「ふぅん、こんな時でも君はいつもと変わらないね。
悔しいな、俺よりずっと余裕がある。」
ねっとりとした深い口付を終え、を見下ろしたエースは薄らと微笑を浮かべて言った。
既に着衣を十分に乱されている彼女は、濡れた唇でニヤリと笑ってみせる。
「アナタにはそう見えるのか。
でもに言わせてもらえば、それはこっちの台詞ですわ。」
「そんなことはないぜ、俺は今君が欲しくて堪らないんだ。これでもかなり焦っているよ。」
エースはその甘い台詞の内容には不似合いな程、
美しく晴れ渡った真昼の空の様な笑顔を浮かべている。
はその様子を下から見上げながら、裸の彼の背に両腕を伸ばした。
「黒騎士くん、アナタが嫌いでしょ。知ってるわ。」
「ん?あれ?どうしてこの状況でそう言う台詞が出ちゃうのかなぁ。」
「ほっほ、この状況だから分るのよ。」
言いざま、は彼の体に回した腕に力を込めて彼を引き寄せた。
互いの唇と唇。
吐息が重なり合う程の至近距離。
「ねぇエース、アナタ、ホントは大嫌いなが泣き叫ぶのを見ながら、
無茶苦茶にしたいと思ってたんじゃない?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
エースの片眉が僅かに上がり、スゥと、瞳が細められる。
その赤褐色の眼には、凶悪で冷徹な色が顕著に滲み始めていた。
「へぇ、君って予想以上に鋭いんだね。そう言うとこ、本当にムカつくな。」
甘く愛の言葉を囁く如く、彼はそう言葉を返した。
そして、少々乱暴にのなだらかな膨らみを揉みしだき始める。
彼女はそれに反応する様にして、僅かに身を震わせた。
「君の思い通りにするのは俺も癪だからね、今日は少し優しくしてあげるよ。」
「ンっ・・・・」
言い終えてすぐに、エースはの唇に食らい付く。
そうしながら、彼は彼女の胸の頂にあるかたい蕾を指先で弄んだ。
でも、次は多分こうはいかないと思うから、覚悟しておいてくれよな?
続ける筈の言葉を、エースは心の内でのみ、彼女に告げた。
(終わり)
君が憎くて愛おしい。
「おい!!アンタに勝負で勝った奴が現れたってのは本当か!?」
唐突に開かれた客室のドア。
蹴破られたかと錯覚するほどの勢いで開かれたそのドアから姿を見せたのは、
エリオット=マーチだった。
開口一番にそう問いかけた彼は、何所から駆けてきたのか珍しく額に汗を滲ませている。
は今の今まで昼寝をしていたらしく、ゆっくりと緩慢な動きで長椅子から身を起した。
「わお、ウサギちゃんじゃないの。眠ってる間にに恋人が出来てるなんて、
何気にファンタスティックな展開だわね。」
欠伸を洩らしながらも、彼女は常と同じく軽い口調でエリオットに答えた。
即座、彼は不機嫌そうに眉間にしわを寄せる。
「ウサギじゃねぇって言ってんだろうが!毎度毎度しつけぇんだよ!
・・・・・・・・・・チッ、今はアンタの話だ。つまりガセだってのか!?」
「ほっほ!残念ながらその様ですわ。」
彼女の返事に、エリオットは益々顔をしかめた。
「あんのクソガキ共!人をおちょくりやがったな!」
舌打ちと共に、彼は苦々しく呟いた。
「血濡れの双子くんが言ってたの?
ふむふむ、ウサギちゃんも騙されてここまで来るなんて可愛いわねぇ。」
はけらけらと笑い声を上げながら、テーブルにある籠に盛られた林檎に手を伸ばす。
そして彼女は、シャリ、と、瑞々しい林檎を音を立てて一口、齧った。
「俺はウサギじゃねぇ!!つか可愛とか言ってんじゃねぇ!」
「はいはい。」
くっく。
彼女は更に沸き起こる笑いを噛み殺す如くして答えた。
エリオットはむっつりとを睨みつけている。
シャリ。
更にもう一口、林檎を口にした処で、彼女は再び口を開いた。
「もしかしてエリオット、アナタ、
それを確かめるためにわざわざここまで走ってきた訳?
汗だくになってまで。」
「・・・・!?」
の言葉に、瞬時、エリオットが動作を停止し、固まる。
常の彼ならば即座に反論をしている所だが、
予想外に彼女が彼の名を正しく口にした為に、エリオットは動揺を隠せずに居た。
そして、その彼の様子全てがの言葉を肯定しているに他ならなかった。
彼女は満足げにニヤリとした笑みを浮かべる。
「そうか、そうか、さんは嬉しいぞ、そんなに愛されて。」
「、言っとくが俺は・・・・!」
「よしよし、じゃあご褒美にリンゴをあげよう。にんじんじゃなくて悪いけど。」
―シュッ
言いざま、は手にしていた林檎をエリオットに向って投げた。
空を切って宙に浮いた林檎は、そのまま見事に彼の手に収まる形で落下した。
「っ!っておい!これアンタの食いかけじゃねぇかよ!」
「愛がこもってるっしょ。」
おどけた声音で返したが、彼に片目を瞑って見せる。
エリオットは苛々とした様子で言った。
「何所がだ!・・・・・くそっ!もういい、俺は仕事に戻るからな。」
けらけらと楽しげに笑う彼女を背に、彼は荒々しくドアを閉め、
再び廊下を全速力で駆けて行く。
その手には、しっかりと食べかけの林檎が握られていた。
(終わり)
この部屋に来た本当の目的は、林檎が真っ赤に熟すまでは秘密だ。
「ねぇ、、一度ハッキリ聞こうと思ってた居たんだけど・・・、
あなたって本当に余所者なの?」
「わおわーお!」
時刻は真昼。
どこまでも青く澄んだ空は美しく、穏やかな空気が周囲を包んでいる。
5回ほど前の昼に開店したばかりだと言う若い女性をターゲットとしたそのオープンカフェで、
とアリスは揃って軽い食事を取っていた。
その最中の、アリスからの質問だった。
「だってあなたって、初めて会った時からやけにここの雰囲気に馴染んでいたじゃない。
ああ、でも誤解しないで、。
会話は他の連中と違ってまともに通じるし、
あなたの世界の話も聞いたから疑っていると言う訳じゃないの。
ただ、何となく確認してみたかったのよ。」
続けられるアリスの言葉を、
はホットサンドの最後の一口を飲みこみながら聞いていた。
「残念ながら余所者よ。ここに馴染んでんのはアリスよりもかなり前からここに居るからかもね。
でも、ま、の世界の有名な占い師様によると、
ふとしたきっかけで大物になるってことだったから、それが関係してるのかもしれない。」
「・・・・・・・・・・大物、確かにそうね。初対面でマフィアのボスと渡りあったり、
変態ウサギに刺客に間違われる辺り、大物としか言いようがないわ。」
言いながら、アリスは感心しているとも呆れているとも取れる表情で頷いた。
「ほっほ!そんなに褒めないでってば。
ああ、でもアリスも最近ここの空気に十分馴染んでるわよ。」
「冗談でも、よして。」
の台詞にげんなりとした声音で彼女が答えた。
その様子にがけらけらと楽しげな笑い声を上げる。
だが、彼女は不意にピタリと笑うのを止めた。
そして、はぼんやりと宙に視界を彷徨わせた。
この世界に彼女が迷い込んでから、既に幾度時刻が巡ったか知れない。
出鱈目で気紛れな時刻の変化にも、はいつの間にかすっかり慣れてしまっていた。
この世界に来た当初は到底受け入れられなかった常識さえも、
今では彼女の日常に自然な形で組み込まれている。
それと同時に、反比例する如く曖昧になっていくの以前の世界での記憶、過去。
無論、常識や知識等は今でもしっかりと彼女の中に存在する。
だが、以前まで当然のように覚えていた友人や家族との記憶などは、
現在は恐ろしい程に曖昧だった。
それはこの世界で時刻を重ねる程に、そしてこの世界に留まると決定した瞬間から、
徐々に、そして確実に進んでいる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「?、どうしたの?」
アリスの問いかけで、は瞬時にして思考を巡らせる事を中断した。
「おっと、ごめんごめん、さんとしたことがぼんやりしてたわ。」
自身の暗い憂いをアリスに気取られぬよう、彼女は努めて軽い口調で答える。
はそこでそのことについて思案することを完全に放棄した。
しかし彼女は既に気付いていた。
この世界に留まる限り、確実にこの『忘却』は進んでいく。
そしてそれは、恐らく、
今現在彼女の目の前に座って楽しげに微笑んでいる可愛い友人にも襲いかかると言う事を。
(終わり)
皮肉で悲しい連帯感、アナタはまだ気づかない。
「・・・どうしてあなたがこんな所を徘徊しているんですか?。」
「こらこら、徘徊って表現どうよ。優雅で可憐に歩いてるの、見えない?」
「ああ、僕は無駄な者は視界から排除する主義ですから。」
「ほっほ!それって見えてたってことよね?だってさんは無駄じゃないし。
寧ろ重要過ぎるから。そんな褒めてくれなくてもいいのに。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・僕は無駄な会話もしないことに決めているんです。
それから愛しいアリス以外は女性だとはみなしていません。」
「あ、さん当分ここに滞在することになったから宜しくね、黒ウサちゃん♪」
「人の話を聞いていますか?って言うか、その呼び方、不愉快です。」
「うんうん、分るぞ、黒ウサちゃん、照れるな、照れるな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そろそろ撃ってもいいですか?」
「わお、ビックリ、了解取るんだ。珍しいわね。」
「聞こえていたんですね、ムカつくのを通り越して呆れますよ、あなたには。」
「ねぇ、撃つってもしかしてに勝負挑んでる?恋人候補狙ってる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「あ、先にビバルディに挨拶しなきゃ、じゃあね、黒ウサちゃん。」
「2度と来ないで下さい!」
(終わり)
それでもアナタは絶対に銃口を向けない。
「あ、が来たよ、兄弟。」
「本当だ、が来たね、兄弟。」
帽子屋屋敷門前。
姿を見せたに、門を護衛している双子の少年、
ディーとダムは、互いにそう口を開いた。
瞬時、の瞳に不満の色が宿る。
「こらこら、君たち、のこともちゃんとお姉さんと呼びなさいよ。」
「「えー?」」
彼女の言葉に二人は同時に声を上げ、自身の片割れと瞳を合わせる。
「あんなことを言っているけど、どうする?兄弟。」
「困ったね、兄弟。だって、はだ。
どう見ても『お姉さん』って感じじゃない。」
「そうだよね、兄弟。大体に『お姉さん』と呼んでも燃えない。これは重大な問題だ。」
左右対称の容姿を持つ少年たちは、声量を落とすこともなく会話を交わしていた。
彼らを見下ろすの片眉。
ピクリピクリと反応を示す。
「血濡れの双子くん、このさんをよく見なさいよ。
これ程可憐で美しいお姉様が他にどこに居るって?極々自然と『お姉さん』って呼べるっしょ。」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」
双子は同時に赤と青の瞳をへと向けた。
そしてまた同時に深く、大きな溜め息を吐く。
「はやっぱりだ。『お姉さん』なんて勿体なくて言えないよ。」
「そうだね、僕達、自分に嘘はつけない。子供だから純粋で正直なんだ。」
彼女はジロリと二人の少年をひと睨みしたが、彼等は最後まで見解を変えることはなかった。
次回の来訪こそ、と、は悔しげな表情を浮かべる。
だが現在に至るまでに幾度も同じことを繰り返しており、
既に数えられぬほどの時刻が巡っていたのだった。
(終わり)
そうしてまた、僕達に会いに来るといい。