先刻現れたばかりの、
文字通り全身黒で統一された衣服を身につけたその女は、
アリスの存在に気が付くと金色の瞳を僅かに見開いてジッと彼女を見つめた。
アリスは誰に紹介されずとも彼女が何者か、即座、理解した。
つい数時間滞前に唐突に空から降って来た少女。
だが、こうして正面から彼女を目にすると、
小柄だが決して少女と言う程幼い年齢ではない事が分かる。
落ち着いて端正な顔に表情は無く、金色の瞳はアリスに向いては居るが、
まるで何も映していないかの如く見えた。
例えるならば闇を切り取ってそのまま人の形に模したような、
そんな静かな、落ち着いた雰囲気を纏った印象を覚えた。
「ハイ、アリス。初めまして。」
「・・・・・え!?ああ、初めまして、。」
最初に口を開いたのはの方だった。
アリスはそれに応じる形で慌てて口を開く。
そして二人は同時に、初対面でありながら、
相手が自身の名を既に知っていると言う事実に気が付いた。
「自己紹介の必要はないみたいだけど、一応しておくわ。私は=。
今から約50時間滞程はこの帽子屋屋敷で世話になる者なの。宜しく。」
そう言って彼女が差し出した手には、
ほっそりとした指の1本1本ほぼ全てに指輪が嵌められていた。
だが、過度な装飾による厭らしさと言うものは全く感じられない。
寧ろその型と色彩の統一性から、
身に着けている者のセンスの良さが伺える様だった。
アリスはの手を握り、その笑顔に視線を向ける。
そして何故か酷く違和感を覚えたのだった。
彼女は微笑を浮かべてはいるが、
全く何の感情も読み取れない表情をしている如くに見えた。
だがそれは、ハートの城の騎士であるエースの様に薄ら寒さを感じさせる笑顔と言う訳でもなく、
そしての瞳が微塵も笑って居ないと言う類の物でもない。
敢えて言うならば、全く何も感じない事こそが不自然なのだった。
彼女程端正な顔の持ち主ならば、
微笑みを浮かべた表情と言うのは例え同性であろうとも、
多少なりとも魅力的だと感じるのが自然な筈だ。
だが、の微笑からはただ笑っていると言う単純な感想しか思い浮かばない。
「私はアリス=リデルよ、宜しく、。あなたの事はブラッドから聞いているわ。
少し前の夕方にこの屋敷に来る前にあなたを見たから、彼に尋ねたの。」
「ああ、そのことなら私もボスから聞いたわね。
どうやら驚かせてしまったみたいでごめんなさいね?」
言いながら彼女は再び先ほどと同様の微笑を見せた。
酷く不自然で、そして酷く薄っぺらな、
何の印象も抱かせない笑みだとアリスは思った。
だが同時に、無性にアリスの興味を惹く何かをは持っている様にも思える。
それは彼女が空から降ってきたあの瞬間から感じていたものだった。
「さて、お互いに自己紹介も済んだ所でお茶会を始めるとしようか、お嬢さん方。」
「ブラッド。」
「ボス・・・・。」
姿を見せる頃合いを見計らったかの如く、ブラッドが唐突に二人に声を掛けてきた。
アリスは眉間にしわを寄せ、ジロリと彼を睨みつける。
「いつから居たのよ?」
「うん?私は今ここに来たばかりだぞ、お嬢さん。」
平然とそう言ってのけ、ブラッドは彼の所定の席へと着いた。
「どうだかね・・・。」
「・・・・・・・・・・・・‥‥同感。」
疑いを拭い切れぬように零したアリスに、は軽い溜め息と共に同意を示す。
「よぉ!アリス、久しぶりじゃねぇか。元気だったか?」
「エリオット、本当に久しぶりね、あなたこそ、仕事続きで無理しすぎじゃない?」
ブラッドに次いで現れたエリオットが、満面の笑みでアリスに歩み寄る。
彼の長い耳がその笑顔と劣らぬ勢いでひょこひょこと動き、喜びを表現していた。
「三人とも、まずは席に着きなさい。そうだな・・・、君は私の隣に座るといい。」
「・・・ボス、そこは片腕殿の指定席じゃないの?」
「俺はブラッドがそう言うならそこじゃなくても構わねぇよ。
アリスの隣ってのはスゲェ嬉しいしな!」
「―――だ、そうだ。君も私に言いたいことがあるようだしな、
丁度いいんじゃないのか?」
は暫しの間ジッと帽子屋を見つめていたが、
やがて諦めたようにして彼の隣の席へ腰を下ろした。
結果的に彼女はブラッドの隣であり、
アリスの正面の席に着くことになったのである。
「今回は君の為に開いたお茶会だ、アリス。
ついこないだは済まない事をしたからね。楽しんで行ってくれ。」
ブラッドが常と同じくゆったりとした口調でそう告げると、
がピクリとほんの一瞬眉を顰めて反応を示した。
それは本当に僅かな時間の僅かな変化だったが、アリスは見逃しはしなかった。
何故なら、それが彼女が初めて目にしたの真の意味での表情の変化だったからである。
色のない花
あなたの本当の色を知ってみたくなった。