隠す必要なんてないよ

スタスタスタスタスタ。

は何も見なかった。
は何も知らなかった。

スタスタスタスタ。

は何も知らなかった。
は何も見なかった。

スタスタスタスタ。


足早に夜の森を抜けながら、呪文のように繰り返す。
知らない、知るわけがない。
エースが、あの超ド級の方向音痴がと同じこの森の中を彷徨ってるなんて。

スタスタスタスタ。

とにかく今すぐ直ちにこの森の出口から町へ続く道へ出よう。
幸いはここを何度も通っているから、夜とは言えど場所の把握も出来てる。
あのエセ爽やかの黒騎士に出会う前にどうにかここから脱出せねば。

ここの森は他と比べれば比較的安全な所。
だからこそ夜が巡って来ても安心して通り抜けようと言う気になった。
なのにここであのエースと鉢合わせでもしたら、それこそ考えただけで恐ろしい。
あの男には引力が働いている、そう不運を引き付けるそれは多大に迷惑な引力が。
『プレイヤー』として端から見る分には『面白い』で済まされるけど、
実際それを体験することとなると全く別。
命が幾つあっても足りない。
全然、ちっとも、まっっったく面白くない、笑えない。
エースのことは好きだけど、夜の森での遭遇は最も避けたいところだ。


とにかくはエースに見つかる訳にはいかないのよ。
大丈夫、この分だともうすぐ森の出入り口に―――


「あれ?じゃないか。ははっ!偶然だな。」
「げっ!!!!!!!!???????」


余りの不意打ちに、は思わずカエルの潰れたような声を上げてしまった。
月明かりに照らされ、唐突に姿を見せた全身真っ赤なハートの騎士、エース。
彼はに声を掛けると、早速側まで近寄ってきた。
夜だと言うのに、例の澄み切った青空のような笑顔を貼り付けて。

「げ、なんて酷いな。ま、いいや。君に会えて良かったよ。
俺はまた道に迷っちゃってさ、ここからどう出たらいいのか分からなくなってたんだ。」
「この道を真っ直ぐ行けばすぐに出入り口よ、そう、真っ直ぐに行けばすぐに!!!
だからお願い、エース、、今すぐここから出たい。」
「ははっ、そっか、やっぱり君が居れば安心だな。
でももう夜だし、危険だから今日はテントで一晩明かすつもりなんだ。」

「そうなの、でもは明かさないから。今すぐ、直ちに、速やかに、この森を抜ける。
さっきの昼の前の夜で寝たから眠くないし。さようなら!」

会話が微妙に噛みあってないのなんかいつものこと。
寧ろ微妙に噛みあっている部分があることが珍しい。
とにかくと出会ったことに勝手に安心しているエースは放っといて、
速やかにこの場から退散すること―――


―――が、出来ればどんなに良かっただろう。




有り得ない。
有り得ない、有り得ない、有り得ない。

エースは手馴れた様子で着々とテントを設置し、当然のようにもそこへ押し込んだ。
そう、は今、エースのテントの中に居る。

「エース、は眠くないの、って言うか、さっきも言ったけど寝る暇あるなら帰りたい。」

テントの隅。
出入り口から一番遠いその場所に、は座らせられていた。
明らかに解放してくれるつもりはないらしい。
最悪だ。

「まぁまぁ、こんな暗い森を無理して抜けることもないだろ?結構危ないんだぜ、この辺。
俺なんか何度猛獣に追い掛け回されたことか。」


それはあんただからだよ!!!!!!!!!!


は今までこの森の中でそんなものに遭遇したことは一度もない。
寧ろエースがどっかから連れてきたとしか思えない。
もう、本気、こっから出して欲しい。
エースにはアンラッキーの磁石が体全体に貼り付いてるに違いない。
この世界に来て実際会ってみて心底そう思った。
がそんなことを考えている間も、
エースは上着を脱いで着々と睡眠モードに入ろうとしている。

は寝ない。眠くないから。」

何度目かの同じ台詞を言って、エースを見上げる。
彼はと視線を合わせて声を上げて笑った。

「別にいいぜ、無理して寝なくても。夜を明かす方法は他にもあるだろう?
例えばベッドが眠るだけのものじゃないように、二人でなら他にもすることはある。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それ、どう言う意味?」

下手に深読みして期待してると思われたくない。
だからこそ、は念の為に答えを聞いてみた。
この男、この世界の誰より油断ならない。
警戒しつつ、は視線で彼に返事を促した。
彼がのすぐ隣に腰を下ろし、くすくすと笑う。

、君はどう言う意味だと思う?・・・・もしかして、いかがわしいことを想像したのかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ナニイッテンノ。」
「だとしたら正解かな。俺はね、今凄くいかがわしいことを考えてる。
君をこの腕に抱いて無茶苦茶にしたい・・・なーんてね。」

いつものようにの言葉を無視して続けるエース。
そう思われたくないから聞いたのに、そんな嬉しそうに言わないで欲しい。
げんなりとしていると、不意にエースの片手がの頬に伸ばされてきた。
そして、抵抗する間もなくの唇に彼の唇が重ねられる。
驚いて咄嗟に空気を吸い込むと、喉を灼く様に熱いエースの吐息が流れ込んできた。
同時に、の唇を割って彼の舌がぬらと口内に挿し入れられる。
呆気なくの舌を探り当てた彼は、それを絡ませ、強弱をつけて吸い上げた。

「・・・っ」

そうしてる内に、とろとろと生暖かい唾液がお互いの口内に溢れ始める。
の唇から顎に伝い落ちた半透明の雫。
エースはそれをわざと真っ赤な舌を見せ付けるみたいにして舐め取った。

「抵抗しなかったってことは、
君も俺にそうして欲しいって思ってると理解してもいいのかな。」
「あのねぇ、て、抵抗しなかったんじゃなくて・・・!」
「抵抗出来なかった?だけど俺、君の手や体を拘束してた訳じゃない。
最初はともかく、その後は嫌なら跳ね除けることだって出来ただろ。」
「っ!」

言われた台詞の内容に、カッ、と、一瞬赤くなる。
確かに、その通りだった。
不意打ちとは言え、結局は抵抗らしい抵抗の姿勢を全く見せてない。

「ま、どっちにしろ、俺は君を逃がすつもりはないけどね。
さっき言った言葉、冗談じゃなく、本気だぜ。だから―――」
「あ!」

言いざま、彼が片手でを地面に押し付ける。
そして、の上に覆いかぶさるような体勢を取ってから、続けた。


「君も隠す必要なんてないよ。俺に抱かれたいってことを。」


赤いジャケットを脱ぎ捨てた後の黒い騎士は、そう告げて片眉を僅かに吊り上げ、
少し意地悪く微笑んで見せた。

(終わり)


後書き
・・・・・・・・・・・・・・・・ブラッドだけじゃなく、エース、お前もかっ!?
と言うことで、私の書く卑猥騎士エースはこれからもこんな感じになりそうで怖いです。
大体前半明らかにギャグ風味を漂わせていた筈なのに・・・・・・(遠い目)
ではでは、ここまでのお付き合い、誠に有り難うございました!貴重な姫様に感謝です。
失礼致します。