彼の目を塞いでやりたかった。瞳に映った青空が眩しい
―――ってことでさ、アリスは俺と一緒に旅をすることになったんだ。
ごめんな、ユリウス。一人で寂しいかもしれないけど、少しの間我慢してくれよな!
大丈夫、ハートの城に一端戻るだけだから、
そんなに長くここを空ける事にはならない筈だ。
ほんの100時間位で戻ってこれるって!
ははははは!あ、、ユリウスの事宜しく頼むぜ。
エースが私達にそう告げてアリスと一緒にこの部屋から出て行ったのは、
夕暮れ時だった。
今はあれから時間帯が変わり、昼が来ている。
ユリウスは相変わらず時計の修理に没頭し、無言で手を動かし続けていた。
だけど、私は知っている。
さっきから、ユリウスが何度も彼らしくない失敗を重ねていることを。
その眼が、手元の時計に集中していないことを。
その心が、今この場にはないことを。
「アリスとエース・・・随分仲良くなったわね。
最初はアリス、あんなにアイツを毛嫌いしてたのに。」
「・・・・フン、単純な者同士、仲が良くて結構だな。
・・・どちらにせよ、私には関係のない事だ。」
嘘吐き。
口にしかけた言葉を、私は寸での処で押し留める。
変わりに椅子から立ち上がり、部屋を出ることにした。
ほんの一瞬、ユリウスの視線が私に向く。
だけど彼はまたすぐに手元の時計に目を落とした。
(本当は『時計』なんて見てない事を知っているけど)
「帰るのか・・・?」
「・・・少し、外の空気を吸ってくる。」
ユリウスは私の答えにそうか、と一言だけで素気なく返した。
私は彼が見ていない事を承知で軽く頷き、部屋を後にした。
時計塔から見える真昼の空はいつも綺麗だ。
真っ青に晴れ渡った美しい空。
どこまでも清々しく、一点の曇りも見出せない爽やかな青。
嫌味な程の完璧な青。
本当に嫌味な程。
そこでああ、と一人、納得する。
アイツだ。
アイツを思い出させるから嫌味だと思うんだ。
アイツ、つまりついさっきアリスと一緒にこの時計塔を出て行ったエースの笑顔。
私の気持ちを知っていて、
そしてユリウスのアリスへの気持ちも知っていた、あの男。
――は馬鹿だなぁ、好きなら好きって言えばいいじゃないか。
そんなこと。
そんなこと、出来る訳がない。
ユリウスがアリスを見つめる度、いつもいつも思ってた。
あの目を両手で塞いでやりたいと。
彼女を追う瞳を閉ざしてやりたいと。
だけど結局私に出来ることなんて、
ただ平静を装ってこの時計塔に通い続けることだけだった。
ギリギリ。
ぎしぎし。
時計が軋む。
ユリウス、ねぇ、見て、ずっとずっと、あんたの側に居たのは私でしょう?
不意に私の瞳が空を映す。
ああ、綺麗だ。
あの、眩しい程の青。
嫌味な程に完璧な、あの、青。
眩しすぎて、涙が、出た。
ねぇ、ユリウス、私の胸のこの時計が、もしも彼女と同じ動く心臓だったら、
貴方は少しでも私を愛してくれていたかしら?
(終わり)
[A Midsummer Night's Dream]萌え茶参加作品
TITLE BY*ゆきち