君に向かう感情
「アリス!酷い、酷いです!僕を置いてあのヒステリー・・・いえ、女王の所に行くなんて!」
「うるさいわね!最初からこの城に来た目的はビバルディなんだから、仕方ないでしょ!」
「嫌ですっ!行かせませんよ!」
「放しなさいよ!この変態ウサギ!!ストーカー!」


ぎゃーす。
ぎゃーす。

廊下の奥から聞こえる声。
説明は不要。
アリスとペーターのやり取りだなんて、この城の者じゃなくてもすぐ分かる。
それ位、ペーターのアリスへの執心ぶりは凄かった。
凄かった、なんてもんじゃない、凄まじいものがある。
アリスには気の毒だけど、端から見ている分には中々見ごたえがあったりするんだけど。
(彼女自身には口が裂けても言えない)
正直、は初めて生でこのやり取りを目にした時、凄く感動した。
予想以上のペーターの壊れっぷりと、アリスの冷たすぎる態度に。


けど・・・ペーターが一緒なら今は声を掛けない方がいっか。


ふぅ。
小さく溜息を吐く。
はどうやらペーターに苦手意識を持たれているらしい。
いや、らしいと言うより、そうだと断言できる。
苦手。
そう、苦手なんて言う微妙な表現の位置にある人間が居ることも、
彼がに苛立っている原因のひとつだと思う。
今までペーターにとって唯一無二は当然の如くアリスで、
それ以外は本当にどうだっていいか、寧ろ憎んでいるかのどちらか。
もっと平たく言うなら撃ち殺しても平気、位本気で思ってる筈だ。
なのにはペーターにとってそのどちらにも当てはまらないらしい。
初めて彼と顔を合わせたとき、物凄く複雑な表情をされたのを覚えてる。
(因みには彼とは違う意味で衝撃だった。
これを説明すると話が確実にそれるので、
生で見る美形のうさ耳は中々に大笑撃であるとだけ今は言っておく)
余所者だからと言う単純な理由でアリスに好意を持っている訳ではない彼にとって、
の存在は色々な意味で複雑なんだと思う。
彼はを嫌ってはいない。
には何故だかそれがよく分かっていた。
そしてだからこそペーターの中で何か割り切れないものがあるんだと思う。
きっと今までこんなことはなかったに違いない。


まぁ・・・はペーターと話をするのは嫌じゃないんだけど・・・。
それはあくまで『プレイヤー』としての場合だもんなぁ・・・。


なんて考えつつ、二人の声のした廊下は通らず、別の道を行くことにする。
微妙過ぎる空気を漂わせられる位なら、顔を合わせない方がお互いの為。
アリスもビバルディの所へ行くと言ってたし、彼女の所に行けば必然的に会えるはずだ。

「・・・、どうしてあなたがここに居るんです?」
「!」

さっさと速やかに素早く退散しよう。
そう思っていた矢先、笑えるほどベタなタイミングで背中から声を掛けられる。
当然のように、ペーターから。

「・・・どーも、久しぶり、ペーター。はビバルディとアリスに用事が会って来たの。」

だからとっとと先へ進ませてくれ。
と言う言葉は勿論続けないでおいた。
だけど、既に彼からはに対する微妙過ぎる空気を感じる。

しかもアリスに逃げられたばっかに遭遇なんて、ちょっとこれホントに微妙。

「お久しぶりです、この間会ったのはいつでしたか・・・。
どうやら僕はあなたに避けられているみたいですからね。」


あんたがそれを言う訳か!!!!


心の中で思いっきりツッコミを入れながら、引きつった笑顔を浮かべる
彼の淡々とした口調の中に、非難するようなニュアンスが感じられる。
当然と言えば当然だだけど、さっきまでのアリスに接する時のテンションとはまるで違う。
そして、他の人間に対してのものともやっぱり何処か違っていた。

「避けてるわけじゃないんだけど・・・。あー、そろそろ行くから。
さっきも言ったけど、ビバルディとアリスに用事があって。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

ぴくり。
ペーターの頭の上。
真っ白なうさぎ耳。
の言葉に反応するように、動いた。

「そうですか、久しぶりに顔を合わせたと思えば、
さっさと僕の前から離れていこうとする訳なんですね、あなたは。」
「な・ん・ど・も!言うようだけど、は―――」

言いかけたところで、彼が突然の両肩を掴み、
そしてそのまま強引にの背中を壁に押し付けた。

「何!?」

唐突過ぎる行動に、驚いて目を見開いた状態で彼を見上げる
と、ペーターはまたしてもいきなり、の耳元に唇を寄せた。

。」

アリスに対するものとは違う、どこか底冷えするみたいな静かな口調で名前を呼ばれる。
ぞわり。
瞬間、の背中を何かが駆け抜けていった。

「僕はあなたを見ていると無性に苛々するんですよ・・・。
なのにあなたを撃つことも出来ない・・・、これって、理不尽だと思いませんか?」
にとっては有り難いけど、そんな理由で撃たれるなんてそれこそ理不尽すぎ。」

言いながら、どうにかペーターの手から逃れてやろうと必死でもがく。
だけど、白ウサギなんて可愛らしいひ弱なイメージの筈なのに、これがびくともしやがらないのだ。
彼の眼鏡越しの真っ赤な瞳。
それが、スッ、と、細められた。

「僕にとってはアリスだけが特別なんです。」
「そんなこと知ってる、分かってる!百も千も承知してる。だからお願い、放して。
この状況普通に意味分かんないんだけど・・・!」

そんな冷ややかな声で宣言してくれなくても、ペーターがアリスに激ラブなことくらい、
この世界に来る前から知ってる。勿論、『プレイヤー』としての立場で。

「許せないんですよ、。僕はあなたを見ると妙に気持ちが昂ぶってしまう。
そんなこと、あってはならない筈なのに。これは、あなたの責任です。
あなたはこの責めを負ってもらわなくてはいけません。」
「ペーター!!人の話を聞けっての!!!!!!!!!!!」

とうとうは声を張り上げていた。
この世界の人間が人の話を聞かないのなんて有る意味常識に近い物があるけど、
それにしたってこの状況は有り得ない。
が側に居るのが気に食わないってんなら、
大人しくがビバルディやアリスの所に行くのを見送ってくれればいいものを。

、あなたがいけないんですよ。」
「だから何を―――――――」

言葉の先は、続けられなかった。
の唇。
まるで罰のように、ペーターの唇で塞がれてしまったからだ。
突然過ぎる行動に、咄嗟の対処も出来ず、は呼吸困難に陥りそうになる。
話をしている途中に唇を合わせられたことで、は彼の舌の侵入を易々と許してしまった。
ねっとりと、深く、執拗に、彼は、に、キスをした。
そのくせようやくから離れたかと思えば、
にキスをしたのが信じられないような表情をしている。
更に、例の如く、ペーターは片手の甲で自分の唇を拭った。


は今、この上なく、アリスの気持ちがよく分かる。


「ペーター=ホワイト・・・・少なくともは、あんたのこと、嫌いじゃなかったわ。
でも・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

アリスの言う通り、彼はかなり特上レベルの美形。
大抵のことなら許せた。
だけど。
2次元だからこそこういう性格は受け入れられ、楽しめるのだ。


―スパァンッ・・・

「っつっ・・・!!」
「今この瞬間嫌いになった!拳じゃなかっただけ良かったと思って。」

彼の頬に振り下ろした右手。
乾いた音が響き、ペーターが小さく声を漏らした。
この時は、撃たれるとか撃たれないとかそんなことは全く頭になかった。
かなり、頭に血が上っていたと思う。


冗談じゃない、冗談じゃない、冗談じゃないっ!


この後、呆然と立ち尽くす彼を残し、はビバルディ達と会うこともせず、
ハートの城を後にしたのだった。


(終わり)



後書き
はははははっ!・・・何だかどんどん自分が思っていたネタと違うものが(笑
と言うか、ペーターは好きなんですが、彼で夢を書こうと思った自分に驚きました。
だって、どう考えてもアリス以外って・・・。でも気付けば書いてる(苦笑
ではではっ、ここまでのお付き合い誠に有り難うございます。貴重な姫様です。
宜しければこれからもどうぞ宜しくお願いします、失礼します!