「どうした?アリス。君の好みの茶菓子を選んだつもりだが、
食が進んでいないな。今さら遠慮することはないぞ、もっと食べるといい。」
「・・・結構よ、ブラッド。大体今何時だと思っているの?
こんな夜中にこんなに大量に甘い物を食べたら太ってしまうじゃないの。」
深夜。
既に説明など不要と言っていいほどに恒例となっている帽子屋屋敷庭園での茶会。
茶請けの菓子をブラッド進められたアリスは、素気なくそう返事をした。
「ほぉ・・・、そうか。だが彼女は気にしていない様だぞ?」
「・・・・・・・・・・・・その様ね。」
アリスは半ば呆れた如く溜め息を吐き、短く相槌を打った。
二人の視線の先。
常の茶会ならばエリオットによって卓上はオレンジ色の菓子で占められている所だが、
今回はエリオット自身のみでなく、
そのオレンジ色の菓子を着実に減らし続けている人物が更に一人存在していた。
「あああ!!俺が今から食べようと思ってたにんじんのパウンドケーキがねぇっ・・・っ!」
心底絶望的な声を上げたエリオットは、
頭部から突き出している2本の長い耳をへにゃりと力なく伏せる。
「うん?ああ、これ?ほっほ、ごめんあそばせ。美味しかったわ。」
「アンタなぁっ!!遠慮って言葉をしらねぇのかよっ!」
「出された物はきちんと食べなくちゃ、それが礼儀と言うものでしょ。」
けらけらと楽しげな笑い声を上げながら、は次の皿へと手を伸ばした。
「・・・・良かったじゃない、ブラッド。
のおかげで一人頭の取り分どころか殆どオレンジの領域が減っているわよ。」
「ああ、だから私は彼女をお茶会に呼ぶのを止められないと言うのも十分にあるな。」
二人の様子を傍観していたアリスとブラッドは、
互いに目を合わせて苦笑染みた笑みを浮かべる。
その間もエリオットはとのオレンジ色の菓子を懸けた熾烈な戦いを繰り広げているのだった。
(終わり)
おかげでこれからのお茶会も、楽しいものになりそうだ。
「なぁ、、あんた、ここに滞在する期間が他の勢力より短い気がすんのは俺の気のせいか?」
時刻は夜。
濃紺色に包まれた空には星々が瞬き、黄金色の月がこの世界を見下ろしている。
この時刻の遊園地は色彩豊かな電燈が灯されており、
例えるならば宝石箱の様に輝きに満ちていた。
この遊園地勢力の有力者・メリー=ゴーランドと共に園内を散歩していたは、
不意に掛けられた彼からのその質問に、ピタリと足を止める。
「わお、そんなことないと思うけど…。」
そして例の如くおどけた口調で返事をしようと努めた彼女だったが、それは不発に終わった。
その顔に、僅かながら動揺が浮かんでいる。
更に、の瞳の奥にある微かな陰りをゴーランドは見逃しはしなかった。
「ハァ・・・・何だよ、ここが嫌いなのか?それとも俺か?ボリスか?」
「こらこら、私は今否定した筈だぞ。」
「いーや、あんたのその顔は否定しちゃいねぇ。正直に言えよ。
無理強いしてここに居て貰っても嬉しかねぇからな。」
言いながら、彼は稀にしか見せない不機嫌な態度でをジロリと見つめた。
彼女は暫しの間逡巡している様に視線を空に彷徨わせ、
やがて小さな溜息と共に口を開いた。
「アナタもボリスも大好きだけど、遊園地は…苦手、かな。」
言い終えてすぐに、彼女は瞳を伏せて再び溜め息を吐く。
ゴーランドはそんなの様子を驚いたようにして見つめていた。
「あんたはこういう賑やかなとこは好きな性質の女かと思っていたが、
・・・・・・・・理由を聞いてもいいか?
うちの遊園地に何か気にくわねぇ所があったのなら遠慮なく言ってくれ。」
「気に食わない?まさか、凄く個人的なこと。聞いたら笑うぞ、子供っぽくて。」
彼女は半ば自嘲気味に答える。
常のとは違う、彼女の姿。
ゴーランドは先を促すように彼女に視線を送った。
「・・・・・・・・・・・独りだって、実感させられる。」
ポツリ。
告げられた答えに、彼は微かに息をのんだ。
その一瞬、垣間見たの寂しげな表情は、
平生の彼女からは考えられぬほど頼りなく、ともすれば儚げにさえ見えた。
「ほっほ!まぁ、アナタやボリスが寂しいってんなら、
もう少し滞在期間を延ばしてあげようじゃないの!」
言いざま、はバシバシとゴーランドの背を叩く。
つい今し方の会話など無かったかの如く。
「いでっ!!、あんたなぁっ!」
その切り替えの早さに戸惑いを覚えた彼だったが、
彼女の言葉が本心であることはよく理解していた。
(終わり)
あんたは独りじゃない。俺が居るだろ。いつか、言葉で伝えてやる
「へぇ、、アンタって思ったより着やせするんだ。」
「こらこら、どんな感想だ、それは。」
とボリス。
互いに向かい合って座っているベッドの上。
の衣服を全て脱がせ終えたばかりのボリスは、彼女の体を真正面から眺める様にして言った。
その瞳の奥には、獣の雄独特の本能に基づいた情欲の色が現れている。
「俺のイメージだと掌サイズに近い物だったからさ。ちょっと意外。」
「ほっほ!平均よ、は。」
彼は戯れにに身を擦り寄せ、彼女の首筋に鼻先を触れ合わせる。
発展途上の少年特有の骨格を持つボリスの胸板に、
のやわらかな胸のふくらみが密着し、彼の中の欲が益々昂りを大きくした。
「変な感じだね、アンタ相手に食べたくなっちゃうなんて思わなかったよ。」
「も、正直アナタに『男』を感じるとは思わなかったわ。」
言いざま、二人はほぼ同時に互いの唇を求めて顔を寄せ合う。
唇が重なり合った瞬間から、即座、舌を絡め合い、口付を深いものへと変化させた。
ボリスの掌がの胸のふくらみを下から持ち上げるようにして揉みしだき始める。
は徐々に腕を伸ばし、彼の頭部にある猫の耳をそっと撫でた。
繊細な毛並みが彼女の指先に心地よく伝わる。
ボリスはの唇にベロリと舌を這わせ、至近距離から彼女の瞳を覗き込んだ。
「いつもふざけてばっかのアンタが俺の手で感じてる姿、凄く興味有るね。
これからどうやって乱れてくのか、ずっとこうして見てたいよ。」
の視線を捕えた彼の瞳の奥が、スッと、細められる。
獲物を狙う直後の猫特有の瞳の動きだ。
彼女は濡れた唇で弧を描き、
未だボリスの顎に煌いている互いの唾液の名残を舌でゆっくりと舐め取った。
ゾクリ。
ボリスの背に微弱な電流が駆け抜ける。
「それは残念。きっとそんな余裕は上げられないと思うわ。」
彼の目前でそう口にしたの表情は、しなやかな色香を放つ成熟した動物の雌そのものだった。
(終わり)
あんたになら、弄ばれるのも悪くない。
「・・・・・・さん大ピンチ。チャレンジャーの数が明らかに減ってるわ。」
驚愕の事実と言った様子ではボソリと一言、そう漏らした。
彼女の側で書物に目を落としていたアリスは、視線を上げて彼女を見やる。
「あなた有名になり過ぎたのよ、。自分でも言っていたじゃない、
最近あなたの所に来る輩は命の危険なく腕試しが出来るって、
遊びに来ているような連中ばかりだって。」
「そうなんだけど、最近はそれもなし。
既に10回以上時刻が変わってるし、こんなのは初めて。」
ハァ。
は深いため息を吐くと、彼女の背後に立っている巨木に寄り掛かって空を仰いだ。
目に眩しい程の青い空が彼女の視界一杯に広がる。
「・・・私にしてみれば今までの方が異常に見えていたけど。」
「え?」
「あなたは自分の腕に勝る男を恋人にするってことらしいけど、
その男が今まで会ったこともないような見ず知らずの人間でも平気なの?」
芝生の上に座っているアリスが、を見上げたまま彼女に訊ねた。
彼女はぼんやりと空に視線を彷徨わせ、
何事か思案するような表情を見せた後、ようやく口を開いた。
「・・・・・をそこまで求めて執着してくれるなら、いい、かな…。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
暗い憂い。
寂しげな影。
常のからは想像できぬ横顔が、今、アリスの瞳に映っている。
アリスはただ無言で彼女を見上げていた。
「ほっほ!なんて、理由がガキっぽくて呆れてる?」
やがて、はアリスを見下ろし、いつものように軽い口調で答えた。
アリスが微かに苦笑する。
「それって変態ウサギのペーターみたいな男がいいって言うのとは違うわよね。」
「ほっほ、それもありかな。」
「本気で言っているの?趣味悪いどころじゃないわね。なんならのしつけて差し上げるわよ。」
「無理無理、ペーターがアナタから離れるなんて想像できない。」
けらけら。
は声を上げて笑った。
そこで、フッ、と、アリスが瞳を細めて微笑する。
そして、彼女は手元の書物を閉じてゆっくりと立ち上がると、
青いエプロンドレスをひらりと翻してに背を向けた。
「人のこと全く言えないけど、、あなたもっと自信を持っていいと思うわ。」
「え?」
「私はあなたのこと好きよ。そのおかしな性格も含めて。」
「アリス・・・・。」
は驚いた様に僅かに目を見開き、アリスの後ろ姿を見つめる。
彼女の視界に微かに見えるアリスの頬は、
ほのかに朱に染まっているようだった。
「じゃあね。」
素気なく、一言、残し、アリスはそのままの側を離れていく。
はその背を満面の笑みと共に見送った。
(終わり)
恥ずかしくて言えるわけがない、親友、なんて。