もう我慢してあげない

「・・・・・・・・・急に姿が見えなくなったかと思えば、こんな場所で雑魚寝か。
、呆れた奴だな、お前と言う女は。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

ぼんやりとした視界。
ぼんやりとした思考。
眠すぎて頭が上手く働かない。
意識してないと瞼が勝手に閉じてしまいそうな状況。
時計塔の片隅。
はそこに座り込んで足を投げ出し、居眠りをしている最中だった。
のろのろと緩慢な動きで顔を上げ、この時計塔の主、ユリウスに視線を移す
彼は心底呆れ果てた様子でを見下ろしてる。

「そんなに眠たいと言うのならば特別に私のベッドを貸してやる。
見苦しいからさっさと立ち上がってそこから退くんだな。」
「・・・・・・んー。」

ふわんふわんふわん。
ユリウスの言葉が夢の中まで侵入してきた様に、
頭に直接響くみたいにして聞こえていた。
自分で言うのもなんだけど、無理だ。
今のは眠気にやられて全くまともな反応らしい反応が出来ない。
その証拠に、彼に返事をしたつもりが、鼻から抜けただけの妙な音になって終わった。
そんなの状態に、を見下ろすユリウスの眉間にしわが寄る。

「おい、。起きろ。今だけでいい、とにかくベッドまでは自分の足で歩いて行け。」
「ンー・・・・・・。」

返したの声はやっぱり空気の抜けた風船のように間抜けだった。
自分でもそれは分ってる。
分ってるけど、それでも頭も体も睡魔にヤラれっぱなしでどうにもならない。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

ユリウスの眉間のしわが益々深くなり、表情も険しさを増した。
それから彼は少しの間無言でそのままを見下ろしていた。
――――――多分。
半分以上夢の領域に足を突っ込んでいる状況だから、ハッキリ言ってこれが現実かも謎な位だ。

「仕方のない奴だな・・・。私は肉体労働は嫌いなんだぞ・・・。」

ハァ。
深く大きな溜め息を吐くユリウス。
彼は何所か諦めたような表情をして、の肩に腕を伸ばした。
ふわり。
の体が浮き上がる。
とうとうユリウスがをベッドまで運んでくれることにしたらしい。
と、言っても、姫だっこ、なんて可愛らしく色気のあるものじゃ全くない。
表現するなら、『抱き運ぶ』とかでなく、『担ぐ』と言うのが的確だと思う。
それ程に適当で、色気の欠片も見当たらない運ばれ方。
まぁ現実なんてこんなもんだろう。
姫だっこと言うのは、見た目のスマート乙女チックに反して、
実際はかなり腕力を必要とするみたいだし。
どう見てもインドア系のユリウスにそれを求めることこそ間違ってる。
何より、彼にこんな選択をさせたことすら驚きだけど。
はここでうたた寝して放置プレイされても文句を言うつもりもなかった。

その後ユリウスは一人ぶつくさとに文句を垂れながらも、
結局をきちんとベッドまで運んで寝かせてくれた。



――――――らしい。


実はこの後すぐに夢の世界へまっしぐらだったは、これから先の記憶がない。
ただ、今現在、は彼の部屋のベッドに居て、隣では珍しくユリウスが眠っているから、
の言ってることにほぼ間違いはないと思う。

「・・・・・・・・・・・・・・・。」

至近距離にあるユリウスの顔。
すぅすぅと、規則正しい寝息が聞こえる。
例の紫の趣味の余り宜しいとは言えないパジャマを着ている彼。
こんなに本格的にベッドで眠っているユリウスを見るのは初めてかもしれない。
しかもこんなに至近距離で。
こうしてまじまじと見るとユリウスはやっぱり格好いいと思う。
まぁ、元々この世界は恋愛シュミレーションとして創られた世界。
周囲の人物がそれなりのルックス以上なのは当然な訳で。
だけどこうもリアルにの日常に彼らが組み込まれてしまうと、
そう言ったことを本気で忘れてしまう。
(って言うか、組み込まれてしまったのはの方ではあるんだけど。)
無防備に寝顔を晒しているユリウスは、
いつもの『ツンデレ』野郎の欠片も見当たらない。
は彼の長髪にそっと手を伸ばしみた。
現実世界ではあり得ない天然の蒼髪。
これが他のハートの国の住人なら染めている可能性もあるかもしれないけど、
ユリウスに限ってそれはあり得ない。
だからやっぱりこの青い髪は天然に違いない。
指先で触れた彼の髪は驚くほど繊細で本気、羨ましい程奇麗だ。
暫くの間それを指先で弄んで、それからは少しだけ自分から彼の方に近づいた。
ユリウスの紫色のパジャマの胸元が視界に広がる。
自分から行動しといてなんだけど、変な気分だ。
その後またジッと彼を見てると、
今度はそのままあの薄い唇にキスしたい衝動に駆られ始めた。
だけどさすがにここは自重、自重。
思いつつも、視線はユリウスの唇に釘付け状態。

どんな女だ、は。
けど今もし、もし、キスをしたとしても、ユリウスは気づかない気がする。

なんて思考を働かせて、うっかり顔を近づけようとしたその瞬間。
お約束に、ユリウスがパチリ、と、何の前触れもなく目を覚ました。

「!!??なっ!何なんだ!?」「わっ!!」

素で驚いて咄嗟に声をあげた
お互いの声が重なる。

「人が寝ている間に一体何をやっているんだ、お前は・・・!」
「な、何もしてないわよ。・・・・・・・・・・まだ。」
「まだだと!?やっぱり何かしようとしていたのか!」
「ないない!」

言いながら、は少しだけ体を動かしてユリウスから体を離す。
――つもりだったんだけど、単にもぞもぞと動いただけのようになってしまった。
とユリウスの距離はさっきと殆ど変りない。

「大体どうしてこんなに私に密着しているんだ、。余り近づき過ぎるな。」

明らかに動揺しまくりの声で彼が言う。
顔が赤くなっているところを見ると、嫌がっているのとは違うみたいだった。
は素直に頷いて、今度こそユリウスから体を離した。

「もう一度聞くが、本当に何もしていないんだろうな?」
「本気、ないって。何でそんなに疑うのよ。
ああ、もしかしてユリウス自身に心当たりがあったりして。」

軽い冗談のつもりで言って、けらけらと笑ってみせる
本当のところ、自分がやろうとした『寝ている相手にキス』
と言うドラマや漫画のベタ過ぎるシチュを誤魔化そうとしてただけなんだけど。
どうやら、これが何とユリウスには本当に心当たりがあったらしい。
分り易い位に動揺し始める。

「なっ、わ、私は別にそんなことはしていない…!
――お前、まさか本当は起きていたのか!?」
「はい?まさか、普通に眠ってて、実は記憶途中で途切れてるし。」
「・・・・っ・・・そうなのか、くそ、動揺して損をした気分だ…。」

ぼそり。
本音を零すように彼が呟く。
これはにとっては予想外だった。
こう言っちゃなんだけど、ユリウスは本気、分り易い。
思わずふっとの口から笑いが漏れてしまった。

「何しようとしたの?寝てるに。」
「っ!」
「ああ、もしかしてと同じこと考えてたのかもね。」

都合よくそう考えて、そのまんま、それを口にした
彼は驚いた様にを見ている。
だけどユリウスとはもう随分親しくなれたと思うし、
好意を持たれてないんだったらまずこんな状況にはなってないだろう。
これは多分、の自惚れではないと思う。

「寝てる間が駄目なら今、起きてる今、してくれる?」
「なっ・・・!お前、自分で何を言っているのか分っているのか?」
「当然。合意の上なんだから、寝てる間とかよりいいじゃない、普通に。」

まぁ、『寝てる相手にキス』と言うベタベタドラマシチュも、
色々な意味で美味しいと言えないこともないけど。

「・・・・・・・、本当にいいのか?」
「うん。」

この状況と今の台詞で断る筈がない。
は短く返事をして頷いた。
それからユリウスは少しの間をジッと見つめて、の両肩に手を伸ばしてきた。
同時に、ゆっくりと目を閉じる
少々戸惑いがちのユリウスが、
半分押しつけるようにしての唇に自分の唇を重ね合わせてくる。
触れただけのキスは徐々に濃厚さを増して、
いつの間にかユリウスの舌がの口内に侵入してきていた。
ねっとりしたキス。
お互い生温かい唾液が、口内に溢れ始める。
ユリウスはそれを飲み下すみたいにして小さく喉を鳴らした。
息苦しさを感じ始めたところでやっと唇を離して、は彼の胸元に顔を埋める。
さすがに『寝顔にキス』シチュのような可愛らしいキスでは終わらなかったな、
と、は一人で心の中で苦笑してしまった。

・・・。」
「何?・・・・・・って、え・・・?」

名前を呼ばれて顔を上げると、それと殆ど同時にユリウスがの首筋に唇を押しつけてきた。
更に、彼の手がのシャツを捲り上げて直に肌に触れてくる。

「ユリウス、ちょっと待っ・・・・!」
「無理だ。大体私はきちんと確認は取った筈だぞ、
それに合意の上でならいいと言ってくれたのはお前だろう。
寝ている間ではなく、起きている今してくれと言ったのもお前だ。」

チョットマテ。
チョットマテ。
チョットマテ。

つまり、ユリウスはが思っていた『寝ている相手にキス』なんて可愛らしいものじゃなく、
そのもっと先をに仕掛けようとしてたってことだろうか。
いや、まぁ、踏みとどまったにしても、とにかくつまり、つまり。

キス以上を、考えていた、と。

つまりそう言うこと。

なんてぐるんぐるんとが考えている間にも、彼は着々とことを進めていた。
いつの間にかの上に覆いかぶさってきて、
綺麗な蒼髪がの体に降り注いできている。
いつも時計の部品を器用に扱う神経質そのもののユリウスの指先が、
の裸の胸をゆっくりと滑った。

「・・・っユリウス・・・!」
「一度触れてしまうと途中で止められないんだ、これは私のせいだけではないぞ、・・・。」
「ふァっ・・・」

熱を含んだ声でそう彼に囁かれ、
の首筋から胸元にかけてをユリウスの舌が這って行く。
妙に甘ったるい声を漏らして体を震わせながら、はようやく思い出していた。


時計屋・ユリウス=モンレー。
いつもはその手のことを我慢していることの多い彼。
だけど一度『スイッチ』が入ってしまうと、彼自身でも歯止めが利かなくなることを。


(終わり)


後書き
普通の短編の長さになってしまいました。しかもお題に沿っているのか謎。
そして今回はプロローグの時よりユリウスが書きにくくて参りました(苦笑
おかしいな、書き易いキャラだとか思っていたはずなのに。
そしてもう微エロに走らずには居られないのか、
今のとこ私が執筆した全キャラ最後まで突き進んでます。あ!エリオットは違う(安堵
もう微エロはうちの持ち味だと開き直るべきか・・・。
ではでは、ここまでお付き合い頂いた姫様、誠に誠に有難うございます。失礼します。