「ブラッド、に何か用事か?」
屋敷内の廊下。
外出先から戻ってきたばかりのは、その途中でブラッドと顔を合わせた。
現在の時間帯は夕方。
ブラッドはいつもと同様ゆったりとした歩調で足を進めながら、
彼よりかなり低い位置に居るに視線を向けた。
「ああ、この間君が読みたいと言っていた本がつい先程届いたんだ。
メイドに君の部屋に届けるように言ってあるから確認しておくといい。」
「・・・っ!?だがあれは絶版になったと聞いた、それをわざわざ!?」
「ああ・・・、アリスが君が随分と熱心にあの本の続きを探していたと言っていたからな。
それに、彼女が読みたがっていたものを頼むついでだったんだ、気にすることはない。」
そう言うと、ブラッドはエメラルドグリーンの切れ長の瞳を微かに細めて笑った。
「・・・有難う、ブラッド。・・・アリスにも礼を言わなきゃならないな。
君ら夫婦にはいつも世話になってばかりで本当に申し訳ない。」
「ふふっ・・・、今更水臭いことを言うんじゃない、。君は私にとっても彼女にとっても大切な友人だ。
その上私の腹心の恋人でも有る相手なんだぞ?私たち
「居候風情には勿体ない言葉だ。」
「私は事実を口にしているまでさ。君は門番達にも気に入られている。
あの子達は難しい年頃だからな、彼らに好かれる人間は少ないぞ?」
「・・・双子達には馬鹿にされているだけな様な気がしなくもないけどな。」
言って、はそこで肩をすくめて苦笑する。
ブラッドはの返事に何故かニヤリと口角を上げて笑みを浮かべた。
「さっきも言ったように彼らも難しい年頃だからな。
好意をストレートに表してばかりと言う訳でもないだろう。」
「そうか?だがアリスには分かり易くストレートだ。」
「相手とそこに抱く感情にもよるんだろう。特に、君はエリオットの恋人だからね。
その分門番達にとっては複雑な想いが有る筈だ。」
彼はそう口にしながら、先程よりも更に意味深に笑みを深める。
はその表情の意味するところが理解できず、僅かに眉間にしわを寄せた。
そして、そこで不意に彼がの半歩斜め前を歩いてくれている事に気付く。
女性の扱いには慣れている彼だ。
歩幅を合わせる程度の事は考える以前に自然とやってのけていることだろう。
そのことについては特に驚きはしない。
だが、彼はの半歩斜め前を歩いてくれている。
そこが重要なのだ。
とブラッドの身長差はエリオットと比べた際と殆ど変らない。
二人とも2メートルもある超の付く大男であり、その為にとの身長差は50センチ弱もあるのだ。
そのおかげで並んで歩かれると首を不自然に曲げる形になってしまう。
だが、こうして少し先を歩いて貰うことでそれが緩和でき、会話もしやすいのだ。
そう考えるとブラッドは絶妙の位置でと話をしてくれている。
通りで今はエリオットと一緒に居ることで慣れてしまったあの首の痛みを感じない訳だ。
「・・・エリオットならまず気付かないな。」
知らず、はそう独り言を口にし、小さく笑ってしまった。
「ん?どうした?急に。」
「え!?ああ、悪い・・・。その、ただの独り言だ、気にしないでくれ。」
「独り言か・・・、エリオットが恋しくなったかな?」
「・・・・・・・うん?ああ、・・・・・・・・・・まぁ、そうだな。最近仕事が忙しいんだろう?」
そう、確かに今は慣れてしまった首の痛みではあるが、ここ数十時間帯はその痛みを感じる機会も減っている。
何故なら、がエリオットと顔を合わせる機会が減っているからだ。
全く会っていない訳ではないが、会話をしても数分の立ち話で終わらざる得ない状況。
首の角度の不自然さを思う暇もない。
「ああ、大きな案件が数件重なって居てね。」
「・・・余りこき使い過ぎてやらないでくれよ、ボス。
十分分かっていると思うが、エリオットはブラッドの為なら限界以上になっても働き続ける。
・・・・・・・・・・の恋人をボロボロにしないで欲しいな。」
「ふふ・・・、そこまで君に想われているとは、エリオットが羨ましい限りだよ。」
「お宅の奥さんは素直じゃないからな、思っていても口にはしないだろう。」
「ああ、そうだな、だがそんなところも・・・・「「可愛い」」
はそこでブラッドが口にした最後の台詞を彼とほぼ同様のタイミングで口にする。
ハモるように紡がれた言葉に彼は一瞬瞳を丸くし、それから何処か嬉しげにニヤリと薄く形のいい唇の端を上げた。
「エリオットの仕事は次の時間帯にはひと段落着く。その後、まとめた休みを取らせてやろう。
私も大事な友人に嫌われたくはないからな。」
「クック・・・、それはどうも。」
「私に感謝しているなら君は次のお茶会にあのオレンジ色の物体がテーブルに並ぶのを阻止してくれると有りがたい。」
「善処する。」
そこで達は互いに視線を合わせて苦笑し、それからそれぞれの部屋に戻ることにした。
そして、が自室に向けて足を踏み出しかけた、その時。
「。」
「何だ?」
呼び止められ、振り向いた先のブラッドは、エメラルドグリーンの瞳を僅かに細めて笑っていた。
「君がエリオットの恋人であってくれて良かったよ。アイツを手懐けてくれたのが君で本当に良かった。」
「・・・・・・・、どう言う意味だ?」
「君でなければ、奴をアリスから引き離せなかっただろう。
そして君でなければ、奴はまたアリスに心を移して居たはずだ。
――――君がいなければ、私は最高の腹心をこの手にかけて失っていたかもしれない。」
「ブラッド・・・。」
は咄嗟に先を続けられず、瞳を大きく見開いて彼を見つめた。
ブラッドは笑みを浮かべたまま、更に口を開く。
「君は唯一、あらゆる意味で妻の次に名前を挙げてもいいと思える女だ。
感謝しているぞ、。・・・・・・・・・・・・・・・だからこそ、君は私にとって特別に大事な友人なんだ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「エリオットが戻ったらお茶会を開こう。引き止めてしまってすまなかったな、お嬢さん。」
ゆるく穏やかな口調でそう言い残し、やがて彼はゆっくりとに背を向けてその場を去って行った。
「ふむ、・・・どうやら少し喋りすぎてしまったようだ・・・。親しい友人とのお喋りは油断してしまうな・・・。」
君は私にとって特別に大事な友人だ。
(END)
ヒロインとブラッドの話し方が被ってしまいそうになってあわあわしてました。
しかもほのぼのな感じに話が進んでると思ったら、最後、ブラッドのせいでダーク入った展開に(笑)
実はブラッド→アリス←エリオットな状況が短期間あったと言う設定。
ヒロインはこの時も帽子屋屋敷に居ましたが、エリオットの相談役、友人的立場でした。
微妙な設定入れ込んだせいでボスが暴走しちゃった☆(・・・)
ではでは、今回もここまでお付き合い下さった姫様に深く感謝です!有難うございます