外見はブラッドが、
宥めると言う状況になっていた。
それが傍から見るとまた違和感ありまくりで、滑稽を通り越してただただ不気味で。
更に「あああ〜!ブラッドをこんなに苦しめちまうなんて!俺は何て駄目な奴なんだ!」と、
頭を抱えておうおう言いだすブラッドは、
どうにかこうにか今の二人を見慣れ始めたでさえ恐怖にしか思えなかった。
因みに、御機嫌斜めなエリオットは、「まったくだ」とこれ以上に無く冷ややかな声で返事をしていた。
彼らの体が入れ替わってから似た様な場面を何度も目にして来たけど、
未だに視覚にも精神にも厳しい二人だと思う。
とか、そんなこと考えてる場合じゃないし!!
気付けば思考の方向性がズレてきてることに気付いたはハッと我に返る。
つまりだ、そんなある意味で恐怖の対象にしかならない状況の二人が、
今この時『お茶会』を開くなんてどうかしているとしか思えない。
(いや、まぁ確かにある意味どうかしてるどころかどうかしまくり過ぎだけど)
まず彼らにとって最も重要な事、それぞれの好物を今の体では口にすることが出来ないって時点で、
優雅に『お茶会』してる場合じゃないってこと位、あの二人だって分かってる筈だ。
ブラッドの場合はエリオットの体で紅茶を飲む事は出来ても、
その味や香りを楽しむ事が出来ない時点で『紅茶を飲んでいる』とは言えないだろうし、
エリオットの場合はブラッドの体じゃどう足掻いても『にんじんを食べる』と言う行為自体が出来ないのだ。
と言うか、視界に入れることさえ拒絶する徹底ぶりだし、あれじゃあ苦痛にしかならないだろう。
それを言うならブラッドもそれ程嫌ってるにんじんを、自分の意思に反してがっつく羽目になる訳だから、
何の苦行だと言う感じだけど。
つまるところ今『お茶会』を開いた所で、それは拷問の一種にしかならないとしか思えない。
そしてそれは彼らにとって苦行以外の何物でもないと同時に、
としても絶対的に巻き込まれたくない状況な訳で。
いや、もう既にこれ以上に無く巻き込まれてるけども!!
とは言え、メイドさんがを呼びに来てもう10分位は経過してる。
ホントにもう正気じゃねぇだろうとは思うけど、このままここに居た所で再びメイドさんが催促に来るか、
最悪あの二人がを迎えに来ることだってありうる。
はハァーーーーっと深く大きな溜息を吐いた後、仕方なく部屋を出て中庭に向かった。
死地に赴く。
大げさすぎる表現だと分かってても、心境的には本当にそんな感じだった。
◇◆◇
「やぁ、。遅かったな、
君が来るのがもう少し遅れたなら、我々が出向こうかと思っていた所だぞ?」
「お!!やっと来たな!あんたのこと、待ってたんだぜ!」
げんなりと、それでもどうにか作り笑顔を貼り付けて姿を見せたを、
エリオットとブラッドが迎えてくれる。
エリオットと、ブラッドが。
エリオットとブラッドが。
え?え?え?あれっ?んんんんんん!!!??
ぽっかーーーーーん。
ぽっかーーーーーーーーーん。
そこでは席にも着かず、大口を開けて足を止めた。
何だろう、この素敵で完璧ないつも通りな空気は。
の気のせいでなければ、外見がブラッドな彼は定位置である席に座っているし、
同じく外見がエリオットな彼もいつもの席に掛けている。
しかも今に声を掛けた二人の口調は、それぞれの外見が取り換えられたものじゃなく、
口調も外見もピタリとそれぞれに合っていた。
つまり、ブラッドは気だるげに、エリオットはあのはきはきとした口調で。
「・・・・・・・・・・・・ふ、二人とも・・・もしかして・・・・・・・」
驚き過ぎてあわあわと口を震わせつつ、二人を指さす。
ブラッドとエリオットはそこで同時に口元に笑みを浮かべた。
「クックック・・・ご覧の通りだよ、。私達は元の体に戻ったんだ」
「ビックリしただろ?」
そう言った二人の口調と外見は、
何度見てもブラッドはブラッド、エリオットはエリオットのもので。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
はただ無言のまま、へなへなとその場に座り込んだ。
「お、おい!!大丈夫か!?」
「おやおや、驚き過ぎて腰でも抜けてしまったかな?」
の様子に二人が席を立ち、左右を支えて立たせてくれようとする。
は茫然とした表情のまま、その二人の顔をこれでもかって程確認する。
やっぱり二人の仕草も口調も外見も、全部が全部元通り。
ブラッドはブラッドで、エリオットはエリオット。
それは本当の本当に間違いないようだ。
ああっ、神様!!!おおおっ神様っ!!神様っっ!!
まさにこれぞハレルヤ。
二人が入れ替わった時は神様を心底恨んだものだけど、今回は心から感謝する。
ありがとうございます!!ありがとうございます!!
この悪夢からをお救い下さった事、感謝します!!
サンキュー、グラッツェ、謝々、コマプスムニダ。
自分が知っている限りの言語でありがとうを表現したい気分だ。
悪夢。
ナイトメアでさえこんな悪趣味な悪夢はきっと思いつかなかったに違いない。
今まで起きた数々の恐ろしい場面を思い出し、は思わず涙した。
あれ以上精神に打撃を与え続けていたらどうなってたかなんて、考えたくもない。
「うううっ・・・もうホント、ブラッドとエリオットだわー・・・」
「っ、そ、そんなに俺達の事を心配してくれてたんだなっ・・・!あんたって、やっぱりイイ奴だぜ!」
「ふふっ・・・、私達の事でそこまで心を痛めてくれていたとはな」
ああ、痛めていたとも!!てか、心身ともにあんたらのせいで痛めつけられてたよ!!
これ以上に無くな!!!
と言う内心の思いはこの際今回ばかりは置いておく。
この喜び、この感動。
この世界に来て一番の物かもしれない。
もう本当に、金輪際何が何でも二度とあんな恐ろしいことは御免だ。
「・・・それで、結局どうやって元に戻った訳?」
その後、どうにか落ち着きを取り戻したは席に着き、真っ先に知りたかった事を質問する。
テーブルの上には所狭しとお茶菓子が並べられ、更に言えばいつも以上にオレンジ色率が高くなっていた。
一応お菓子の種類も相当なようだが、どれも例に漏れずオレンジ色で、一目見ただけじゃ何が何やら見分けがつかない。
当然の様にそれを前にこの上なく満足げな、と言うか既にそれらにがっついているエリオットは、
つい数秒前までホールであった筈のにんじんケーキをぺろりと平らげての方に視線を向けた。
「それが俺達にもよく分からねぇんだ。なんつーか、俺もブラッドも普通に仕事の話してただけなんだぜ?
あれだけ色々試した時には戻れなかったのによ」
「あぁ、そうだな・・・。体が入れ替わった時と同様・・・これと言って特別なことをしていた訳じゃない。
・・・・・・つまり、あれこれと試したことの方が無駄だった訳だ・・・。ハァ・・・」
そう口にしたブラッドは、自分の視界にオレンジ色の物体達を入れまいとして居るのが分かりやすく現れていた。
しかも今回はいつにも増してオレンジ面積が広い。
まぁ、にんじん茶菓子と普通の茶菓子との境界線があるから、
気を付けてさえいればそれらを視界から外す事も出来るんだろうけど、
と話をしようとすると、
どうしてもかなり際どい位置にオレンジの影を意識しなくちゃならなくなるらしい。
ブラッドは心底嫌そうな表情を浮かべつつ、
それでも手元の紅茶を啜ってそれで心を癒しているようだった。
エリオットはその間も口に物を、と言うかオレンジ色のお菓子を入れない時間が勿体ないらしく、
がつがつとにんじん菓子を口の中に運んでいる。
これでこそ!!これでこそブラッドとエリオット!!!
いつも以上に広大なオレンジ色率なのは、まぁ、今までの反動だろう。
そしてエリオットのにんじん料理狂いがどれ程のものなのかを、
これでもかって位に嫌になるほど体験して今まで以上に思い知らされたブラッドは、
それと同じくらいか以前より一層にんじん撲滅家になってそうだけど、
この光景こそが帽子屋屋敷でのお茶会と言える。
にんじん料理を心行くまで堪能出来る事が嬉しくて仕方なさそうなエリオット。
オレンジ色を視界に入れまいと必死になりながらも、紅茶の色や香りを楽しみ、その味にうっとりとするブラッド。
体が入れ換わった理由も元に戻った理由も何だか意味が全く分からないけど、
とにかく結果オーライ!てやつだ。
アリスにも知らせなくちゃね。それでアリスも一緒にお茶会して・・・!
アリスは体交換事件直後に真っ先に逃亡した訳だけど、まぁ、彼女の気持ちは痛いほど分かる。
だって自分の滞在地がここじゃなければとっくに逃げ出してたところだし。
一見落着した今となってはそんなことにも寛大になれる。
あ、いや、待てよ、けどその前に・・・。
「ねぇ、ディーとダムは?二人にも知らせた方がいいんじゃないの?」
突然の嬉し過ぎる展開で興奮してうっかりしてたが、この場に双子達が居ないってことは、
彼らはまだこのことを知らないってことだろう。
はそれぞれ至福の時を堪能してうっとりきらきらしている彼らにそう質問した。
「あぁ、一応声を掛けようとはしたんだがな。どうやら門前には居なかったらしい。
まったく困ったコ達だよ」
「アイツらまた仕事サボってやがるんだぜ!!ったく!!こんな時にまで!!クソガキ共はクソガキ共だな!」
最近はブラッドとエリオットの件のことで比較的、あくまでも比較的だが、
それでも以前よりまともに門前に居る事が多かった二人だが、
やはり双子は相変わらず双子らしい。
とは言え、彼らだって程じゃないにしろ、体交換劇には相当ビビっていた。
早いとここの朗報を知らせてやるべきじゃないだろうか。
まぁ、本人達が仕事をサボってる訳だから仕方ないと言えるけど
なんてことを話していると、不意にドタドタと騒々しい足音がこっちに近付いて来るのが聞こえた。
これはもしかして、もしかしなくても、噂をすれば何とやら、
赤と青の服装・左右対称の容姿をした少年が二人、達の傍に駆け寄って来る。
「おや、門番達か・・・。ふぅ、おまえ達は相変わらず元気なことだな・・・」
「おい!!クソガキ共!!
ブラッドが折角復帰祝い(エリオットの個人的な認識)にお茶会を開いてくれてんだ!!
持ち場を離れてんじゃねぇよ!!馬鹿ガキ!!」
「ディー、ダム!ブラッドとエリオット、元の体に戻れたのよ!」
達はそれぞれ一斉に言いたい事を口にしていた。
「そんなことどうだっていいよ!それより変なんだ!!大変だよ、大変なんだよ!!」
「そうだよ、そんなことはどうだっていいんだ!!大変なんだよ!!とっても大変で、大変なんだ!!」
双子は慌てた様子で、と言うか青ざめた表情で達の言葉をあっさり切り捨て、
いやに動揺した口調でそう声を上げる。
それはまるで、ブラッドとエリオットの体が入れ換わったあの時のようだった。
けたたましい勢いで大変だ大変だと二人は喚き散らす。
「・・・やかましいな・・・。二人とも、大変だけでは何が大変なのか分からない・・・。
きちんと説明しな・・・、いや・・・聞くのも面倒だ・・・。エリオット・・・」
「おお!任せとけ!!おら、くそガキ共!!
ブラッドが疲れてるだろうが!さっさと用件を言いやがれ!!」
ああ、こんなやり取りに安心する自分が何だか凄く悲しい。
でも、これでこそブラッド!!これでこそエリオット!!
じぃいいいーーーん、と、もでこれで何度目かの訳の分からない感動を覚えてしまう。
だけど、今は取りあえずそれは置いておくべきだろう。
双子の様子は尋常じゃない。
あの時と同じ反応だってのがまた気になる。
あの時と同じ、なんて、考えただけで頭が痛くなるどころのレベルじゃない話だけど、
今の所目の前の二人に異常は見られないし、とにかく双子達に話を聞くべきだ。
はぎゃいぎゃいと騒ぎ始めた三人をどうにか宥め
(ブラッドは当然の様に紅茶を飲んで明後日の方向を眺めていた)、
ディーとダムに説明を求めた。
結果――――――――――――――
「僕が兄弟で兄弟が僕なんだよ!!!」
「兄弟が僕で僕が兄弟なんだよ!!!」
「・・・・・は?はああああああっっっ!!!???」
「・・・何だ?それは・・・?」
「・・・・・意味分かんねぇ」
これにて一件落着!?
おまけ
「つまり今度はディーとダムが入れ換わったって訳!?」
「・・・ふむ、それは・・・・・・、何か問題があるのか?」
「いや、別にいいんじゃね?コイツらどっちもクソガキじゃねぇか」
後書き
わあああ!二年の時を経て、ざ・ちぇんじ!完結(笑)!
たった7話にどんだけ年数跨いでんだって話ですが、実はオチは執筆当初から決まってました。
考えてみれば恋愛要素なしのどたばたコメディのシリーズって初めてだな。
しかも方向性が自分でも分からないよ的な物だった為、
これを最後まで読んで下さった姫様には感謝感激雨霰な勢いです、本当に。
何はともあれ完結で来て満足です。深く深く感謝します!有難うございます〜vv