「エリオット?」
散歩がてら中庭をぼんやりと歩いていたその最中。
背後から唐突に声を掛けてきたエリオットは、少々息を乱しているようだった。
その言葉通り、どうやらを探し回っていたらしい。
は少し驚いてエリオットを見上げる。
「どうしたんだ?今回は2回後の夕方まで戻ってこられないと言っていただろう。」
「ああ、その筈だったんだけどよ、予想以上にすんなり仕事が片付いたんで早く帰って来られたんだ。
戻ってすぐにアンタを探して色んな奴に居場所を聞いてみたけど、誰も知らねぇって言うし、
どこ探しても見当たらねぇから屋敷から出ちまってるかと思ったぜ。それがまさか中庭に居るとはな。」
言いながら、エリオットはのすぐ傍まで駆け寄り、両腕を伸ばしてを自分の体へと押し付けた。
「アンタのことだから、また他の誰かと一緒に遊びに行っちまってるかもしれないって思ってた。
こないだとか、その前とか、そのもっと前とかみたいにな。」
「うーん・・・、まぁ、確かにここのところタイミングが悪かったな。
こないだはアリスと遊園地に行っていたし、その前はアリスとブラッドとお茶会をしていたし、
そのもっと前は・・・・・・・・あれは双子が妙なところに罠を仕掛けるのを阻止していただけなんだが・・・。」
「何にしろ、俺がアンタと会えなかった事には変わりねぇだろ?
アンタは人気者だから、俺が居ない間にいつも他の奴が声を掛けちまう・・・。」
に身長に合わせて屈み込み、エリオットはの首筋にすり寄るように顔を埋める。
彼の長い耳とやわらかなオレンジ色の髪がの顔の至るところをふわふわと撫でた。
は思わず瞳を細め、その頭にそっと手を伸ばす。
「誰に声を掛けられようと、はエリオットと一緒に居る時が一番楽しい。キミとの時間が一番大事だ。」
「本当か?俺はアンタの中で一番になれてるのか?」
言ったエリオットはの首筋から顔を上げ、の顔を覗き込むようにしてジッとこちらを見つめた。
その瞳の奥が複雑な不安の色に揺れている。
確かに最近タイミングが悪すぎて、ゆっくり二人きりで居る時間が取れなかったのは事実だが、
正直ここまで不安にさせているとは思いもしなかった。
「当たり前だ。キミは以前も今も、ずっとの一番だぞ。」
「・・・・・・・・・。俺は・・・・・・・、」
そこで彼は不意に言葉を切り、再びをその両腕に強く抱き寄せた。
は素直にそれに従い、彼に応える形で踵を上げてエリオットの背中に腕を回す。
「どうした?エリオット。」
「俺・・・最近よく考えるんだ。・・・・何でもっと早くアンタのことを好きだって気付けなかったんだってさ。
もっと早く気付いてたら、アンタに辛い思いさせずに済んでたし、今もこんなに不安にならなかったかもしれねぇ。」
「・・・・・どう言う、意味だ?」
「俺がアリスのことばっかり話題にしてた時も、アンタは俺のことを見ててくれた。
アンタの気持ちに全然気付かなかった俺を、アンタは好きなままで居てくれた。
あの時俺は確かにアンタを好きだったけど、一番好きかって聞かれたら、やっぱよく分かってなかった。」
「そうだな、あの時のキミの一番は、アリスだった。」
そう口にしながら、は無意識の内にエリオットの体に絡めた腕に僅かに力を込めていた。
もう随分前の話ではあるが、昔話として語るには新し過ぎる話題だ。
ブラッドとアリスが結婚するより以前。
彼らの関係もまだまだ曖昧で、とエリオットが友人関係に有った頃のこと。
とは言え、彼が言っているように、はその時から既に彼のことを好きだったのだが。
「ああ、そうだ・・・。あの時俺の中の一番は、アンタじゃなかった。」
「それでもはキミが好きだったんだ。そんな諦めの悪い女がそうそう心を移す筈がないだろう?」
「ああ、そうだな・・・、アンタはそれでも好きで居てくれた。けど俺は・・・。
俺は嫌だ、アンタは俺の中の一番じゃなくても好きだって言ってくれてたけど、
俺はアンタの中の一番じゃなきゃ嫌なんだ。」
少々ややこしい言い回しだが、どうやらエリオットは自分がの中で一番なのかどうかを確かめたいようだ。
ここ最近余り触れ合って居なかったこともあってか、不安な気持ちが膨れ上がってしまったのかもしれない。
長いウサギ耳は見事にへなりと垂れ下がり、重力に逆らうことを放棄しているようだった。
「エリオット、の一番は他の誰でもない、キミだ。
以前も今も、この先もずっと、ずっと。の言葉が信じられないか?」
「っ!!そんなことねぇ!!アンタの言葉が信じられないなんて、んなことあるかよ!」
唐突にの両肩を掴んだエリオットは、ガバリと顔を上げて慌てた様子で声を上げた。
は微かに苦笑して見せる。
そして、彼の瞳と視線を合わせた。
「キミの中でもは一番か?エリオット。」
「ああ、当たり前だ!、俺はアンタが好きだ。アンタが誰より、一番大好きだ!」
「・・・・・・・・嬉しいよ、エリオット。」
が踵を精いっぱい上げるのと、エリオットがに屈みこんできたのはほぼ同時だった。
唇と唇が触れ合い、軽くやわらかなキスを2度、3度と交わす。
そして4度目のキス。
ねっとりと舌と舌とを絡められ、執拗に口腔内を貪られる。
本来なら踵を上げた体勢が少々苦になり始める頃だったが、
エリオットがの体を殆ど抱き上げてているような状況だった為、それは全く気にならなかった。
互いの乱れた息さえ絡め取るような甘いキスに、軽く眩暈を覚える。
「こうやって抱き合うのは久しぶりだよな、・・・やっぱアンタの抱き心地は最高だぜ・・・。」
「ふふ、双子達には幼児体型とまで言われた体だけどな。」
至近距離で見つめ合いながら、はおどけた口調でそう返した。
瞬時、エリオットの表情が変わる。
「あのクソガキ共に何かされたのか!?まさか、アイツらの前で脱ぐような事があったんじゃねぇよな!?」
「まさか、そんな訳ないだろう。」
「ならいいが・・・。アイツらはガキだが、そう言った意味じゃ全く油断ならねぇからな!」
「まぁ、それは否定しないが。の体型なんて外見だけで分かるだろう。
幼児体型で男みたいだと言っていた。・・・・・・まぁ、悔しいし、悲しい話だが、事実だ。」
言って、は苦笑しつつ肩を竦めた。
「んなことねぇよ!!アンタが男みたいな訳あるか!あのクソガキ共!!今度見つけたらぶん殴ってやるぜ!」
そう口にしながら、彼は今にも門前へ走りだしそうな勢いを見せていた。
は慌ててその腕を掴む。
「落ち着け、エリオット。は気にしてない。」
「いいや!!アンタが気にしなくても俺が気にする!絶対ぇ許せねぇ!!
くそっ!!やっぱ今度ってんじゃなくて、今すぐぶん殴ってやるぜ!」
言いざま、彼は本当に足を踏み出して門前に向かおうとする。
は先程よりも一層彼の腕を掴む手に力を込めた。
「折角久しぶりに二人きりになれたのに、キミはと居るよりも彼らを殴る方を選ぶ気か?」
「っ!!そ、それは・・・!けどよ、・・・、あのクソガキ共はアンタのことを馬鹿にしたんだぜ!?
許せねぇよ!!ぶん殴って説教位してやらねぇと気がすまねぇ!」
「は、それよりも部屋に戻ってキミとゆっくり過ごしたいと思っているんだが、キミは違うのか?」
「なっ!?んなことねぇ!!俺だってあんなガキ共より、アンタと二人でゆっくり過ごしたいと思ってるって!」
「フフ、それじゃあ決まりだ。行先はキミの部屋にしようか、エリオット。」
はエリオットに微笑みを向け、彼の腕を掴んだまま、目的地へと歩を進める事にした。
エリオットはが掴んでいた手を片手で握りしめると、不意にその手を自分の方へと強く引き寄せ、
いきなりの体を抱き上げた。
元々身長差の激しいは、彼に軽々と抱き上げられた結果、いつも見ている視点よりも高い位置に抱えあげられる。
「エリオット!?」
「部屋に行く時間が勿体ねぇ!、少しの間我慢しててくれよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、分かったよ。」
さすがに周囲の目が気にならないとは言えない体勢だが、は結局彼の言葉に素直に頷いて居た。
彼は満面の笑みをに見せた後、を抱き上げたまま、自室へと向けて走り出す。
エリオットのオレンジ色のゆるやかな髪がの揺れる視界に何度も入り、同時にの頬を何度も撫でた。
「、俺・・・さっきアンタに言い忘れてたことがあるんだ。」
「ん?」
かなりの速度で走っているにも関わらず、エリオットはいつもと全く変わらぬ様子で息ひとつ切らさずそう口を開いた。
は至近距離にあるエリオットの横顔をジッと見つめる。
「アンタは俺にとって色んな意味で一番だ!恋人って意味でも当たり前だが、
アンタは、俺のことを何でも分かってくれる、受け入れてくれる。
スゲェ仲のいい友達みたいな・・・そういう意味でも俺の中で一番なんだ・・・!」
「エリオット・・・・・・・・。」
既に彼の部屋は目前に迫っていた。
途中に何人かの使用人達に出会ったが、今はそれも全く気にならない。
エリオットはを抱きかかえたまま殆ど部屋に滑り込むような形で室内に入った。
そして真っ直ぐにベッドに歩を進めると、そこへをゆっくりと横たえた。
「・・・・・・・・。」
彼の大きな掌が、そっとの頬に触れる。
ごつごつとした節くれだった、マフィアの腹心の男の手だ。
の視界にはエリオットとその背に僅かに見える天井だけしか入って居なかった。
彼はそのまま徐々にの方へと覆い被さってくる。
「俺、アンタがずっと俺を好きで居てくれてマジで良かったって思ってる。
これから先は絶対ぇ余所見なんかしねぇから、アンタもずっと俺を一番のままにしておいてくれよな。」
「当たり前だ、言っただろう?にはこの先もずっとずっとキミだけだよ。」
「・・・・・!」
の名を呼ぶのと同時に、エリオットはを強く抱きしめた。
そして、彼の体重が傾いてが苦しくならないよう、少しだけ体勢を横へとずらす。
その気遣いが嬉しくて、は自分からも彼の体に腕を回した。
「これから8回後の夜までは仕事が入ってねぇんだ。だからその間はあんたと一緒に居られる。
・・・・・・・、俺にアンタを独り占めさせてくれ。」
耳朶。
殆ど食むように唇を寄せ、エリオットはそう囁いた。
はそれに無言で頷き、彼の体に回した腕に強く力を込める。
長身のエリオットの体はを包み込むように抱きしめていた。
キミは気付いているだろうか。
長い間ブラッドやアリスに嫉妬していたの方こそ、
今、キミをこうして独占できる喜びを強く感じていると言う事実を。
恋人で親友。
キミにとってのその両面で特別な位置に立つ為に、が必死であがいていたことを。
可愛くてその上格好いい、
最高の親友で最高の恋人だ!
(END)
4話で完結のシリーズ・エリオット編でした。
妙な甘ったるさがあって、考えていた展開と違う感じに。
このシリーズはリハビリ目的だったんですけど、何やらエリオットが偽者指数の高い感じにっ(涙)
男前口調なヒロインって糖分配合値が難しいと再確認しました。
そして実は身長差が秘かなテーマだったこのシリーズ・・・。余り生かせてないぜ☆
でも、どうにかこうにか最後まで書けたので、そこだけは頑張った方じゃなかろうかと(苦笑)
ではでは、ここまでお付き合い下さった姫様!!本当に本当に有難うございます!
深く感謝しつつ、今回はこれにて失礼いたします。